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いざ、フィンなんとか王国へ

エリオット・ルーヘン①

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 昨日と同じようにリチェ様に朝から肉球スタンプを押してもらい、起こしにきたマリアに身支度を整えてもらった。

 ドレスの色は淡い緑で、胸元は色とりどりの生地で作られた小花が付いているものだった。年齢に似合わず少し幼いのではないかとマリアに抗議するも「まだまだ若いのですから」と言われ押し切られた。

 しかもなんと、マリアの年齢は80歳だった!見た目的には同い年ぐらいだと思っていたのに、つい見た目年齢に騙されてしまった。

 リチェ様も同じ色合いのリボンをつけてもらい。リチェ様を抱き上げ、隣の部屋に通じる扉を開けた。

 部屋には誰もいなかった。怖い顔をしていたルーヘン公爵子息はまだ来ていないようだ。少しホッとして肩の力を抜くとソファーに座った。

『リチェ様。今日はうたた寝しないでね』

『えー。では、目を瞑って寝たふりしてます!』

『それは寝てるのと同じでしょ!毛並みをこうしてやる!』

 リチェ様が朝の身支度で整えた毛並みを背中からお腹にかけてかき回すようにぐしゃぐしゃにした。リチェ様は「ミギャー」っと声を出して飛び跳ねると、テーブルを踏み台にして反対側のソファーに移った。

『うう。ひどいです。こんなにボサボサにするなんて』

 リチェ様はブツブツと文句を言いながら毛並みを整え始めた。足を舐めようと足先をピンっと伸ばしてせっせと舐めている様子を「セクシー!」などとからかいながらリチェ様に構った。

 しばらくすると、扉の近くで控えていたマリアが一瞬、廊下側に出て行ってすぐに戻ってきた。

「マイカ様。宰相補佐様は少し遅れるとのことです。先に朝食を召し上がるようご連絡がきました」

「はーい」

 ルーヘン公爵子息は宰相補佐だったようだ。あの不機嫌そうな顔をしながら書類整理をしている様子が簡単に想像できた。

 昨日とよく似た朝食を食べ、一階の広間で食後のお茶を楽しんでいるとやっとルーヘン公爵子息が現れた。リチェ様は宣言通り、私の隣で寝たふりを始めた。

「遅れて申し訳ございません」

「いえいえ。朝食は召し上がりましたか?」

「はい。妻がいつも軽く食べられるように持たせてくれるので。それを」

 ルーヘン公爵子息はソファーに座るとマリアに軽く手を上げ指示した。マリアは昨日と同じようにお茶を用意した後に、ベルをこちら側のテーブルに置いて一礼すると部屋から出て行った。

「殿下より昨日の防音魔法について伺っております。同じようにさせていただきます」

 そういってアーサー殿下のように何かを呟くと、ふわっと何かに包まれた感覚を再び感じた。アーサー殿下はちゃんと報連相しているようだ。私が既婚者であることも伝わっているだろう。

「ありがとうございます。ルーヘン公爵子息様も魔法が使えるのですね」

「エリオットで構いません、マイカ様」

「では、エリオット様とお呼びしますね」

「はい。私はあいにく剣術の才能はありませんでしたが、魔力量が多く魔法は不自由なく使えるようになりました」

「そうなのですね。ところでエリオット様はおいくつですか?」

「58でございます」

 アーサー殿下より年上だったようだ。エリオット様は背中ぐらいまで長い黒髪を淡い緑色のリボンで一つに結って軽く横に流している。目の色は赤色で、切長の目が際立って、顔立ちはクールビューティーだ。見た目年齢は20代後半ぐらいに見える。昨日アーサー殿下と並んで立った際、エリオット様の方が身長が高かったように思える。こちらも体つきは中肉にみえた。

「マイカ様はご結婚されてお子様がいるそうですね。ご年齢は32歳だとか」

「ええ。皆様からしたらまだまだヒヨッコに思えるかもしれませんが、私の世界ではお姉さん扱いからおばさん扱いになる年代なんですよ」

 エリオット様はこちらが観察している事に対して気にしてない様子で会話を続けてきた。少し冗談混じりで返答を返すが、エリオット様の表情に変化はなかった。すこし堅物な方なのかしら?っと小首を傾げると、エリオット様は少しだけ眉間に皺を寄せた。

「マイカ様。子供を授かる順番の判断基準はどのようなものですか?」

「そうですね。簡単に言えば私に対して横暴な態度を取らない人からでしょうか」

「なるほど。誠実さを求めるということですね」

 エリオット様は顎に手を当てすこし考えはじめた。眉間の皺はまだ寄っている。この顔は彼のデフォルトなのだろうか。

「エリオット様の奥様は何人いらっしゃるのですか?」

 エリオット様はこちらの質問を聞いて手を下ろすと、少し表情を暗くしながら答えた。

「35年連れ添ってる正室1人…10年前に側室を2人娶りました」

「まぁ。ご結婚されてかなり時間が経ってから側室を迎えられたのですね。何か理由があってのことですか?」

「正室の妻とは恋愛婚でして。彼女以外の女性は考えられないと思い、周りから勧められても拒否していたためです」

 まさかまさかの、この不機嫌エリオット様は愛妻家だったようだ!私は見た目の印象からもっと義務的に婚姻をしているタイプだと思っていたことを反省した。

「では、側室を迎えられたのは…」

「妻にどうしても私の子供が欲しいと…。妻以外の女性は考えられないと伝えると、妻を第一に尊重する妻にとても懐いていた双子の女性を紹介されました」

「では、奥様のススメで娶られたのですね」

「ええ。双子たちは嫁いで来た時私よりも30ほど年下でまだまだ少女のようでした。それから妻と2人、側室2人を娘のように可愛がっております」
 
 今58歳。10年前に30歳年下ということは…当時18歳の女性ということか。たしかにそれだと娘のように可愛がっていても微笑ましい光景でしかない。

「実は妻には知らせてませんが、側室の双子とは閨を共にしたことがありません。今後、私に子供ができた場合はすぐに別の嫁ぎ先を見つけることは双子達に了承をとっております。双子達も妻と一緒に親子のように過ごせるならば、何でも良いと…」

 正室はかなり溺愛されているようだ。エリオット様本人が人選したわけではないに関わらず、側室2人の気質もエリオット様によく似ているのかもしれない。つまり、正室を溺愛する同盟でも組んでいるのだろう。

「なるほど。では今回私が子供を産んだ後は側室の方々は離縁して、別の婚姻を結ぶのですね」

「ええ。既に嫁ぎ先は見つけてあります。双子達にはマイカ様が顕現されてからお聞きした内容とともに伝えてあります。妻も子供が持てることをとても喜んでおりました。双子達が嫁いで行くことは、子供が産まれてから伝える予定です」

 よし、今の段階ではエリオット様の子供を一番にしよう。この人は見た目で損をしているが、懐に入れた人を大事にする。1人の女性を大事にする様子にかなり好感度が上がったからだ。

「エリオット様のご事情はわかりました。今後の参考にさせていただきますね」

 ニコッと慈愛に満ちた笑みを向けると、エリオット様の皺が取れた。表情はあまり動かないが目の色は安堵を現しており、少しだけ柔らかい表情に見えた。

 そこからはエリオット様の好きな奥様の話を根掘り葉掘り聞いた。エリオット様も奥様の自慢をするのは嫌ではないようで、その日あった奥様のどじっこ劇場など色々な話を聞いた。

 そしてこちらも自分の夫や子供について話した。エリオット様は聞き上手でもあるようで、私の話を柔らかな表情のまま聞いてくれた。

 まだ会った事がないエリオット様の奥様達。彼女達に一度会ったみたいそう思ってエリオット様に伝えると「殿下と相談してみます」と一言だけ返してきた。

 エリオット様家族に会うと他の家族にも会わなければならなくなるのかもそれない。一つの家だけ特別扱いはできないのだろう。もしそうなったらアーサー殿下の31人の妻達にも会わなければならなくなる。それは勘弁してほしいと思った私は、無理に実行しないで欲しい事を伝えた。

 そのまま、昼食と夕食を共にとってからエリオット様は食後のお茶も飲まずに帰っていった。「妻が寝る前に帰りたい」というエリオット様は真剣そのものの顔をしていた。

 初めの怖い印象から一変して、エリオット様の事は仲の良いママ友のような印象になった。

 そしてルーティンのようのマリアに磨かれて、リチェ様と一緒に眠った。

 今日は夫と子供と一緒に遊園地に行った夢を見た。
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