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旅立ちの準備

契約の握手

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「ま、まじ?」

「はいっ!」

「気のせいじゃなくて?」

「こんなに真っ白に水晶を染めてるのに間違いなんてありませんよー!もう、自信持ってっ!」

 パチンっと片目を瞑ってウィンクをした女神様は真っ白になった水晶をこちらに手渡してきた。

 じっと、水晶を観察する。たしかに真っ白だ。自分の目で見ても白いことはわかる。でも白と言っても本当に純白のように白いのかは自分では判断できなかった。

「ちなみに魔力色の濃度なんだけど、配色パターンみたいに何か基準値があるんだよね?」

「はい。でも、民にはカラーパターンは教えてないので、私だけが認識できるようになってますけどね」

 そのカラーパターン、教えてあげれば彼らも危機管理ができるのではないだろうか。女神様は自分で管理してやりくりしたいタイプなのかもしれない。

 私は水晶をテーブルに置くと、両肘をついた。手を組んで額に当て重たい頭を支えるように俯いた。

「…やりたくない…」

「言質は取りました。適性があったら世界を渡ってくれるって」

「くっ」

「希望があればなんでも条件つけていいですよ!私にできることは全力でサポートします!」

 水晶をひょいっと持ち上げると、女神様は水晶を持って自分の席に戻っていった。

 女神様は私に聖女をやらせる気満々である。こんな事なら、代替案を考えてる時に最後まで真剣に取り組めばよかった。むしろ、この女神様の話を聞かずにほっとけばよかった。今更後悔しても遅い事は分かっているが、後悔せずにはいられなかった。

 平和な日常を取り戻し、愛する家族に早く会いたい。そうするためには聖女を引き受けるしかないようだ。それならばもうこの際、自分の希望を叶えてもらって悔いがないようにしよう。そう決意した私はゆっくり顔を上げて、上機嫌で笑っている女神様に目を向けた。

「やるならいくつか希望にそって欲しいんだけど、それでもいい?」

「もちろん、大丈夫です。私が出来ることであれば、全力で希望を叶えます!」

 トンっと胸を一つ叩いた女神様は笑顔で応えた。

「んー、まず元の世界の時間が進むのは困るのよね。子供も朝起きたらいつも隣に寝てる母親が突然消えて、混乱するだろうし。あちらの世界の進みを止めるとかは出来ないよね」

「貴方の世界とこちらの世界ですが、時間の進み方が違うのでそれは大丈夫ですよ。第8世界の1年が貴方の世界の1時間ぐらいですね。希望ならば戻る時間軸は私と出会う前、寝る前に戻すことも可能ですよ」

「つまり子供が寝てる時間には終わらせて帰れるってことね。じゃあ戻す時は目が覚めたら次の日朝になってる感じでお願い」

「わかりました!」

 ふんふんっと私の希望を聞きながら、女神様はパチンと指を鳴らした。するとテーブルの上が綺麗になり、代わりにA 3ぐらいの白紙と真っ白な羽がついたペンが出てきた。女神様はペンを手に取ると私が希望している条件を特にインクも付けずにサラサラと書き始めた。

「あ、あと。あっちに行っても過ごす時間は最低限でいい?」

「もちろんです!1人産むのに半年は必ずかかるので…最短で2年半ですね。では任期は3年ということにしましょう」

「言葉は通じる?あとちょっと問題が起きても不敬罪に問われたりして非難されないよね?」

「聖女として貴方を移転させる前に、神殿で神託を下ろして女神と同等である事、危害を加えれば天罰が下ると伝えれば王族であろうが下手に貴方に手出しできないでしょう。言語はもちろん、魔力色とともに魔力も付与いたします。ただしあまりに大きな力は使いにくいかもしれないので、中の上ぐらいの魔力量にしましょう!」

「な、なるほど。魔力もらっても使い方わかんないんだけどな…」

 女神様は文字を書く手を止めてチラッとこちらを見つめると微笑んだ。

「聖女は女神の眷属のようなものです。貴方の使いたいように使えるようにしますね。あちらの世界では不可能なことでも、魔力量の範囲内で何でも可能にできるようにしますよ!」

「う、うーん。なら滞在中に自分の思う通りにできるのかな…」

「他に希望はありませんか?あ!貴方の世界にあるスマホという機械を神器として持ち込んで、私と随時連絡を取れるようにしましょうか?それなら、何か困った時にすぐ私が対応できますから!」

「うたた寝とかしないよね?」

 ジロリっと女神様を睨むと、女神様は蛇に睨まれたカエルのようにビクッと全身を震えさせ、うっと息を止めた。

「私が滞在する間は私の状況から目を離さないって約束できる?」

「うっうう」

「それができないなら、女神様も一緒に来てくれない?」

 私はニヤッと笑いながら体を起こして椅子に深く座った。

「なるほど…それなら離れなければ、貴方を護りやすいですね。わかりました!私も一緒に行きます。私の姿は民には見せれないので別の姿にならなきゃいけないのですが…好きな動物はいますか?」

「動物ならモフモフしてる系ならなんでも好きだよ」

「モフモフ…では猫はどうでしょう。第8世界も愛玩動物に猫がいますし」

「だったら聖女の猫ってことで、毛皮の色は白にしたらいいんじゃない?目は青色かな。女神様の目の色と同じ」

「はいっ!なんだかウキウキしてきました」

 再びペンを動かしながら、女神様は上機嫌で鼻歌を歌い始めた。

「あ、あと元の世界に戻ってからなんだけど…。可愛い可愛い2人目赤ちゃん。性別は女の子。次の排卵日にイチャイチャしたら授けてもらえたりする?」

「お安い御用ですよ!では、何にか追加で希望がある場合は随時ということで。契約書を確認して、右下にサインをお願いします」

 女神様は書き終えると、こちらにスッと契約書を差し出して羽ペンを手渡してきた。

 内容は私が希望した条件、聖女としての役割や妊娠方法について同意する旨など、今まで話していた内容が書かれていた。一通り確認すると右下に名前を記入し、女神様に契約書とペンを返した。

「はい!ありがとうございます。お名前はキタハラ  マイカさんですね」

「うん。北原舞花と申します。よろしく」

 スッと右手を差し出すと、女神様も同じように右手を出し握手を交わした。

「私はリチェルカーレと申します!よろしくお願いしますね」

 こうして、私は摩訶不思議世界に移動する事が決まった。

 
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