上 下
3 / 70
旅立ちの準備

女神

しおりを挟む
 真っ白な空間にいる。見渡す限り白だ。何か他の色はないかと歩き出すと、先の方に何か光るものが見えてきた。

「なんだろ。出口か何かな」

 進めば進むほど光は大きくなる。真っ白な空間で光なんて見えにくいはずなのに、なぜかその光はやけに目立っている。

 「うわっ!」

 近づくほどに光がはっきり認識でき、光に触れられそうなぐらい近寄ると茶色い木でできた素朴なドアが目の前に突然現れた。やっぱり出口なのか?ドアを開ければ何か変化があるのだろうかと不思議に思いながら、丸いドアノブを捻った。

 「お願いします!どうか子供を産んでください!」

 ドアを開けて目の前に突然現れたギリシャ神話に出てくる女神のような格好をした金髪碧眼の女性が大号泣しながら私に抱きついてきた。

「え、いや。ちょ。な、なに?」

「子供を産んでくださいぃぃぃ」

「あ、え。えと。一応息子が1人いるから出産はしたことあるよ」

「え?!」

「え?」

 抱きついたまま号泣していた女性は目をまんまるに見開いて私を見た。

「じゃあ、あと5人産んでください!」

「いや、そもそもあなた誰ですか…。何故初対面の方にそんなこと言われなきゃ、ぐあっ」

「私の世界が滅んじゃうんですぅぅ!助けてくださいぃぃい!!!」

 質問を言い終える前に女性は私の襟元を掴んできた。正直言って首が苦しい。離して欲しくて目線を女性に向け、相手の左手をパシパシ叩くが離す気配がない。ぱっと見美人に見えるが涙と鼻水でぐしゃぐしゃのままこちらの状況に気がついてないようだ。

「くっ、くるし…はな、し」

「助けてくださいぃぃ」

「だから、くるしっ…」

「存亡の危機なんですぅぅ」

「だー!!離してってば!」

「きゃっ!」

 苦しさに耐えきれなくなり、死にたくない一心で相手を力一杯突き飛ばした。

「ぜーはー、ぜーはー。はぁ、苦しかった。死ぬかと思った」

「ご、ごめんなさい。私そんなつもりじゃ」

「そんなつもりじゃなくても、首絞めて殺しかけてくるとかやめてよ」

「ひー!ごめんなさいごめんなさい」

「はぁ。正直言って相手したくないんだけど」

「そんな!せっかく夢が繋がったのに、そんなご無体な!」

「夢が繋がった?」

「はい!私が夢を渡ってお邪魔してるような感じです」

 女性はえへへと少し照れ笑いをしながら、服についた埃を払って立ち上がった。

「とにかく、私の話を聞いて下さいぃ!もう、何十人もの女性にお願いして回ってるのですがなかなか良い返事をいただけなくてて。本当に困ってるんです」

 どこからか取り出した白いハンカチで涙と鼻水を拭きながら、困った顔でこちらを見つめてきた。

「あ!そうだ。お茶でも飲みながらお話を聞いてください」

「いや、まだ聞くとは言ってないんだけど」

 戸惑っているこちらのことはガン無視して、女性はパチンと指を鳴らした。すると真っ白な空間からテーブルに椅子、ティーセットが現れた。

「ささっ。どうぞ」

 ニコッと無害そうな笑顔を向けながら女性は椅子に座ると、反対側に座るように促してきた。あんまり乗り気はしないが、夢が覚めるには話を聞かねば終わらない気がしたため、渋々椅子に座った。
 
 湯気が出ている紅茶のカップを手に取って一口飲む。少しだけ落ち着くことができた。

「で?話の前にあなたはそもそも何なの?」

 カチャッと少し音を立ててソーサーにカップを下ろし、相手を見つめた。先ほどまでぐしゃぐしゃだった顔は綺麗になり、ぱっと見美人はよく見ると物凄く整った顔をしている。腰元まである金髪は緩やかなウェーブがかかり、絵画にある美の女神のようだ。目はぱっちり二重で少し垂れていて、魅力的だ。第一印象が迷惑なやつと思ってしまったため、この神秘的な美しさを持つ女性に対して好意はまだ持てなかった。

「私は女神です。第8世界。あなたが住んでいる世界とは違う世界を管理しています」

「…ふーん」

「ふーんって、驚かないのですか?」

「いやなんか。雰囲気的に女神的な感じはしたから、なるほど納得って思って」

「たしかにこの服装はそちらの世界の文化を参考にして女神として認識しやすいようにしています。でも今までの女性は私の姿を見た瞬間から敬意を持った態度だったのですが、貴方は少し違いますね。なぜだろう」

「そりゃ。会ってすぐに涙と鼻水まみれにされて、首しめられたから好印象なんて持たないよ」

「それもそうですね!もう断られすぎて精神的に病んでいたのです。本当に申し訳ありません。こうしてお話を聞いてくださり、ありがとうございます」

 またどこからか取り出した色とりどりのマカロンが乗ったお皿をテーブルに並べ、ニコニコしている様子からこちらの態度に特に気にしてないようだ。

「聞くとは一言も言ってないけど…聞かないと帰してもらえなさそうね。それで、話って?子供5人とか正直言って面倒な感じしかないけど」

「実はですね…」

 女神様は深刻そうな顔をしながら経緯を話してきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。 「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」 黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。 「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」 大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。 ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。 メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。 唯一生き残る方法はただ一つ。 二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。 ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!? ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー! ※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

処理中です...