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番外編
あの2人の事情
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「こーの、お馬鹿!!!!」
ゴチーンと大きな音がしそうなゲンコツを1人の男性に落とした女性は倒れているベッカの隣に立っていた。男性はその隣で頭を押さえながら蹲った。
「この馬鹿者、馬鹿者。大馬鹿者!」
「ひぃぃ」
ゴチンゴチンと何発もゲンコツを落とす女性の顔は怒りに染まっていた。男性はゲンコツが落ちる頭を両手で押さえながら、涙目になっていった。
「ごめんなさいぃいいい」
「謝るだけで許されるなら、神様は要りません!!」
女性は泣いて謝る男性の頭にもう一度ゲンコツを食らわせると、ベッカの体から抜けてきた何かをそっと手に掴んだ。
「可哀想に…。こんなに小さな魂になって…しかも今にも壊れそう」
彼女が手を開けば、手の中には薄暗く光る球体があった。大きさは直径10センチほどで、しかも光は今にも消えてしまいそうだった。そして少し刺激を与えれば、すぐに割れてしまいそうなほどひび割れが沢山入っていた。
「この大きさでは…何百年寝かせて魂を修復しても人間には生まれ変われないわね」
「…うん…」
しゃがみ込んでいた男性は立ち上がって彼女の手のひらを覗き込んでから、コクンと小さく頷いた。
「弟よ。人の願いはね、言葉の中にある思いが大事なの。なぜ、この魂にもう一度同じ生を歩ませたの?」
彼らは同じ黒髪で顔も同じ。女性の髪は腰まであり、男性は肩程の長さ。身長も同じだが女性の瞳は金色。男性の瞳は銀色。
だが女性の方が経験が豊富なようで、男性はションボリと肩を落としており立場ははっきりとしていた。
「…ほ、ほら。あの…最近の流行りのアレです」
「流行り?」
男性の言葉に女性はスッと目を細めた。その鋭い目線に男性は悲鳴をあげながらも言葉を続けた。
「もう一度同じ人生を歩んで、幸せになるために奮闘するアレです…」
「なるほど。で?それをなぜこの魂に適応したの?」
鋭い目つきのまま彼女は手のひらにあった球体を、どこからともなく出してきた透明な箱の中に入れた。そして箱をパッと消してしまうと、両手を腰に当ててまた男性を睨みつけた。
その目線にブルリと震えながら、男性は口を開いた。
「他の同僚から、その。一度苦しい思いをした魂にもう一度同じ生を繰り返させることで、一回りも二回りも魂が大きくなって成長しやすい。効率よく魂を育てられる方法だって言われたんだ」
「そうね。そういった事例は確かにあるわ」
「だ、だから…この魂は自由を求めていたから。もう一度同じ生を繰り返したら、苦しみから逃げるために外に飛び出して自由に生きる事ができると思ったんだ。そして色々経験して魂も大きく…」
男性の返答を聞いて、女性はフンッと鼻を鳴らした。
「貴方の発想はわかったわ。ではなんで、1度目と違う状況になったのかしら?」
「そ、それ…は…」
女性の言葉にオロオロとし始めた男性は口を開いたり閉じたりしつつ、言葉をうまく紡げなくなった。それを見ていた女性はハァァァっと大きくため息をついた。
「貴方の事だから、生まれ変わらせる手続きで何か不備があったのでしょう?」
「うぐっ」
「しかも、戻す時期もちゃんと決めなかったわね?」
「うぐぐ」
図星だったのか男性は言葉を詰まらせて、また肩を落として俯いた。その姿を見た女性は片手を額に当ててため息をついた。
「でもね。こうなったのは貴方の勝手な思いの押し付けが最大の原因よ。書類の不備だけじゃない。全ては貴方の判断ミス」
「…うぇえ?」
納得できないのか、男性は俯かせていた顔を上げた。その様子を見ていた女性はまた深くため息をついた。
「あのね。私たちの都合は彼らには関係ないの。魂を育てる側と育てられる側の利害が一致しない限り、同じ生を歩ませる意味はないのよ。もう一度過去に戻ってやり直したい。そんな願いがなければ意味はないの」
「いや…でも…」
「彼女は自由が欲しいと言ったわ。でもそれを過去に戻って得たいとは一言も言ってないのよ。…彼女は周りに縛られすぎていたわ。彼女の良き思い出すらも彼女を縛っていた。自由ってね、色んな意味があるのよ。だから自由を語る人皆が共通の自由を考えてるわけではないの。彼女にとって自由とは何かを貴方は履き違えたのよ」
「でも…」
女性の言葉に納得できないのか、男性はうーんっと首を捻った。
「姉上の言いたいことは理解できます。ですが今回もし僕が書類の不備なく生まれ変わらせる事ができていたら、彼女が願う自由を選択できたのでは?」
女性はフンッと鼻を鳴らすと、また鋭い目線を男性に向けた。
「そうね。それはあったかもしれない。でも本当に彼女が掴みたい自由に繋がることなのかは、貴方が決めることではない。同じ人生を歩ませる意味は?彼女が求める自由を選択させるだけならば、別の人間として生まれ変わっても同じではないかしら?正直、貴方の考えは与える側の傲慢さが滲み出ているわね」
「…傲慢…」
「ええ、そうよ。私たちには力がある。でもそれを振り翳してこちらの都合を押し付けるのは、違うの。過去の生で悪事を働いていても、善行を積んでいても、元々の寿命が短かったとしても。彼らが今どう生きるかを決めるのはその時の彼らなのよ」
「よくわかりません…」
女性の言葉が理解できないのか、男性は首を横に振った。そして聞かされた言葉を理解しようと頭の中で整理するが、それでもうまく理解できずにいた。不満そうな顔をしつつ女性を見つめれば、彼女はまた深くため息をついた。
「いいわ。では、貴方を見習いに戻します。私の横で私のすることをよく見なさい。そしてなぜ私がそのようにするのかを考えなさい。していることをただ見つめて流すだけではなく、何故そのようにするのか疑問を持ちなさい。そしてわからなければ私に問いなさい」
「…はい…」
腑に落ちない顔をしながらも男性は小さく頷いた。
「私達の力は万能ではないのよ。魂を操っているようで違うの。…あ、あの時代の彼女がそろそろね。では、次のところへ向かうわよ」
女性はそれだけ呟くとパッとその場から消えた。男性は床に寝ている痩せ細った亡骸に一度だけ頭を下げるとその場から消え去った。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
「五島新太、こーの大馬鹿者!!!」
金の瞳を持つ女性はゴチーンゴチーンとある男性の頭にゲンコツを何発も喰らわせながら怒りを露わにした。
「500年寝かせて寝かせてやっと動物に生まれ変われる状態になった無垢な魂になんてことを!」
「いでー!!!」
女性の怒りは収まらないようで、ゲンコツを食らっている男性の頭にさらにゲンコツを喰らわせた。
「しょーがねーじゃん。ワザとじゃねーんだって」
「そんなことわかってるわよ!」
女性は両手で頭を掻きむしりながら、搬送されゆく担架を追いかけている小さな毛玉を見つめた。
彼らがいる場所はとある草むらであり、血溜まりがある場所であった。
その場所からサイレンを鳴らす救急車を見送ってから、女性は地べたで正座している新太に目を向けた。
「仕方ない。彼の願いを叶えたら、あの魂にはすぐにこちらに来てもらうことにします。あの魂を世界に馴染ませるためにはもう一度同じ動物に生まれ変わらせないと…ああ、もう。ただでさえボロボロな魂で生まれ変わりを拒否する状態にまでなってるのに…」
「すんません…」
状況をあまりよくわかっていない新太であったが、ここは謝るべきだろうと考えてペコリと頭を下げた。
「姉上。彼はどうしますか?」
2人の間に割って入るように声をかけた銀色の瞳の男性は新太を見つめながら首を傾げた。
「そうね。幸いなことに彼の魂は大きいわ。すぐに生まれ変わらせる必要もないし、寝かせる必要もない。あの魂が戻ってくるまで身柄預かりとします。とりあえずこの状況について説明はしておいて
」
「はい。じゃあ、五島新太さん。そういうことなので、しばらく貴方は僕たちと行動してください。基本的には自由に過ごしてもらって構いません。説明は後ほどしますので、ついて来てください」
「お、おう。あ…はい。わかりました」
よくわからないまま新太はウンウンと頷くとゆっくり立ち上がった。そして、彼らと共にスッとその場から消え去った。
★★★★★
「これは…」
戻ってきた小さな魂を手に取って金色の瞳の女性は驚いたように呟いた。
「どうしました?」
隣にいた銀色の瞳の男性は不思議そうにしながらも、彼女の手の中にある魂に目を向けた。
「寝かせても治らなかったひび割れがほんの少し治ってる?」
彼の言葉に女性は小さく頷くと、黒猫を抱きしめながら泣く1人の女性に目を向けた。
彼らはとある一室の中にいた。そして金色の女性は手の中の魂をじっと見つめてから口を開いた。
「そう。貴方はそれを選択するのね」
女性はキラキラと白く光る小さな球体に優しい声をかけると、すぐに輪廻の輪に魂を入れた。
「え?姉上?」
「今度こそ…あの魂は選んだのよ」
「え?でも願いなんて何も…」
「これだからまだ貴方は見習いなのよ…。貴方が壊しかけたあの魂。どうなっていくのかよくよく観察しなさい。あ、あと自由にしてるあの魂はもうしばらくほっといて良いわ」
「は、はい。わかりました」
金色の女性は部屋の中で泣きじゃくる女性に寄り添っている男性の魂を見つめながら話すと、フッと小さく微笑んだ。
銀色の男性はまだよく理解できないのか首を傾げながら、金色の女性と共にその場を後にした。
○○○○○○○○
「姉上。僕はやっとわかったような気がします」
とある一軒家から子供たちの笑い声が聞こえてくる。銀色の瞳を持つ男性は木の影からその声と様子を見つめながらポツリと呟いた。
金色の瞳を持つ女性はその隣で彼と同じ風景と声を聞きながら優しく微笑んだ。
「そう」
女性の返答に男性は力強く頷くと自分の考えを語り始めた。
「はい。輪廻を繰り返させ、魂を大きくするのが僕たちの仕事です。その目的は最終的には我らが父に仕える魂にするため。動物や人、植物。生まれ変わる姿は魂の大きさで違えど、最終的な目標は同じです。ただ、彼らは生きている。小さくなったり大きくなったり、壊れて消滅したり…。生を受けた時代や生き様で変わっていきますが…どんな時も彼らには意思がある。前回、僕は勝手に同じ生をもう一度歩ませました。彼女はそれを願っていたわけではなく、全ては僕の都合で…」
「ええ」
「その結果、僕は失敗しました。彼らには意思がある。だからこそ、こちらの都合を押し付けてはいけない。あるがままでなすがまま。僕達は彼らを導いているようで、見守ることしかできない。時代や空間を超えて僕達は様々な時代や世界に行けます。でも、それだけなのです。いえ、それだけしかできない。だからこそ彼らの願いを叶えるときはより慎重に行う必要があるんですね」
男性はそこまで話すともう一度楽しそうな声が聞こえる家を見つめた。
決意したような顔になった男性の肩に女性はそっと手をおいた。そして肩を優しく撫でると微笑んだ。
「さあ、あの時代の彼が待っているわ。今回は貴方が主導でやりなさい」
「はい、姉上」
男性は女性に目線を向けて微笑むと、2人はその場からスッと消えた。
ーーーーーー
番外編も最後まで読んでくださりありがとうございます。
この2人について補足です。
神様ではありません。死神でもありません。
神に仕える存在ではあります。
彼らはどの時代にも行け、どの世界にも行けます。魂を生まれ変わらせる時代や世界もその時によって変わっていきます。時間に縛られていません。
(例)戦国時代に没→彼らの時間500年休息→前回没した時代よりも前の平安時代に生まれさせる
そして流行りの逆行転生に乗っちゃったのが弟君です。真面目なのですがウッカリさんでやらかしました笑
物語を久々に書いたのと、時間の合間に作成してきたのでうまく物語が繋がってるようで繋がってない感が半端ないです!申し訳ないです。
それでも最後まで読んでくださり、ありがとうございます。今後は少しずつ活動を再開していこうと思っております。
あさリ23
ゴチーンと大きな音がしそうなゲンコツを1人の男性に落とした女性は倒れているベッカの隣に立っていた。男性はその隣で頭を押さえながら蹲った。
「この馬鹿者、馬鹿者。大馬鹿者!」
「ひぃぃ」
ゴチンゴチンと何発もゲンコツを落とす女性の顔は怒りに染まっていた。男性はゲンコツが落ちる頭を両手で押さえながら、涙目になっていった。
「ごめんなさいぃいいい」
「謝るだけで許されるなら、神様は要りません!!」
女性は泣いて謝る男性の頭にもう一度ゲンコツを食らわせると、ベッカの体から抜けてきた何かをそっと手に掴んだ。
「可哀想に…。こんなに小さな魂になって…しかも今にも壊れそう」
彼女が手を開けば、手の中には薄暗く光る球体があった。大きさは直径10センチほどで、しかも光は今にも消えてしまいそうだった。そして少し刺激を与えれば、すぐに割れてしまいそうなほどひび割れが沢山入っていた。
「この大きさでは…何百年寝かせて魂を修復しても人間には生まれ変われないわね」
「…うん…」
しゃがみ込んでいた男性は立ち上がって彼女の手のひらを覗き込んでから、コクンと小さく頷いた。
「弟よ。人の願いはね、言葉の中にある思いが大事なの。なぜ、この魂にもう一度同じ生を歩ませたの?」
彼らは同じ黒髪で顔も同じ。女性の髪は腰まであり、男性は肩程の長さ。身長も同じだが女性の瞳は金色。男性の瞳は銀色。
だが女性の方が経験が豊富なようで、男性はションボリと肩を落としており立場ははっきりとしていた。
「…ほ、ほら。あの…最近の流行りのアレです」
「流行り?」
男性の言葉に女性はスッと目を細めた。その鋭い目線に男性は悲鳴をあげながらも言葉を続けた。
「もう一度同じ人生を歩んで、幸せになるために奮闘するアレです…」
「なるほど。で?それをなぜこの魂に適応したの?」
鋭い目つきのまま彼女は手のひらにあった球体を、どこからともなく出してきた透明な箱の中に入れた。そして箱をパッと消してしまうと、両手を腰に当ててまた男性を睨みつけた。
その目線にブルリと震えながら、男性は口を開いた。
「他の同僚から、その。一度苦しい思いをした魂にもう一度同じ生を繰り返させることで、一回りも二回りも魂が大きくなって成長しやすい。効率よく魂を育てられる方法だって言われたんだ」
「そうね。そういった事例は確かにあるわ」
「だ、だから…この魂は自由を求めていたから。もう一度同じ生を繰り返したら、苦しみから逃げるために外に飛び出して自由に生きる事ができると思ったんだ。そして色々経験して魂も大きく…」
男性の返答を聞いて、女性はフンッと鼻を鳴らした。
「貴方の発想はわかったわ。ではなんで、1度目と違う状況になったのかしら?」
「そ、それ…は…」
女性の言葉にオロオロとし始めた男性は口を開いたり閉じたりしつつ、言葉をうまく紡げなくなった。それを見ていた女性はハァァァっと大きくため息をついた。
「貴方の事だから、生まれ変わらせる手続きで何か不備があったのでしょう?」
「うぐっ」
「しかも、戻す時期もちゃんと決めなかったわね?」
「うぐぐ」
図星だったのか男性は言葉を詰まらせて、また肩を落として俯いた。その姿を見た女性は片手を額に当ててため息をついた。
「でもね。こうなったのは貴方の勝手な思いの押し付けが最大の原因よ。書類の不備だけじゃない。全ては貴方の判断ミス」
「…うぇえ?」
納得できないのか、男性は俯かせていた顔を上げた。その様子を見ていた女性はまた深くため息をついた。
「あのね。私たちの都合は彼らには関係ないの。魂を育てる側と育てられる側の利害が一致しない限り、同じ生を歩ませる意味はないのよ。もう一度過去に戻ってやり直したい。そんな願いがなければ意味はないの」
「いや…でも…」
「彼女は自由が欲しいと言ったわ。でもそれを過去に戻って得たいとは一言も言ってないのよ。…彼女は周りに縛られすぎていたわ。彼女の良き思い出すらも彼女を縛っていた。自由ってね、色んな意味があるのよ。だから自由を語る人皆が共通の自由を考えてるわけではないの。彼女にとって自由とは何かを貴方は履き違えたのよ」
「でも…」
女性の言葉に納得できないのか、男性はうーんっと首を捻った。
「姉上の言いたいことは理解できます。ですが今回もし僕が書類の不備なく生まれ変わらせる事ができていたら、彼女が願う自由を選択できたのでは?」
女性はフンッと鼻を鳴らすと、また鋭い目線を男性に向けた。
「そうね。それはあったかもしれない。でも本当に彼女が掴みたい自由に繋がることなのかは、貴方が決めることではない。同じ人生を歩ませる意味は?彼女が求める自由を選択させるだけならば、別の人間として生まれ変わっても同じではないかしら?正直、貴方の考えは与える側の傲慢さが滲み出ているわね」
「…傲慢…」
「ええ、そうよ。私たちには力がある。でもそれを振り翳してこちらの都合を押し付けるのは、違うの。過去の生で悪事を働いていても、善行を積んでいても、元々の寿命が短かったとしても。彼らが今どう生きるかを決めるのはその時の彼らなのよ」
「よくわかりません…」
女性の言葉が理解できないのか、男性は首を横に振った。そして聞かされた言葉を理解しようと頭の中で整理するが、それでもうまく理解できずにいた。不満そうな顔をしつつ女性を見つめれば、彼女はまた深くため息をついた。
「いいわ。では、貴方を見習いに戻します。私の横で私のすることをよく見なさい。そしてなぜ私がそのようにするのかを考えなさい。していることをただ見つめて流すだけではなく、何故そのようにするのか疑問を持ちなさい。そしてわからなければ私に問いなさい」
「…はい…」
腑に落ちない顔をしながらも男性は小さく頷いた。
「私達の力は万能ではないのよ。魂を操っているようで違うの。…あ、あの時代の彼女がそろそろね。では、次のところへ向かうわよ」
女性はそれだけ呟くとパッとその場から消えた。男性は床に寝ている痩せ細った亡骸に一度だけ頭を下げるとその場から消え去った。
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「五島新太、こーの大馬鹿者!!!」
金の瞳を持つ女性はゴチーンゴチーンとある男性の頭にゲンコツを何発も喰らわせながら怒りを露わにした。
「500年寝かせて寝かせてやっと動物に生まれ変われる状態になった無垢な魂になんてことを!」
「いでー!!!」
女性の怒りは収まらないようで、ゲンコツを食らっている男性の頭にさらにゲンコツを喰らわせた。
「しょーがねーじゃん。ワザとじゃねーんだって」
「そんなことわかってるわよ!」
女性は両手で頭を掻きむしりながら、搬送されゆく担架を追いかけている小さな毛玉を見つめた。
彼らがいる場所はとある草むらであり、血溜まりがある場所であった。
その場所からサイレンを鳴らす救急車を見送ってから、女性は地べたで正座している新太に目を向けた。
「仕方ない。彼の願いを叶えたら、あの魂にはすぐにこちらに来てもらうことにします。あの魂を世界に馴染ませるためにはもう一度同じ動物に生まれ変わらせないと…ああ、もう。ただでさえボロボロな魂で生まれ変わりを拒否する状態にまでなってるのに…」
「すんません…」
状況をあまりよくわかっていない新太であったが、ここは謝るべきだろうと考えてペコリと頭を下げた。
「姉上。彼はどうしますか?」
2人の間に割って入るように声をかけた銀色の瞳の男性は新太を見つめながら首を傾げた。
「そうね。幸いなことに彼の魂は大きいわ。すぐに生まれ変わらせる必要もないし、寝かせる必要もない。あの魂が戻ってくるまで身柄預かりとします。とりあえずこの状況について説明はしておいて
」
「はい。じゃあ、五島新太さん。そういうことなので、しばらく貴方は僕たちと行動してください。基本的には自由に過ごしてもらって構いません。説明は後ほどしますので、ついて来てください」
「お、おう。あ…はい。わかりました」
よくわからないまま新太はウンウンと頷くとゆっくり立ち上がった。そして、彼らと共にスッとその場から消え去った。
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「これは…」
戻ってきた小さな魂を手に取って金色の瞳の女性は驚いたように呟いた。
「どうしました?」
隣にいた銀色の瞳の男性は不思議そうにしながらも、彼女の手の中にある魂に目を向けた。
「寝かせても治らなかったひび割れがほんの少し治ってる?」
彼の言葉に女性は小さく頷くと、黒猫を抱きしめながら泣く1人の女性に目を向けた。
彼らはとある一室の中にいた。そして金色の女性は手の中の魂をじっと見つめてから口を開いた。
「そう。貴方はそれを選択するのね」
女性はキラキラと白く光る小さな球体に優しい声をかけると、すぐに輪廻の輪に魂を入れた。
「え?姉上?」
「今度こそ…あの魂は選んだのよ」
「え?でも願いなんて何も…」
「これだからまだ貴方は見習いなのよ…。貴方が壊しかけたあの魂。どうなっていくのかよくよく観察しなさい。あ、あと自由にしてるあの魂はもうしばらくほっといて良いわ」
「は、はい。わかりました」
金色の女性は部屋の中で泣きじゃくる女性に寄り添っている男性の魂を見つめながら話すと、フッと小さく微笑んだ。
銀色の男性はまだよく理解できないのか首を傾げながら、金色の女性と共にその場を後にした。
○○○○○○○○
「姉上。僕はやっとわかったような気がします」
とある一軒家から子供たちの笑い声が聞こえてくる。銀色の瞳を持つ男性は木の影からその声と様子を見つめながらポツリと呟いた。
金色の瞳を持つ女性はその隣で彼と同じ風景と声を聞きながら優しく微笑んだ。
「そう」
女性の返答に男性は力強く頷くと自分の考えを語り始めた。
「はい。輪廻を繰り返させ、魂を大きくするのが僕たちの仕事です。その目的は最終的には我らが父に仕える魂にするため。動物や人、植物。生まれ変わる姿は魂の大きさで違えど、最終的な目標は同じです。ただ、彼らは生きている。小さくなったり大きくなったり、壊れて消滅したり…。生を受けた時代や生き様で変わっていきますが…どんな時も彼らには意思がある。前回、僕は勝手に同じ生をもう一度歩ませました。彼女はそれを願っていたわけではなく、全ては僕の都合で…」
「ええ」
「その結果、僕は失敗しました。彼らには意思がある。だからこそ、こちらの都合を押し付けてはいけない。あるがままでなすがまま。僕達は彼らを導いているようで、見守ることしかできない。時代や空間を超えて僕達は様々な時代や世界に行けます。でも、それだけなのです。いえ、それだけしかできない。だからこそ彼らの願いを叶えるときはより慎重に行う必要があるんですね」
男性はそこまで話すともう一度楽しそうな声が聞こえる家を見つめた。
決意したような顔になった男性の肩に女性はそっと手をおいた。そして肩を優しく撫でると微笑んだ。
「さあ、あの時代の彼が待っているわ。今回は貴方が主導でやりなさい」
「はい、姉上」
男性は女性に目線を向けて微笑むと、2人はその場からスッと消えた。
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番外編も最後まで読んでくださりありがとうございます。
この2人について補足です。
神様ではありません。死神でもありません。
神に仕える存在ではあります。
彼らはどの時代にも行け、どの世界にも行けます。魂を生まれ変わらせる時代や世界もその時によって変わっていきます。時間に縛られていません。
(例)戦国時代に没→彼らの時間500年休息→前回没した時代よりも前の平安時代に生まれさせる
そして流行りの逆行転生に乗っちゃったのが弟君です。真面目なのですがウッカリさんでやらかしました笑
物語を久々に書いたのと、時間の合間に作成してきたのでうまく物語が繋がってるようで繋がってない感が半端ないです!申し訳ないです。
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