6 / 7
番外編
小さな魂の願い
しおりを挟む
「神よ。本当に貴方が存在するなら…どうか次生まれ変わった時は…」
ボロボロの服を身にまとい、痩せこけた小柄な女性は目の前にある神の像に跪きながら手を組んだ。
「自由になりたい。…神よ…。私はもう生きたくありません」
彼女は組んだ手に額をくっつけ、そのまま地面に伏せた。そして、彼女は誰がいるわけでもない教会の礼拝堂で神に向かって自分の生い立ちを話し始めた。
彼女の名はベッカ。生まれた時から両親を知らず教会の孤児院で育った。
彼女は体毛全てが白く、目の色は真っ赤。肌は白い。色素がとても薄く異質な存在であった。
周りの人とは違う容姿に孤児院で働く大人、暮らす子供含めて彼女を忌み嫌っていた。名前すら付けてもらえず、彼女は周りから【エビル】と呼ばれていた。
異質な存在であり、直ぐにでも死んでしまうだろうと思われていた彼女であったが、周りの予想と反し健やかに育った。
また自分の名前をエビルだと認識していた彼女は、その名前で呼ばれることに疑問すら湧かなかった。
嫌われていても周りの愛を欲し、愛されようと必死だった。
質素な食事しか出ない孤児院で、彼女だけが2日おきしか食べられなくても。
いつもお腹がすいており、空腹に耐えきれず道端に生える雑草を食べて周りから馬鹿にされても。
一緒に住む子供達がやりたくないことを押し付けてきても。
大人達から汚物扱いされ、汚れた水を体にかけられても。
彼女の世界はそこだけであり、彼女はそれしか知らなかった。
そして彼女の心はどんどんと光を失っていった。何かに希望を持っても叶うことがないと自分で諦めたからだ。
笑うこともなく、話すこともなく。
ただ、自分の身に降りかかる全てを受け流しながら息をするだけの人形のようになっていった。
しかし、彼女に転機が訪れたのは15歳の頃だった。
見た目のこともあり、里親の引き取り手はない。だが、孤児院は異物を早く排除したがっていた。そんな頃にとある男が孤児院にやってきた。
「ここに真っ赤な目をした真っ白な少女がいると聞いた」
その言葉を告げた男はドヴェインと名乗った。そして、大人達に金貨を数枚手渡すと抵抗すらする気力のない彼女の手を引いてその世界から連れ出した。
15歳でありながらも栄養が足りず、10歳ぐらいの幼児にしか見えない彼女は下着が見えそうなくらい裾の短く汚れたワンピースのまま彼に連れられて初めて外の世界を見た。
見たことがない光景、見たことがない人々。見たことがない食べ物。
彼女は目的地に行くまでの間に一生分の何かを使ってしまったと感じるほど、今まで感じたことがない何かを感じていた。
だが彼女の心はすでに光を失っており、感じた思いを理解することはできなかった。
ドヴェインと名乗った男は平民であったが、芸を披露する劇団の長だった。
彼は旅をしながら各地を周り、人から異形だと虐げられている人々を拾っては芸を仕込んで働かせていた。
また健康体な人間だけでなく、獰猛な猛獣も数匹芸を仕込んで飼っていた。
そんな場所で彼女はドヴェインからある事を命じられた。
「お前がやる芸は踊りだ。その真っ白な髪や肌、真っ赤な瞳を武器に人を魅了する踊りを習得しろ。それができるようになったら真っ白な虎を仕入れてやる。どこぞの国では神の御使だと言われてるらしい。そんな虎を従えて踊るお前はその虎と同じ色合いをしている。ならばお前も神の御使と同じだと言っても過言じゃない。だから、心を殺すな。周りの目がなんだ。自信を持て。ここはお前のように嫌われ者の集まりみたいなもんだ。でもよく見ろ。皆笑ってるだろ?」
そう言ってドヴェインはポカンとしている彼女の頭を撫でると、その場にいた団員に彼女を任せて去っていった。
彼の言葉をすぐには理解できなかったが、彼らと生活を共にする間に少しずつ彼女はその言葉の意味を理解し始めていった。
またドヴェインは彼女自身が彼女に興味を持ち生きることに執着させるため、あるモノを贈った。
それは【ベッカ】と言う名前だった。
彼女には名前の由来は全くわからなかったが、周りの団員からはとても高評価であった。その様子を見て彼女はなんとなく良いものを貰ったのだと理解した。
名前を貰ってからのベッカは少しずつ真っ赤な瞳に輝きを取り戻していった。
他の団員達にも同じような境遇の人々がいたこともあり、とても優しく彼女を見守った。
時には厳しく、時には優しく。まだまだ幼い彼女を彼らはとても可愛がった。特に団長であるドヴェインは自分の子供のように可愛がった。
ベッカにとってこの時が一番幸せだった。
彼女がそこにやってきて1年がたった頃。踊りを覚えてやっと観客の前で披露する事が決まった。
この頃には自然と笑顔が出ており、もう誰も彼女を動くだけの人形だとは思わなかった。
ある日、とある国のとある街で彼らは公演する事が決まった。
だが、ある貴族によって彼女の安らぎの場所は奪われる事となった。
「ベッカ!!!逃げろ!逃げるんだ!!!」
ドヴェインや他の男性団員達は襲って来る人々に立ち向かおうと応戦しながら、女や子供をその場から脱出させようと必死だった。
「嫌だ、団長!!」
「生きろ。諦めるな。生きろ、どんなに辛くても自分で自分を殺すんじゃないぞ!俺との約束だ!!」
体格のいい女性団員に抱えられるように運ばれていくベッカを見送りながら、ドヴェインは優しく微笑んだ。そして剣を持って襲って来る人達に立ち向かっていった。
ベッカは涙を流しながら、自分の故郷のような場所が燃えていくのを見つめることしかできなかった。
結局、ドヴェインや他の男達と再会することはできなかった。
女達だけ暮らしていくにも彼女達を雇ってくれる人は少なかったが、芸を披露してお金を稼ぎ、細々と暮らしながら住まいを転々とした。
しかし、1人また1人と病に倒れて亡くなっていった。
最後まで残ったのはベッカだけだった。
酒場で踊りお金を稼ぎ、体つきが大人になっていた18歳の頃には体でもお金を稼ぐようになった。
しかし、やっと息を吹き返した彼女の心は徐々に光を失っていった。
25歳の頃。客から病気をうつされてしまった。
それを彼女はとても喜んだ。
ドヴェインとの約束で自ら命を断つことはできない。だが病に命を奪われるならば、死んでいった彼らに天国であってもきっと怒られはしないだろうと考えたからだ。
医者にもかからず、じっと病が体を蝕んでいくのを待った。
食べ物が底をついても、なかなか彼女は死ぬ事ができなかった。
そして彼女は鉛のように重い体を引きずって教会へと向かった。
そう。神に祈るために。
「いつになったら迎えにきてくれるの…皆…」
彼女はシクシクと涙を流しながらその場にうずくまった。
礼拝堂の床はとても冷たかったが、発熱し始めた彼女にとってはとても心地よい場所になっていた。
「神よ…」
熱で徐々に朦朧とし始めた彼女は涙を流しながらそっと瞼を閉じた。
閉じた向こう側には自分が求めていた人々が両手を広げて待っていてくれた。それに喜んだ彼女は重い体を引きずって彼らに向かって駆け寄った。
進めば進むほど彼女の体は軽くなったが、どんどんどんどん彼らの姿は遠くなった。
『待って、私はここよ。行かないで。行かないでぇぇぇえ』
声を上げて泣きじゃくりながら懸命に走るが、一向に追い付かない。最後には進む先に突然ぽっかり穴が開いて、彼女はその穴に落ちていった。
「行かないでぇええええ!!」
涙を流しながら手を伸ばし目を覚ませば、目の前には見覚えのある天井が広がっていた。
「うっせーぞ、エビル。静かにしろ」
彼女の声で起きてしまった男の子が苛立ちを隠しきれない声で怒りを向けた。
たくさん並べられたベッドの中の一つに寝ているその場から動く気はないようで、怒鳴りつけてすぐに寝息を立てて寝始めたようだった。
「……え……」
見た事がある光景、見た事がある子供達。
だが彼女には大人になった記憶があった。
大好きな人達に愛された記憶もあった。
「どういうこと…」
大きな声を出せばまた怒鳴られてしまう。そう感じた彼女は小さな声で呟いてから毛布にくるまった。
どう考えても子供の頃に戻ってきていた。
誰も彼女のことを【ベッカ】とは呼ばないし、彼女に優しさを向けることはない。
自分の心を殺して生きていた子供時代。
優しさを知ってしまった彼女にとって、再び子供時代を過ごさなければならない事はとてつもない苦痛だった。
孤児院から抜け出してドヴェイン達を探そうか。そんなことを考えたこともあった。
だが彼らは旅をしており、ひと所にとどまることはない。
字も読めず学のない彼女が彼らを探し出すのは容易なことではなかった。
また栄養が足りていないこの身体では外に出て探し回るにも体力がなかった。
彼らがくるまでじっと待つ。そんな選択肢もあったがそれすら許されなかった。
なぜなら1度目と違う点があったからだ。それは彼女の体がとても弱くなった事だった。
あんなに丈夫だった体は、今ではすぐに風邪をひいてしまう軟弱な体になっていた。
そして、常に病を患っている彼女を孤児院の人々は放っておくようになった。
「うっうう。なぜ戻ってきたの?なぜ戻るなら幸せなあの頃じゃないの?なぜ…なぜ…。また同じ自分には生まれたくなかった。私はただ…自由が…欲しかっただけなの…」
ベッカはポロポロと涙を流しながらベッドに寝ている日々を過ごした。
薬を与えられているわけではないため病が治るわけもなく。かと言って異質な彼女を生かそうとする人たちもおらず。
最後には外の物置小屋のような場所に押し込まれてしまった。
薄い薄い毛布を渡したのは彼らの良心なのか。体を温めることもできない毛布でもベッカにとっては有難いものではあった。
徐々に体を動かすことすらできなくなった頃。彼女は天井を見つめながら神に語りかけた。
「もう、生まれ変わり…たくない…。自由に…」
か細い声でそれだけ呟くと彼女はゆっくり瞼を閉じた。そして、眠るように息を引き取った。
ボロボロの服を身にまとい、痩せこけた小柄な女性は目の前にある神の像に跪きながら手を組んだ。
「自由になりたい。…神よ…。私はもう生きたくありません」
彼女は組んだ手に額をくっつけ、そのまま地面に伏せた。そして、彼女は誰がいるわけでもない教会の礼拝堂で神に向かって自分の生い立ちを話し始めた。
彼女の名はベッカ。生まれた時から両親を知らず教会の孤児院で育った。
彼女は体毛全てが白く、目の色は真っ赤。肌は白い。色素がとても薄く異質な存在であった。
周りの人とは違う容姿に孤児院で働く大人、暮らす子供含めて彼女を忌み嫌っていた。名前すら付けてもらえず、彼女は周りから【エビル】と呼ばれていた。
異質な存在であり、直ぐにでも死んでしまうだろうと思われていた彼女であったが、周りの予想と反し健やかに育った。
また自分の名前をエビルだと認識していた彼女は、その名前で呼ばれることに疑問すら湧かなかった。
嫌われていても周りの愛を欲し、愛されようと必死だった。
質素な食事しか出ない孤児院で、彼女だけが2日おきしか食べられなくても。
いつもお腹がすいており、空腹に耐えきれず道端に生える雑草を食べて周りから馬鹿にされても。
一緒に住む子供達がやりたくないことを押し付けてきても。
大人達から汚物扱いされ、汚れた水を体にかけられても。
彼女の世界はそこだけであり、彼女はそれしか知らなかった。
そして彼女の心はどんどんと光を失っていった。何かに希望を持っても叶うことがないと自分で諦めたからだ。
笑うこともなく、話すこともなく。
ただ、自分の身に降りかかる全てを受け流しながら息をするだけの人形のようになっていった。
しかし、彼女に転機が訪れたのは15歳の頃だった。
見た目のこともあり、里親の引き取り手はない。だが、孤児院は異物を早く排除したがっていた。そんな頃にとある男が孤児院にやってきた。
「ここに真っ赤な目をした真っ白な少女がいると聞いた」
その言葉を告げた男はドヴェインと名乗った。そして、大人達に金貨を数枚手渡すと抵抗すらする気力のない彼女の手を引いてその世界から連れ出した。
15歳でありながらも栄養が足りず、10歳ぐらいの幼児にしか見えない彼女は下着が見えそうなくらい裾の短く汚れたワンピースのまま彼に連れられて初めて外の世界を見た。
見たことがない光景、見たことがない人々。見たことがない食べ物。
彼女は目的地に行くまでの間に一生分の何かを使ってしまったと感じるほど、今まで感じたことがない何かを感じていた。
だが彼女の心はすでに光を失っており、感じた思いを理解することはできなかった。
ドヴェインと名乗った男は平民であったが、芸を披露する劇団の長だった。
彼は旅をしながら各地を周り、人から異形だと虐げられている人々を拾っては芸を仕込んで働かせていた。
また健康体な人間だけでなく、獰猛な猛獣も数匹芸を仕込んで飼っていた。
そんな場所で彼女はドヴェインからある事を命じられた。
「お前がやる芸は踊りだ。その真っ白な髪や肌、真っ赤な瞳を武器に人を魅了する踊りを習得しろ。それができるようになったら真っ白な虎を仕入れてやる。どこぞの国では神の御使だと言われてるらしい。そんな虎を従えて踊るお前はその虎と同じ色合いをしている。ならばお前も神の御使と同じだと言っても過言じゃない。だから、心を殺すな。周りの目がなんだ。自信を持て。ここはお前のように嫌われ者の集まりみたいなもんだ。でもよく見ろ。皆笑ってるだろ?」
そう言ってドヴェインはポカンとしている彼女の頭を撫でると、その場にいた団員に彼女を任せて去っていった。
彼の言葉をすぐには理解できなかったが、彼らと生活を共にする間に少しずつ彼女はその言葉の意味を理解し始めていった。
またドヴェインは彼女自身が彼女に興味を持ち生きることに執着させるため、あるモノを贈った。
それは【ベッカ】と言う名前だった。
彼女には名前の由来は全くわからなかったが、周りの団員からはとても高評価であった。その様子を見て彼女はなんとなく良いものを貰ったのだと理解した。
名前を貰ってからのベッカは少しずつ真っ赤な瞳に輝きを取り戻していった。
他の団員達にも同じような境遇の人々がいたこともあり、とても優しく彼女を見守った。
時には厳しく、時には優しく。まだまだ幼い彼女を彼らはとても可愛がった。特に団長であるドヴェインは自分の子供のように可愛がった。
ベッカにとってこの時が一番幸せだった。
彼女がそこにやってきて1年がたった頃。踊りを覚えてやっと観客の前で披露する事が決まった。
この頃には自然と笑顔が出ており、もう誰も彼女を動くだけの人形だとは思わなかった。
ある日、とある国のとある街で彼らは公演する事が決まった。
だが、ある貴族によって彼女の安らぎの場所は奪われる事となった。
「ベッカ!!!逃げろ!逃げるんだ!!!」
ドヴェインや他の男性団員達は襲って来る人々に立ち向かおうと応戦しながら、女や子供をその場から脱出させようと必死だった。
「嫌だ、団長!!」
「生きろ。諦めるな。生きろ、どんなに辛くても自分で自分を殺すんじゃないぞ!俺との約束だ!!」
体格のいい女性団員に抱えられるように運ばれていくベッカを見送りながら、ドヴェインは優しく微笑んだ。そして剣を持って襲って来る人達に立ち向かっていった。
ベッカは涙を流しながら、自分の故郷のような場所が燃えていくのを見つめることしかできなかった。
結局、ドヴェインや他の男達と再会することはできなかった。
女達だけ暮らしていくにも彼女達を雇ってくれる人は少なかったが、芸を披露してお金を稼ぎ、細々と暮らしながら住まいを転々とした。
しかし、1人また1人と病に倒れて亡くなっていった。
最後まで残ったのはベッカだけだった。
酒場で踊りお金を稼ぎ、体つきが大人になっていた18歳の頃には体でもお金を稼ぐようになった。
しかし、やっと息を吹き返した彼女の心は徐々に光を失っていった。
25歳の頃。客から病気をうつされてしまった。
それを彼女はとても喜んだ。
ドヴェインとの約束で自ら命を断つことはできない。だが病に命を奪われるならば、死んでいった彼らに天国であってもきっと怒られはしないだろうと考えたからだ。
医者にもかからず、じっと病が体を蝕んでいくのを待った。
食べ物が底をついても、なかなか彼女は死ぬ事ができなかった。
そして彼女は鉛のように重い体を引きずって教会へと向かった。
そう。神に祈るために。
「いつになったら迎えにきてくれるの…皆…」
彼女はシクシクと涙を流しながらその場にうずくまった。
礼拝堂の床はとても冷たかったが、発熱し始めた彼女にとってはとても心地よい場所になっていた。
「神よ…」
熱で徐々に朦朧とし始めた彼女は涙を流しながらそっと瞼を閉じた。
閉じた向こう側には自分が求めていた人々が両手を広げて待っていてくれた。それに喜んだ彼女は重い体を引きずって彼らに向かって駆け寄った。
進めば進むほど彼女の体は軽くなったが、どんどんどんどん彼らの姿は遠くなった。
『待って、私はここよ。行かないで。行かないでぇぇぇえ』
声を上げて泣きじゃくりながら懸命に走るが、一向に追い付かない。最後には進む先に突然ぽっかり穴が開いて、彼女はその穴に落ちていった。
「行かないでぇええええ!!」
涙を流しながら手を伸ばし目を覚ませば、目の前には見覚えのある天井が広がっていた。
「うっせーぞ、エビル。静かにしろ」
彼女の声で起きてしまった男の子が苛立ちを隠しきれない声で怒りを向けた。
たくさん並べられたベッドの中の一つに寝ているその場から動く気はないようで、怒鳴りつけてすぐに寝息を立てて寝始めたようだった。
「……え……」
見た事がある光景、見た事がある子供達。
だが彼女には大人になった記憶があった。
大好きな人達に愛された記憶もあった。
「どういうこと…」
大きな声を出せばまた怒鳴られてしまう。そう感じた彼女は小さな声で呟いてから毛布にくるまった。
どう考えても子供の頃に戻ってきていた。
誰も彼女のことを【ベッカ】とは呼ばないし、彼女に優しさを向けることはない。
自分の心を殺して生きていた子供時代。
優しさを知ってしまった彼女にとって、再び子供時代を過ごさなければならない事はとてつもない苦痛だった。
孤児院から抜け出してドヴェイン達を探そうか。そんなことを考えたこともあった。
だが彼らは旅をしており、ひと所にとどまることはない。
字も読めず学のない彼女が彼らを探し出すのは容易なことではなかった。
また栄養が足りていないこの身体では外に出て探し回るにも体力がなかった。
彼らがくるまでじっと待つ。そんな選択肢もあったがそれすら許されなかった。
なぜなら1度目と違う点があったからだ。それは彼女の体がとても弱くなった事だった。
あんなに丈夫だった体は、今ではすぐに風邪をひいてしまう軟弱な体になっていた。
そして、常に病を患っている彼女を孤児院の人々は放っておくようになった。
「うっうう。なぜ戻ってきたの?なぜ戻るなら幸せなあの頃じゃないの?なぜ…なぜ…。また同じ自分には生まれたくなかった。私はただ…自由が…欲しかっただけなの…」
ベッカはポロポロと涙を流しながらベッドに寝ている日々を過ごした。
薬を与えられているわけではないため病が治るわけもなく。かと言って異質な彼女を生かそうとする人たちもおらず。
最後には外の物置小屋のような場所に押し込まれてしまった。
薄い薄い毛布を渡したのは彼らの良心なのか。体を温めることもできない毛布でもベッカにとっては有難いものではあった。
徐々に体を動かすことすらできなくなった頃。彼女は天井を見つめながら神に語りかけた。
「もう、生まれ変わり…たくない…。自由に…」
か細い声でそれだけ呟くと彼女はゆっくり瞼を閉じた。そして、眠るように息を引き取った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
鬼畜皇子と建国の魔女
Adria
恋愛
⚠️注意⚠️
近況ボードで読みたいと言ってもらえたので、再度公開します。文章も拙く、内容も色々とぶっ飛んでいるので寛大な心でお読みいただける方のみどうぞ🙇♀️
📖あらすじ📖
かつてこの国を初代皇帝と共に建国した魔女がいた。
だが、初代皇帝が身罷ったあと、皇族と魔女は仲違いをし、魔女は城を去る。今となっては建国神話として語り継がれる昔話。
だが、ある嵐の日、部屋のバルコニーにいた私に落雷があった。それが原因で前世の記憶を取り戻した私は、己がその魔女であったことを思い出す。
その私が新しく選ぶ人生とは――
性描写のある回には、「※」を付けています。
《閲覧注意》
※暴力、凌辱など、倫理から外れた表現が多々あります。苦手な方は、ご注意下さい※
表紙絵/史生様(@fumio3661)
私のお腹の子は~兄の子を身籠りました~
妄想いちこ
恋愛
本編は完結済み。
番外編で兄視点をアップします。
数話で終わる予定です。
不定期投稿。
私は香川由紀。私は昔からお兄ちゃん大好きっ子だった。年を重ねるごとに兄は格好良くなり、いつも優しい兄。いつも私達を誰よりも優先してくれる。ある日学校から帰ると、兄の靴と見知らぬ靴があった。
自分の部屋に行く途中に兄部屋から声が...イケないと思いつつ覗いてしまった。部屋の中では知らない女の子とセックスをしていた。
私はそれを見てショックを受ける。
...そろそろお兄ちゃん離れをしてお兄ちゃんを自由にしてあげないと...
私の態度に疑問を持つ兄に...
※近親相姦のお話です。苦手な方はご注意下さい。
少し強姦シーンも出ます。
誤字脱字が多いです。有りましたらご指摘をお願いいたします。
シリアス系よりラブコメの方が好きですが挑戦してみました。
こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。
待鳥園子
恋愛
自分にとって、とても美味しい仕事である騎士団専属医になった騎士好きの女医が、皆の憧れ騎士の中の騎士といっても過言ではない美形騎士団長の身体を好き放題したいと嘘をついたら逆襲されて食べられちゃった話。
※他サイトにも掲載あります。
黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました
Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。
そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて――
イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)
絶倫獣人は溺愛幼なじみを懐柔したい
なかな悠桃
恋愛
前作、“静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ”のヒーロー視点になってます。そちらも読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。
※誤字脱字等確認しておりますが見落としなどあると思います。ご了承ください。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる