【完結】あの奇跡をもう一度

あさリ23

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幸せを世界に

いいこと思いついた

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 アイザックさん達と別れて僕達は久しぶりに市場を見て回った。1ヶ月前に来たときと変わりなく皆仲良く生活していた。

 2人で屋台で買ったものを食べ歩きつつ寮に戻るった。イーサンにも手土産としてお菓子を買って帰った。昼食の時に手渡すと嬉しそうに笑って受け取ってくれた。なんでも今お付き合いできそうな女性が好きなお菓子だったらしい。

 もう一つ肩の荷が降りた僕達はまたゆっくりと時間を過ごした。

 夜になって2人で湯浴みをしてベッドに入って…ちょっと運動をしてから眠りについた。夢の中であっても女性の体の快感が凄かったため、物足りなさを感じるのではないかと心配だったが、そんなことはなかった。オリーとする行為なら女であっても男であっても最高なことには変わりなかった。

 こうしてまた学園生活が始まった。








「ランベルツ先生ぇ。辛いんです!辛すぎます!枯渇です!」

「嘘つくな、カロー!どう見ても元気じゃないか」

「ランベルツ先生成分の枯渇ですぅ!シャルム先生は黙っててください!休暇の間、会えなくて寂しかったですぅ」

「は、ははは。カローさんは相変わらずだね」

 少し日に焼けたカローさんが初日から僕達の職場に突撃してきた。新学期が始まってから姿を見せなかったカローさんがここに来るのも本当に久しぶりだった。少し馴れ馴れしさもありつつも、どこか僕達に甘えているような口調でオリーを揶揄う姿はどう見ても元気いっぱいだった。

「で?どうしたんだ?」

 オリーとカローさんはしばらくお互いに(楽しく?)言い合いをしていたが、僕がカローさんにお茶を出した頃合いにオリーは話を切り出した。カローさんはソファーに座って僕が出したお茶を一口飲むと、フーっとため息をついた。僕とオリーはデスクにあった椅子をソファーがある場所に移動してそれぞれがそこに座るとカローさんが話し出すのを待った。

「私、魔力もほぼない、身体年齢も50代、実年齢も50代の男の人に嫁がなきゃいかなくて…」

「は?」

 オリーの声を聞いたカローさんはそれだけ言うとウゥッと涙を目に溜めて説明を始めた。

「私、今はカローだなんて苗字はあるけど元々平民なんです。たまたま貴族の子供並みに魔力があって、ついでにブルックス先輩の奥さん探しにちょうど良い年齢だからってカロー子爵家に引き取られたんです。礼儀作法も学園に来るまでに叩き込まれて、正室じゃなくても側室候補でもいいから先輩または上位貴族に積極的に体を差し出して自分を売り込めって。1年生の時はそれなりに学業以外にも自分の体で色々頑張ったんです。先輩にだって何度も何度も抱かれましたよ?友人も増えていくけど、私だけを見てくれる男性はいなくて都合のいい女のままで…。で、結果的にウッドさんが先輩と結婚。あれだけ盛大に歓迎されちゃうと側室をすぐに娶るとは考えられない。かといって、他の上位貴族の子息達は婚約者を決めたり唯一を指定したりと割り込む隙がない。と、言うことで私は爵位はあるけど売れに売れにこった男性に嫁ぐことに…」

「…カロー家はお前より年上の娘がいなかったか?」

「お姉さまはまだ手駒として残しておくそうですよ。結局は厄介者を追い出したいんですよ。相手にお会いしましたけど、でっぷりとしたお腹で髪の毛は薄いし、私の体を見てハァハァと興奮してくるし…。しまいには…」

「「には?」」

 僕とオリーが首を傾げると、ブワッと涙を流してカローさんは泣き叫んだ。

「嫌っていってるのにお義父様に無理やり媚薬を飲まされて、見合いの日に……」

「うわー…」

 カローさんは最後まで言葉に出すことはできなかったが、媚薬という言葉を聞けば何があったは容易に想像できた。つまり、そのお相手と一晩過ごしたということだろう。僕はシクシクと泣くカローさんの隣に座って優しく背中を撫でると、カローさんは泣きながら僕に抱きついてきた。

「嫌だー!媚薬のせいですごく感じて沢山達したけど、それは薬のせいであって、本当に相性がいいだなんてわからないのに…。私だけ媚薬を飲まされて、相手は素面。それで相性がいいとかブヒブヒ言ってるような男の人を旦那様だなんて言いたくないです。学校に通わせてもらって、貧しい暮らしから贅沢な暮らしに変わったことに関しては感謝しかないけども、最後の最後に…ひどい、ひどいです!」

 しくしく泣くカローさんがさりげなく僕の匂いをくんくん嗅いだりしているが、オリーは苦笑いをしながらそれを止めなかった。同情する気持ちもあるのだろう。僕も明るくて、そして人の心にも敏感で優しいカローさんが泣いている姿は心が痛かった。しばらくカローさんは泣いていたが、グスグスと鼻を啜ってから僕から離れた。

「見た目がまだ好みなら、耐えられるのに…」

「…痩せてもらう、とか…」

「魔力がほとんどなくて、平民と同じような人でブヒブヒしてる人が50歳になってから私のために痩せてくれる思います?それなら、同じ条件で若くて、誰かのために一生懸命働いている人に嫁いだ方がまだマシです!体の相性も今となっては重要じゃないですし!」

「…う、うーん」

 カローさんはフンガフンガと鼻を鳴らして怒ると、座りながら地団駄を踏み始めた。

「ちなみにお相手の爵位は?」

「男爵ですよ。見え張ってますけど、お金もそんなになさそうでしたね。まだお金持ちなら我慢できたけど、お金もないだなんて…」

「それは、不良物件だな」

「でしょう?ありえない!」

 オリーの言葉にカローさんはフンガフンガとまた怒り始めた。

「で、カローさんはどうしたいの?」

「え…」

「愚痴をいってスッキリしてその人に嫁ぐの?」

「それは…」

 怒っていたカローさんに諭すような声で話しかけると、怒りは鎮火したのかしょんぼりとしてしまった。まだ自分自身の気持ちの整理はできていないのか、カローさんはうーんと唸ってからぼつりと呟いた。

「お金なんてなくてもいいんです。爵位なんてなくてもいいんです。相性だってピッタリじゃなくてもいいんです。見た目だって正直なんでもいいんです。でも、私のことをただの性欲処理の道具だとしか考えてないような人と一緒になるのが嫌なんです。今回の相手はどう見ても私を見てないし、大事にしてくれない気がして嫌なんです。私だけを見て、私を愛してくれて、私が産む子供たちを大事にして、家族を守ってくれるような男性がいいです。貴族になった以上親の決めた相手と結婚することは仕方がないかもですが、実子は大切にして養子の私を蔑ろにして…。それを考えると尚更…」

「なるほどな。現状はカロー自身で相手を探して義父を説得するか、逃げるしかないな」

「ううう」

 カローさんはオリーの言葉に眉間に皺を寄せると、涙目になった。

「学校は卒業したいんです。魔力操作もできるようになって、すごく楽しくて。あと少しなのに…」

 つまり逃げ出したくない。相手を探すにも学園では難しい。今のままでは自分ではどうしていいのかわからないということだろう。僕はカローさんの背中を撫でながら、何かいい案がないだろうかと考えた。するとなぜが頭にロイド兄さんの顔が浮かんできた。

「あ」

「ん?」

 僕は思いついたような顔になったことでオリーは不思議そうに見つめてきた。僕は確認のためにカローさんに条件の再確認をすることにした。

「えっと。お金なくていいんだよね?」

「…はい」

「贅沢はできないし、貧乏男爵家の後継でも問題ない?年齢は25歳で、魔力はほとんどない。魔力色は灰色に近くて、現時点で婚約者もいない。畑仕事ばっかりしてるから、肌は焼けてるけど逞しい体をしてるかな。顔は…まぁ悪くはないと思う。家族愛もすごいし、一度懐に入れたものは大事にしてくれることは保証できる。ちょっとガサツだけど、優しい。仕事ばかりで恋人も…そのお店の女性しか知らないような男性でも構わない?」

「………やけに具体的ですが、正直いってあのお見合い相手よりいいです!魔力色も私は淡い黒なので子供もできそうですね」

「おい、それって…」

 オリーは僕が誰について言っているのかわかったのか、少し驚いたような顔になった。

「領地経営の手伝いもして欲しいし、魔力電池の補充もできる?」

「教えてもらえれば、私でできることなら誠意いっぱいやります!」

 僕は咄嗟に思いついたことではあるが、なかなかの妙案ではないかと話しながら考えた。僕が拠点を移動した場合、施設維持を家族だけでしなければならない。でもそこにカローさんが嫁いできたら、僕が帰れない時期に外注する必要性が無くなる。カローさんが学校に通えるかは子爵家を説得した時に変わるだろうけど、お金がないような相手でもカローさんを押し付けられればいいと考えているなら、正直誰だっていいだろう。権力を使うのは良くないけど、最悪あの紫の頭に手を回して貰えば大人しくなるはずだ。アイザックさんに相談すれば学費について僕が関わることもできそうだし、オリーの作った魔道具のお金が毎月入ることで場合によっては僕が肩代わりしたっていい。カローさんの魔力量ならば、2人の子供の魔力量が多くなる可能性も高い。後世の領地繁栄の布石にもなりそうだ。

 なんだかんだでカローさんは可愛らしいし、いい子だ。そんな子がこれから先泣いて過ごす姿を見たくない。そんな気持ちだった。

「じゃあ、僕の兄さんを紹介するよ。まだ恋人もいないと思うからね。魔法はほとんど使えないから伝達魔法が使えないんだ。だから返事はすぐに来ないけど…」

「先生のお兄さん!?つまり結婚したら…先生に会う機会がある!?最高すぎます!」

「あははは」

 カローさんは興奮してきたのか泣くのをやめた。僕はウサギを出すと家族に向けて送ることにした。

[父さん。兄さんはまだ恋人も婚約者もいないよね?実は生徒で我が家の状況でも嫁いでもいいって言ってくれる女性が現れたんだ。もともと平民だったそうで、養子になった子爵家の判断で不本意な相手と婚姻されそうなんだってさ。正直とてもいい子だし、僕も可愛がってる生徒だから泣かせたくないんだ。兄さんが前向きに考えてくれるなら、候補としてどうかな?色々問題はあるんだけど、それは追々解決しようと思ってる。まずは兄さんがどう思うのかを確認してほしい。返事はなるべく早くください]

 僕は心の中で言葉を紡いで父さんの顔を思い浮かべた。するとウサギはパチクリと瞬きをするとぴょんっと飛び跳ねて窓から出て行った。

「まだ問題は山積みだけど、兄さんが乗り気かどうか確認してるからね。もし良い返事があれば、カローさんは子爵家とどうするか交渉することになるともう。家族になるなら、精一杯僕は手を貸すつもりでいる。カローさんはどうする?」

「…勇気を出して戦ってみます。自分が自分であるために。私はおもちゃじゃないから!」

「よし。じゃあ、連絡が来たらまたウサギを送るね。まずは第一歩だね」

「はい!ありがとうございます!先生に会いに来てよかった。本当によかった…」

 カローさんはニコニコと微笑みながらも、またポロポロと涙を流し始めた。僕はカローさんの背中を撫でて慰め、オリーは考え事をしているような顔になりながら僕たち2人の様子を眺めていた。

 カローさんはしばらく泣いていたが、落ち着いてから授業に戻っていった。

「カローがランベルツになるのか」

「まだわからないけどね。最悪、あの紫の悪魔に僕に嘘ついて抱いたという借りを返してもらおうと思ってるよ。使えるものは使わなきゃ」

「…なかなか、強かになったものだな」

「いや?」

「いいや。頼もしいよ」

 オリーはクスッと笑うと僕に優しく口付けてきた。



 この日の夜。速達で父さんから手紙が来た。

[アシェルへ。ロイドに話したら、すごい乗り気だったよ。お相手の姿絵も見てないのにな。母さんも嫁いでもいいって言ってくれる奇特な女性がいるならばととても喜んでるよ。一度その女性の姿絵など送ってもらえないだろうか?本当は都合がいい日に顔合わせもいいかもしれない。ただ、それは現在貴族であるならば家長の許可がないと難しいだろう。そのこと含めて私たちが協力できることがあれば力を貸す。また連絡をください]

 僕は手紙を読んでふふっと笑みがこぼれた。

「よーし、ならば動くだけだね。早速、悪魔に借りを返してもらおうかな」

 ニンマリを笑っている僕の姿をオリーは少しだけ体を震わせてから苦笑いをして見つめてきた。

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