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魔道具研究の日々
祭壇と花
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「うわー……おおきい……」
オリーに連れられて馬車に乗って連れられた場所はとても大きな建物だった。そしてとても澄み切ったような空気を醸し出していて、近くに行けば行くほど心にあるグルグルとした暗いものが表に出てきそうな感じ覚えた。
オリーは通いなれているのか、呆気に取られている僕の手を引いてどんどんと建物の中に入っていった。
角を沢山曲がって、階段も登って、長い廊下を歩いて一つの大きな木の扉に着いた。
「ここが母上が降臨した祈りの間だ」
「普通の木の扉…だね」
「そうだな。でも師匠達のありったけの力で守りの魔法をかけて、色々な古文書をひっくり返してあらゆる魔法をかけてあるらしい。下手したら王城よりも守りが固いかもな」
「僕は中に入れるのかな…」
「大丈夫だ。父上の事だから俺たちの話を聞いてすぐに手配してるはずだ。だが、扉を開けるのは父上がいないと俺でも入れない。すぐ父上も来るだろうから、少し待とう」
「うん」
コクリと頷いてから僕はボーッと立って木の扉を眺めた。
(ここが聖女マイカの始まりの場所か)
この扉の周りは壁も扉も他より少し古臭い。この場所だけ時間が止まっているようだった。
ここだけ取り残されている。それが少しだけ寂しい気もした。
「待たせたな」
聞き覚えがある声が聞こえて、どこかに飛ばしていた意識をハッと取り戻して声がした方に顔を向けると屋敷では着ていなかった神官の服を着たルイスさんがいた。
「いえ。俺たちもさっき来たところです」
「そうか。では早速中に入ろうか」
神官姿のルイスさんをぼーっとしながら眺めていた僕の手をオリーが強めに引っ張って手を引いて歩き始めた。僕は慌てて足を動かしてルイスさんに近寄ると、ルイスさんはクスっと笑ってから扉に片手をついてギィっと音を出して扉を開けた。
呪文なんて特に唱えていない。本当にただ扉を開けただけだった。ルイスさんは扉を開けるとスタスタと部屋の中に入っていった。オリーと僕はそれに続いて部屋の中に入った。
扉は不思議なことに、僕達が中に入るまで扉は閉まらず、全員が中に入ると勝手に扉が閉まった。まるで生きているような扉に僕がビクッと体を震わせるとオリーがクスッと笑ってから手をぎゅっと握ってくれた。
部屋の中は僕の寮の部屋より広いけど、1番奥にある祭壇がある以外はほとんど物がなかった。前は木の椅子があったような跡はあるけど、今は撤去されている。
あるのは祭壇と祭壇前の床に敷いてある絨毯だけだった。
ルイスさんは真っ直ぐ祭壇に向かうと収納からお皿を取りだして祭壇に供えた。オリーもそれに習って収納から石が入った小瓶を取り出すと、ルイスさんが置いたお皿の横にそっと供えた。
お皿の上は魚のほぐしみが小山のように盛ってあった。白猫が『焼き魚をほぐして』と言っていたけど、1匹であんなに沢山の魚を食べられるだろうかと思って白猫を思い浮かべると、嬉々とした顔で小山に顔を突っ込んでいる白猫が浮かんできた。
ルイスさんとオリーは2人並んで絨毯の上に膝立ちになった。僕は慌ててオリーの隣で両膝をついて膝立ちになった。
ルイスさんは僕がオリーの隣に来たことを確認してから祭壇に顔を向けて両手を組んで口元に当ててから目を瞑った。
オリーもそれに習って同じような体勢になったため、僕も真似して同じような体勢になった。
シーンっとした空間だった。僕たちの息遣い以外は聞こえてこない。
きっと心の中で祈るのだろうと理解した僕は早速白猫に向かって祈りを捧げることにした。
(代理の母親はオリーの片割れであるフロラさんが引き受けてくれました。あと、白い花をこの後で見に行きます。僕たちの研究で子供に恵まれない夫婦に希望を与えられると思うと、とても誇らしく思います。祭壇にオリーが聖女マイカの遺物を供えています。オリーもルイスさんも貴方に会いたいそうです。出来るならば僕以外にもその姿を見せてあげてほしいです。僕もまた貴方に会いたいです)
心の中で言葉を紡ぎ祈りを捧げてからゆっくり目を開けると、祭壇に供えてあった魚の皿や小瓶が目の前から消えていた。
「なくなってる……」
僕がポツリと呟くとオリーとルイスさんも目を開けて祭壇に目を向けた。ルイスさんはクスクスっと笑うとゆっくり立ち上がってた。
「夢で答えを教えてくれるということでしょうか。リチェ様は少しばかり気まぐれですからね。それがまた可愛らしいのですが…ふふ」
ルイスさんはまた丁寧な口調で優しく言葉を紡ぐと、優しい笑みを浮かべて立ち上がっている僕とオリーに目線を向けた。
「さて、花は屋敷の温室で育てている。私もこのまま屋敷に帰るから一緒に馬車に乗ろうか」
「はい」
口調が戻ったルイスさんの言葉に僕とオリーはコクコクと頷いた。ルイスさんは僕たちの様子を見て次にチラリと祭壇に目を向けてから、扉に向かって歩き始めた。オリーも僕も供えた物がなくなった祭壇を見つめてから、ルイスさん背中を追いかけて部屋から出て行った。
3人で馬車に揺られて屋敷に戻ると、ルイスさんは神官服から普段着に着替える前に温室へと案内してくれた。
「お前達2人ならいつでも利用してもいい。ただし、花を摘みすぎないようにな」
「わかってますよ」
ルイスさんが温室の扉の鍵を開けてから、その鍵をオリーに手渡すとゆっくり扉を開けた。オリーは返事を返してから鍵を収納にしまって、ルイスさんの背中を追いかけるように温室の中に入った。
僕は温室といっても僕の実家よりも大きな空間に呆気に取られながら、オリーとルイスさんに続いて温室の中に入った。
「わああああ!色とりどりの花だ!」
「マイカは花が好きでした。花言葉もよく知っていて、送られてきた花の意味を理解し、返事に意味を持たせた花を送ったりしていたのですよ。ここに咲いているのはマイカが好んでいた花ばかりです」
「そうなのですね。こんなに沢山の花を」
聖女マイカやリチェ様を語る時はやはり丁寧な口調になるルイスさんに相槌を打ちながら奥へと進んでいくと、他の花から離された花壇いっぱいに真っ白な花が咲いていた。
見た目は薔薇のようだ。白い薔薇はよくあるし、どこが珍しいのだろうと疑問に思いつつ花に近寄ると、風もないのに花がユラユラと揺れ始めた。
「おやおや。アシェル君を気に入ったのですか?君は浮気者ですね。私という恋人がいながら」
ルイスさんは揺れる花を愛おしそうに軽く撫でると、花はまたユラユラと揺れ始めた。
「花と会話ができるのですか?」
オリーがびっくりしてルイスさんに質問すると、ルイスさんはクスクスと笑って答えた。
「いいえ。ただなんとなく感じるだけですよ。魔花のようで意思があるのは確かです。しかし攻撃性はなくとても穏和で優しい。ただし警戒心は強いので気に入った人間の前以外では自分で花を揺らしません。ただの白薔薇を装います」
「なるほど…それが特徴ですか?」
「いいえ。もう一つ特徴があります」
ルイスさんは愛おしそうに揺れる花を撫でてから、別の花壇から紫色のリラの花を一輪摘んだ。そしてその花をそっと白薔薇に近づけると、ゆっくりと紫色が抜けて薄い紫になっていった。
「なっ!!」
「えっ…薄くなってる」
僕とオリーがびっくりして声を出すと、ルイスさんはふふっと笑ってから薄くなった花を白薔薇から離した。するとゆっくり紫の色が戻ってきて元の色合いに戻った。
「どうやら、この白薔薇は色を薄めるようです。薔薇から離せば元に戻るのも不思議ですが、完全に薄め白にするのではなく中間色にします」
「なるほど。確かに中和の手がかりになりそうだ…」
「花なら…身につけてる間だけ魔力色が中和とか香水とかでもいいなら女性も使いやすいかも。いや、まって…この花びらを魔石に閉じ込めたり……」
「花という媒体なら使い勝手もいい。しかしどこまで効果があるのか…」
「それはこの国にいる間に研究しなきゃ。これはすごい発見だよ。闇雲に試していた時よりも未来が見える。君たちすごいよ!」
オリーと僕は研究者に戻ってお互いに意見交換をしながら、僕は白薔薇達を褒めると薔薇は嬉しそうに微笑んでユラユラと揺れ始めた。
「なんだか嬉しそうに笑ってる気がする」
「そうか?俺は何もわからない」
「この花達の感情がわかるのは、私とアシェル君だけということですね。花の世話はアシェル君に任せてもいいですか?」
「は、はい!作物を育てるのは得意なので任せてください!!」
「ふふ。ではノルから鍵を受け取ってください。私は屋敷に戻ります。外に出る時は必ず鍵をかけてくださいね」
ルイスさんはオリーの頭をポンポンっと撫でてから、僕に優しい笑みを浮かべて温室から出て行った。オリーは自分1人が花と通じ合えない事に不満そうな顔をしながら収納から鍵を取り出すと僕に手渡してきた。
「俺は嫌われてるのか?」
ポツリと呟くオリーの言葉に白薔薇達は『違うよ』っと花を揺らし始めた。僕は鍵を収納にしまいながらクスッと笑った。
「違うってさ。多分僕は植物とかに触れ合う機会が多かったからじゃない?ルイスさんが1番好きで特別なんだとは思うけど」
白薔薇達は『そうだよ!』っとキャッキャッとはしゃぎながらユラユラと揺れ始めた。
「やっぱりそうだって。オリーが悪いわけじゃないと思うよ?僕と一緒に花を世話したらわかるようになるかもだし、元気出して」
「…そうか…」
それでもしょんぼりしているオリーの背中を撫でながら僕は温室の天井から差し込む光に向かって心の中で言葉を紡いだ。
(もしかして、この花は聖女マイカの愛の証なのかな。確か花言葉は〈貴方のことを想ってる〉だっけ…)
どちらにせよ、この薔薇達のおかげで僕たちの研究は随分と進みそうだった。
オリーに連れられて馬車に乗って連れられた場所はとても大きな建物だった。そしてとても澄み切ったような空気を醸し出していて、近くに行けば行くほど心にあるグルグルとした暗いものが表に出てきそうな感じ覚えた。
オリーは通いなれているのか、呆気に取られている僕の手を引いてどんどんと建物の中に入っていった。
角を沢山曲がって、階段も登って、長い廊下を歩いて一つの大きな木の扉に着いた。
「ここが母上が降臨した祈りの間だ」
「普通の木の扉…だね」
「そうだな。でも師匠達のありったけの力で守りの魔法をかけて、色々な古文書をひっくり返してあらゆる魔法をかけてあるらしい。下手したら王城よりも守りが固いかもな」
「僕は中に入れるのかな…」
「大丈夫だ。父上の事だから俺たちの話を聞いてすぐに手配してるはずだ。だが、扉を開けるのは父上がいないと俺でも入れない。すぐ父上も来るだろうから、少し待とう」
「うん」
コクリと頷いてから僕はボーッと立って木の扉を眺めた。
(ここが聖女マイカの始まりの場所か)
この扉の周りは壁も扉も他より少し古臭い。この場所だけ時間が止まっているようだった。
ここだけ取り残されている。それが少しだけ寂しい気もした。
「待たせたな」
聞き覚えがある声が聞こえて、どこかに飛ばしていた意識をハッと取り戻して声がした方に顔を向けると屋敷では着ていなかった神官の服を着たルイスさんがいた。
「いえ。俺たちもさっき来たところです」
「そうか。では早速中に入ろうか」
神官姿のルイスさんをぼーっとしながら眺めていた僕の手をオリーが強めに引っ張って手を引いて歩き始めた。僕は慌てて足を動かしてルイスさんに近寄ると、ルイスさんはクスっと笑ってから扉に片手をついてギィっと音を出して扉を開けた。
呪文なんて特に唱えていない。本当にただ扉を開けただけだった。ルイスさんは扉を開けるとスタスタと部屋の中に入っていった。オリーと僕はそれに続いて部屋の中に入った。
扉は不思議なことに、僕達が中に入るまで扉は閉まらず、全員が中に入ると勝手に扉が閉まった。まるで生きているような扉に僕がビクッと体を震わせるとオリーがクスッと笑ってから手をぎゅっと握ってくれた。
部屋の中は僕の寮の部屋より広いけど、1番奥にある祭壇がある以外はほとんど物がなかった。前は木の椅子があったような跡はあるけど、今は撤去されている。
あるのは祭壇と祭壇前の床に敷いてある絨毯だけだった。
ルイスさんは真っ直ぐ祭壇に向かうと収納からお皿を取りだして祭壇に供えた。オリーもそれに習って収納から石が入った小瓶を取り出すと、ルイスさんが置いたお皿の横にそっと供えた。
お皿の上は魚のほぐしみが小山のように盛ってあった。白猫が『焼き魚をほぐして』と言っていたけど、1匹であんなに沢山の魚を食べられるだろうかと思って白猫を思い浮かべると、嬉々とした顔で小山に顔を突っ込んでいる白猫が浮かんできた。
ルイスさんとオリーは2人並んで絨毯の上に膝立ちになった。僕は慌ててオリーの隣で両膝をついて膝立ちになった。
ルイスさんは僕がオリーの隣に来たことを確認してから祭壇に顔を向けて両手を組んで口元に当ててから目を瞑った。
オリーもそれに習って同じような体勢になったため、僕も真似して同じような体勢になった。
シーンっとした空間だった。僕たちの息遣い以外は聞こえてこない。
きっと心の中で祈るのだろうと理解した僕は早速白猫に向かって祈りを捧げることにした。
(代理の母親はオリーの片割れであるフロラさんが引き受けてくれました。あと、白い花をこの後で見に行きます。僕たちの研究で子供に恵まれない夫婦に希望を与えられると思うと、とても誇らしく思います。祭壇にオリーが聖女マイカの遺物を供えています。オリーもルイスさんも貴方に会いたいそうです。出来るならば僕以外にもその姿を見せてあげてほしいです。僕もまた貴方に会いたいです)
心の中で言葉を紡ぎ祈りを捧げてからゆっくり目を開けると、祭壇に供えてあった魚の皿や小瓶が目の前から消えていた。
「なくなってる……」
僕がポツリと呟くとオリーとルイスさんも目を開けて祭壇に目を向けた。ルイスさんはクスクスっと笑うとゆっくり立ち上がってた。
「夢で答えを教えてくれるということでしょうか。リチェ様は少しばかり気まぐれですからね。それがまた可愛らしいのですが…ふふ」
ルイスさんはまた丁寧な口調で優しく言葉を紡ぐと、優しい笑みを浮かべて立ち上がっている僕とオリーに目線を向けた。
「さて、花は屋敷の温室で育てている。私もこのまま屋敷に帰るから一緒に馬車に乗ろうか」
「はい」
口調が戻ったルイスさんの言葉に僕とオリーはコクコクと頷いた。ルイスさんは僕たちの様子を見て次にチラリと祭壇に目を向けてから、扉に向かって歩き始めた。オリーも僕も供えた物がなくなった祭壇を見つめてから、ルイスさん背中を追いかけて部屋から出て行った。
3人で馬車に揺られて屋敷に戻ると、ルイスさんは神官服から普段着に着替える前に温室へと案内してくれた。
「お前達2人ならいつでも利用してもいい。ただし、花を摘みすぎないようにな」
「わかってますよ」
ルイスさんが温室の扉の鍵を開けてから、その鍵をオリーに手渡すとゆっくり扉を開けた。オリーは返事を返してから鍵を収納にしまって、ルイスさんの背中を追いかけるように温室の中に入った。
僕は温室といっても僕の実家よりも大きな空間に呆気に取られながら、オリーとルイスさんに続いて温室の中に入った。
「わああああ!色とりどりの花だ!」
「マイカは花が好きでした。花言葉もよく知っていて、送られてきた花の意味を理解し、返事に意味を持たせた花を送ったりしていたのですよ。ここに咲いているのはマイカが好んでいた花ばかりです」
「そうなのですね。こんなに沢山の花を」
聖女マイカやリチェ様を語る時はやはり丁寧な口調になるルイスさんに相槌を打ちながら奥へと進んでいくと、他の花から離された花壇いっぱいに真っ白な花が咲いていた。
見た目は薔薇のようだ。白い薔薇はよくあるし、どこが珍しいのだろうと疑問に思いつつ花に近寄ると、風もないのに花がユラユラと揺れ始めた。
「おやおや。アシェル君を気に入ったのですか?君は浮気者ですね。私という恋人がいながら」
ルイスさんは揺れる花を愛おしそうに軽く撫でると、花はまたユラユラと揺れ始めた。
「花と会話ができるのですか?」
オリーがびっくりしてルイスさんに質問すると、ルイスさんはクスクスと笑って答えた。
「いいえ。ただなんとなく感じるだけですよ。魔花のようで意思があるのは確かです。しかし攻撃性はなくとても穏和で優しい。ただし警戒心は強いので気に入った人間の前以外では自分で花を揺らしません。ただの白薔薇を装います」
「なるほど…それが特徴ですか?」
「いいえ。もう一つ特徴があります」
ルイスさんは愛おしそうに揺れる花を撫でてから、別の花壇から紫色のリラの花を一輪摘んだ。そしてその花をそっと白薔薇に近づけると、ゆっくりと紫色が抜けて薄い紫になっていった。
「なっ!!」
「えっ…薄くなってる」
僕とオリーがびっくりして声を出すと、ルイスさんはふふっと笑ってから薄くなった花を白薔薇から離した。するとゆっくり紫の色が戻ってきて元の色合いに戻った。
「どうやら、この白薔薇は色を薄めるようです。薔薇から離せば元に戻るのも不思議ですが、完全に薄め白にするのではなく中間色にします」
「なるほど。確かに中和の手がかりになりそうだ…」
「花なら…身につけてる間だけ魔力色が中和とか香水とかでもいいなら女性も使いやすいかも。いや、まって…この花びらを魔石に閉じ込めたり……」
「花という媒体なら使い勝手もいい。しかしどこまで効果があるのか…」
「それはこの国にいる間に研究しなきゃ。これはすごい発見だよ。闇雲に試していた時よりも未来が見える。君たちすごいよ!」
オリーと僕は研究者に戻ってお互いに意見交換をしながら、僕は白薔薇達を褒めると薔薇は嬉しそうに微笑んでユラユラと揺れ始めた。
「なんだか嬉しそうに笑ってる気がする」
「そうか?俺は何もわからない」
「この花達の感情がわかるのは、私とアシェル君だけということですね。花の世話はアシェル君に任せてもいいですか?」
「は、はい!作物を育てるのは得意なので任せてください!!」
「ふふ。ではノルから鍵を受け取ってください。私は屋敷に戻ります。外に出る時は必ず鍵をかけてくださいね」
ルイスさんはオリーの頭をポンポンっと撫でてから、僕に優しい笑みを浮かべて温室から出て行った。オリーは自分1人が花と通じ合えない事に不満そうな顔をしながら収納から鍵を取り出すと僕に手渡してきた。
「俺は嫌われてるのか?」
ポツリと呟くオリーの言葉に白薔薇達は『違うよ』っと花を揺らし始めた。僕は鍵を収納にしまいながらクスッと笑った。
「違うってさ。多分僕は植物とかに触れ合う機会が多かったからじゃない?ルイスさんが1番好きで特別なんだとは思うけど」
白薔薇達は『そうだよ!』っとキャッキャッとはしゃぎながらユラユラと揺れ始めた。
「やっぱりそうだって。オリーが悪いわけじゃないと思うよ?僕と一緒に花を世話したらわかるようになるかもだし、元気出して」
「…そうか…」
それでもしょんぼりしているオリーの背中を撫でながら僕は温室の天井から差し込む光に向かって心の中で言葉を紡いだ。
(もしかして、この花は聖女マイカの愛の証なのかな。確か花言葉は〈貴方のことを想ってる〉だっけ…)
どちらにせよ、この薔薇達のおかげで僕たちの研究は随分と進みそうだった。
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