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魔道具研究の日々

紹介します、僕の愛する人です

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 僕とオリーは国境施設の転移陣から出ると、辻馬車に乗ってランベルツ領に向かった。

 行きは1人でウキウキしながら乗った辻馬車に、今日は愛する人と時折口付けあったりしながら乗っていた。それにお尻が痛いとか背中が痛いとか感じる前にオリーが魔法で癒してくれるため、痛みなんてほぼ感じなかった。

(皆、オリーの顔を見たらどんな顔になるのかな)

 僕は流れていく風景を眺めながら家族の驚いた様な顔を想像してふふっと笑みが溢れた。


「お客さん、着きましたよ」

「ああ。ありがとう」

 馬車が止まって、御者から声がかかるとオリーは1番初めに出ていった。恋人になってからは僕が降りる時に手を貸してくれる様になった。大切にされている感じがしていつもむず痒く思いながら、オリーの手にそっと手を乗せてお互いに微笑み合いながら僕は馬車から降りた。

「あ、皆。ただいま」

 出迎えてくれていた家族を見つけて僕は笑顔で手を振った。オリーは御者にお金を渡してから僕の手を引いて家族の場所までエスコートしてくれた。

 僕達が並んで歩く姿を見た家族達の顔は4人とも違う表情だった。

 父さんは僕達の後ろに他に誰かいるのかもと首を長くしたり、去っていく辻馬車を遠い目で眺めている。

 母さんは少しだけ嬉しそうに笑いながら、隣で戸惑っている父さんのお腹に肘打ちをしている。

 ロイド兄さんは眉間に皺を寄せてオリーの頭から爪先までジロジロと眺めている。

 エミリーはオリーの顔を見て頬を赤く染め、次に僕に目線を向けて少しだけ興奮した様な顔になっている。

 僕はその様子が馬車の中で想像した通りでクスクス笑いながら家族の前に近寄った。父さんは母さんに横腹を突かれて、ハッとなった顔になると僕達に話しかけてきた。

「お、おかえり。アシェル」

「ただいま」

 父さんへ返事を返すと、父さんはそれ以上話さなくなった。母さんは笑顔でまた父さんの脇腹に肘打ちすると、父さんは「オホン」っと咳をしてから声をかけてきた。

「た、た、立ち話もなんだ。その、な。とにかく中にお入り」

「うん」

 僕はオリーに目線を向けると、オリーは優しい瞳で僕を見つめて微笑んだ。そしてお互いに頷き合ってから狭い家の中に入っている家族の後ろについて家に入った。

 以前よりも少しだけ家の中の家具が綺麗になっていた。木の円形テーブルや椅子は新しくなったし、欠けていた陶器の食器類も買い替えられていた。僕が送ったお金がちゃんと使ってもらえてるのを見て僕の心の中は達成感でいっぱいになった。

 皆んなの服も以前よりも生地が良くなっている。今日の為に新しいものを買ったのかもしれないが、それでも平民と変わらない服装だし、贅沢をしている様子はなかった。

「さあ!アーちゃん!座って座って。この前送ってくれたお茶っ葉に合わせてティーセットも買ったのよ。うふふ。あ、お菓子も買ったのよ!ああ、そっちじゃなくてこっちね。お客様が入り口の近くに座るだなんてダメよ!」

 母さんはルンルンと楽しそうな声を出して僕とオリーを歓迎してくれ、いつもの場所に座ろうとしたら父さんの近くに座るようの指示された。

 入り口の奥から父さん、父さんの左隣がオリー、オリーの左に僕。僕の左隣にエミリー。父さんの右隣が母さん、母さんの右隣にロイド兄さんが座った。

 母さんはテキパキと手を動かしてお茶を綺麗なカップに注ぐとテーブルの上に並べていった。真ん中には丸い籠にクッキーやパウンドケーキなど、誕生日でもなかなか食べられないお菓子が入っていた。今日の為にかなり奮発した様子だった。

「ん、んん。あ、アシェル。その…紹介を…」

 母さんがテーブルにカップなどを並べ終わって着席すると、隣に座るオリーをチラチラ見ながら父さんは僕に声をかけてきた。僕はクスクス笑いながらみんなにオリーを紹介する事にした。

「じゃあ、紹介するね。この僕より背が高くてとても美形の男性が恋人のオリバー・シャルムさんだよ。フィレント王国出身で伯爵家の生まれなんだって。今は僕と同じ職場で働いてるんだ。オリー。こっちが僕の父さん、その隣が母さん、母さんの隣がロイド兄さんで、僕の隣にいるのが妹のエミリーだよ」

 僕は双方にわかるように紹介するとオリーはニッコリ微笑んで僕達家族一人一人を見つめてから口を開いた。

「皆様初めまして。オリバー・シャルムと申します。末長くよろしくお願いいたします」

 優しい抑揚で話してゆっくり頭を下げる姿はどこか白鳩から聞こえてきた男性の声に似ていた。

(やっぱり親子だから同じような話し方すると、似てるんだ)

 僕がウットリしながらオリーを見つめていると、ロイド兄さんが「んんん」っと咳払いをしてから僕達に声をかけてきた。

「父さんが放心してるから、俺から聞くけど…末長くとは?」

 僕はポカーンっとした顔の父さんを眺めてから、まだ眉間に皺を寄せているロイド兄さんに笑みを浮かべて返答した。

「そのまんまの意味だよ。僕達は同性でどの国でも結婚はできないけど、お墓に入るまで一緒にいてお墓にも一緒に入ろうねって誓い合ってるんだ。だから、末長くで間違い無いよ」

「………ステキ………」

 エミリーは僕の言葉を聞きながら、僕を優しく見つめるオリーを眺めて頬を赤らめていた。僕はスッと目を細めてエミリーを見つめると少しだけ低い声で話しかけた。

「エミリー、やめて、そんな顔でオリーを見つめるの」

「だって、こんなにステキな人…会ったことないのだもの!」

「それでもやめて。オリーは僕のだから。妹でも手を出そうとしたら許さないからね」

 僕はオリーの左腕に腕を絡めて抱きつくと、エミリーにさらに低い声で話しかけた。その様子を見ていた母さんはクスクス笑いながら僕に話しかけて来た。

「大丈夫よ。エミリーったら女学校で勤めてる先生にゾッコンなんだからぁ」

「キャー!言わないでよ!」

「その先生、まだ独身でね。正室は無理でも側室に…なーんて思ってるのよ」

「キャー!やだぁぁあ!秘密って言ったのに!!」

 エミリーは恥ずかしそうに頬を赤らめると顔を両手で隠してしまった。僕はその様子からやっと体の力を抜いてエミリーに優しく声をかけた。

「そっか。エミリーも女学校で楽しんで生活してるんだね。よかった」

「うん。兄さんのおかげでね!本当にありがとう!」

「ふふ。僕が仕送りをたくさんできる様になったのもオリーのおかげなんだよ」

 僕の言葉に家族は目を見開いた。父は少しだけ申し訳なさそうな顔になっていたため、僕はどんなふうにお金を稼いでいるのかを家族に伝えることにした。

 オリーの作った魔道具がアイミヤ公国でかなり売れていること。その制作に僕も携わったことで売り上げのうちの幾らかを毎月渡してもらえていること。

 それを話すとやっと父さんはホッとした顔になった。そして少し真剣な顔になるとオリーに深々と頭を下げた。

「ありがとう。そして、末長くよろしく頼むよ」

「ええ。こちらこそ。ああ、お義父さん頭を上げてください」

「いやいや、そんなわけには…」

「私もアシェルさんと同じ様に家族として扱って下さい。そして、必ず幸せにします。ずっとずっと」

「…ぅうう、ああ、頼むよ。アシェルはこの髪の毛の色で…差別されることも多くて…うっ…うう」

 父さんは何か肩の荷が降りたのか急に涙ぐみ始めた。母さんは頭を下げたまま泣いている父さんの背中を優しく撫でながら僕達に微笑んだ。

「幸せになってね」

「うん…」

 僕は父さんの涙にもらい泣きをすると、瞼に涙を溜めながらみんなに微笑みかけた。ロイド兄さんは父さんの様子を見てやっと力を抜いたのか眉間の皺を無くして僕達を優しく見つめた。エミリーはまだはずかしいのか顔を隠したまま、指の隙間から他の人を様子を伺っておるようだった。


 その後は皆んなでワイワイ騒いで夕食を食べた。母さんは奮発してお肉を出してくれた。特製の野菜スープはとても美味しかった。僕達はアイミヤ公国で食べられている魚介料理を収納に入れて持って帰っていたため、テーブルの上は母さんの料理と僕達が持って来た料理でいっぱいになった。

 父さんと兄さんとオリーは、オリーが持って来た秘蔵のお酒を飲んで意気投合したようだった。初めは遠慮気味に飲んでいた2人はオリーにすすめられるがままお酒を飲んで、ほろ酔い気分になると3人でガバガバとお酒を飲んで楽しんでいた。

 僕と母さんとエミリーはテーブルの上を片付けながら宴会を始めた男達に呆れた目線を向け、食後のお茶を楽しんだ。そして2人は僕達の馴れ初めやどこまで進んでいるのかなど聞いてきた。

 隠すこともないが、面倒な部分は省いて2人に簡潔に話をした。僕達が体の関係があると知った時は女性2人はキャーキャー言って楽しんでいる様子だった。逆にエミリーの好きな人の話を聞くと、エミリーは頬を赤らめてモジモジしながら話をしてくれた。その姿がとても可愛らしかった。

 宴会が終わる頃には父さんと兄さんは酔い潰れてテーブルに突っ伏して寝ていた。僕とオリーは2人がかりで酔っ払いを部屋に運ぶと、2人に洗浄魔法をかけた。次に母さんとエミリーに洗浄魔法をかけると、僕たちはおやすみの挨拶をして僕の部屋に入った。

「狭くてごめんね。2人で寝られるかな…ベッド壊れるかも」

「大丈夫だろ。まあ、運動したら壊れるかもだがな」

「やだよ!防音かけてても実家ではしないからね!」

「それは残念」

 部屋に入るとオリーはいつもの口調に戻って僕を後ろから抱きしめてきた。僕は背中に感じる温もりに癒されながら声をかけると、オリーを引きずってベッドに潜り込んだ。

 2人で寝るととても狭い。でも必然的にぴったりくっつく感じがなんとなく居心地が良かった。

「おやすみ、オリー」

「おやすみ、アーシェ」

 啄むような口付けを交わしてから僕達は抱きしめあって眠りについた。
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