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魔道具研究の日々
うーん、うーん、は!
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僕は一日中唸っていたが、何も思い出せなかった。オリーはずっとがっかりしてるし、僕も思い出せなくてがっかりになりながら2人で手を繋いでトボトボとウサギの絵の表札の部屋へと戻った。
ガチャっと扉を開けるとイーサンが部屋でお茶を作って待っていてくれた。
「おかえりなさいませ。お食事前まだ少し時間がありますから、いつものようにお茶のご用意をしておりました……。お二人ともとても暗いですね」
「はぁぁぁ」
「はぁぁぁ、ただいま…イーサン」
がっかり顔の僕達はトボトボとソファーに向かって歩いて2人一緒に座ると同時にため息を吐いていた。イーサンはお茶をテーブルに並べながら心配そうな顔でこちらを見てきた。
「何かございましたか?」
「んっ、まぁ…そのね…うん」
「…俺がいい時に呼んだのが悪いんだ…」
「いや、それはもう仕方がないよ。僕が思い出せるように頑張るから」
「「はぁぁぁぁ」」
帰り道も繰り返し会話していた内容をふたたびイーサンの前で話して僕達はまたため息をついた。
「私にできることならお力になりますよ?」
イーサンはお茶菓子をいつもより多めにテーブルに置くと優しい声で僕達に話しかけた。
「夢を思い出す方法ってあるかな…」
「夢を…ですか?」
「忘れてることを思い出したいんだけど…」
「なるほど…思い出すですか…」
イーサンは立ったまま顎に手を当てて何かを考え始めた。僕はホカホカと湯気を立てているカップを手に取ってゆっくりお茶飲んだ。オリーは俯いてまだがっかりモードのままだった。
「忘れていることを思い出すときは、初めは何をしていたのかを思い出しながら辿るのが良いと聞いたことがあります」
「初め?」
「ええ。夢であればどんな始まりだったかを思い出したり、物忘れであればそれを手に持っていた時や覚えていた時点に戻って何をしていたのかを記憶を辿って同じことをするそうです」
「…辿る…」
僕はぼんやりと記憶の奥を探ってみた。
(確か…初めはオリーが僕を見つけたことを白猫は喜んだたんだっけ…)
初めを思い出すと途切れ途切れに白猫と交わした会話を思い出し始めた。オリーの唯一になったけど、女の方が良かったのかもと嘆く僕を白猫は〈男だから良い〉と言ってくれた。
それからえっと…えっと…僕達の子供について話して……んっんん。ん?子供?
『貴方達2人の子供は、マイカさんが残したいしを使ってください。でもその前にルイスに聖女が顕現した祈りの間に案内してもらってくださいね。祭壇に石を供えてくれれば私がちょっと力を加えてあげます。でも、アシェルでは子は産めません。代理で産んでくれる女性を探す必要があります。できれば2人の血縁がいいですね。その方が魔力色の影響が少ないので。いいですか?まずはルイスに祈りの間はどこかを聞いて、そこに石を供える。そして代理の母を探す。やり方は供えてくれてから教えますね』
「…っ!!!」
僕は思い出したい事ではないが、また一つ大事なことを思い出したことに気がついた。すぐにでもオリーに伝えたいけど、僕が知りたいのはもっと先のことだ。
ドキドキと高鳴る心臓を抑えるように胸元を手で押さえて、僕は続きを思い出そうと記憶をそのまま繋げていった。
『魔道具ですが、そもそも生殖を石の中でする事自体無理なのです。マイカさんの魔力色と体液、真っ黒の体液と魔力色を私の力で融合させて子供を作っていたので。だからもし子種を吸収して魔力色を備えた石ができ、石を胎に入れてもただの異物混入です。その代わり、私の世界で今後使えるように許可を取った方法があります!2人にはそれを生み出す第一人者になってもらいたいのです』
『それはですね、濃い魔力色を中和させる方法です。魔力色が濃い人物に薄い魔力色を与えて魔力色を混ぜ合わせる。すると黒色が薄くなって子供ができやすくなるはずです。これなら、真っ黒でも白に近いの魔力色と混ぜて薄めれば真っ白がいなくても子供ができます』
『やり方はなんでもいいです。中和させるためにはどうするべきかを2人で考えてみてください。私は液体に魔力色を移した物を飲ませたりしてもいいのかな?と思いましたが、魔道具として使うならその魔道具をつけている間は自分の魔力色より濃度が薄くなるとか…まあ…そこはお任せしますね』
僕はガタッと立ち上がって落ち込んでいるオリーの肩をガシッと掴んだ。
「オリー!!!わかったよ!!!」
「え?」
「中和だって!」
「ちゅうわ?」
「濃い色を薄くする道具を作ればいいって!!」
「…薄くする…」
「そうしたら真っ黒は真っ白がいなくても子供ができるって!!!」
「……っ!」
オリーは目を見開いて僕を見つめるとパァァッっと目を輝かせ始めた。
「そうか…なるほど…中和…中和か!」
「そう、中和だよ!」
「ああ、アーシェ」
オリーは僕に抱きついて嬉しそうな声を出した。僕はオリーを抱きしめ返して同じように嬉しそうな声を出した。イーサンは僕達の様子を見て少し安心したような顔になるとそっと部屋から出て行った。
「やり方は何か言っていたか?」
「それは任せるって。液体にしてもいいし、魔道具を身につけてる間中和させるでもいいって。とにかくそれを研究して第一人者になってくれって白猫は言ってたんだ」
「そうか…なるほど…そうなんだな」
2人で喜びを分かち合いながら抱きしめ合うと僕はそっと体を離してオリーの隣に座り直した。そしてもう一つ思い出したことをオリーに伝えることにした。
「白猫はもう一つ僕達にとって大事なことを言ってたんだ」
「もう一つ?」
「そう。僕達に子供をくれるって。それにはルイスさんに聖女が顕現した祈りの間に案内してもらって本家をお供えしてって言ってた。やり方はその時に教えるって。でもね、僕では子供が産めないから代理で産んでくれる女性がいるんだって。出来れば血の繋がりがある方がいいって」
「…………本当に…子ができる…と?」
「うん。僕に2人の子供が欲しいか?って白猫は言ったんだ。僕は欲しいけど女じゃないからって話してたら…そう教えてくれたんだ」
「…ああ…母上…母上が残してくれた石で愛する人と子供が……」
「うん。聖女マイカの偉業がまた増えたね。オリー達を石を使わずに愛し合って産んだことで残ってしまった石で僕達の子供ができるんだ。聖女がこの世界に来て…よかった…ね」
「ああ。ああ…本当に…感謝しかない」
僕たちはお互いに見つめ合いながら微笑み合った。お互いの目には涙が溜まっていた。僕たちはお互いに抱きしめあって2人で今感じた感動を分かち合った。
(神様。ありがとうございます。感謝します)
僕は今まで嘆きしか伝えてこなかった神に対して感謝の気持ちを捧げた。
ガチャっと扉を開けるとイーサンが部屋でお茶を作って待っていてくれた。
「おかえりなさいませ。お食事前まだ少し時間がありますから、いつものようにお茶のご用意をしておりました……。お二人ともとても暗いですね」
「はぁぁぁ」
「はぁぁぁ、ただいま…イーサン」
がっかり顔の僕達はトボトボとソファーに向かって歩いて2人一緒に座ると同時にため息を吐いていた。イーサンはお茶をテーブルに並べながら心配そうな顔でこちらを見てきた。
「何かございましたか?」
「んっ、まぁ…そのね…うん」
「…俺がいい時に呼んだのが悪いんだ…」
「いや、それはもう仕方がないよ。僕が思い出せるように頑張るから」
「「はぁぁぁぁ」」
帰り道も繰り返し会話していた内容をふたたびイーサンの前で話して僕達はまたため息をついた。
「私にできることならお力になりますよ?」
イーサンはお茶菓子をいつもより多めにテーブルに置くと優しい声で僕達に話しかけた。
「夢を思い出す方法ってあるかな…」
「夢を…ですか?」
「忘れてることを思い出したいんだけど…」
「なるほど…思い出すですか…」
イーサンは立ったまま顎に手を当てて何かを考え始めた。僕はホカホカと湯気を立てているカップを手に取ってゆっくりお茶飲んだ。オリーは俯いてまだがっかりモードのままだった。
「忘れていることを思い出すときは、初めは何をしていたのかを思い出しながら辿るのが良いと聞いたことがあります」
「初め?」
「ええ。夢であればどんな始まりだったかを思い出したり、物忘れであればそれを手に持っていた時や覚えていた時点に戻って何をしていたのかを記憶を辿って同じことをするそうです」
「…辿る…」
僕はぼんやりと記憶の奥を探ってみた。
(確か…初めはオリーが僕を見つけたことを白猫は喜んだたんだっけ…)
初めを思い出すと途切れ途切れに白猫と交わした会話を思い出し始めた。オリーの唯一になったけど、女の方が良かったのかもと嘆く僕を白猫は〈男だから良い〉と言ってくれた。
それからえっと…えっと…僕達の子供について話して……んっんん。ん?子供?
『貴方達2人の子供は、マイカさんが残したいしを使ってください。でもその前にルイスに聖女が顕現した祈りの間に案内してもらってくださいね。祭壇に石を供えてくれれば私がちょっと力を加えてあげます。でも、アシェルでは子は産めません。代理で産んでくれる女性を探す必要があります。できれば2人の血縁がいいですね。その方が魔力色の影響が少ないので。いいですか?まずはルイスに祈りの間はどこかを聞いて、そこに石を供える。そして代理の母を探す。やり方は供えてくれてから教えますね』
「…っ!!!」
僕は思い出したい事ではないが、また一つ大事なことを思い出したことに気がついた。すぐにでもオリーに伝えたいけど、僕が知りたいのはもっと先のことだ。
ドキドキと高鳴る心臓を抑えるように胸元を手で押さえて、僕は続きを思い出そうと記憶をそのまま繋げていった。
『魔道具ですが、そもそも生殖を石の中でする事自体無理なのです。マイカさんの魔力色と体液、真っ黒の体液と魔力色を私の力で融合させて子供を作っていたので。だからもし子種を吸収して魔力色を備えた石ができ、石を胎に入れてもただの異物混入です。その代わり、私の世界で今後使えるように許可を取った方法があります!2人にはそれを生み出す第一人者になってもらいたいのです』
『それはですね、濃い魔力色を中和させる方法です。魔力色が濃い人物に薄い魔力色を与えて魔力色を混ぜ合わせる。すると黒色が薄くなって子供ができやすくなるはずです。これなら、真っ黒でも白に近いの魔力色と混ぜて薄めれば真っ白がいなくても子供ができます』
『やり方はなんでもいいです。中和させるためにはどうするべきかを2人で考えてみてください。私は液体に魔力色を移した物を飲ませたりしてもいいのかな?と思いましたが、魔道具として使うならその魔道具をつけている間は自分の魔力色より濃度が薄くなるとか…まあ…そこはお任せしますね』
僕はガタッと立ち上がって落ち込んでいるオリーの肩をガシッと掴んだ。
「オリー!!!わかったよ!!!」
「え?」
「中和だって!」
「ちゅうわ?」
「濃い色を薄くする道具を作ればいいって!!」
「…薄くする…」
「そうしたら真っ黒は真っ白がいなくても子供ができるって!!!」
「……っ!」
オリーは目を見開いて僕を見つめるとパァァッっと目を輝かせ始めた。
「そうか…なるほど…中和…中和か!」
「そう、中和だよ!」
「ああ、アーシェ」
オリーは僕に抱きついて嬉しそうな声を出した。僕はオリーを抱きしめ返して同じように嬉しそうな声を出した。イーサンは僕達の様子を見て少し安心したような顔になるとそっと部屋から出て行った。
「やり方は何か言っていたか?」
「それは任せるって。液体にしてもいいし、魔道具を身につけてる間中和させるでもいいって。とにかくそれを研究して第一人者になってくれって白猫は言ってたんだ」
「そうか…なるほど…そうなんだな」
2人で喜びを分かち合いながら抱きしめ合うと僕はそっと体を離してオリーの隣に座り直した。そしてもう一つ思い出したことをオリーに伝えることにした。
「白猫はもう一つ僕達にとって大事なことを言ってたんだ」
「もう一つ?」
「そう。僕達に子供をくれるって。それにはルイスさんに聖女が顕現した祈りの間に案内してもらって本家をお供えしてって言ってた。やり方はその時に教えるって。でもね、僕では子供が産めないから代理で産んでくれる女性がいるんだって。出来れば血の繋がりがある方がいいって」
「…………本当に…子ができる…と?」
「うん。僕に2人の子供が欲しいか?って白猫は言ったんだ。僕は欲しいけど女じゃないからって話してたら…そう教えてくれたんだ」
「…ああ…母上…母上が残してくれた石で愛する人と子供が……」
「うん。聖女マイカの偉業がまた増えたね。オリー達を石を使わずに愛し合って産んだことで残ってしまった石で僕達の子供ができるんだ。聖女がこの世界に来て…よかった…ね」
「ああ。ああ…本当に…感謝しかない」
僕たちはお互いに見つめ合いながら微笑み合った。お互いの目には涙が溜まっていた。僕たちはお互いに抱きしめあって2人で今感じた感動を分かち合った。
(神様。ありがとうございます。感謝します)
僕は今まで嘆きしか伝えてこなかった神に対して感謝の気持ちを捧げた。
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