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始まった新生活
お買い物
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ガタガタと馬車に揺らされながら、外の風景を楽しんだ。学園は都に近い場所にあったようだ。大きな通りに出ると、沢山の人が行き交っていた。
馬車が止まって、2人で降りた。馬車の代金はオリバーさんが払っていた。チラッとみたが銅貨1枚のようだ。それぐらいの金額なら、給金が出れば僕1人でもここに来られそうだった。
「迷子になるからな。手繋ぐぞ」
「え…いや、そんな子供みたいな扱いやめて…オリバーさん!!!」
オリバーさんの言葉に戸惑っている僕のことは無視して、オリバーさんは僕の右腕を左手で掴むとズンズンと人の波をかき分けて歩き始めた。
「あっちが食品売り場、こっちが日品売り場、あっちが屋台が多い場所で、そっちが魔道具の店が並ぶ場所だ」
市場は真ん中の大きな噴水がある広場を十字に区切ってお店があるようだ。噴水広場の右上が食品。右下が日用品、左上が屋台、左下が魔導具のようだ。なかなかわかりやすい構造だ。噴水の上には四角い魔道具が浮いていた。あれがきっと時刻だろう。目線を合わせると薄い青の5だった。
「行くぞー」
オリバーさんは僕の手を引いてまたズンズン歩き始めた。魔道具通りは道を挟んだ左右に沢山の店があった。キョロキョロとあたりを見渡しながら歩いていると、一件の店の前にオリバーさんが止まった。
「ここの魔道具は質がいい」
オリバーさんと2人で店の中に入ると、店主の男性がオリバーさんに声をかけてきた。
「おや、シャルムさん。いらっしゃい。また研究でできた副産物を押し付けにきたんですか?」
「ちげーよ。連れの避妊の魔道具を買いに来た」
「ああ、なるほど。こちらですよ」
店主は僕をみてニコッと微笑むと店の中を案内してくれた。色々置いてある魔道具は見たことがないものが沢山あった。
「ここの棚のが全てそうですよ」
店主が指し示した棚には色々な種類の装飾品が並んでいた。でも、まずは値段だ。機能が同じなら一番安いのでいい。僕はオリバーさんに手を掴まれたまま店主を見つめて声をかけた。
「一番安いのはどれですか?」
「そうですね…この石が小さな耳飾りか指輪ですね」
店主が指さしたのは一番端っこにあるモノだった。オリバーさんに手を離してもらいたくて、掴まれている右腕をブンブン振るがニヤニヤ笑って離してくれない。仕方がないので、オリバーさんはくっつけたまま品物の前にたった。
「おいくらですか?」
「どちらも銅貨2枚ですよ」
「安いものと高いもので性質や機能は変わりますか?」
「基本的には変わりませんが、安いものは壊れやすいですね…」
魔道具も道具だ。使いすぎると壊れる。半永久的に使えるものも整備が必要なものが多い。僕は耳飾りを手に取った。
耳たぶに挟むものではなく、耳たぶに穴を開けるもののようだ。僕は耳に穴なんてないし…却下だった。
次に銀色の指輪を手に取った。指輪の幅は細くて、女性が好んでつけそうな形状だった。どちらも僕の好みではなかった。指輪を棚に戻すと、店主が声をかけてきた。
「次に金額が安いのは、こちらの三種類です。銅貨3枚ですね」
店主が指し示した棚にオリバーさんをくっつけたまま移動して、品物の見つめた。耳飾りと首飾りと指輪だった。
首飾りは細い鎖に丸い石がついていた。鎖の長さはそこまで長くない。僕がつけたら、鎖骨の間ぐらいに石が見えるだろう。邪魔にならない気がして良さそうに感じた。すると横からオリバーさんが話しかけてきた。
「首飾りは細い鎖はちぎれることがあるから、やめたほうがいい。アイザックのおっさんのやつぐらい太いのやつなら別だけどな」
これにしようとしていた僕の思考を読んだような助言にムッとなりながら、耳飾りを見つめた。
さっきと違って、耳に挟むもののようだ。涙型の石がついていた。これもいいかもしれないっと思っているとまたオリバーさんが声をかけてきた。
「耳飾りは穴に差し込んで使う方がいいぞ。落とすことがあるからな」
僕はまたムッとしながら、次の候補の指輪を見つめた。
さっきの指輪よりも幅は太かった。でも付いている石の大きさが指輪に比べて大きくて不恰好だった。これは見た目で却下だった。
ハァっとため息をつくと、店主が声をかけてきた。
「お気に召しませんでしたか?では…こちらが次に安いものです。銅貨5枚です」
店主が指し示してきたのは耳飾りと腕輪、指輪だった。またオリバーさんをくっつけて品物の前に移動して見つめた。
耳飾りは穴を開けて使うものだった。石は多角にカットさた円形だった。石の形がとてもおしゃれだった。
腕輪はオリバーさんがつけているのとよく似ていた。銀色の腕輪でオリバーさんのよりは幅が広い。石は外に3つほど付いていた。
指輪は先程却下した指輪の石よりも小さめの石がついていた。しかし指輪の幅が広かった。手に取って右手の中指にはめてみるが、僕の手には似合わなかった。そっと外して棚に戻すと、僕はまたため息が出た。
「この耳飾りはとても素敵ですが、僕、耳に穴がないので…」
「そうですか。そうなりますと、次が銅貨8枚ですね」
店主が指し示した棚には4種類の装飾品があった。買えないけれどもチラッと目線を向けると、オリバーさんに引っ張られて品物の前に立たされた。
「かえ…」
「いいから、見るだけ見ろ」
ハァっとため息をついて、耳飾りを見た。これも穴を開けて使うものだった。却下だ。
次に腕輪を見た。正直腕輪は外すことを前提にしている気がする。僕はその場面で付けないとという意識が回るか怪しい。却下だ。
首飾りは初めに見たものよりも鎖は太そうだったが、ついている石の大きさが好みではなかったので却下だった。
最後に指輪に目線を向けた。今までツルツルした表面の銀色輪っかに石がついているだけのものが多かったが、これは細工が施されていた。銀細工だろうか。手に取って細工を見るととても綺麗だった。指輪は花の絵が彫られている。花びらもあるため、まるで木々に咲いた花が風に揺らされて、花弁を散らしているようにも見えた。そして石は花の真ん中にはまっていていた。花は3つ彫られているから、石も合計で3つついていた。指輪の幅も程よくて、石の大きさも小さすぎない。でも…女性むけだろう。
「へー。最近は細工も綺麗になってきたんだな」
「はい。昨日入荷したものですよ」
オリバーさんは僕を掴んでいた手を離して、僕が考え込みながら眺めている指輪を手に取って、勝手に僕の左小指にはめ込んできた。
「ちょ!何するんですか!」
「お似合いですよ」
店主はニコニコ微笑んで僕に話しかけてきた。僕はチラッと左手に目線を向けて指輪を見た。女性が好みそうな形状だった指輪は、なぜか僕の指にしっくりとはまっていた。嵌め込むと指の大きさに合わせて形状を変えるようだ。緩みもキツさもなくて、違和感がなかった。
「登録すれば石が目立って見えると思いますよ」
「似合う似合う。じゃ、銅貨8枚な」
オリバーさんは収納から財布を取り出し勝手に店主の手の上に銅貨を8枚渡していた。僕がびっくりしてオリバーさんの左腕を右手で掴むと、オリバーさんは僕を上から見下ろしてニヤッと笑った。
「前払いな」
今まで見てきたものの中で一番気になったものなのはこの指輪だった。立て替えてくれるというなら、助手の仕事を頑張ればいいだけだ。僕は掴んだ手を離して、コクンっと頷いた。
「…はい…」
「お買い上げありがとうございます。登録方法はご存知ですか?」
「俺が教える。じゃ、またな」
知りませんって答える前に、オリバーさんが店主に話しかけて別れの挨拶を勝手にした。そして僕の右手を左手でギュッと握って手を繋ぐと、引っ張るように店の出入り口に向かって歩き出した。僕は慌てて店主に軽く頭を下げると、なんだか微笑ましげな顔で見つめられた。
バタンっと扉が閉まって、店の外に出るとオリバーさんは噴水広場に向かって歩き始めた。大きな手のひらで僕の手はすっぽりと覆われていた。空が暗くなってきて、肌寒い風が吹いているからか、握られた手がとても温かく感じた。
馬車が止まって、2人で降りた。馬車の代金はオリバーさんが払っていた。チラッとみたが銅貨1枚のようだ。それぐらいの金額なら、給金が出れば僕1人でもここに来られそうだった。
「迷子になるからな。手繋ぐぞ」
「え…いや、そんな子供みたいな扱いやめて…オリバーさん!!!」
オリバーさんの言葉に戸惑っている僕のことは無視して、オリバーさんは僕の右腕を左手で掴むとズンズンと人の波をかき分けて歩き始めた。
「あっちが食品売り場、こっちが日品売り場、あっちが屋台が多い場所で、そっちが魔道具の店が並ぶ場所だ」
市場は真ん中の大きな噴水がある広場を十字に区切ってお店があるようだ。噴水広場の右上が食品。右下が日用品、左上が屋台、左下が魔導具のようだ。なかなかわかりやすい構造だ。噴水の上には四角い魔道具が浮いていた。あれがきっと時刻だろう。目線を合わせると薄い青の5だった。
「行くぞー」
オリバーさんは僕の手を引いてまたズンズン歩き始めた。魔道具通りは道を挟んだ左右に沢山の店があった。キョロキョロとあたりを見渡しながら歩いていると、一件の店の前にオリバーさんが止まった。
「ここの魔道具は質がいい」
オリバーさんと2人で店の中に入ると、店主の男性がオリバーさんに声をかけてきた。
「おや、シャルムさん。いらっしゃい。また研究でできた副産物を押し付けにきたんですか?」
「ちげーよ。連れの避妊の魔道具を買いに来た」
「ああ、なるほど。こちらですよ」
店主は僕をみてニコッと微笑むと店の中を案内してくれた。色々置いてある魔道具は見たことがないものが沢山あった。
「ここの棚のが全てそうですよ」
店主が指し示した棚には色々な種類の装飾品が並んでいた。でも、まずは値段だ。機能が同じなら一番安いのでいい。僕はオリバーさんに手を掴まれたまま店主を見つめて声をかけた。
「一番安いのはどれですか?」
「そうですね…この石が小さな耳飾りか指輪ですね」
店主が指さしたのは一番端っこにあるモノだった。オリバーさんに手を離してもらいたくて、掴まれている右腕をブンブン振るがニヤニヤ笑って離してくれない。仕方がないので、オリバーさんはくっつけたまま品物の前にたった。
「おいくらですか?」
「どちらも銅貨2枚ですよ」
「安いものと高いもので性質や機能は変わりますか?」
「基本的には変わりませんが、安いものは壊れやすいですね…」
魔道具も道具だ。使いすぎると壊れる。半永久的に使えるものも整備が必要なものが多い。僕は耳飾りを手に取った。
耳たぶに挟むものではなく、耳たぶに穴を開けるもののようだ。僕は耳に穴なんてないし…却下だった。
次に銀色の指輪を手に取った。指輪の幅は細くて、女性が好んでつけそうな形状だった。どちらも僕の好みではなかった。指輪を棚に戻すと、店主が声をかけてきた。
「次に金額が安いのは、こちらの三種類です。銅貨3枚ですね」
店主が指し示した棚にオリバーさんをくっつけたまま移動して、品物の見つめた。耳飾りと首飾りと指輪だった。
首飾りは細い鎖に丸い石がついていた。鎖の長さはそこまで長くない。僕がつけたら、鎖骨の間ぐらいに石が見えるだろう。邪魔にならない気がして良さそうに感じた。すると横からオリバーさんが話しかけてきた。
「首飾りは細い鎖はちぎれることがあるから、やめたほうがいい。アイザックのおっさんのやつぐらい太いのやつなら別だけどな」
これにしようとしていた僕の思考を読んだような助言にムッとなりながら、耳飾りを見つめた。
さっきと違って、耳に挟むもののようだ。涙型の石がついていた。これもいいかもしれないっと思っているとまたオリバーさんが声をかけてきた。
「耳飾りは穴に差し込んで使う方がいいぞ。落とすことがあるからな」
僕はまたムッとしながら、次の候補の指輪を見つめた。
さっきの指輪よりも幅は太かった。でも付いている石の大きさが指輪に比べて大きくて不恰好だった。これは見た目で却下だった。
ハァっとため息をつくと、店主が声をかけてきた。
「お気に召しませんでしたか?では…こちらが次に安いものです。銅貨5枚です」
店主が指し示してきたのは耳飾りと腕輪、指輪だった。またオリバーさんをくっつけて品物の前に移動して見つめた。
耳飾りは穴を開けて使うものだった。石は多角にカットさた円形だった。石の形がとてもおしゃれだった。
腕輪はオリバーさんがつけているのとよく似ていた。銀色の腕輪でオリバーさんのよりは幅が広い。石は外に3つほど付いていた。
指輪は先程却下した指輪の石よりも小さめの石がついていた。しかし指輪の幅が広かった。手に取って右手の中指にはめてみるが、僕の手には似合わなかった。そっと外して棚に戻すと、僕はまたため息が出た。
「この耳飾りはとても素敵ですが、僕、耳に穴がないので…」
「そうですか。そうなりますと、次が銅貨8枚ですね」
店主が指し示した棚には4種類の装飾品があった。買えないけれどもチラッと目線を向けると、オリバーさんに引っ張られて品物の前に立たされた。
「かえ…」
「いいから、見るだけ見ろ」
ハァっとため息をついて、耳飾りを見た。これも穴を開けて使うものだった。却下だ。
次に腕輪を見た。正直腕輪は外すことを前提にしている気がする。僕はその場面で付けないとという意識が回るか怪しい。却下だ。
首飾りは初めに見たものよりも鎖は太そうだったが、ついている石の大きさが好みではなかったので却下だった。
最後に指輪に目線を向けた。今までツルツルした表面の銀色輪っかに石がついているだけのものが多かったが、これは細工が施されていた。銀細工だろうか。手に取って細工を見るととても綺麗だった。指輪は花の絵が彫られている。花びらもあるため、まるで木々に咲いた花が風に揺らされて、花弁を散らしているようにも見えた。そして石は花の真ん中にはまっていていた。花は3つ彫られているから、石も合計で3つついていた。指輪の幅も程よくて、石の大きさも小さすぎない。でも…女性むけだろう。
「へー。最近は細工も綺麗になってきたんだな」
「はい。昨日入荷したものですよ」
オリバーさんは僕を掴んでいた手を離して、僕が考え込みながら眺めている指輪を手に取って、勝手に僕の左小指にはめ込んできた。
「ちょ!何するんですか!」
「お似合いですよ」
店主はニコニコ微笑んで僕に話しかけてきた。僕はチラッと左手に目線を向けて指輪を見た。女性が好みそうな形状だった指輪は、なぜか僕の指にしっくりとはまっていた。嵌め込むと指の大きさに合わせて形状を変えるようだ。緩みもキツさもなくて、違和感がなかった。
「登録すれば石が目立って見えると思いますよ」
「似合う似合う。じゃ、銅貨8枚な」
オリバーさんは収納から財布を取り出し勝手に店主の手の上に銅貨を8枚渡していた。僕がびっくりしてオリバーさんの左腕を右手で掴むと、オリバーさんは僕を上から見下ろしてニヤッと笑った。
「前払いな」
今まで見てきたものの中で一番気になったものなのはこの指輪だった。立て替えてくれるというなら、助手の仕事を頑張ればいいだけだ。僕は掴んだ手を離して、コクンっと頷いた。
「…はい…」
「お買い上げありがとうございます。登録方法はご存知ですか?」
「俺が教える。じゃ、またな」
知りませんって答える前に、オリバーさんが店主に話しかけて別れの挨拶を勝手にした。そして僕の右手を左手でギュッと握って手を繋ぐと、引っ張るように店の出入り口に向かって歩き出した。僕は慌てて店主に軽く頭を下げると、なんだか微笑ましげな顔で見つめられた。
バタンっと扉が閉まって、店の外に出るとオリバーさんは噴水広場に向かって歩き始めた。大きな手のひらで僕の手はすっぽりと覆われていた。空が暗くなってきて、肌寒い風が吹いているからか、握られた手がとても温かく感じた。
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