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始まった新生活

僕の国とはやっぱり違う

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 オリバーさんはしばらく僕を抱きしめていた。僕はドキドキと胸と体が熱くなるのを感じながら、股間の熱を冷ますために話を切りだした。

「あの、この国のこと全然知らなくて、わからないことがあるので聞いてもいいですか?」

 僕が話しかけるとオリバーさんは体を離して、僕をニッと笑って見つめてきた。

「おう、いいぞ。俺がわかることなら教えてやる」

 僕は何を質問しようか考えながら少し左上を見ながら考えた。

「あ、そうだ。時刻を細かくわかるような事を話してますよね。オリバーさんもイーサンも。どうしてわかるんですか?」

「なんだ?時刻魔道具をしらないのか?お前の国にもあるだろ?」

「あの、学校に行ってる時も最低限の魔道具しかありませんでしたから、高価なものは使い方とかも何も知らなくて。貴族位はありますが、平民に混じって朝日と共に起きて、日が沈んだら寝る準備って感じで…」

 僕が少し恥ずかしそうにモジモジしてると、オリバーさんは握っている右手を離してから、暖炉の上の壁についている四角い黒い物体を右手で指さした。

「あれが、この国の時刻を知らせる魔道具だ。国によって使っているものは旧式だったりするだろうが、表示される内容は同じだ。1日は算術で使う数字の0から12で表される。ものは試しだ。あの黒いのに目線を合わせてみろ」

 僕は言われたとおりに目線を黒い物体に向けた。すると物体から数字が浮かび上がってきた。赤色の2だった。しかも半分薄い。

「半分薄い赤色の2って出てます」

「つまり今は昼の2時半過ぎだ。この国独自だが、赤は明るい時間。青が暗い時間と数字の色が変わる。2になって3に変わる間隔が半分すぎると色が薄くなる。だから自分たちがどれくらいその作業をしていたのかわかりやすい」

「へー…」

「この国は魔法を使うより道具を使うのが好きなんだよな。あと、熱中しやすいだろ?昼と夜の区別や半分を知らせるのはそのせいだろうな。平民もこの魔道具は馴染みがあるんだ。街の広場に必ず1つある。魔力の補給は魔力がこもった石を入れ替えるだけでいいから、使うのに魔力は必要ないんだ」

「…なるほど…」

「この学園は各部屋に必ずついてる。寮の部屋にもあるから帰ったら確認してみろ。大半壁についてるからな」

「時刻がわかるのはとても便利ですね。高価ですか?」

「んー。モノによるだろうが、まぁまぁするな」

 魔道具なんてほぼ使わず生活している家族や領民に買ってあげたら、仕事が捗りそうだ。起動魔力だって僕がこめてあげればいい。

 僕はみんなへの恩返しの1つにしようと心に決めた。そして、まだ疑問に思っていることを尋ねた。

「暦の数え方は共通ですよね?」

「それはどこも同じだろ?国は違ってもな」

 暦は農作ではとても大事にされてる。なぜなら1年の間にいつ農作業をするのかの指標だからだ。

 1年のうち月が種の月が3つ、花の月が3つ、実の月が3つ、穫れかれの月が3つある。雪が降るのが穫れの月だ。言い方は穫れの1月、穫れの2月、穫れの3月。

 そしては月には日が決まってる。7日間を4回繰り返すと、次の月に変わる。

 光の日から始まって、空の日、火の日、水の日、木の日、魔の日、土の日だ。野菜の種まきは土の日にすることが多かった。

「さっき、僕の部屋で休日にって話ですが土の日が休みなら、この学校の休日は土の日と光の日なんですか?」

「ああ、そうだ」

「…第3光の日に申し込みしたから、お休みの日に応募したんだ…」
 
「一般的に日に決められた休みはないから馴染みはないよな。休日が決まってるのはこの国独自だぞ。熱中しやすいから、休みを指定してやらんとダメなんだろうな。ちなみに、国が指定した休みに従ってるのは国民だけだ。でも、休みの日でも買い物はできるぞ。他国の商人が出店を出すからな。自国の店が休みって事は、金を稼げるって事だからな」

「なるほど…。応募した時もアイザックさんの話を聞いた時も、頭がいっぱいだったから、深く考えていませんでした」

 国が違えば考えも変わるのは分かっていたけど、国民の気質を考えて、国が休みを作っているのはなかなか面白かった。若い国だからこそ、古いしがらみが無いのかもしれない。

 僕がふんふんっと鼻を鳴らして納得して、どんどん質問した。

「あの、疑問なんですが。この国も子供の数は減ってるって聞きましたが、婚姻する前に体の関係を持つってことは、子ができませんか?子種を出してしまうと…子ができるんですよね?僕、閨の作法とかも習ってないですけど、それくらいは知ってるので…」

「……くくっ。それ思うよな。わかるわかる。俺も初め思ったからな」

 オリバーさんはケラケラ笑って収納から銀色の腕輪を取り出した。そして僕の手の上にポンっと置いた。重さはあまりない。腕輪の幅も細いからか付けてるのを忘れそうなほど軽かった。

「魔道具の形は首飾りだったり、耳飾りだったり、腕輪だったり、指輪だったりと形は変わるが使い方は同じだ。平民も魔力を使わない補充式を使ってる」

「は、はぁ…子供ができないための魔道具ですか?」

 僕は腕輪を指で摘んで顔の高さまで上げてひっくり返したり、表面を撫でたりした。表面はツルツルで、腕輪には紫色の石が1つついていた。

「そうだ。俺のは腕輪だ。女とするときは必ずつけてる。紫の石があるだろ?登録前は透明なんだよ。登録すると登録者の瞳の色になる。俺のしている研究に似たものを感じて調べたが、原理は消滅魔法と防御魔法の組み合わせのようだ。俺がこの国に来るきっかけになったのはコレだ。この魔道具があるから、まだ希望を持って研究をすることができている。ちなみに、1つより2つの方が効果があるから、男も女共につけるのが常識だ」

「なるほど…。そういえば、アイザックさんは緑色の首飾りをつけてましたし、イーサンは黄色の耳飾り、カローさんは赤色の指輪をしてましたね…。あれは全て魔道具だったんですね」

「だな。この国の人間は大半つけてる。結婚しても子供がそれ以上欲しくないならつけているぞ。逆に瞳の色の装飾品を付けていないのは子供が欲しいっていう夫婦や精通や月ものがない子供だ。子供からしたら、この魔道具をつけると大人の一員って感じだろうな」

「…高いですよね…」

「一番安いのは今日の特別手当でお釣りが来る。大丈夫だ」

「よ、よかったです。手持ちもないので…それに付けていた方がいいですよね?もしもの場合に備えて」

「ああ。俺も常にそばに居られるわけじゃないからな。襲われる事はないだろうが、付けた方がいいな。なんでもいいなら使用人に頼めば買ってくると思うぞ。石の大きさとか重さとか、こだわるなら店に行く必要があるがな。どうする?」

「…なるべく安いのがいいので、見に行きたいです」

「じゃ、仕事終わりに行くか。市場は夜遅くまでやってるからな」

「この魔道具はお休みには売ってないのですか?」

「この国独自の魔道具だからなぁ。他国の出店にはないと思うぞ」

「そうですか、ではお願いします」

 腕輪を返して、ペコっと頭を下げるとオリバーさんは僕の頭を撫でてきた。

「気にするな。さて、そろそろ数字が3になる。ここに帰ってきたのが1から2に変わる少し前だ」

 僕は目線を時刻魔道に向けると、2の数字が消えかかっていた。切り替えの目安なのかもしれない。じっと見つめていると、パッと切り替わってはっきりとした真っ赤な3が現れた。

「よし、じゃぁ…いいな?」

 目線をオリバーさんに向けると、少しだけ熱がこもった瞳で見つめ返された。

 これは仕事だ。そう思わないと気恥ずかしい。なら、仕事だと割り切れるようにまずはお金を貰おう。僕はお金が欲しいんだから、頑張ったのにもらえませんでしたなんて嫌だ。

 僕は気持ちを仕事気分に切り替えて、無表情でスッと右手のひらを差し出して、オリバーさんを見つめ返した。

「信用してないわけじゃないです。でも前払いでお願いします。今後も前払いを希望します」

「くく。金の神を崇める国出身なだけあるな。わかったわかった」

 オリバーさんは収納からとても膨らんだ財布の袋を取り出すと、ジャラジャラとかき回して僕の手のひらに銅貨を5枚乗せた。僕はそれを確認して、収納から鉄貨ぐらいしか入っていない、痩せっぽちの財布の袋に銅貨を入れた。僕もオリバーさんも財布を収納すると、オリバさんが話しかけてきた。

「よし、今度こそいいな」

 オリバーさんは僕の両肩に両手を乗せて顔を近づけてきた。僕は少し顎を上げて、目を瞑ると朝味わった感触が来るのを待った。
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