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何かが始まる
なんて豪華な部屋なんだ!
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「こちらが、アシェル様のお部屋でございます」
職場の部屋から歩いて15分ほどの距離に職員寮はあった。渡り廊下で建物がつながっているようで、建物から出なくても移動できた。
案内された部屋の扉は綺麗な木目の木の扉だった。扉にはすでに表札のように白ウサギが横向きで座っているような絵が付いていた。
「あの、このウサギは…」
「学園長からの贈り物だそうですよ」
「そ、そうですか」
可愛らしいウサギの絵を見ながら、男なのにこんなに可愛い表札で勘違いされないかな?と思いながら収納から鍵を2本取り出した。
「えっと、1本は渡すんだよね」
「はい。お預かりいたします」
「…許可する」
鍵を1本手のひらに乗せてイーサンに差し出しながら言葉を呟くと、イーサンが鍵を手に取った。
「謹んでお受けいたします」
イーサンが僕の言葉に返答するように返すと、鍵が金色に光った。イーサンが持っている鍵は白色を侵食するように薄い緑色が浮かび上がっていた。色の境目はぼかし入っているようではっきりしていない。
「これで私とアシェル様しか利用できない鍵になりました」
「そ、そうなんだ。便利だね…」
「この鍵は我が国の魔道具です。では、早速扉を開けさせていただきますね」
イーサンは扉の鍵穴に鍵をさして、鍵を捻ってガチャリと解錠した。
扉を片手で開けながら僕に中に入るように促してきたので、指示されるがままおずおずと室内に入った。
「わぁぁ。広い。綺麗」
アイザックさんの説明から何となく小さな部屋を想像していた僕は、広さに感動していた。
「部屋の作りはどこも同じですが、生徒よりは広くなっております。貴族位の高い先生だと、もう少し部屋が広いところに住んでいる方もいますよ」
「いや、十分です」
僕はキョロキョロと部屋の中を観察した。
窓際にある大きなベッドは清潔そうなシーツがついていた。体にかける毛布もふわふわに見えた。僕がいつも使っているヨレヨレとは違った。ベッドの両サイドに木でできたサイドテーブルが置かれていて、窓側で寝ていても扉側で寝ていても何か物を取ったり、置いたりできそうだ。
ベッドが奥の窓側にあるが、扉の近くにはベッドに背を向けるように、ふかふかそうなソファーと木のテーブルがあった。それだけでも豪華だ。
チラッと目線を左に向けると、左側の壁に扉が2つ付いていた。一番左を開けると中には貴族が使う手洗い設備があった。木の椅子を覗くと座面の真ん中に穴が開いている。平民ならその下に桶があるが、これには無かった。上から覗くと真っ黒に見えるため、消滅魔法が付与されているようだ。椅子の近くには、贅沢にも紙が置いてあった。
もう1つの扉を開けると浴室だった。真っ白な浴槽と床には排水溝。壁には棚があって、石鹸や香油などが置かれていた。浴槽の近くには水を出す魔道具が置かれていた。何故か蛇の形をしていて、口から水が出る仕組みのようだ。頭を撫でると水が出て、トントンっと叩くとお湯が出るようだった。
住んでいた屋敷とは雲泥の差の設備に僕は家族に申し訳なく思いはじめた。
「どうかされまきたか?何か気に入らない点が…」
僕の部屋の探検を微笑ましそうに見えいたイーサンは僕の様子が変わったことに気がついて声をかけてきた。僕は慌てて首を振ってイーサンを見つめた。
「いや!気に入らないとか無いです!むしろ…豪華すぎて尻込みしちゃうというか」
「左様でしたか。不備はないようですね。他にご用意が必要なものはありますか?」
「え?いや…大丈夫です。むしろ、豪華な部屋に慣れるか心配です」
「ふふ。荷解きのお手伝いをいたしましょうか?」
「あ、大丈夫です。洋服ぐらいしか持ってきてなくて…」
「では早速衣装棚に衣類を収容致しましょう」
僕はイーサンに連れられて浴室から出ると、ソファーの向こうにある大きな衣装棚の前に連れて行かれた。扉から入って右手にある衣装棚は木でできているが模様が綺麗だった。
僕は衣装棚の両扉を開けると、収納から衣類が入った鞄を取り出して中に詰め込んだ。イーサンも手伝ってくれたため、元々少ない持ち物はあっという間におさまってしまった。
「では、お茶のご用意をいたしますね」
イーサンは僕に頭を下げて部屋から出て行った。僕はベッドの近くに近寄って扉側のサイドテーブルの引き出しを開けた。そこには小さな小箱が置いてあった。
「金庫ってこれ?」
小箱を手に取って眺めるが、鍵の差し込み口は見当たらない。何がどうなっているのかわからず、振ってみたり、力任せに開けようとしてみるがびくともしなかった。
「使い方わかんないな…イーサンに聞いみるか」
小箱を引き出しに戻してソファーに座ると、思っていたとおりのふかふかさだった。
「はぁう…すごい…ここで寝れちゃう…」
長旅で疲れていたのか、体を優しく包んでくれるような柔らかいソファーにウットリとした。
ソファーで一休みしていると、イーサンが扉を叩いてからカートを押して中に入ってきた。
「お茶のご用意ができました。どうぞ」
イーサンはカップにお茶を注いで、ソファーの前のテーブルに置いた。僕はお皿ごと手に取ってカップの取っ手を持つと一口お茶を口に含んだ。
「濃い、そして美味しい」
僕の感想にクスクスとイーサンは笑っていた。しばらくおいしいお茶を楽しんでいると、さっきの小箱のことを思い出した。僕はカップをお皿に戻して、それをテーブルに置くと立ち上がって小箱を取りに行った。
「イーサン、これは何ですか??」
僕はイーサンに見つけた小箱を差し出して首を傾げると、イーサンはニコッと微笑んだ。
「金庫でございますね。登録した人物しか開けられません。登録の方法はご存知ですか?」
「わからない…です」
「体液を垂らせばいいのですよ」
「だ、唾液?」
「はい」
ふんふんと頷いて僕は右手の親指をぺろっと舐めて小箱に押し付けた。するとカチッと音がして小箱が勝手に開いた。
「底が見えない」
「空間魔法が施されております」
「そうなんだ」
僕はアイザックさんに言われた通り、3本目の鍵を小箱に入れて蓋を閉じた。またカチッと音がすると、結合部分に鍵穴のような模様が現れた。
「登録者が開ける時は模様を撫でればいいですよ」
僕の疑問を先回りしたように開け方を教えてきたイーサンの言葉に習って、模様を親指の腹で撫でるとカチッと音がして小箱が空いた。
「取り出す時は収納を使う時と同じです。何を取り出すか思い浮かべれば出てきますよ」
またイーサンは先取りで僕が知りたいことを教えてくれた。鍵が欲しいと考えると手の上に鍵が現れた。僕はまたその鍵を中に入れて、蓋を閉じると、金庫の小箱をサイドテーブルの引き出しにしまった。
「はぁ…豪華だね…」
「ふふ。夕食は食堂で召し上がりますか?お疲れでしたらこちらにお運びできますよ?」
「本当ですか?…運んでもらえるととっても助かります」
「畏まりました」
イーサンはニコッと微笑むとカートを押して部屋から出て行った。僕はソファーに座って、まだホカホカと温かなお茶を飲んで一息ついた。
明日からはいよいよ研修が始まる。どんな事をするのか心配になりながらも、僕はお茶を飲み干してカップをテーブルに置くと、ソファーの背もたれにもたれた。
ウトウトしていると、いつのまにか寝てしまった。
「アシェル様。アシェル様」
優しい声で起こされた。誰だっけっと思いながら目を開けると、僕を優しい微笑みで見つめるイーサンの顔があった。
「あ、寝ちゃってました」
「隣国からいらっしゃったんですよね。旅路にお疲れなのでしょう。夕食をお持ちしました」
イーサンがソファーの前にあるテーブルを突くと、テーブルの四つ足がグイッと伸びて、僕のお腹ぐらい高さになった。まるで食事をするときのテーブルのようだ。
「す、すごい…食事が取りやすい高さになるんだ」
僕がテーブルの変化に驚いている間にイーサンは豪華な食事をテーブルに並べた。パンにお肉、野菜に果物、スープに果実水の入ったグラス。フォークとスプーン、ナイフ。僕の家では誕生日でも出てこない量の食事だった。
「わ、わぁ…こんなに食べられるかな…」
「多かったでしょうか…」
「あ、いや…僕こんなに沢山一度に食べたことがないから…」
「残されても大丈夫ですよ。次回からはアシェル様が完食できる量をお持ちいたしますね」
イーサンはにっこり微笑むと上着のポケットから薄い緑色のベルを取り出して僕に差しだしてきた。
「な、なんですか?」
「専属の使用人を呼びだす魔道具です。鳴らしてみてください」
「な、なるほど」
イーサンから受け取ったはベルは小さくて可愛い。チリンっと鳴らすと高めの音が鳴った。
「私が遠くに居ても、ベルが鳴れば耳飾りが振動して呼び出されたことが分かります。御用の際は使ってください。持ち歩く必要はありませんので、このテーブルの上にでも置いてくださればよろしいかと思います」
イーサンは髪の毛をかきあげて、左耳についた薄い緑色の石の耳飾りを見せて説明してきた。その耳飾りの隣には黄色の耳飾りが並んでついていた。僕はふむふむと頷きながらもう一度ベルを鳴らすと、イーサンの薄緑の耳飾りが淡く光った。
「はい。振動を感じました。ありがとうございます」
「色んな魔道具があるんですね」
「そうですね。我が国は…必要としないような物でも作り上げてしまいます。誰かが作ったガラクタでも、別の誰かが形を変えて作り替えたりしながら様々な魔道具を開発しているのです」
「はへー…何にでも魔道具が使われてるんですね…」
「はい。魔力があれば誰でも使える道具が多いのが我が国の特徴でもあります。また魔力がなくても補充式で使えるものは平民も使っていますよ」
やはり魔道具の国っぽい。感心しながら話を聞いていたが、お腹が空いた。僕は目の前の豪華な食事を食べるために、スプーンを手に取った。
イーサンは僕が食べ始めたのを見て優しく微笑むと、少し離れたところで立って控えていた。
どの料理も美味しかった。味付けは僕の国よりも素材の味を生かしたものが多かった。僕の国は割となんでも上からソースをかけてしまうし、味が少し濃い。僕は薄口が好きなため、この国の味付けにはとても大満足だった。
全て食べることはできなかったが、お腹いっぱいに満たされて幸せ気分を味わっているとイーサンは残した量を確認してからお皿を片付けていった。高くなったテーブルも元の位置に戻してから、僕に優しい微笑みを向けた。
「湯浴みのお手伝いはいかがなさいますか?」
「え!?だ、大丈夫でふ!」
びっくりして思わず噛んでしまった僕をクスクスと笑いながらイーサンは話を続けた。
「8時までに出勤ですと…明日は6時半ごろにこちらにうかがいますね。では、良い夢を」
イーサンは一礼するとカートを押して部屋から出て行った。
「こ、こんなに、至れり尽くせりでいいのだろうか。と、いうか…8時とか6時とか…知らない言葉があったけど、イーサンに任せれば大丈夫だよね」
贅沢な部屋と待遇に慣れない僕は戸惑った。
空も暗くなってきたし、夕飯も食べた。僕はさっさとお風呂に入って寝ることにした。
タオルは浴室に入る前の空間に棚があっていくつも入っていた。それを確認してから裸になって浴室に入った。浴槽の中に贅沢にお湯を沢山入れて、ゆっくり浸かると旅の疲れがお湯の中に溶け出すような気分を味わった。
浴槽から出ると棚にあった石鹸を手に取って泡立てて、頭と体を洗った。香油は…真っ白な髪の毛につけてみることにした。置いてあった櫛を使って香油を髪に馴染ませた。置いてあった香油は…オリバーさんの煙草の匂いとよく似ていた。
「あの花のような匂いは…何の花なのかな」
薄く香ってくる甘い匂いを嗅ぎながら今日のことを思い出した。
見てしまった光景と香った匂いと味わった甘さ
そしてオリバーさんの紫色の瞳
思い出すとググっと股間が熱くなるのを感じた。感覚に身に覚えがあった僕は目線を下に向けると、アレが欲を発散したいと主張していた。
「あう…なんで反応したんだ…ろ。初めて男女のあれこれを見たから?最近出してなかったからかな…」
僕は反応してしまったソレを右手で握り込んで手を上下に動かした。髪の毛に香油を塗っていたからか、手がヌルヌルとしていて動かしやすい。
「ぁっ……ん……」
久々の刺激に夢中になって手を動かすと、一気に快感が外に飛び出した。僕の右手は熱いものでべっとりと濡れた。
「はぁ…はぁ…」
余韻に浸りながらボーッとしつつ、自分の髪の毛から香ってくる匂いと自分が出したもの匂いが混じった空間の匂いをしばらく感じていた。
「…はぁ…なにやってんだろ」
余韻から戻ってくると自分がしたことが馬鹿らしく感じて、出した熱をさっと洗い流して湯船に浸かった。
「ふぁ…皆んなにもお風呂…こうやって使わせてあげたいな」
我が家の湯浴みは、お湯を大きな桶に入れて布で体を拭くだけだ。石鹸なんてひどい汚れがついた日か、出かける日ぐらいしか使わない。髪の毛に香油だって、なかなか塗れない。
僕は頑張って働いて、家族に人並みの貴族らしい生活を送らせてあげよう。そう心に決めて浴室から出た。
タオルで頭と体を拭いて、下着を履いて寝巻きに着替えると髪の毛は魔法で乾かした。
ポカポカとあったまった体のままベッドに飛び乗ると、ボヨンっと体が跳ねた。マットレスもふかふかだ。
「こんなふかふかなの…初めてだ」
僕は包まれるような柔らかさを感じながら、ふかふかの布団を体にかけてすぐに眠りに落ちた。
職場の部屋から歩いて15分ほどの距離に職員寮はあった。渡り廊下で建物がつながっているようで、建物から出なくても移動できた。
案内された部屋の扉は綺麗な木目の木の扉だった。扉にはすでに表札のように白ウサギが横向きで座っているような絵が付いていた。
「あの、このウサギは…」
「学園長からの贈り物だそうですよ」
「そ、そうですか」
可愛らしいウサギの絵を見ながら、男なのにこんなに可愛い表札で勘違いされないかな?と思いながら収納から鍵を2本取り出した。
「えっと、1本は渡すんだよね」
「はい。お預かりいたします」
「…許可する」
鍵を1本手のひらに乗せてイーサンに差し出しながら言葉を呟くと、イーサンが鍵を手に取った。
「謹んでお受けいたします」
イーサンが僕の言葉に返答するように返すと、鍵が金色に光った。イーサンが持っている鍵は白色を侵食するように薄い緑色が浮かび上がっていた。色の境目はぼかし入っているようではっきりしていない。
「これで私とアシェル様しか利用できない鍵になりました」
「そ、そうなんだ。便利だね…」
「この鍵は我が国の魔道具です。では、早速扉を開けさせていただきますね」
イーサンは扉の鍵穴に鍵をさして、鍵を捻ってガチャリと解錠した。
扉を片手で開けながら僕に中に入るように促してきたので、指示されるがままおずおずと室内に入った。
「わぁぁ。広い。綺麗」
アイザックさんの説明から何となく小さな部屋を想像していた僕は、広さに感動していた。
「部屋の作りはどこも同じですが、生徒よりは広くなっております。貴族位の高い先生だと、もう少し部屋が広いところに住んでいる方もいますよ」
「いや、十分です」
僕はキョロキョロと部屋の中を観察した。
窓際にある大きなベッドは清潔そうなシーツがついていた。体にかける毛布もふわふわに見えた。僕がいつも使っているヨレヨレとは違った。ベッドの両サイドに木でできたサイドテーブルが置かれていて、窓側で寝ていても扉側で寝ていても何か物を取ったり、置いたりできそうだ。
ベッドが奥の窓側にあるが、扉の近くにはベッドに背を向けるように、ふかふかそうなソファーと木のテーブルがあった。それだけでも豪華だ。
チラッと目線を左に向けると、左側の壁に扉が2つ付いていた。一番左を開けると中には貴族が使う手洗い設備があった。木の椅子を覗くと座面の真ん中に穴が開いている。平民ならその下に桶があるが、これには無かった。上から覗くと真っ黒に見えるため、消滅魔法が付与されているようだ。椅子の近くには、贅沢にも紙が置いてあった。
もう1つの扉を開けると浴室だった。真っ白な浴槽と床には排水溝。壁には棚があって、石鹸や香油などが置かれていた。浴槽の近くには水を出す魔道具が置かれていた。何故か蛇の形をしていて、口から水が出る仕組みのようだ。頭を撫でると水が出て、トントンっと叩くとお湯が出るようだった。
住んでいた屋敷とは雲泥の差の設備に僕は家族に申し訳なく思いはじめた。
「どうかされまきたか?何か気に入らない点が…」
僕の部屋の探検を微笑ましそうに見えいたイーサンは僕の様子が変わったことに気がついて声をかけてきた。僕は慌てて首を振ってイーサンを見つめた。
「いや!気に入らないとか無いです!むしろ…豪華すぎて尻込みしちゃうというか」
「左様でしたか。不備はないようですね。他にご用意が必要なものはありますか?」
「え?いや…大丈夫です。むしろ、豪華な部屋に慣れるか心配です」
「ふふ。荷解きのお手伝いをいたしましょうか?」
「あ、大丈夫です。洋服ぐらいしか持ってきてなくて…」
「では早速衣装棚に衣類を収容致しましょう」
僕はイーサンに連れられて浴室から出ると、ソファーの向こうにある大きな衣装棚の前に連れて行かれた。扉から入って右手にある衣装棚は木でできているが模様が綺麗だった。
僕は衣装棚の両扉を開けると、収納から衣類が入った鞄を取り出して中に詰め込んだ。イーサンも手伝ってくれたため、元々少ない持ち物はあっという間におさまってしまった。
「では、お茶のご用意をいたしますね」
イーサンは僕に頭を下げて部屋から出て行った。僕はベッドの近くに近寄って扉側のサイドテーブルの引き出しを開けた。そこには小さな小箱が置いてあった。
「金庫ってこれ?」
小箱を手に取って眺めるが、鍵の差し込み口は見当たらない。何がどうなっているのかわからず、振ってみたり、力任せに開けようとしてみるがびくともしなかった。
「使い方わかんないな…イーサンに聞いみるか」
小箱を引き出しに戻してソファーに座ると、思っていたとおりのふかふかさだった。
「はぁう…すごい…ここで寝れちゃう…」
長旅で疲れていたのか、体を優しく包んでくれるような柔らかいソファーにウットリとした。
ソファーで一休みしていると、イーサンが扉を叩いてからカートを押して中に入ってきた。
「お茶のご用意ができました。どうぞ」
イーサンはカップにお茶を注いで、ソファーの前のテーブルに置いた。僕はお皿ごと手に取ってカップの取っ手を持つと一口お茶を口に含んだ。
「濃い、そして美味しい」
僕の感想にクスクスとイーサンは笑っていた。しばらくおいしいお茶を楽しんでいると、さっきの小箱のことを思い出した。僕はカップをお皿に戻して、それをテーブルに置くと立ち上がって小箱を取りに行った。
「イーサン、これは何ですか??」
僕はイーサンに見つけた小箱を差し出して首を傾げると、イーサンはニコッと微笑んだ。
「金庫でございますね。登録した人物しか開けられません。登録の方法はご存知ですか?」
「わからない…です」
「体液を垂らせばいいのですよ」
「だ、唾液?」
「はい」
ふんふんと頷いて僕は右手の親指をぺろっと舐めて小箱に押し付けた。するとカチッと音がして小箱が勝手に開いた。
「底が見えない」
「空間魔法が施されております」
「そうなんだ」
僕はアイザックさんに言われた通り、3本目の鍵を小箱に入れて蓋を閉じた。またカチッと音がすると、結合部分に鍵穴のような模様が現れた。
「登録者が開ける時は模様を撫でればいいですよ」
僕の疑問を先回りしたように開け方を教えてきたイーサンの言葉に習って、模様を親指の腹で撫でるとカチッと音がして小箱が空いた。
「取り出す時は収納を使う時と同じです。何を取り出すか思い浮かべれば出てきますよ」
またイーサンは先取りで僕が知りたいことを教えてくれた。鍵が欲しいと考えると手の上に鍵が現れた。僕はまたその鍵を中に入れて、蓋を閉じると、金庫の小箱をサイドテーブルの引き出しにしまった。
「はぁ…豪華だね…」
「ふふ。夕食は食堂で召し上がりますか?お疲れでしたらこちらにお運びできますよ?」
「本当ですか?…運んでもらえるととっても助かります」
「畏まりました」
イーサンはニコッと微笑むとカートを押して部屋から出て行った。僕はソファーに座って、まだホカホカと温かなお茶を飲んで一息ついた。
明日からはいよいよ研修が始まる。どんな事をするのか心配になりながらも、僕はお茶を飲み干してカップをテーブルに置くと、ソファーの背もたれにもたれた。
ウトウトしていると、いつのまにか寝てしまった。
「アシェル様。アシェル様」
優しい声で起こされた。誰だっけっと思いながら目を開けると、僕を優しい微笑みで見つめるイーサンの顔があった。
「あ、寝ちゃってました」
「隣国からいらっしゃったんですよね。旅路にお疲れなのでしょう。夕食をお持ちしました」
イーサンがソファーの前にあるテーブルを突くと、テーブルの四つ足がグイッと伸びて、僕のお腹ぐらい高さになった。まるで食事をするときのテーブルのようだ。
「す、すごい…食事が取りやすい高さになるんだ」
僕がテーブルの変化に驚いている間にイーサンは豪華な食事をテーブルに並べた。パンにお肉、野菜に果物、スープに果実水の入ったグラス。フォークとスプーン、ナイフ。僕の家では誕生日でも出てこない量の食事だった。
「わ、わぁ…こんなに食べられるかな…」
「多かったでしょうか…」
「あ、いや…僕こんなに沢山一度に食べたことがないから…」
「残されても大丈夫ですよ。次回からはアシェル様が完食できる量をお持ちいたしますね」
イーサンはにっこり微笑むと上着のポケットから薄い緑色のベルを取り出して僕に差しだしてきた。
「な、なんですか?」
「専属の使用人を呼びだす魔道具です。鳴らしてみてください」
「な、なるほど」
イーサンから受け取ったはベルは小さくて可愛い。チリンっと鳴らすと高めの音が鳴った。
「私が遠くに居ても、ベルが鳴れば耳飾りが振動して呼び出されたことが分かります。御用の際は使ってください。持ち歩く必要はありませんので、このテーブルの上にでも置いてくださればよろしいかと思います」
イーサンは髪の毛をかきあげて、左耳についた薄い緑色の石の耳飾りを見せて説明してきた。その耳飾りの隣には黄色の耳飾りが並んでついていた。僕はふむふむと頷きながらもう一度ベルを鳴らすと、イーサンの薄緑の耳飾りが淡く光った。
「はい。振動を感じました。ありがとうございます」
「色んな魔道具があるんですね」
「そうですね。我が国は…必要としないような物でも作り上げてしまいます。誰かが作ったガラクタでも、別の誰かが形を変えて作り替えたりしながら様々な魔道具を開発しているのです」
「はへー…何にでも魔道具が使われてるんですね…」
「はい。魔力があれば誰でも使える道具が多いのが我が国の特徴でもあります。また魔力がなくても補充式で使えるものは平民も使っていますよ」
やはり魔道具の国っぽい。感心しながら話を聞いていたが、お腹が空いた。僕は目の前の豪華な食事を食べるために、スプーンを手に取った。
イーサンは僕が食べ始めたのを見て優しく微笑むと、少し離れたところで立って控えていた。
どの料理も美味しかった。味付けは僕の国よりも素材の味を生かしたものが多かった。僕の国は割となんでも上からソースをかけてしまうし、味が少し濃い。僕は薄口が好きなため、この国の味付けにはとても大満足だった。
全て食べることはできなかったが、お腹いっぱいに満たされて幸せ気分を味わっているとイーサンは残した量を確認してからお皿を片付けていった。高くなったテーブルも元の位置に戻してから、僕に優しい微笑みを向けた。
「湯浴みのお手伝いはいかがなさいますか?」
「え!?だ、大丈夫でふ!」
びっくりして思わず噛んでしまった僕をクスクスと笑いながらイーサンは話を続けた。
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イーサンは一礼するとカートを押して部屋から出て行った。
「こ、こんなに、至れり尽くせりでいいのだろうか。と、いうか…8時とか6時とか…知らない言葉があったけど、イーサンに任せれば大丈夫だよね」
贅沢な部屋と待遇に慣れない僕は戸惑った。
空も暗くなってきたし、夕飯も食べた。僕はさっさとお風呂に入って寝ることにした。
タオルは浴室に入る前の空間に棚があっていくつも入っていた。それを確認してから裸になって浴室に入った。浴槽の中に贅沢にお湯を沢山入れて、ゆっくり浸かると旅の疲れがお湯の中に溶け出すような気分を味わった。
浴槽から出ると棚にあった石鹸を手に取って泡立てて、頭と体を洗った。香油は…真っ白な髪の毛につけてみることにした。置いてあった櫛を使って香油を髪に馴染ませた。置いてあった香油は…オリバーさんの煙草の匂いとよく似ていた。
「あの花のような匂いは…何の花なのかな」
薄く香ってくる甘い匂いを嗅ぎながら今日のことを思い出した。
見てしまった光景と香った匂いと味わった甘さ
そしてオリバーさんの紫色の瞳
思い出すとググっと股間が熱くなるのを感じた。感覚に身に覚えがあった僕は目線を下に向けると、アレが欲を発散したいと主張していた。
「あう…なんで反応したんだ…ろ。初めて男女のあれこれを見たから?最近出してなかったからかな…」
僕は反応してしまったソレを右手で握り込んで手を上下に動かした。髪の毛に香油を塗っていたからか、手がヌルヌルとしていて動かしやすい。
「ぁっ……ん……」
久々の刺激に夢中になって手を動かすと、一気に快感が外に飛び出した。僕の右手は熱いものでべっとりと濡れた。
「はぁ…はぁ…」
余韻に浸りながらボーッとしつつ、自分の髪の毛から香ってくる匂いと自分が出したもの匂いが混じった空間の匂いをしばらく感じていた。
「…はぁ…なにやってんだろ」
余韻から戻ってくると自分がしたことが馬鹿らしく感じて、出した熱をさっと洗い流して湯船に浸かった。
「ふぁ…皆んなにもお風呂…こうやって使わせてあげたいな」
我が家の湯浴みは、お湯を大きな桶に入れて布で体を拭くだけだ。石鹸なんてひどい汚れがついた日か、出かける日ぐらいしか使わない。髪の毛に香油だって、なかなか塗れない。
僕は頑張って働いて、家族に人並みの貴族らしい生活を送らせてあげよう。そう心に決めて浴室から出た。
タオルで頭と体を拭いて、下着を履いて寝巻きに着替えると髪の毛は魔法で乾かした。
ポカポカとあったまった体のままベッドに飛び乗ると、ボヨンっと体が跳ねた。マットレスもふかふかだ。
「こんなふかふかなの…初めてだ」
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