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幸せなパパ
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「そういえば。運動会どうする?来週の第一土曜にあるでしょ?お弁当とか作ろうか?」
「あー…俺。実は美桜の行事に出たことないんだよね。美桜、突然行って怒らないかな…」
「は?どゆこと!?」
九月も終わりが近づいた土曜日。いつものように夕飯を一緒に食べた後に大人は片付け、子供は食器を片付けてから翼の部屋に籠って携帯型ゲーム機で通信してゲームをしている。3人揃ってできるゲームが欲しいと強請られた結果、キョウと相談して購入したのだ。
その代わりお手伝いを増やすことにはなったが、子供たちはとても楽しそうだ。
と、いうことで大人は食後に2人っきりの時間ができるようになった。キョウは弁えているのかホームセンター以来あからさまなアピールはない。でも私との会話を楽しみに一週間を過ごしてるとかはよく言ってくるようにはなった。
そんな時間に来月の行事について相談したところ、驚愕の事実が発覚したのだった。
「うーん。美桜と翼くん。同じクラスになったのは今年が初めてだけど、俺とナナの子供が同じ学校なら顔を合わせるきっかけ、割とあったわけだけど…お互いに認識してなかったじゃん?ナナは専業だったし授業参観とか行事とか、多分ナナだけまたは夫婦で参加してたと思うんだけど、俺たちはそういうのを全て菜々子だけが参加してたんだよ。俺は絶対に外に出るなって、菜々子が言うからさ。美桜もいつも構ってくれない母親が自分を見てくれる唯一の時間だから喜んでた…感じで。美桜がいいならって思って言われたとおりにしてたんだよね」
「ナニソレ」
とんでもない事実に呆れながらも私はため息をついた。キョウは気まずそうな顔になりつつ話を続けた。
「授業参観。春に終わったから、次出れるのって運動会だよね。面談なんて6年生までないだろうし…」
「キョウが参加したいって思ってるなら美桜ちゃんにまずそれを言ってからだね。来て欲しいってきっと思ってると思うけど。それにお弁当とかも作ってもらえたら喜ぶと思う。あれ?お弁当はどうしてたの?」
「ははは。お恥ずかしながら、それは俺が作りました。菜々子は料理とかダメダメだったからね」
「じゃあ、キョウが来るかどうかだけじゃない?2人で話し合いして決めるしかないよね。翔の体育祭は『くるな』の一言だったからお弁当しか用意できなくて…しかも9月で終わってるの。だから翔もお弁当で釣れば応援に来ると思うし…」
キョウはうーんっと唸りながらも何かを考え始めていた。私はその様子を見ながら話を進めつつ食後のコーヒーを飲んだ。
「5人でご飯かぁ。ねぇ、まるで家族みたいじゃない?」
「はっ?」
キョウはニコッと笑うと私の左隣の椅子に移動していた。びっくりしてコーヒーを吹き出しそうになった私のマグカップを奪ってテーブルに置くと、私の左手をぎゅっと両手で握ってにっこり微笑んだ。
「ちょ、何」
「ナナ。俺とのこと考えてくれた?」
「いや、だから…」
「毎週土曜の夜が俺も美桜も楽しみなんだ。美桜はナナの作るご飯が楽しみだし、ナナ達家族に会えるのが楽しみっていつもウキウキしてるんだよね。俺も同じ。ナナがご飯作ってる姿を眺めるのが好きだし、同じ空間にいられるのも好き。皆んなで食卓を囲むのも好き。翔くんも翼くんも懐いてくれてすごく可愛い。それに…ナナのことをもっと愛おしく感じていくんだ」
「………」
握られた手はとても熱い。その熱が伝わって私の体も熱くなってきた。私の様子に気がついたキョウは私の顎を右手で掴むと顔を向けさせた。
「結婚を前提で付き合って欲しい」
「うっ…だから…その」
「ナナ。俺のこと嫌い?」
顎を掴まれ、15センチほどの距離に顔が近寄ってきた。私はスッと目線を背けつつも、キョウの顔が近づいてくることを拒否できずにいた。
(嫌いか?嫌いかだなんて…)
キョウと別れた原因は浮気だ。貴史と変わらない。でもあの時の写真の映像はもうあまり思い出せない。貴史と菜々子さんの情事で塗り替えられたのだろうか。
約2ヶ月。家のことを助け合って隣同士仲良く付き合ってきた。その中で、キョウが美桜ちゃんを大事に育ててるのも伝わってきたし、美桜ちゃんもキョウを大好きなのがわかった。複雑な環境の中でもあんなに素直でいい子に育ったのは、キョウが美桜ちゃんとの関わりを続けていたからだと思う。
(でも…好きかと言われると…)
美桜ちゃんの父親としては尊敬できる。私の子供達への対応も扱いも上手い。正直言って5人で過ごす時間は穏やかだったし、楽しい。違和感もない。
ただ、私の気持ちはまだそこまで育っていなかった。
「ナナ。黙ってちゃわかんない。キスするよ」
目を逸らして考え事をしてる間にキョウの顔は目の前にあって、唇が触れ合うギリギリの距離だった。その状況にびっくりして顔を後ろに引くと、キョウは少し悲しそうな顔で笑って私から距離をとった。
「ごめん。焦っちゃった。ナナとの幸せな時間をずっと続けたいって思う自分がいてさ。ごめん」
私の態度に拒否の姿勢を感じたキョウは苦笑いをしながら立ち上がって元の席に座った。それを見た私はホッと息をついた。何故か心臓はうるさいほど鳴っている。驚いたからだろうか。ドキドキしている心臓の音が本当にうるさい。落ち着くためにコーヒーを一口飲んでから、うるさい音を聞きながらキョウに考えていたことを伝えた。
「まだわからない。美桜ちゃんの父親としての姿を見てて尊敬できる部分があるなっては感じてる。私の子供ともうまく付き合ってくれてるし、感謝もしてる。でも、私たちが男女の関係で付き合うかって考えるとまだわからない。嫌いだとかそんな感情はないんだけど…」
「んっ、そっか…可能性がないわけじゃないってことか」
キョウは私の言葉を聞いてホッと安心したように肩の力を抜くと、ニコッと微笑んだ。
「じゃあ、もう少し振り向いてもらえるようにアピールしようかな。危険レーダー搭載イケメンに許可取って」
「ナニソレ」
「こっちの話」
キョウはふふっと笑ってから飲みかけのコーヒーを飲み干した。そして立ち上がってマグカップをシンクに置くと、翼の部屋のドアをノックして声をかけた。
「美桜。かえるよー」
「はーい!まって、今セーブするから」
「あと翔くんちょっといい?」
「なにー?」
美桜ちゃんがゲーム機を操作してる間にキョウは翔に声をかけた。翔はゲームを中断すると部屋から出てきたようだ。私に聞こえない声で会話を交わして2人で翔の部屋に入っていった。
「あれ?パパは?」
用意が終わった美桜ちゃんが翼と部屋から出てきて、そこにいるはずの人物がいないことに気がついた。私は苦笑いをしながら2人に声をかけた。
「さぁ?男同士の話かな?おばちゃんにもわかんない」
「え、俺も男だけど仲間はずれ?」
「ママにはわかんないよ。とりあえず美桜ちゃんは出てくるまで椅子に座って待ってて。翼はお風呂当番お願いね」
「はーい」
翼は不服そうにしながらもお風呂当番のために浴室へと消えていった。美桜ちゃんは閉じられた翔の部屋の扉を眺めてから、椅子に座って私に話しかけてきた。
「おばちゃん」
「ん?」
「おばちゃんはパパのことどう思ってる?」
「ぶっ、なに、急に」
コーヒーを飲みながら返事を返していた私は美桜ちゃんの言葉を聞いて吹き出しそうになった。慌ててテーブルの上のティッシュ箱から一枚ティッシュを取り出して口元を拭きつつ首を傾げると、美桜ちゃんは少し真剣な顔で見つめてきた。
「パパは娘の私から見てもかっこいいと思う。それにとっても料理がうまいし、家事もこなせるイクメンだよ。それに、パパはおばちゃんと一緒にいる時が一番幸せそうなの。ママといた時よりも。一緒にいられて嬉しくてたまらないってオーラが出てると思う。多分、おばちゃんが好きだと思うんだ」
「え、美桜ちゃん?それは…」
「おばちゃんとパパがもし結婚して、私のお母さんにおばちゃんがなってくれたら…私…嬉しいな。だから、嫌いじゃないなら少しだけパパを見て欲しいの。こんなことお願いして迷惑かもだけど…私、パパには毎日楽しく笑って幸せに生活して欲しいの。ママとの生活ではなかったから…。私は今のパパのままでいて欲しい。私のワガママだけど…」
「う、うーん。ワガママではないとは思うけど…」
「とにかく、少しパパのこと考えてあげて下さい」
美桜ちゃんはペコリと頭を下げた。まだ小学生なのになんとも大人っぽい意見をいう美桜ちゃんは翼に比べて精神年齢が高い。
大好きなパパだからこそ、キョウの変化に気がついたということだろう。なんと言っていいか分からず困っていると、翔の部屋のドアが開いた。
「あ、ごめんごめん。美桜。帰ろっか」
「あ、パパ」
美桜ちゃんは頭を上げると椅子から立ち上がった。キョウが部屋から出てくると翔も続いて部屋から出てきた。そのままキョウと美桜ちゃんは玄関に向かい、靴を履きながらキョウが話しかけてきた。
「じゃあ、行事についてはまた連絡するよ。またな」
「あ、うん。わかった」
「お邪魔しました」
キョウに続いて美桜ちゃんは私達に声をかけて、2人は玄関から外へと出ていった。
「翔。なんの話だったの?」
「あー…。秘密」
「ナニソレ」
「お風呂用意できたよー。誰から入るー?」
「俺イッチバーン」
翔は私からの追求から逃げるように翼に声をかけて、浴室へと消えていった。翼は特に何も気にしせずに「俺、ニバンー」と言って自分の部屋に消えていった。
1人残された私は玄関の鍵をかけてから、テーブルの椅子に座って頭を抱えた。
「美桜ちゃんに投げられた爆弾が…じわじわくる」
父親思いの子供のお願い。とてもストレートだった。
「はぁぁ。少し考えなきゃいけないってことか」
現在の状況に甘えて真剣に考えないままでは不誠実だ。私はこの日の夜。お風呂に入ってる最中も夜寝る前もキョウと美桜ちゃんの言葉が頭をグルグルと回っていた。
「あー…俺。実は美桜の行事に出たことないんだよね。美桜、突然行って怒らないかな…」
「は?どゆこと!?」
九月も終わりが近づいた土曜日。いつものように夕飯を一緒に食べた後に大人は片付け、子供は食器を片付けてから翼の部屋に籠って携帯型ゲーム機で通信してゲームをしている。3人揃ってできるゲームが欲しいと強請られた結果、キョウと相談して購入したのだ。
その代わりお手伝いを増やすことにはなったが、子供たちはとても楽しそうだ。
と、いうことで大人は食後に2人っきりの時間ができるようになった。キョウは弁えているのかホームセンター以来あからさまなアピールはない。でも私との会話を楽しみに一週間を過ごしてるとかはよく言ってくるようにはなった。
そんな時間に来月の行事について相談したところ、驚愕の事実が発覚したのだった。
「うーん。美桜と翼くん。同じクラスになったのは今年が初めてだけど、俺とナナの子供が同じ学校なら顔を合わせるきっかけ、割とあったわけだけど…お互いに認識してなかったじゃん?ナナは専業だったし授業参観とか行事とか、多分ナナだけまたは夫婦で参加してたと思うんだけど、俺たちはそういうのを全て菜々子だけが参加してたんだよ。俺は絶対に外に出るなって、菜々子が言うからさ。美桜もいつも構ってくれない母親が自分を見てくれる唯一の時間だから喜んでた…感じで。美桜がいいならって思って言われたとおりにしてたんだよね」
「ナニソレ」
とんでもない事実に呆れながらも私はため息をついた。キョウは気まずそうな顔になりつつ話を続けた。
「授業参観。春に終わったから、次出れるのって運動会だよね。面談なんて6年生までないだろうし…」
「キョウが参加したいって思ってるなら美桜ちゃんにまずそれを言ってからだね。来て欲しいってきっと思ってると思うけど。それにお弁当とかも作ってもらえたら喜ぶと思う。あれ?お弁当はどうしてたの?」
「ははは。お恥ずかしながら、それは俺が作りました。菜々子は料理とかダメダメだったからね」
「じゃあ、キョウが来るかどうかだけじゃない?2人で話し合いして決めるしかないよね。翔の体育祭は『くるな』の一言だったからお弁当しか用意できなくて…しかも9月で終わってるの。だから翔もお弁当で釣れば応援に来ると思うし…」
キョウはうーんっと唸りながらも何かを考え始めていた。私はその様子を見ながら話を進めつつ食後のコーヒーを飲んだ。
「5人でご飯かぁ。ねぇ、まるで家族みたいじゃない?」
「はっ?」
キョウはニコッと笑うと私の左隣の椅子に移動していた。びっくりしてコーヒーを吹き出しそうになった私のマグカップを奪ってテーブルに置くと、私の左手をぎゅっと両手で握ってにっこり微笑んだ。
「ちょ、何」
「ナナ。俺とのこと考えてくれた?」
「いや、だから…」
「毎週土曜の夜が俺も美桜も楽しみなんだ。美桜はナナの作るご飯が楽しみだし、ナナ達家族に会えるのが楽しみっていつもウキウキしてるんだよね。俺も同じ。ナナがご飯作ってる姿を眺めるのが好きだし、同じ空間にいられるのも好き。皆んなで食卓を囲むのも好き。翔くんも翼くんも懐いてくれてすごく可愛い。それに…ナナのことをもっと愛おしく感じていくんだ」
「………」
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「結婚を前提で付き合って欲しい」
「うっ…だから…その」
「ナナ。俺のこと嫌い?」
顎を掴まれ、15センチほどの距離に顔が近寄ってきた。私はスッと目線を背けつつも、キョウの顔が近づいてくることを拒否できずにいた。
(嫌いか?嫌いかだなんて…)
キョウと別れた原因は浮気だ。貴史と変わらない。でもあの時の写真の映像はもうあまり思い出せない。貴史と菜々子さんの情事で塗り替えられたのだろうか。
約2ヶ月。家のことを助け合って隣同士仲良く付き合ってきた。その中で、キョウが美桜ちゃんを大事に育ててるのも伝わってきたし、美桜ちゃんもキョウを大好きなのがわかった。複雑な環境の中でもあんなに素直でいい子に育ったのは、キョウが美桜ちゃんとの関わりを続けていたからだと思う。
(でも…好きかと言われると…)
美桜ちゃんの父親としては尊敬できる。私の子供達への対応も扱いも上手い。正直言って5人で過ごす時間は穏やかだったし、楽しい。違和感もない。
ただ、私の気持ちはまだそこまで育っていなかった。
「ナナ。黙ってちゃわかんない。キスするよ」
目を逸らして考え事をしてる間にキョウの顔は目の前にあって、唇が触れ合うギリギリの距離だった。その状況にびっくりして顔を後ろに引くと、キョウは少し悲しそうな顔で笑って私から距離をとった。
「ごめん。焦っちゃった。ナナとの幸せな時間をずっと続けたいって思う自分がいてさ。ごめん」
私の態度に拒否の姿勢を感じたキョウは苦笑いをしながら立ち上がって元の席に座った。それを見た私はホッと息をついた。何故か心臓はうるさいほど鳴っている。驚いたからだろうか。ドキドキしている心臓の音が本当にうるさい。落ち着くためにコーヒーを一口飲んでから、うるさい音を聞きながらキョウに考えていたことを伝えた。
「まだわからない。美桜ちゃんの父親としての姿を見てて尊敬できる部分があるなっては感じてる。私の子供ともうまく付き合ってくれてるし、感謝もしてる。でも、私たちが男女の関係で付き合うかって考えるとまだわからない。嫌いだとかそんな感情はないんだけど…」
「んっ、そっか…可能性がないわけじゃないってことか」
キョウは私の言葉を聞いてホッと安心したように肩の力を抜くと、ニコッと微笑んだ。
「じゃあ、もう少し振り向いてもらえるようにアピールしようかな。危険レーダー搭載イケメンに許可取って」
「ナニソレ」
「こっちの話」
キョウはふふっと笑ってから飲みかけのコーヒーを飲み干した。そして立ち上がってマグカップをシンクに置くと、翼の部屋のドアをノックして声をかけた。
「美桜。かえるよー」
「はーい!まって、今セーブするから」
「あと翔くんちょっといい?」
「なにー?」
美桜ちゃんがゲーム機を操作してる間にキョウは翔に声をかけた。翔はゲームを中断すると部屋から出てきたようだ。私に聞こえない声で会話を交わして2人で翔の部屋に入っていった。
「あれ?パパは?」
用意が終わった美桜ちゃんが翼と部屋から出てきて、そこにいるはずの人物がいないことに気がついた。私は苦笑いをしながら2人に声をかけた。
「さぁ?男同士の話かな?おばちゃんにもわかんない」
「え、俺も男だけど仲間はずれ?」
「ママにはわかんないよ。とりあえず美桜ちゃんは出てくるまで椅子に座って待ってて。翼はお風呂当番お願いね」
「はーい」
翼は不服そうにしながらもお風呂当番のために浴室へと消えていった。美桜ちゃんは閉じられた翔の部屋の扉を眺めてから、椅子に座って私に話しかけてきた。
「おばちゃん」
「ん?」
「おばちゃんはパパのことどう思ってる?」
「ぶっ、なに、急に」
コーヒーを飲みながら返事を返していた私は美桜ちゃんの言葉を聞いて吹き出しそうになった。慌ててテーブルの上のティッシュ箱から一枚ティッシュを取り出して口元を拭きつつ首を傾げると、美桜ちゃんは少し真剣な顔で見つめてきた。
「パパは娘の私から見てもかっこいいと思う。それにとっても料理がうまいし、家事もこなせるイクメンだよ。それに、パパはおばちゃんと一緒にいる時が一番幸せそうなの。ママといた時よりも。一緒にいられて嬉しくてたまらないってオーラが出てると思う。多分、おばちゃんが好きだと思うんだ」
「え、美桜ちゃん?それは…」
「おばちゃんとパパがもし結婚して、私のお母さんにおばちゃんがなってくれたら…私…嬉しいな。だから、嫌いじゃないなら少しだけパパを見て欲しいの。こんなことお願いして迷惑かもだけど…私、パパには毎日楽しく笑って幸せに生活して欲しいの。ママとの生活ではなかったから…。私は今のパパのままでいて欲しい。私のワガママだけど…」
「う、うーん。ワガママではないとは思うけど…」
「とにかく、少しパパのこと考えてあげて下さい」
美桜ちゃんはペコリと頭を下げた。まだ小学生なのになんとも大人っぽい意見をいう美桜ちゃんは翼に比べて精神年齢が高い。
大好きなパパだからこそ、キョウの変化に気がついたということだろう。なんと言っていいか分からず困っていると、翔の部屋のドアが開いた。
「あ、ごめんごめん。美桜。帰ろっか」
「あ、パパ」
美桜ちゃんは頭を上げると椅子から立ち上がった。キョウが部屋から出てくると翔も続いて部屋から出てきた。そのままキョウと美桜ちゃんは玄関に向かい、靴を履きながらキョウが話しかけてきた。
「じゃあ、行事についてはまた連絡するよ。またな」
「あ、うん。わかった」
「お邪魔しました」
キョウに続いて美桜ちゃんは私達に声をかけて、2人は玄関から外へと出ていった。
「翔。なんの話だったの?」
「あー…。秘密」
「ナニソレ」
「お風呂用意できたよー。誰から入るー?」
「俺イッチバーン」
翔は私からの追求から逃げるように翼に声をかけて、浴室へと消えていった。翼は特に何も気にしせずに「俺、ニバンー」と言って自分の部屋に消えていった。
1人残された私は玄関の鍵をかけてから、テーブルの椅子に座って頭を抱えた。
「美桜ちゃんに投げられた爆弾が…じわじわくる」
父親思いの子供のお願い。とてもストレートだった。
「はぁぁ。少し考えなきゃいけないってことか」
現在の状況に甘えて真剣に考えないままでは不誠実だ。私はこの日の夜。お風呂に入ってる最中も夜寝る前もキョウと美桜ちゃんの言葉が頭をグルグルと回っていた。
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