9 / 30
こんなところにもご縁が
しおりを挟む
また同じような一日が過ぎ去って、面接の日になった。
久しぶりのスーツに気合を入れて、メイクはほどほどに、髪の毛は清潔感を出して、私は面接へと出陣した。
小さな会社だが女性が経営しているそうで、その会社の経理を募集していたのだ。家からも近いし、土日祝日も休みだし、受かったらいいのになぁと思いつつ事務所の中に入った。
「こんにちわ。本日、面接を…」
「ああああああ!!」
「え?」
中に入ってすぐの女性に声をかけようとすると、遠くから大きな声で私に向かって叫びながら近寄る気配を感じた。
「あんたぁぁ!ナナでしょぉぉ!!」
「ええ!?」
びっくりして声がする方向に目線を向けると、姉御肌のカナンさんが立っていた。
カナンさんも昔に比べて老けてはいるが、豪快な感じや頼れる姉御の雰囲気はそのままだった。
「うわー!こんなことってあるのねぇ!面接よね、おいでおいで!」
「えっえっ!?」
「あれがうちの社長です」
「ええええ」
引っ張られるように会議室のような部屋に連れて行かれ、カナンさんは私を椅子に座らせると、向かい側の椅子に座った。
「ナナ、久しぶりねぇ。キョウと別れてから私たちとの縁も綺麗に切って…」
「そ、その…あの」
「いいのよ。キョウが浮気したって本人から聞いたわ。それはあいつが悪いの。で、ナナは急にどうして仕事を始めようと思ったの?」
私は鞄から履歴書を取り出してカナンさんに渡しながら、今までの経緯を話した。話を聞くほどカナンさんの眉間に皺がよっていき、最後は噴火したような顔になった。
「反省してようが、してまいが…1人の女として、そんな男を捨ててしまって正解よ!と言いたいわ。よく決断したわね。うーん。じゃあ、来週の月曜から来れる?よかったわぁ。産休育休で休んでる人の穴埋め出来そうな経験者がきてくれて!」
カナンさんはプリプリ怒りつつも履歴書をざっと見てから、私に目線を向けて微笑んだ。
「つ、つまり」
「相澤香織さんを採用よ。あ、いけない。自己紹介してないわ。金井夏美よ。社長でもいいし、夏美さんでもいいわ。カナンって呼ばれても他の人はわかんないからね」
パチンっとウィンクをした夏美さんは私から紹介状を受け取って、来週からの説明をいくつかすると話が終わったとばかりに、ニヤニヤとしながらプライベートに踏み込んできた。
「で?キョウとよりを戻すの?」
「えええ…それは、まだ考えられなくて…」
「あいつねぇ。かなりナナに惚れてたから…一度の過ちにだいぶ後悔して、私たちとも連絡は取るけど…。って感じだったのよね。しかしまぁ、マスターとはプライベートでも仲良くしてたのかしらね、弁護士だって知ってたってことは。なるほどねぇ」
1人勝手に納得しながら、夏美さんはウンウンと頷いた。そしてニコッと微笑んで私を見つめた。
「こんなおばさんになってから、若い時の知り合いに会うなんてね。縁ってどこで繋がってるかわからないものね」
「は、はい。マスターのことも仕事のことも、キョウの事も…私が歩いた道の上で出会った人達とまた道がつながってるような感覚は不思議で。これが縁なのだなぁと思うと、少しの縁も馬鹿にできないなと、しみじみしてます」
「そーよ、小さな縁が大きな縁になるのよ。ああ、楽しみね。わからないことがあれば周りに聞いてね!」
「は、はい」
「じゃあ、面接は終わり!帰って豪華なご飯食べてビールでも飲んで寝なさいね」
夏美さんは優しく笑ってから、私を見送ってくれた。私は社員さんみんなにぺこぺこと頭を下げながら会社を後にした。
[仕事決まった。来週からだって。偶然だけど、カナンさんの会社だった。びっくりしちゃった。女社長って知ってた?]
私は貴史よりも先に、何故かキョウに連絡をしていた。カナンさんのことを誰かと共有したいと思ったら、頭に浮かんだのがキョウだったからだ。
[それは知ってたけど。まさか、その会社に就職するなんて思ってなかったよ。でも、よかったね。旦那はどんな感じ?]
[私の希望通りにするって。離れてから頭が冷えたみたい。そっちは?]
[怪しんで色々準備してたから、本人が駄々こねても離婚はできると思う。お金については、慰謝料と相殺して余れば渡せばいいかなってマスターと話してる。ただ、他に男がいるみたいだから、色々やらないといけないことが多そう]
私はキョウからの返信を眺めてからため息をついた。やはり、菜々子さんは他にもいたのだなっと思うと、何故菜々子さんは浮気したのか。ふと疑問に思った。
[夫婦関係は本当に良かったの?]
そう文章を打ち込んでから、私は文字を全て消した。こんなこと聞いたってしょうがないからだ。
[そっか。私も佐藤さんに連絡しなきゃ。後で電話しようかな。そろそろ夕飯の支度があるから、またね]
話を打ち切るように返信すると、キョウからは[またねっていいね、またね]っとだけ返ってきた。何がいいのか理解できず首を捻りながら、私は自宅へと帰って行った。
子供たちに仕事が始まることを伝え、夕飯も手の込んだものはなかなか出せなくなることを話すと、2人は「ママのご飯はなんでも美味しい」だなんて言ってくれた。
子供達の何げない言葉が心に染みて、ホロリと涙を流しそうになりながらも楽しく食卓を囲んだ。
いつも通りに過ごして、寝る前に貴史へ仕事が決まったことを連絡した。明日は朝から佐藤さんに電話をして、今後について相談しようと決めて眠りについた。
久しぶりのスーツに気合を入れて、メイクはほどほどに、髪の毛は清潔感を出して、私は面接へと出陣した。
小さな会社だが女性が経営しているそうで、その会社の経理を募集していたのだ。家からも近いし、土日祝日も休みだし、受かったらいいのになぁと思いつつ事務所の中に入った。
「こんにちわ。本日、面接を…」
「ああああああ!!」
「え?」
中に入ってすぐの女性に声をかけようとすると、遠くから大きな声で私に向かって叫びながら近寄る気配を感じた。
「あんたぁぁ!ナナでしょぉぉ!!」
「ええ!?」
びっくりして声がする方向に目線を向けると、姉御肌のカナンさんが立っていた。
カナンさんも昔に比べて老けてはいるが、豪快な感じや頼れる姉御の雰囲気はそのままだった。
「うわー!こんなことってあるのねぇ!面接よね、おいでおいで!」
「えっえっ!?」
「あれがうちの社長です」
「ええええ」
引っ張られるように会議室のような部屋に連れて行かれ、カナンさんは私を椅子に座らせると、向かい側の椅子に座った。
「ナナ、久しぶりねぇ。キョウと別れてから私たちとの縁も綺麗に切って…」
「そ、その…あの」
「いいのよ。キョウが浮気したって本人から聞いたわ。それはあいつが悪いの。で、ナナは急にどうして仕事を始めようと思ったの?」
私は鞄から履歴書を取り出してカナンさんに渡しながら、今までの経緯を話した。話を聞くほどカナンさんの眉間に皺がよっていき、最後は噴火したような顔になった。
「反省してようが、してまいが…1人の女として、そんな男を捨ててしまって正解よ!と言いたいわ。よく決断したわね。うーん。じゃあ、来週の月曜から来れる?よかったわぁ。産休育休で休んでる人の穴埋め出来そうな経験者がきてくれて!」
カナンさんはプリプリ怒りつつも履歴書をざっと見てから、私に目線を向けて微笑んだ。
「つ、つまり」
「相澤香織さんを採用よ。あ、いけない。自己紹介してないわ。金井夏美よ。社長でもいいし、夏美さんでもいいわ。カナンって呼ばれても他の人はわかんないからね」
パチンっとウィンクをした夏美さんは私から紹介状を受け取って、来週からの説明をいくつかすると話が終わったとばかりに、ニヤニヤとしながらプライベートに踏み込んできた。
「で?キョウとよりを戻すの?」
「えええ…それは、まだ考えられなくて…」
「あいつねぇ。かなりナナに惚れてたから…一度の過ちにだいぶ後悔して、私たちとも連絡は取るけど…。って感じだったのよね。しかしまぁ、マスターとはプライベートでも仲良くしてたのかしらね、弁護士だって知ってたってことは。なるほどねぇ」
1人勝手に納得しながら、夏美さんはウンウンと頷いた。そしてニコッと微笑んで私を見つめた。
「こんなおばさんになってから、若い時の知り合いに会うなんてね。縁ってどこで繋がってるかわからないものね」
「は、はい。マスターのことも仕事のことも、キョウの事も…私が歩いた道の上で出会った人達とまた道がつながってるような感覚は不思議で。これが縁なのだなぁと思うと、少しの縁も馬鹿にできないなと、しみじみしてます」
「そーよ、小さな縁が大きな縁になるのよ。ああ、楽しみね。わからないことがあれば周りに聞いてね!」
「は、はい」
「じゃあ、面接は終わり!帰って豪華なご飯食べてビールでも飲んで寝なさいね」
夏美さんは優しく笑ってから、私を見送ってくれた。私は社員さんみんなにぺこぺこと頭を下げながら会社を後にした。
[仕事決まった。来週からだって。偶然だけど、カナンさんの会社だった。びっくりしちゃった。女社長って知ってた?]
私は貴史よりも先に、何故かキョウに連絡をしていた。カナンさんのことを誰かと共有したいと思ったら、頭に浮かんだのがキョウだったからだ。
[それは知ってたけど。まさか、その会社に就職するなんて思ってなかったよ。でも、よかったね。旦那はどんな感じ?]
[私の希望通りにするって。離れてから頭が冷えたみたい。そっちは?]
[怪しんで色々準備してたから、本人が駄々こねても離婚はできると思う。お金については、慰謝料と相殺して余れば渡せばいいかなってマスターと話してる。ただ、他に男がいるみたいだから、色々やらないといけないことが多そう]
私はキョウからの返信を眺めてからため息をついた。やはり、菜々子さんは他にもいたのだなっと思うと、何故菜々子さんは浮気したのか。ふと疑問に思った。
[夫婦関係は本当に良かったの?]
そう文章を打ち込んでから、私は文字を全て消した。こんなこと聞いたってしょうがないからだ。
[そっか。私も佐藤さんに連絡しなきゃ。後で電話しようかな。そろそろ夕飯の支度があるから、またね]
話を打ち切るように返信すると、キョウからは[またねっていいね、またね]っとだけ返ってきた。何がいいのか理解できず首を捻りながら、私は自宅へと帰って行った。
子供たちに仕事が始まることを伝え、夕飯も手の込んだものはなかなか出せなくなることを話すと、2人は「ママのご飯はなんでも美味しい」だなんて言ってくれた。
子供達の何げない言葉が心に染みて、ホロリと涙を流しそうになりながらも楽しく食卓を囲んだ。
いつも通りに過ごして、寝る前に貴史へ仕事が決まったことを連絡した。明日は朝から佐藤さんに電話をして、今後について相談しようと決めて眠りについた。
0
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる