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こんなところにもご縁が

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 また同じような一日が過ぎ去って、面接の日になった。

 久しぶりのスーツに気合を入れて、メイクはほどほどに、髪の毛は清潔感を出して、私は面接へと出陣した。

 小さな会社だが女性が経営しているそうで、その会社の経理を募集していたのだ。家からも近いし、土日祝日も休みだし、受かったらいいのになぁと思いつつ事務所の中に入った。

「こんにちわ。本日、面接を…」

「ああああああ!!」

「え?」

 中に入ってすぐの女性に声をかけようとすると、遠くから大きな声で私に向かって叫びながら近寄る気配を感じた。

「あんたぁぁ!ナナでしょぉぉ!!」

「ええ!?」

 びっくりして声がする方向に目線を向けると、姉御肌のカナンさんが立っていた。

 カナンさんも昔に比べて老けてはいるが、豪快な感じや頼れる姉御の雰囲気はそのままだった。

「うわー!こんなことってあるのねぇ!面接よね、おいでおいで!」

「えっえっ!?」

「あれがうちの社長です」

「ええええ」

 引っ張られるように会議室のような部屋に連れて行かれ、カナンさんは私を椅子に座らせると、向かい側の椅子に座った。

「ナナ、久しぶりねぇ。キョウと別れてから私たちとの縁も綺麗に切って…」

「そ、その…あの」

「いいのよ。キョウが浮気したって本人から聞いたわ。それはあいつが悪いの。で、ナナは急にどうして仕事を始めようと思ったの?」

 私は鞄から履歴書を取り出してカナンさんに渡しながら、今までの経緯を話した。話を聞くほどカナンさんの眉間に皺がよっていき、最後は噴火したような顔になった。

「反省してようが、してまいが…1人の女として、そんな男を捨ててしまって正解よ!と言いたいわ。よく決断したわね。うーん。じゃあ、来週の月曜から来れる?よかったわぁ。産休育休で休んでる人の穴埋め出来そうな経験者がきてくれて!」

 カナンさんはプリプリ怒りつつも履歴書をざっと見てから、私に目線を向けて微笑んだ。

「つ、つまり」

「相澤香織さんを採用よ。あ、いけない。自己紹介してないわ。金井夏美かないなつみよ。社長でもいいし、夏美さんでもいいわ。カナンって呼ばれても他の人はわかんないからね」

 パチンっとウィンクをした夏美さんは私から紹介状を受け取って、来週からの説明をいくつかすると話が終わったとばかりに、ニヤニヤとしながらプライベートに踏み込んできた。

「で?キョウとよりを戻すの?」

「えええ…それは、まだ考えられなくて…」

「あいつねぇ。かなりナナに惚れてたから…一度の過ちにだいぶ後悔して、私たちとも連絡は取るけど…。って感じだったのよね。しかしまぁ、マスターとはプライベートでも仲良くしてたのかしらね、弁護士だって知ってたってことは。なるほどねぇ」

 1人勝手に納得しながら、夏美さんはウンウンと頷いた。そしてニコッと微笑んで私を見つめた。

「こんなおばさんになってから、若い時の知り合いに会うなんてね。縁ってどこで繋がってるかわからないものね」

「は、はい。マスターのことも仕事のことも、キョウの事も…私が歩いた道の上で出会った人達とまた道がつながってるような感覚は不思議で。これが縁なのだなぁと思うと、少しの縁も馬鹿にできないなと、しみじみしてます」

「そーよ、小さな縁が大きな縁になるのよ。ああ、楽しみね。わからないことがあれば周りに聞いてね!」

「は、はい」

「じゃあ、面接は終わり!帰って豪華なご飯食べてビールでも飲んで寝なさいね」

 夏美さんは優しく笑ってから、私を見送ってくれた。私は社員さんみんなにぺこぺこと頭を下げながら会社を後にした。

[仕事決まった。来週からだって。偶然だけど、カナンさんの会社だった。びっくりしちゃった。女社長って知ってた?]

 私は貴史よりも先に、何故かキョウに連絡をしていた。カナンさんのことを誰かと共有したいと思ったら、頭に浮かんだのがキョウだったからだ。

[それは知ってたけど。まさか、その会社に就職するなんて思ってなかったよ。でも、よかったね。旦那はどんな感じ?]
[私の希望通りにするって。離れてから頭が冷えたみたい。そっちは?]
[怪しんで色々準備してたから、本人が駄々こねても離婚はできると思う。お金については、慰謝料と相殺して余れば渡せばいいかなってマスターと話してる。ただ、他に男がいるみたいだから、色々やらないといけないことが多そう]

 私はキョウからの返信を眺めてからため息をついた。やはり、菜々子さんは他にもいたのだなっと思うと、何故菜々子さんは浮気したのか。ふと疑問に思った。

[夫婦関係は本当に良かったの?]

 そう文章を打ち込んでから、私は文字を全て消した。こんなこと聞いたってしょうがないからだ。

[そっか。私も佐藤さんに連絡しなきゃ。後で電話しようかな。そろそろ夕飯の支度があるから、またね]

 話を打ち切るように返信すると、キョウからは[またねっていいね、またね]っとだけ返ってきた。何がいいのか理解できず首を捻りながら、私は自宅へと帰って行った。



 子供たちに仕事が始まることを伝え、夕飯も手の込んだものはなかなか出せなくなることを話すと、2人は「ママのご飯はなんでも美味しい」だなんて言ってくれた。

 子供達の何げない言葉が心に染みて、ホロリと涙を流しそうになりながらも楽しく食卓を囲んだ。

 いつも通りに過ごして、寝る前に貴史へ仕事が決まったことを連絡した。明日は朝から佐藤さんに電話をして、今後について相談しようと決めて眠りについた。
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