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性格は変わってないのか?

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 帰ってすぐに夕飯の用意をしながら、私はこれからのことを考えた。

 まずは仕事だ。以前は経理の仕事をしていた。ブランクはあるが、資格もある。さっそく明日から求人を探そう。

 次にお金だ。生活するための費用をどれぐらい出してくれるのか、貴史に相談しなければならない。

 最後に、自分の両親への報告だ。離婚を考えていると伝えれば…きっと悲しむだろう。でも、進み出してしまったのだ。親の言いなりになることではないし、私自身の人生の決定権は私にある。ある程度整ってから連絡することに決めた。

 子供達のこと含めて、私達が幸せになる道は…離婚なのだ。そう心の中で言い聞かせるように呟きながら、夕飯を作った。

 3人で夕飯を食べ、お風呂に入れさせ、寝るように促して、私もお風呂に入った。

 1人でポツンっとリビングで座っていると、楽しかった記憶が溢れてきた。

 子供達が寝てからの大人の時間。特に子供が小さい時ほどこの時間が大切だった。子供を追いかけ回している生活で、ゆっくりすることができない私に貴史は仕事で疲れているのに肩揉みをしてくれたりと、何かと構ってくれたのだ。

「あんなに、家族思いの人だったのに…」

 心の隙間とは何と怖いのだろう。ほんの少しの油断で、一つ一つ積み上げた幸せが無くなる。

 切ない気持ちになりながらも、私は貴史にメッセージを送った。

[弁護士が見つかりました。生活費を一部負担してもらう権利が私にはあるそうです。仕事が見つかるまでの間、いくらか負担してほしいです]

 私が送信すると、すぐに連絡が来た。

[今まで通りの金額を使っていいよ。固定費もしばらくは俺が払う。あと、俺が全面的に悪い。1人になって、家に帰って親に話して怒られて、会社に行くたびにやるせない気持ちになって…。とんでもないことをしたと自覚した。離婚には同意する。親権も渡す。養育費もはらう。だから、面会だけはさせて欲しい。頼む]

 もっと言い訳をして縋るような返事かと思っていた私は拍子抜けした。

「そっか。家族思いなのは変わらないんだ…」

 子供達のことも考えて決めたのだろう。私は貴史が全て変わったわけでない事に少しだけモヤモヤとした気持ちとホッとした気持ちが入り混じったような気分になった。

[わかりました。菜々子さんとはもう会わないように。会うたびに慰謝料跳ね上がりますから]

[わかってる。テニスもやめる。連絡先は交換してない。しようと持ちかけたら断られた。体の関係については、菜々子ちゃんから声をかけてきた。話してみて、若い子と話すのが楽しくて、誘われるがままに関係を持った。毎回テニスに行くと第三土曜の待ち合わせ場所を決めてた。関係を持ってたのは第三土曜だけ。テニスの日はしてない。ピルを飲んでると言ってて毎回中に出してた、ごめん。多分子供ができる可能性は低いと思う。でももし出来てれば認知はすべきだと思ってる。今回はテニスの日なのに、菜々子ちゃんに誘われて、欲望に負けてしまった。ごめん]

 私はハァァァっとため息をついた。キョウも元々怪しいと思っていたと話していたが、菜々子さんは…貴史以外にも相手がいるのではないだろうか。そんなことを思いつつ返事を返した。

[許しはしません。でも、私に少しでも有利になるように離婚して欲しいです。子供達のために何ができるのか、父親としてどうありたいのかを考えて欲しいです。もう私は貴方の女、妻をやめます。そのつもりで接してください]

[だから、文章も敬語なんだな。わかった]

 私は貴史に返信せずに、そのまま寝室に向かった。

「一歩前進かな」

 ポツリと呟いてから、私は目を瞑った。


 この日見た夢は、幸せだった頃の家族での一日の記憶だった。何気ない日常。でも、もう帰ってこない日常。

 朝起きて、自分が泣いていることに気がついたが、私はもう止まれなかった。





 子供達を送り出してから、求人を探しに出かけることにした。自分でパソコンを触って求人を探したり、職業相談で話を聞いてもらったりと自分にできる仕事がないかを探した。

 一日目で、何件か通えそうな企業があったため、紹介してもらうこととなった。

 スーツは昔着ていたものが着れないかもしれない。一旦家に帰って試着しよう。証明写真も撮らなきゃいけない。

 そう思いながら履歴書を買って帰宅すると、スーツを掘り出して試着して、上着とブラウスだけ来て近くのコンビニで写真を撮った。

 スーツも買い直す必要がなさそうだったのは幸いだった。今は無駄に出費したくないからだ。

 2日後の面接に向けて、カリカリと履歴書を書いて、写真を貼った頃には夕飯の支度をするには少し遅い時間になっていた。

「久しぶりにデリバリーでも頼むか」

 帰ってきて宿題をしている翼にどんなピザを食べたいか聞いて、翔が帰る時間に合わせて届けてもらえるように手配をした。

 その間に洗濯を畳んだりしつつ、残っている家事を終わらせた。

 今日も3人で食卓を囲んで、ご飯を食べ、お風呂に入らせ、寝るよう促し、自分もお風呂に入ってから寝室に向かった。

「今日もまた一歩前進した」

 自分に言い聞かせるように呟くと、私はゆっくり目を閉じた。



 
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