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子供達は絶対に手放さない
しおりを挟む帰りの記憶は曖昧だ。家にちゃんとたどり着いたのだから、ぼーっとしながらも足を動かしたのだろう。
子供たちは私が帰ってくるのを待っていたのか、いないのか、わからないけども。男兄弟で初めてのお留守番は楽しかったようだ。
2人でリビングでゲームして、スナック菓子を食べて、宅配ピザを頼んでとやりたかったことをやりましたという状態のまま2人はリビングで寝こけていた。
「可愛い。でも風邪引くから起こさなきゃね」
幸せそうに寝ている2人の子供を叩き起こして、子供部屋に向かわせると私はシャワーを浴びるためにお風呂に入った。
「あ…そうだ。忘れてた…」
下着を脱ぐとドロっとしたものがついていた。キョウに抱かれて、中に出されたことをやっと思い出した私は乾いた笑いしか出なかった。
「私も穢れてるのかな…」
そんなことを思いながら、出されたものを出そうと、中を掻き出した。そして全ての汚れを落とそうと頭や体をゴシゴシと洗う。洗いながらどんどん涙が溢れてきて、私はシャワーのお湯を体に浴びながら、声を殺して泣いた。
「アフターピルとか飲んだ方がいいよね。月曜日で間に合うのかな」
着替えて髪をタオルで拭きながら、スマホで検索していると72時間以内が期限であることがわかった。
今日が土曜で、されたのが夕方で…
頭の中で月曜の朝イチならいいのだろうかと思いつつ、スマホのアプリで排卵日などを確認した。
「そうか。生理は先週だったから…一応大丈夫の日かな。でももらった方がいいよね」
スマホで婦人科の来院予約をしつつ、私は冷蔵庫から缶ビールを取り出してリビングのソファーに座った。苦手なお酒でも飲まないとやってられない。
つけっぱなしだったテレビからは、ドラマのワンシーンが流れていた。プシュっと音を出して、ビールを一口飲むと炭酸と苦味が口の中に広がった。
ぼーっとしながらドラマを見る。恋愛ものは人気なのだろうか。すれ違いがありながらも主人公が意中の人と恋に落ちる様は純愛だった。
「いいなー」
幸せそうな2人を眺めていると、だんだん自分が惨めに思えてくる。ポロポロ涙が出始めると、ブーブーとスマホが鳴った。
ロック画面で誰からか確認すると貴史から[無事ついたか?]とだけきていた。返信する気力もなくて、私は画面も開かずにスマホを手から離してビールを飲みつつ静かに涙を流した。
朝起きて、子供達に朝食を作って、2人を起こしてと変わらない朝がやってきた。でも私の様子がおかしいことに気がついた長男の翔が食器を洗っている私に小声で話しかけてきた。
「どうしたの?何かあった?パパと…」
「ん?」
「………もしかして、パパのあれ…見たの?」
あれとはなんだろうと思いつつ首を傾げて翔を見つめると、気まずそうにしながらもポケットからスマホを取り出して私に画面を見せてきた。
「う…そ…」
「ご、ごめんなさい。黙ってて…でも俺も、信じられなくて…どうしたらいいかわからなくて…その」
翔は涙を静かに流しながら私を見つめていた。急いで手の泡を水で洗い流して手を拭くと、翔をギュッと抱きしめた。
「ごめんね。ママもごめん。何も知らなくて、見てなくて、ごめん」
「ううう…うううう」
思春期になって多感な時期に父親が私以外の女性と腕を組んで歩いている姿を見るなんて…辛かっただろう。それでも写真に撮っていたのは、この子なりに何か思うことがあったのかもしれない。
「ごめんね。ママ…何も知らなくて…ごめんね。1人で抱えさせてごめんね」
「せ、先月の第三土曜に…見たんだ。俺、友達と遊びに行ってて…それで…。信じられなくて、思わず写真撮って…何度も見たけど、どう見てもパパで…うう…。ママに言わなきゃって思ってたけど、怖くて…ごめんなさい」
昨日は第二土曜日だった。この子が2週間1人で抱え込んだことに私は心がズキズキと痛んだ。
「にーちゃん。ママ。なんで泣いてるの?」
状況がわかっていない次男の翼は泣いている私たちを不思議そうに首を傾げて声をかけてきた。
「翼…翼もごめんね」
泣きながら翼に手招きすると、翼は首を傾げながらこちらに近寄ってきた。2人まとめてぎゅーっと抱きしめると私は涙を流しながら決心した。
(別れよう。そして2人は私が育てる)
「翔。後であれ、送ってね。あと、2人ともこれから先バタバタすると思うの。ちゃんと決まったら2人にも話すから、今まで通り元気に学校行って、元気に遊んでゲームして過ごしてね」
「……わかった」
「?????」
長男は涙を拭きながら心得たと頷き、状況がわからない次男は首を傾げてから長男に習って頷いた。
「ママ。もっと強くなるね」
「えー。ママ怒ると怖いのに、さらに強くなったらオニババじゃん」
「こら!翼!」
翼がからかうように話すのを怒ったような顔で注意すると、翔は調子を取り戻したのかクスクスと笑い始めた。
2人と少しだけ話してから、私は家事をするために2人と離れた。離れる際に、翔は小さな声で「俺はママについてくから」とだけ言ってくれた。これが嬉しくて、さらに強くあらねばと心の中を引き締めた。
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