鬼神伝承

時雨鈴檎

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第四章

切り立つ壁山

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険しい山道を壬生を先頭に進む。獣道から外れ、山に到着した二人はここを登るのかと唖然とする程に、岩肌の上に絡みつくよう深い森に覆われていた。
「大丈夫か」
崩れやすい岩場から足場を探しながら、木の根を頼りに登っていく。
門桜の様子に気遣うように声をかけた。応えるよう目を細めて門桜は頷いて答える。

眠っていた戦鬼が目が覚めれば、起こしに声をかけた門桜を強く抱きしめた。寝ぼけて寝床へ引き込まれることは時折あれど、そういうものとは違う。
まるで縋り付くような。
その存在を確認するような。
何事かと落ち着いた戦鬼に話を聞けば、門桜と別れた日を思い出したのだと。
不思議とはっきりと覚えている夢を、不知夜の記憶を、約束のことは気恥ずかしさから言わずに話した。
山で栗拾いをしていた事。
途中男たちに襲われた事。
門桜が単身二人の男を引きつけ、自分を逃した事。
そして、呼びに行く途中で自身も襲われた事。
話を聞いた二人は、不知夜の受けた仕打ちに絶句していた。特に門桜は、話の合間に「そんな」「なんで」と繰り返し呟いて、その赤い大きな目を潤ませていた。実際にその傷を見ていたからだろう、俺の話に納得しました部分もあるのか、しばらく戦鬼の手を握りごめんと繰り返し呟いた。
戦鬼は、不知夜の受けた物がなんであるかも、理解できていない様子で、話し終えた後は不思議そうに首を傾げていた。
壬生が、辱められ、蹂躙された意味をなんなのかを、説明してやれば眉を寄せて渋い顔をつくり、門桜がそう言う目に合わなくて良かったと笑っていた。
門桜がその言葉で耐えきれず泣き始めたのは言うまでもない。
そのため、もう一日休むかと、ひどく落ち込んだ門桜を気遣った。


「お前ら大丈夫か?」
慣れた調子で登る壬生が、安定した足場で振り返り声をかける。
手を差し出して戦鬼を引き上げる。
ありがとうと手を借りて登りきった戦鬼が振り返り門桜に声をかけようとすれば、門桜は隣にひょいっと飛び上がり、軽く裾を叩く。
結局、休むことはなく、一度頬を張り首を振ると、行けると立ち上がった門桜の言葉通り、引きずった様子もなく、ここまで来ていた。
時折戦鬼が気遣ってはいるものの、どちらかといえば危なっかしく登る戦鬼が逆に手を貸されていた。
吹っ切れたとまではいかないが、門桜にとって当時の出来事はすでに済んでいる事。今更何を思っても、言っても帰っては来ない時間なのだから。そう言い聞かせるように呟いて、戦鬼に話してくれた事に礼を言った。その時の門桜の表情は笑ってはいるが、泣くことを堪えるような複雑な顔をしていた。

また登り始めて数刻、ようやくひらけた場所に出ると、壬生が足を止める。
門桜もゆっくりと袖に手をかけてあたりを探るようにぴんっと狐の耳が立つ。
最後に登って来た戦鬼は、少し息をついてから二人にどうしたのだと声をかけようとして、ざわりとひりつく視線に気付いた。
「なに……が」
戦鬼が、視線に警戒するように辺りを見回すと、少し門桜が笑う。
「多分この辺りに住み着いてる魔獣だね」
「あぁ、人がこねぇ場所だからな、こう言うのがわんさかといる」
気の立つ魔獣に狩場に入ったんだと壬生が苦笑いする。その言葉に、もっと早く思い出して欲しかったねと、呟いた門桜は懐から小刀を取り出す。
「どうするの?見逃してくれるとは思えないけど」
「やるしかねぇだろ、餌になりたくなけりゃな」
壬生も腰にかけた刀に手をかける。
「戦うのか……?」
戦鬼の言葉に、頷くと「この辺りのは強そうだね」と冗談交じりに門桜が呟いてこちらを見る視線と対峙する。

のしのしと3対の足を器用に進め姿を現したのは大型の獣。
体格に似合わず、少し丸みを帯びた子犬のような愛らしい顔を歯茎をむき出しにし歪ませせれば、低い唸り声を上げる。
腹を空かせているのだろうギラギラとした目と、滴る涎がその愛らしさ台無しにする。
「なっ……んで、こんなとこにコヨーテルが」
の肉食魔獣、コヨーテル。
壬生が驚いた声を出す。門桜も同じ事を思ったのか、息を呑み目を見開いた。
戦鬼だけが、理解できず首をひねると、門桜が耳打つ。
コヨーテルは本来砂漠の魔獣。このような切り立った山に住んでいるはずがない。あの3対足は、サラサラとした踏ん張りの効かない砂場で、素早く、力強く動き回るために進化したと言われている。少し広がった大きな足先は、岩場でも存外役に立っているようだった。
ただ、門桜は違和感を覚える。
「私の知るコヨーテルは小型の魔獣だった筈だけど……」
目の前のコヨーテルは、小さいものでも人と同じほどの大きさをしている。記憶にあるコヨーテルは確か抱えられる程度の大きさのはずだった。
「この山は……要地ニーディアスらしくてな、魔獣がとりわけ大きく育つんだとよ。この山の魔獣どもは、でかいし強い」
今から会う知人の言葉を思い出して呟くと、門桜が成る程と納得したように頷いた。力の中心地点と呼ばれる地、大地の女神ニーディアをなぞらえ、そう呼ばれる。ならば目の前の巨大化したコヨーテルも納得できる。そして、此処はと一人目を細めた。

「この間来た時にこんな奴らいなかったはずだがな……迷い込んだにしてもこの辺りにコヨーテルが生息しているような、砂漠なんぞありゃしねぇぞ」
そもそも砂漠がねぇと眉をひそめながら唸りを上げる、魔獣を睨め付ける。
「どういうことだ?」
「想像はつくがな……あいつの幼体は裏市で取引される。」
門桜と戦鬼が首をひねる二人だが、すぐに壬生返した言葉で、門桜はピンときたように、その綺麗な眉間にシワがよる。コヨーテルは上質な毛皮として人気が高い。特に、幼体はころころと丸い体躯に、綿毛のような柔らかい毛を持つ。
若い毛皮は特に高く売れる、幼体でしか手に入らない幼体の牙は生薬としても有名だ。
確実に手に入れるなら飼ってしまう事だろう。
「逃げ出して、ここに住み着いた……?」
「大いに可能性はある……」
或いは物好きな金持ちどものペットが扱えなくて捨てられたかと、考えうるものに眉を寄せる。
壬生は頷くと、こちらに攻撃してこない三人の様子を見ていた、コヨーテルの中で一番小柄な個体が飛びかかってきた。
身構えたままの三人、とりわけ一番小さく弱そうに見える門桜めがけ、コヨーテルがその大きな口を広げる。門桜は身を低くして、噛みつきを交わすと、手を地面へつけ、逆立ちするように大きく足を振り上げ、下顎を蹴り上げる。
「きゃい……!」
甲高い鳴き声をあげて軽々と吹き飛ぶ。首が折れたのか口から泡を吹きそのまま動かなくなった。一瞬怯んだコヨーテルだったが、まるでその動きが合図だったかのように、動き出す。
まず端にいた左右三匹がそれぞれ2対1組となり、その鋭い爪を繰り出す。片方が攻撃を仕掛け、それに対応し打ち返せば、もう一匹から攻撃を受ける。最初こそ三人は背を預け合うようにしていたが、入れ替わり立ち替わり、交互に爪を繰り出すコヨーテルに対し、三人は視線を合わせる。それぞれが頷き会うのを確認する。

壬生は、腰の刀を引き抜き、爪撃を打ち返す。そして走った。攻撃の合間を縫い、攻撃を仕掛けようと構えいまだ動きを見せない群へ突っ込む。

門桜は、爪撃を放つ一匹の足を掴むとそのまま振り回すようにして、飛びかかってきたもう一匹を叩きつける。叩きつけた二匹の骨が軋み合う音とが響く。勢いに任せ壬生へ向かう一匹へ、ぐったりとした最初に掴んだコヨーテルを投げる。命中した方は、その勢いに近くの木に打ち付けられると動かなくなる。

戦鬼は、飛びかかるコヨーテルの歯を腕で受け止め、空いた手の先に影を収束させる。集まったのは壬生の背負う刀に似た、背丈ほどの大剣。飛びかかるもう一匹に振り下ろしてそのまひき潰す。噛み付いたコヨーテルへ向け頭突きを与えれば、口を離し下がる首元に噛み付く。ぶちり、筋の切れる音ととも血が吹き出した。そして手早く視界が晴れると、先ほどまで噛まれていた手に影が集まった。完成するのは、龍の頭を思わせる飾りのついた猟銃。以前に祭りで見た射的の銃と壬生の持つ銃を元に作り出したものだ。
まだ動く壬生へ向かう最期の一匹の頭を撃ち抜く。

六匹の獣はあっという間に、二人の手により沈黙した。その様子に、ほかのコヨーテル達は怯み数歩下がる。その隙を壬生は見逃さない。踏み込みもう一本の刀も引き抜くと両手で構えた刀で近場の三匹の首を切り落とす。
「ぐるる……ガぁぁ!」
「壬生!!下がれ!」
次へと足を向かわせた時、頭上から一際大きな咆哮が耳をつんざくのと、門桜の声が同時に響く。とっさに後ろに身を引かせると、だん、だんっと二発の連続した発射音。
「コヨーテルガデルダ……!?くっそ進化してる奴がいやがったのか!」
壬生が居た場所に大きなくぼみができ、その足を追いかければそこには二つの頭。
戦鬼が撃った弾はその眉間にしっかりと命中していた。撃たれたその目がぎろりと戦鬼へ向く。
二頭首ガデルダ。魔獣はある程度経つと進化する個体が現れる。それぞれに特徴のある呼称がある。目の前のは二頭首、名前の通り頭が二股に分かれる。そして、何より厄介なのはその二つの頭を同時に切り落とさなければ倒せない事だ。
「二頭首だけじゃないよ…三頭首トプリテもいる」
門桜と戦鬼の近くへと下がり、刀についた血と脂を払い落として袖で拭く。
壬生のつぶやきに、門桜が答えるように呟くと奥から3頭の二頭首を引き連れた3つ首のコヨーテルが現れた。それに合わせて、通常のコヨーテル達が後ずさっていく。
「なるほど、あれがリーダーか」
二頭首が4体いるだけでも厄介だというのにと、中心に立つ見上げるほどの巨体に壬生は舌打つ。

「どうする、三頭首は私も実物は初めてだ……多分倒し方は二頭首と同じでいいはずだけど」
「同時に3つ落とすか……」
門桜と壬生は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
そこでふと、門桜の戦闘スタイルを思い出す。門桜の尾は自在にそれぞれが別の生き物のように動いてたはずだ。
「門桜、お前の尾なら同時に3つ切り落とせるか?」
「あれ一匹に集中できるなら」
浮かんだ疑問に尋ねれば、すぐに門桜が頷く。なら決まりだなと口の端を上げれば「戦鬼、右側の二つ頭2体と雑魚やれるな?」視線も投げずに声をかける。
「問題ない、動きは掴んだ」
「ならそっちを引き付けろ」
「わかった。殺しても問題ないんだな?」
「当然だ、もとより殲滅のつもりだ」
この土地に住むはずのない種。どんな理由でここに住み着いたかわからないが、少なくともこいつらは何者かの手によって運び込まれたものだ。ならば、ほかの種への影響が出る前に潰しておく必要がある。否ここまで育ったものがいるのであれば、既に影響が出ていてもおかしくない。
頷いた壬生に、少し目を細めた戦鬼は口に滴るコヨーテルの血を拭い舌なめずりをする。
その目が見開かれ、地面を蹴り上げれば閃光のごとく、二頭首の前へ躍り出る。

あっという間に二匹を相手取り、他の飛びかかる通常種をいなし、躱し、叩き潰し、切り落とす。確実にその命を奪っていく戦鬼。その戦い方は、研ぎ澄まされた戦士の動きであるが同時に獣らしい、荒さを持っていた。
握る大剣が大きく湾曲し、細身の刀へと変化すれば、二頭種の足を切りつける。痛みによろめいた隙を逃さず、片側の喉元に噛み付く。そのまま腕を噛み付く首筋をに、太ももで挟むようにもう一方の首抱くと、そのまま体を大きく捻った。ごきりぶちぶちと、骨が折れ肉がちぎれる鈍い音を立て、ぬいぐるみの首でももぐかのように容易くその首が引きちぎられる。
噛みちぎって口に入った肉をそのままゴクリと飲み込むと、そのあまりの光景に本能からか尾を丸める、通常種を一瞥し笑みを浮かべた。

壬生も再び刀を構えると、左の刀を腰に戻し、懐から装飾のない無骨な黒い鉄の塊のような銃を取り出す。
壬生はたまたま鬼狩りの武器が大振りなだけで、本来は二刀二丁を持ち替え遠近を使い分ける、スピードを生かした戦法を得意とする。
戦鬼に眉間を撃ち抜かれた二頭首が、ぶるぶると頭を振ると、からんからんと打ち込まれた弾が落ち消滅する。そして二匹を相手取る戦鬼へ、吠え飛びかかる。
「お前の相手は俺だろう?」
ずだんっと重い音をたてる壬生の銃が煙を吹く。音に振り向いた二頭首の足に弾が当たる。ぱきんと音が立つと、弾の当たった箇所から広がるように凍りつく。
「まずは一匹目」
にやりと笑うといつのまにか、二刀に持ち替えた壬生が凍りついて動きを奪われた二頭首の手前に飛び上がり、体を軸に駒のように二つの首の間で回り、切り落とす。

門桜の着物が揺れる。周囲の草木が舞い土ぼこりが立つ。ゆっくりと着物の隙間から一本また一本と尾が生えてくる。ピンと立った狐の耳が、目の前の三頭種を捉える。
左右の二人が走り抜け、二頭首と周りの通常種を引きつける。
ゆっくりと息を吐くと、9本に生え揃った自在に動く尾を一斉に、三頭首へと伸ばす。
まずは一直線に、三頭首が此方へ気づき向かってこようとすれば扇を広げるように四方へ飛ばす。ガラ空きになる門桜へ向けて大きな爪が振り下ろされる。たんっと軽く後ろへ飛ぶと、爪撃を躱す。
地面を虚しく殴りつけた三頭首にむけて、四方へ飛ばした尾先を急展開させ、一直線に向かわせる。た、た、たんと躱す三頭種に合わせて次々と尾先が襲いかかる。
「ぐがぁぁ!」
最初こそ、門桜に対し爪撃を与え、叩きつけ、噛みつきダメージを追わせていたが、次第に門桜の尾のペースに次第に飲まれていく。三頭種の腹に、一本突き刺さる。それを筆頭に残りの5本の尾が動きを止めるように次々と貫いていく。
3つの口から其々血が垂れる。動きを封じられ唸り声と血を共に撒き散らす三頭首の手前血がギリギリ飛んでこない所へ歩み寄ると、まだ自由に動く3本の尾で、その首を貫いた。


そこに動く獣はいなくなった。赤い水でも被ったかのように、全身血だらけの壬生がぜいぜいと肩で息をして座り込む。あちこちが痛み悲鳴をあげている。
「大丈夫か?」
「あぁ?なんでそんな……いや……お前さんは喰いながら戦ってたな……」
横でしれっと立ち立てるかと手を差し出す戦鬼。此方も変わらず全身血まみれだが、壬生と違いめぼしい傷は見当たらない。服が所々破れている後頃を見る限り、怪我は負っていたのだろう。その戦い方故か既に治っているようだった。
「私もしんどい」
土と草、血で汚れ、破れた服をはたきながらふらふらと二人の元に来た門桜は、倒したと報告するとぺたりと座り込む。

一人だけ元気な戦鬼は、満身創痍な二人を見て首をひねるばかりだった。


この地を住処とする、他の肉食性の魔獣が血の匂いにつられてくる前にと、コヨーテを仕留めた場所から離れ、水場で体を清めた三人は、少し持ってきたコヨーテルの肉を焼きながら休息をとる。
「いててて、おいもう少し優しくしろ」
「煩い、手当てしてあげてるだけいいでしょ」
この中で唯一傷の回復が出来ない壬生に対し、傷口に薬を塗り込み長布を巻く。痛みに呻きながら文句を言う壬生に対し、しれっと門桜は答え、巻き終えると背中を叩く。
「ってぇ!!お前……」
痛みに生理的な涙を浮かべてうずくまる壬生に、ふっと満足そうに笑うとそのまま腰を下ろす。

「それにしても、ずいぶんな場所にその人間は住んでるんだね」
「ん?あぁ……まぁあいつはなぁ……少し、いやかなり変人だからな」
他人と反りが合わないんだと、と少し笑い、今から会う人物との出会いを思い出す。
空牙と初めて出会った酒場、突然消えた人物に、一気に酔いが覚めた若かった壬生は、ようやく気づいたなぜ周りがヒソヒソと話すだけで、声を決してかけなかったのか。
かけなかったのではない。
かけれなかったのだ。
そう気づいた時、あの男に声をかけた手が、口が震えたのをよく覚えてる。それ程までに、あの男の気配は異質だった。ただそこに佇むだけであたりを圧倒する気配。
若く、名のある鬼を倒し稼ぎを上げ始めて調子に乗っていた壬生は、同じ年頃の、いやそれよりも若そうな空牙に対して、何かあればどうせ餓鬼だと言う気持ちで接していた。酔っていたからといえ、この程度で強くなった気になって調子に乗っていた自分が恥ずかしくなった。
同時に、酷く憧れた。己の力をひけらかす他の連中とも違う、自分のように自惚れることも無く、淡々とするあの男に。
「ねぇ君、さっきの彼凄かったねぇ……あれは空間転移かな?いや、そんな脈の流れはなかったなぁ……」
唐突に声をかけて来たのは、途中で話に割り込み俺の睨みで退散していた男。
肩にそっと手をかけて、ニコニコと笑う、自分より小柄な男の第一印象は、"胡散臭い"だった。その後、しばらく共に行動する事になり、自身も変化していった自覚がある。
そしてその"胡散臭い男"の印象も大きく変わる事になった。

(あいつに合わなきゃ、今の俺はねぇし、こいつにも会えなかった。きっとどっかで調子に乗って、ヘマして死んでただろうな)
そっと胸元の牙の首飾りに触れてから、不思議そうに見上げる門桜の頭をワシワシと撫でた。
「おい、焼けたぞ」
焼けた肉を持ってきた戦鬼に、なら昼飯にするかと撫でられて不満そうな門桜に笑った。


休息と昼を終え、また進み始めて大分日が傾いた頃、壬生が足を止めて声を上げる。
「もう見えて来たな」
指をさした方角に屋根らしきものが木の合間から見える。
「あれがそうなのか?」
「おう、ったく飛んだ目にあったが日が暮れる前に着けそうでよかった」
首を傾げた戦鬼に、頷くと後少しだから頑張るぞと、二人の背中を叩き先へ歩き出す。
「一番疲れてるのは壬生だろう」
「うるせぇ、わかってんならもう少し俺を労われクソガキども」
「ははっ壬生は頑張ってる」
「お前らなぁ」
門桜の言葉に壬生が答えれば、戦鬼が笑いながら慰める。
そんな二人の頭を小突くとそのまま歩き出した。


その時、見えた屋根を見て門桜が目を見開いて、一瞬固まった事は誰も気づかなかった。
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