鬼神伝承

時雨鈴檎

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第三章

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ガヤガヤと行き交う人々の声でごった返す通り。
白髪の青年の後を追うように戦鬼と門桜は歩く。目の前を歩く青年の頭部を見てから、小さく門桜にだけ聞こえる声で呟いた。
「師匠の耳ってしまえるんだな」
「ふふ、師匠は上手いからね、今の時代に見破れる人なんていないと思う」
「この世界は広い、生憎俺の力が及ばんやつもいるさ」
二人の会話が聞こえたのか、咥えていた煙管を離して、煙と共に呟く。二人は顔を見合わせ、ぱちりと瞬いた。
「師匠より強い…か…想像できない」
「そんなに強いんだな師匠って」
こくんと、頷くと本気を出したところなんて一度も見たことないと付け足す。門桜の言葉に買いかぶりすぎだと、首を振れば近くの茶屋を指差す。
「少しあそこで休憩するか、情報も集まるといいが…」
指先を二人の視線が追うと、行くぞと茶屋へと向かいさっさと中に入っていく。

「いらっしゃいませー、あら見かけない顔ですね…えっと旅人さんかしら?」
「あぁ、弟子の修行を兼ねて旅をしてるんだ。3人で座れる席はあるか?」
付いてきた二人をちらりと見てから、出迎えた若い店子に柔らかく微笑みかけると、ゆるりと首をかしげる。空牙の仕草に、ぽっと頬を赤らめ、ぽやんと見上げる店子に困ったように、息を吐いて腰を屈めると視線を合わせた。
「席を案内してくれるか?」
「あっ…申し訳ありません!こちらにどうぞ」
店子は、声かけにハッとすると慌てて、空牙の後ろに立つ二人へと視線を向けて、3人を席へと案内する。
「どうかしたのか?」
「わから…ない」
一部始終を眺めていた門桜は、案内に付いて行こうとして立ったままの戦鬼を振り返り、声をかける。戦鬼の瞳孔は細くなり、強く耐えるように己の腕を掴み、その腕に深く爪が食い込んでいた。
「…っ!師匠…戦鬼の様子がおかしい」
「連れの体調が優れないみたいだ…せっかく入ったのに申し訳ない」
門桜の耳打ちに、様子を確認すると店子へとむきなおり微笑みかければ、戦鬼に近寄る。
「おい、大丈夫か?」
とんっと背を叩き、視線を合わせるように声をかけるとゆるりと視線が空牙を捉え、小さく首を振る。
「眼帯のおかげか…門桜、人気のないところを探せ」
「はい…師匠達は」
「ひとまず俺はこいつを連れてすぐ横の裏手に入って待つ」
門桜に指示を出すと、心配そうに近寄ってくる店子に手で静止して会釈をすると店を出て行く。門桜もついて出て行くとそのまま、ひそめる場所を探しに人混みへと紛れて行く。
「戦鬼、しっかりしろ…」
声をかけながら近くの路地に入ると、戦鬼を座らせて、食い込むほど強く腕を握る手にそっと触れて、落ち着かせるように背中を撫でる。
次第に力が抜け、深く息を吐く。
「もう…大丈夫……落ち着いた…」
「何があったかわかるか?」
空牙に持たれるようにしてなんとかゆっくりと息を吐くと、口を開く。
「ここに来てから少し落ち着かなかった…けど、さっきの人間と少し目があったら、血が沸騰するみたいになった…」
「そわついてるとは思ったが…なんでもっと早く言わない」
「初めて見るものも多くて…気になってたし……」
それで落ち着かなかったと思ってたと肩をすぼめる様子に、額を抑えて首を振るといいを深くはき、血の滲む腕を見る。
「傷はこの程度ですんだか…なんでこんな事した」
「目があった時、一緒に殺したいってなって体が動きそうだった…」
「鬼化に、人間が深く関わってるのかもしれんな…しかし、町に入ってから他の人間にはそこまでの衝動はなかったんだよな?」
考えるように首を傾げ、手当をしながら尋ねると、応えて頷く。
「落ち着かなかったけど…そのくらいだった……突然なんで…」
「目があったら…だったな?それまではなんともなかったのか?」
「師匠と話してる時は、なんとも…他と変わらなかった…」
頷く様子に、空牙は目があった事が引き金かと、人間の様子を思い返す。
ただの娘、力も感じない一般的な力のない人種、別段会話でもおかしなところはなかったと首をひねる。
たんっ、と屋根の隙間を抜い考えこむ二人のそばに降りる影。そちらへと顔を向けると、近寄ってきたのは門桜だった。
「師匠、外れに廃寺がある。かなり廃れてて人の出入りもなさそうだった」
「そうか、ならそこに一旦移動しよう…戦鬼歩けるか?」
「歩ける…もういつもと変わらない」
さっきまでの感覚など嘘のようだと、不思議そうに自分の手元を見てから頷く。
「戦鬼に何があったんですか?」
「話は後だ、人混みは避けたほうがいいな」
人を避けれそうな道で案内を頼むと、門桜の頭を撫でると戦鬼を見る。
「わかりました、こっちです」
門桜もちらりと戦鬼をみてから頷き、3人は門桜の見つけたという廃寺へと向かった。
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