鬼神伝承

時雨鈴檎

文字の大きさ
上 下
11 / 44
第二章

対峙

しおりを挟む
足音のない黒い道を歩む、足に伝わる感触や周囲にあるもので、かろうじて斜面になっている事だけが分かる。
急なゴツゴツとした坂道を、足を取られながら登っていくと、月明かりに照らされて、煌めく鱗を纏う龍が待っていた。
「ほぅ、本当にたどり着けたか…あのまま闇の中を彷徨っておればよかったのに」
姿を現した戦鬼に静かに呟くと、悲しそうに深く息を吐いた。
「不知夜が、ここまでの道を教えてくれた。」
ざわりと戦鬼の動きに呼応するように、周囲の闇がゆらゆらと揺れる。
戦鬼はゆっくりと目を閉じると、ざわつく闇を沈めるように手を伸ばす。
「俺はあんたと戦うつもりはない…あんたも俺の一部なんだろ。」
「なんだと…?」
怪訝そうに目を細めて、戦鬼を見下ろす龍に視線をあげて、真っ直ぐに見据える。
ここまでの道中に考えてきた事を口にした。
「俺の中にある、理解し難いこの黒くて強い想い…これはあんたや不知夜が互いを強く思うからこそきた優しさ故だと思った。だから、あんたを力でねじ伏せるのも、ただあんたの力に屈服するのも違う」
「ほう……ならばどうする?」
「これはあんた達の感情だ。俺のじゃ無い。でも俺を作ってるもの…だから受け入れる。」
戦鬼の言葉に龍は大きく口を開けて、笑う。空気がビリビリと揺れ、肩を縮める戦に牙を剥いた。
「くはは!自我を失っておるくせに、どうやって受け入れる?」
「それは…分からない。あんた達に起きたことだって俺はわかんないんだ、けど、今は無理でも、いつかはあんた達の気持ちを理解したい」
目を逸らさず胸元に手を置き、静かに答えれば龍へと数歩近寄る。
「俺は未熟だ、それは俺が一番よく分かってる。自分の体だって言うのに言うことだって効かない時がある。それでも俺は、否定はしない。この怒りも、苦しみも全部俺を作るものだ、なら俺が強くなればいい」
「そんな言葉で済むと思うておるのか」
冷たく見下ろす龍からの圧に、背に寒気を感じながら、頬を伝う汗をぬぐい足を止める。
龍の足元に立つと、ゆっくりと闇を纏い足を龍化させる。
「思ってない。だから、俺は今から自力で外に出る。それなら文句ないだろ」
「何をするつもりだ」
「こうするんだ」
とんっとそのまま地面を蹴ると、龍の足の間を走り抜ける。尾先に飛び乗れば今度は龍の背を走り、その頭上に立つ。
「何をするかと思えば、我の上に乗り何をする?」
「やっぱりここが一番近いんだな。」
頭に乗った戦鬼に鼻で笑うと首を振ろうとする龍の額を蹴り宙へと飛ぶ。
「あの月が出てきてから、あたりが見え出したんだ、それにここに近づくにつれてでかくなってた。何かあるんだろ」
月へ向けて腕を突き出すと、合わせるように闇が伸びる。伸ばした闇が何かにぶつかると、ぴしりと月にヒビが入った。
「成る程、無理やりこの空間を破り出ようと言うのか?」
空高く飛び上がり空に向けて腕を伸ばす戦鬼を見上げ、考えたものだと笑うと飛び上がり尾を振れば、戦鬼を叩き落とす。
「っぐ……やっぱり素直には行かせてくれないか」
尾の直撃を受け、体勢を立て直して地面へ叩きつけられるのを防ぐと、ヒビのはいる月の近くを旋回する龍を見上げる。
(あの位置からの飛躍と伸ばせる長さでぎりぎり、ここからじゃ絶対に届かない…どうする)
これ以上の龍化は意識が持たないと、舌打つ。
龍は戦鬼が攻撃をする気がないからか、ゆっくりと旋回するのみで、何か仕掛けてくる様子はない。
「どうした?自力で出るのだろう?それとも我と戦うか?」
「あんたとは、戦わない!あんたに勝ったところで、ここからは出られないんだろ」
「っくはは、まるで我を倒せるような口ぶりだな!どうしてそう思う?」
ばさりと音を立てて降りてくると戦鬼の上に降りると踏みつけるように足を出す。戦鬼は地面を転がりそれを回避すれば、笑う龍を見上げる。
「あんたは、出たければ力を示せって言っただけだからだ、それにあんたはこの世界をどうすると聞いた」
戦鬼の言葉に目を細めると再び静かに見下ろし、言葉の続きを待つ。
「俺は受け入れるって答えた、だからあんたとは戦わないし、それだと意味がなくなる」
「なるほど、それで出口を開こうと?ならばそれを邪魔しようか」
尾を持ち上げると戦鬼へ向けて振り下ろす。
横へ飛びのくと、振り下ろされた尾に飛び乗り再び駆け上がる。振り下ろさんと尾を振るい地面に叩きつけ、戦鬼は地面へと再び転がった。
「っく…かは……やっぱり足だけじゃ無理か…」
空さえ飛べればと血を吐き口元を拭うとヒビの治り始める上空を見上げ深く息を吐く。
「翼だけじゃ飛べない、体を龍に近づけなければ…けど、これ以上は」
意識が持たないと眉を寄せ飛んでくる龍の尾を躱す。
「どうした?手詰まりか?」
戦鬼の様子に笑うと、大人しく諦めてここ居るといいと優しく囁く。
「必ず…でる!」
余裕の表情を浮かべる龍に、奥歯を噛みしめると、体勢を低くする。
(暴走を恐れるな、一瞬でいい、一撃であの場所に当てて出る)
先の攻撃で最もヒビのひどい場所を見定めると、じわりと体に熱が灯る。焼けるような痛みを伴い、全身が鱗で覆われ大きな翼と尾が生える。
「煩い!少しでいい黙れ!」
憎い、殺せと頭の中に流れ込む声に声を上げると空高く飛び上がり、腕を突き出す。
崩れた隙間に爪を引っ掛け、引っ張るように引き裂けば、その勢いのまま開いた穴に己の身を投げ込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...