鬼神伝承

時雨鈴檎

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第二章

帰還

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「空牙さんも無理するがね」
ふぅっと煙管を片手に煙を吐き出すと、隣で道具を確認する空牙に鉄扇が声をかける。
「ん?戦鬼の事か?」
「彼処は、もっと力になれてきた頃に行くもんだろ?それを目覚めて日数もたたないうちにだなんて」
顔を上げる空牙に頷くと、酷い師匠に当たった物だと首を振る。
「覚醒する前が長すぎる…ちょっと使えば暴走なんて奴を正攻法で育てるのは無理だな。」
危険は伴うがと付け足すと、灰皿にかけてある煙管に手を伸ばし火を入れる。
二人分の煙が部屋に浮かび消えるのを鉄扇と空牙は静かに眺めた。
失敗すればこのまま自分の空間から出られなくなるだけで、被害はないとは言え幾度となく戻ってこない同族たちを思い出す。
「無理にあの力を使いこなせるようにしなくてもいいんじゃないか…説明もちゃんとしてないんだろう?言われた通り武器を作るとしか教えんかったが」
不服そうに言えば、空牙が目を細めて首を振る。
「言葉で説明するよりその場で理解させる方が早いんだよ。それに武器となるという意味では嘘は教えてない。」
無茶苦茶なと、呆れた目を向けながら長く煙を吐くと、煙管を蒸す空牙に酷い師だと呟く。


時折門桜が顔を出して、空牙や鉄扇に準備に伴った、道具や薬の教えを乞いにくる以外は外の様子の話をしていた。
ずどんと、大きな地響きを受け談笑を中断すると二人は顔を見合わせる。
「今のはなんだいね?」
「水晶の間のほうだな」
鉄扇の問いに空牙が答えると立ち上がる。
「いやいや、あんたはなんでそんな落ち着いて…」
「予想してたからだな」
「はぁ?」
狼狽える鉄扇とは反対に、落ち着いた様子で答える空牙は水晶の間に足を向かわせる。
予想してたってと眉を寄せながら慌てて立ち上がり追いかける、水晶の間に入ればさらにぽかんと口を開く。
「!なぁぁ!水晶が割れ…割れて…空牙さん…どないし」
「うるさい騒ぐな…」
割れた水晶と空牙を交互に見て、声を震わせる鉄扇の頭を軽く叩くと、水晶の間前でパチパチと音を立てて、黒い鱗が剥がれ、人の姿になる戦鬼に近寄る。
「起きてるな、戦鬼」
「……っ…あぁ…起きてる」
問いかけに答えると、ゆっくりと体を起こそうとしてふらりと崩れる。
「鉄扇こいつをさっきの部屋に運べ、俺はこれを治す」
「うっわっと!」
「っ!!せん…せ!?」
ぽいっと軽々と戦鬼を持ち上げると鉄扇へと放り投げる。
鉄扇は慌てて受け止めて、投げるか普通と文句を言いながら、驚いたように固まっている戦鬼を見下ろす。
「お前さんは、これから苦労するだいねー」
「あの…歩けま…」
「そんなふらふらじゃ歩けんだろ」
空牙の扱いに苦笑いしながら鉄扇は、肩に担ぎ治す。状況を出来ずきょとんとしてから、降りようとする戦鬼にため息混じりに言いながら、空牙は水晶に向き直る。
「空牙さん、直せるってこれをかい?」
担いだままぱっくりと割れた水晶を見上げて、眉尻を下げる。
「もともとこれを"作った"のは俺だからな」
「いやいや、初耳だいね!?これを作ったぁ?」
再び驚いた声を出す鉄扇に、うるさいと耳を揺らしてひと睨みすれば、しっしと追い払うように手を振る。
「あの…なんの話を…」
「いいからお前らは、向こうの部屋で待ってろ」
「説明足らずもいいとこ……ったく後でしっかり説明してもらうからね」
状況がつかめず困惑する戦鬼を抱えて、出て行った。


「さて、お帰り…無事に戻ってこれたようで」
部屋について戦鬼を床に下ろすと鉄扇は声をかけた。
何が起きたのかわからないと、ぽかんとその言葉を受け取り、パチクリと目を瞬いていると、突然襖がすぱんと開かれる。
「戦鬼!…っはぁ……よかった無事に帰ってこれたのか」
「門桜……?あ…あぁ…?」
音に驚いてこの部屋に来たのだろうか、慌てたように入ってきたの門桜だった。近寄ってきて手を掴む門桜に、戦鬼は首を傾げながら頷く。
「まぁだ、戻ってきたばかりで状況わかっとらんよ、さて、向こうの事は覚えてるかい?」
「えっと…確か、鉄扇さんにでかい石のあるとこに連れてかれてそれで…武器を作れって…」
「うんうん、その先は?」
ゆっくりと順を追って呟く姿に頷くと続きを促す。
眉を寄せながら、その先と繰り返しながら考え込む。
「俺の後ろに龍?と俺によく似た人間が映って…中に引きずりこまれて…真っ暗だった…後それから…あっ!俺は映ってた龍と人間にあって…なんか話した気がする…」
「なんかて…そこは曖昧か」
「そういうとこ見ると、人間の方の精神にやっぱり近いなお前は」
話を聞く二人の背後、頭上から疲れたようなため息混じりの声がかかる。
呆れる鉄扇と話を真剣に聞いていた門桜が、弾かれたように振り返る。
「あ、師匠」
戦鬼はのんびりと空牙を見上げて名前を呼ぶ。その様子に深く息を吐くと、門桜の隣に腰掛けて戦鬼を見た。
「で、どうやって出てきた?」
「えっと…龍のいた場所から月を割ってきた。」
思い出すように眉を寄せて首を傾げてからそれまでの経緯を説明する。
「境界を割るって無茶苦茶だいね」
「うん、私は話にしか聞いたことがないけど…無理矢理力づくで出てこれるものなの?」
「いや、普通は狭間に投げ出されるな。帰って来れん。方法は色々だが鬼界にいる力と疎通して己のものとする事で出てくるんだ、一番手っ取り早いのは倒して優劣を決める事なんだが」
力と持ち主の優劣が崩れれば途端に力を失うか、理性を失ったりするけどなと、頬杖をつきながら空牙は答える。
「えっと…俺の方法ってなんか間違ってたのか?」
「いや、前例がないだけで、間違ってはないと思うぞ、優劣も決めず、力も得ずそれで出てくるなんてな。俺はてっきり優劣をつけて帰ってくると思ってたが」
3人の反応に、耳を垂れさせて尋ねる戦鬼に、想定外だっただけだと空牙はくくっと笑いをこらえて答える。
「とは言え、全く無駄だったわけではなさそうだ」
戦鬼を観察するように目を向けながら呟く。
「多分?出てくるときにこれだけは操れるようになった」
自身の周りにざわりと黒い塊を発生させると、動かしてみせる。
「龍化に頼らずでも戦えそうならいいか、さてと、言い忘れてたなよく戻ってきた戦鬼」
見せられた力に空牙は満足そうに頷き、わしわしと戦鬼の頭をかき回すように撫でた。

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