鬼神伝承

時雨鈴檎

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第二章

鬼の街

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「ここにいる人たちはみんな鬼なのか?」
戦鬼は不思議そうに周りを見渡す。
ここは鬼街きばんがいと呼ばれる、鬼の街。門桜が目を覚まし、体力が回復した頃空牙に荷物を揃えるためにと最初に連れてき こられた場所だ。
行き方と言う行き方はなく、洞窟の生活跡を消した空牙は何もない洞窟の行き止まりのはずの奥へと歩みを進め、壁の中に入っていったのだ。
思い出して本当に壁をすり抜けたのかと体を見る。
「通行手形があれば、この街への出入りはどこからでもできる。ここは鬼の作り出した空間だからな」
きょろきょろとする戦鬼に笑いながらここへの道の説明をすれば、街を進んでいく。
歩く中、奇妙だと感じたのは、誰一人空牙と目を合わせない事だった。最初は気のせいかとも思ったが、明らかに避けられている。
「なぁ…門桜…師匠って」
「師匠は鬼の中では有名だからね、噂とかも多いんだ」
鬼も食うとかねと声を細めて言えば、いろんな噂が多いから一つ一つ否定も肯定もしてたらきりがなく、好きにさせてるんだと視線だけで周りを見て笑う。

「ついたぞ、ここだ」
旅の支度だと連れてこられたにもかかわらず、店と思しき建物は素通りして町外れにつけば、ボロ屋の前で足を止める。民家にも見えるその家にためらいもなく戸を開けて中に入っていくと、空牙の後ろを門桜が付いていく。こんなところに用事がと家を眺め置いていかれると、慌てて二人の後に続いて中に入る。
「え…?これは…」
中に入って驚きの声を漏らす。そこは外観と違い客はいないが立派な店だった。綺麗な武器屋といったところだろうか。
店の壁には刀、弓というなんとなく使い方の思い浮かぶ物を始め、筒のついた細長い物など使い方もよく分からない物も並んでいた。
「いらっしゃい…おや…誰かと思えば、要件は?」
「早速で悪いがこいつの服と、武器を作って欲しい」
奥から出てきたのは炎のような髪を高く結い上げた、女とも男とも判断のつかない鬼だった。後ろから顔を出したのはふわりとした栗毛色の髪の少年。子供だろうかと思っていると、旅の消耗品のいくつかを門桜がその子供に頼む。
「あたしは、鉄扇てっせんここの店主だよ、あっちのちっこいのは琉木るくだ。よろしくね…えーっと…」
「戦鬼だ…うっわ」
煙管をふかしながら手を差し出し自己紹介をする鉄扇に名乗るとその手を取る。握手を交わすと、そのまま強い力でブンブンと振られ思わず声を上げて手を引っ込めれば、けたけたと豪快に笑い声を上げた。
「よっしゃ戦鬼、付いてきなあんたに見合った服と、それから武器を作ってやらないとね」
くるりと踵を返すとかつかつと店の奥に歩いていった。どうしたものかと視線を泳がすと、奥に引っ込んだ鉄扇が顔をのぞかせて早く来いと手招く。
「言ってこい、俺たちはこっちで他のものを買い揃えてる」
空牙の言葉にわかったと頷けば、扉に体を預けて腕を組み待つ鉄扇のもとに向かった。

「よし、まずは服の採寸するか…しっかし空牙さんの服にあってないねぇ」
部屋に入るなり鉄扇は戦鬼の格好に声を上げてわらうと、採寸用の服だと麻で編まれたシンプルな一枚丈の服を投げる。
戦鬼の身につけて服はおよそ服とは呼べない、布切れだったために着れるものじゃないと渡されたのが背丈の近い空牙の服だった。
着方のわからない服をようやく着れた後の空牙の微妙な表情を思い出し、笑いはしなかったものの鉄扇と同じ気持ちだったのだろうと複雑な顔をする。
「そう、気を落とすんじゃないよ、あれは空牙さん用に作ったやつなんだ。これからお前さん用のを作ってやるだいね」
「いっ…別に気にしてるわけでは…」
道具を持ってきて、脱ぐのに手間取る戦鬼に笑うと手伝ってやりながら背中を叩く。見た目よりも強い力に思わず顔をしかめながらようやく着替えれば採寸が始まった。
「……戦鬼ねぇ…あの噂の鬼には見えないねぇ」
「俺のことを知ってるのか?」
胴の採寸をしながら呟く言葉に耳をピクリと震わせると顔を向ける。首を傾げる戦鬼に笑うと頷く。
「ここにゃいろんな噂がくるからねぇ…あたしのとこはちっとばかし特異な客が多いから、他よりもずっと真実に近い話も多い」
「なら俺のことも…?」
「おいこら動くな……いいやぁ、残念ながらお前さんの情報は恐ろしく強い産まれたて、くらいの情報しかないよ…後で空牙さんに情報もらわないとねぇ」
思わず振り向きそうになる戦鬼にくっくと笑いながら、注意すればするりと首筋の鱗を撫でる。
「っぅ!今度はなんだ…」
ぞわっと背筋を這う感覚に慌てて採寸台から離れると、撫でられたところを庇うように触れながら鉄扇を睨む。
「そんなおっかない顔するなや、ちょーっと興味が湧いただけその首の後ろ…しかし随分と感覚が敏感だいね」
自分の頸をさしていえば、鱗が目みたいに残ってるなと指摘してから悪かったと台に戻るように指す。
戦鬼は、するっとうなじを撫でると、肌とは違うつやっとした感触に本当だと呟いてから、じとりと鉄扇を睨む。もうしないからと笑いながら謝る鉄扇を、疑うように見ながらも時間がかかれば二人に迷惑がかかると、渋々台に戻り立つ。
「そこは弱点になりそうだね、後は…その腕の包帯の下もそうかい?」
「ん…あぁ…腕もだ後太もものあたりも」
「あっ本当だ」
「っ!おい……何する」
他の場所を聞かれて答えると、ぺらと採寸服をめくり上げて確認してくる鉄扇に、思わず拳を握りながら見下ろす。
「あっはっは悪かったって、さて、採寸も終わり…後はデザインだけど、なにかこうして欲しいとかはあるかい?」
「……その辺はよくわからない…全て任せ……変なものにはするなよ、後簡単に着れるものがいい」
鉄扇の表情を見て、言い直せば台から降りて息を吐く。
「そんな変なものにはしないさ、さてと、それじゃあ次は武器だいね…そっちの部屋に入っておいで」
採寸用紙をまとめながら戦鬼を隣の部屋へ行けように促した。
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