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 他愛もない話、そうですね。私はこの美術室に誰も居ないので疑問を持ち、それを杉原に投げかけました。寂しい部活さ、僕一人しかいない。私は、大変嬉しく思いました。つまり、私以外の入部希望者がいなければ、杉原と二人で過ごせるのですから。
 去年までは先輩が居たらしいのですが、卒業して一人になってしまったそうです。君が来てくれてよかった。美術部が消えずにすむ。杉原は鉛筆を置きました。私も描き終わっていたのですが、とてもじゃありませんが、人に見せられる物ではありません。

 オドオドしている私のスケッチブックを取り、自分が描いていたスケッチブックを渡してきました。僕はこんなに醜いかい? 笑いながら冗談のように、私の絵の下手さを揶揄うように言ったのでしょうが、私は本当に申し訳なくなったのを覚えています。

 違うのです。ぼくの絵があまりにも下手で、貴方の美しさを描き写す事ができなかったのです。私は面と向かって美しいなど、恥ずかしくて言える質ではありませんでしたが、呼吸をするように言葉を吐き出していたのです。
 大丈夫さ、味のあるいい絵だ。杉原はそんな世辞を言うのでした。それにしても杉原が書いた絵は、退廃的に暴力的で、私なのに私ではない、内面を覗いて描いたような絵を描くのです。鳥肌が立ち、全身を掻き毟りたくなる衝動に駆られました。

 内にあった興味が畏怖に塗り替えられるような。真っ黒い色でしたが、それはそれは、吸い込まれてしまいそうな、漆のような黒でした。私は塗り替えられてしまうのでした。
 この絵を頂いても宜しいでしょうか? 私は杉原が書いた絵を、戒めや教訓のように感じ、糧としたかったのです。あとは、私のような醜い存在が、杉原のスケッチブックにいる事が許せなかったのでしょう。もしかしたら、自分ではない絵の自分が杉原の側に居るので、嫉妬していたのかもしれません。その当時のあやふやな感情を、今は思い出すことができないのです。

 杉原はスケッチブックから、私の絵を破いて、手渡してくれました。その絵は生涯の宝物になるのでした。観れば出会いを思い出せたので。それが唯一無二、私の生きていた証明です。

 部活度の終わりを知らせる鐘が鳴りました。パタン、小気味よい音を立てスケッチブックを閉じました。杉原は立ち上がり、背筋と手を伸ばして、何度か腰を回しました。帰ろうか。カバンを肩に掛け、優しく微笑を浮かべました。
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