鋭い瞳に睨めつけられ、下半身が熱くなった中学校一年生の春。

あああああ

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 美しい顔をした杉原は、立ち上がると、何事も無かったかのように歩き始めました。病弱に見えた杉原に、保健室に行った方がいい、送って行くから。それは、私の杉原に対する興味がそうさせたのでしょう。別段、保健室に行って手当てを受けるような怪我など、していなかったのですから。

 君は心配性だな、なんて事ないよ。フッと薄く笑いました。鋭い目というのは笑うと一点して、愛嬌のある眼差しになる事を、初めて知りました。
 私は、サッカーボールが飛んでくる左側を歩きながら、矢継ぎ早に話しかけました。初めて会う上級生に馴れ馴れしく、鬱陶しいと思った事でしょう。
 杉原との出会いは、それほど、運命なんて薄っぺらい言葉を使いたくなるほどに、昂っていたのです。実際に運命だったのでしょう、今になってそう思います。

 その日の授業には身が入らず、一日中上の空でした。
 放課後、私たち一年生は、入る部活道を選ばなくてはいけませんでした。自由に部活動を見て回るのです。私は杉原を探しました。部活動などはどうでもよく、杉原と共にいる方がよほど大事に思われたのです。

 あの病的な肌で、運動部はないだろう。文芸部、吹奏楽部、手芸部、軽音部、将棋部、見て回りましたが、杉原は居ませんでした。
 私が見たのは、幻想だったのでしょうか。そうだとしても違和感はなく、むしろ納得してしまいそうな、儚さを孕んでいました。
 部活動のパンフレットを見ていると、美術部というのがありました。三階にいた私は急いで一階まで駆け下りて、美術室に向かいました。

 扉を開き、失礼します、大きな声で言いました。私には確信があったのです。
 杉原は、一番後ろにいました。ハッと息を飲みます、白い石膏像と並んでいても、引けを取らないくらいにやはり美しく、艶のある黒髪が唯一となり、より一層杉原を引き立てたのです。

 こんにちは。入部希望者かな、おや、今朝の。おいで。手招きをされました。私は飼い主を見つけた犬のように走り、目の前にお行儀よく座りました。
 入部希望かい? 杉原に言われ、何度も首を縦に振りました。好きな画家を問われましたが、私は画家を一人も知りませんでした。ゴッホやダヴィンチ、北斎、教科書に載っている有名な画家の名前なら知っていましたが、名前を知っているだけです。

 何も考えずにここまでやって来る、厚かましく無知な私でしたが、そこでようやく羞恥が湧いて顔を伏せました。
 杉原は笑い、私にスケッチブックを渡しました。お互いを描こう。そう言って鉛筆を走らせます。私は絵が得意ではありませんが、その美しさを少しでも書き写そうと鉛筆を握りました。
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