小説家の私とダンサーの君

山本未来

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「『脱ぎ置く衣を形見と見給へ。月の出でたらむ夜は、見おこせ給へ。
見捨て奉りてまかる、空よりも落ちぬべき心地する。』

(脱ぎ置く着物を形見と御覧下さい。月が出るような夜は、こちらをご覧下さい。
お見捨て申しあげて参りますのは、空からも落ちてしまいそうな気持ちがします。)

かっ、…かぐや姫、切な~~~~~っ」

戦国時代で命がけの逃避行を繰り広げたような気がするのも夢のまた夢。

現代に戻った実感を噛みしめる間もなく、非情にも次の授業が始まるチャイムが鳴り響き、マキちゃんに「職務を全うしろ」と、保健室から放り出されて、3時間目の教壇に立っている、わけだけど。

かぐや姫が切な過ぎて泣ける。

大切な人を置き去りにしなきゃならなくて、しかも、それを忘れちゃうっていう。なんてっ、…なんて悲しいお別れなんだろう、…っっ

私は戦国に穂月のことを置いてきた挙句、穂月のことを忘れてしまった。

でも、穂月は会いに来てくれた。

これって、竹取の翁が月にジャンプアップしてかぐや姫に会いに行くくらいの奇跡じゃん。

なんて、なんてアメ――――ジング!!

教卓に突っ伏して号泣している私を見る教室生徒の目は冷ややかだ。

「…ねえ、今日実践問題集解くんじゃないの?」
「なんで急に竹取物語??」「なんで号泣??」

うちの可愛いピュアボーイズ&ガールズたちもこの若さで悲しいお別れや奇跡の恋を経験したりしてるんだろうか。

「ううう、…別れって辛いよね、…みんな大人ね」

更に涙に暮れていると、

「なえちゃんセンセ―、振られたの?」
「隠し子の志田穂月に?」
「メオトっていう名の叔母と甥の関係って聞いたけど」
「ホントはこっそりさらってきた隠し子で」
「超絶美人で可愛い恋人が奪い返しに来たんでしょ??」

生徒たちが口々に私と穂月の関係を追及し始めた。

…うん。取っ散らかってるな。
自業自得とはいえ、穂月との関係を適当に誤魔化してきたから、すっかり明後日の方向に転がってるわ。

「…振られてません。超絶美人の女の子は間違ってこの学校に来ちゃっただけで、今ちゃんと送り届けてます」

結論から言って、三宮恵奈さんは、何も覚えていなかった。

穂月のことも。なえのことも。
戦国の世で共に過ごしたと言っていたことも。
証明するために私を時切丸で刺したことも。

「こんなカッコイイ人、見たら絶対忘れないし」

三宮さんが穂月を見つめる目には、新たに強烈なロマンスの芽生えを感じさせたけど、ともかくも、どうして自分が他校の保健室にいたのかさえよく分からないようだった。

「時切丸に憑かれていたのかもしれぬな」

思いを断つために、私も三宮さんも時切丸に呼ばれたのかもしれない。
三姫の思いが浄化されたから、私たちは元に戻されたのかもしれない。

本当のところは、よく分からないけど、

「怖いんで、家まで送って欲しいな」

と、穂月に擦り寄る三宮さんを、デキる養護教諭のマキちゃんが今頃ばっちり送り届けてくれている、はず。
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