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第五章 キングダムインベードミッション
年間使用料10万円を請求します(笑)
しおりを挟む「……思い出した。全部思い出しちまったよ……」
俺、“神林慎一郎”はかつて起こった大規模な戦争を終結させるに至った英雄だったこと。……何万何千人の人間を殺したこと。その全てを思い出した。
「……その代償が、永久に“英雄”としてこの世界に名を残すこと、か」
言い換えれば、犯した罪は消えないとも言えよう。大勢の人間を殺した罪を死してなお永遠に背負い続けることになる、それが代償だった。
「……慎一郎、大丈夫ですか?途中から頭を押さえて、私の話聞いてましたか?ところで、ずいぶんと気分が悪そうですが、……というのは当たり前でしたね。こんな話を聞かせてしまって、元気なわけありませんでしたね。無神経で申し訳ありません」
アズはあわあわしながら頭を下げて謝った。
「……いえ、大丈夫ですよ。途中で、昔の記憶を少し思い出しまして……」
突如、脳をかき混ぜるようにして思い出された記憶。感覚としては、先日七海に過去の記憶の映像を見せられた時に近しい。
……それと、途中聞こえた誰か分からない謎の声。与える代償、叶える願い。その声は途中で途切れたが、今もなお記憶に残る強烈な存在感があった。
「……ところで、記憶を思い出した今再度尋ねるのですが、わ、私と……共に生きる事を、誓ってくれますか?」
アズは俺が項垂れてることすら全く気にせず、ソワソワとした声で体をクネクネさせつつ甘い言葉を呟いた。しばらくして、満身創痍の俺を見て申し訳ないような顔をして、「ごめんなさい。ココロが壊れているので」と謝罪した。
「すいません。こんなこと突然言われても、答えられませんよね。ごめんなさいごめんなさい……」
「……確かに、そんな突然言われましても……という気持ちもあるのですが、僕の答えは決まってますよ」
俺は吐きそうな体に鞭を打って、強く言葉を吐き出した。
「……ごめんなさいね、答えはNOです。僕の今現在の目標はただ一つ、捕まったレイを助ける事ですので」
儚げな、深緑の髪の少女を目の前にしても俺の意思は変わらず、変われず。今もなお空色の君を愛していた。
「……残念です。が、何となくそんな気はしていました。私は負けヒロインなんだろうなって。……緑髪は不人気とか言いますし」
「……そんなことはないです。緑髪が不人気だという意見には東方projectで論破出来ます。……それと、折り合いもあります」
「……折り合い、ですか?」
「……もし、初めて会った時に僕の正体をアズさんに明かしていたら、もし、今囚われているのがアズさんだったら、もし、レイが囚われていなかったら……そんな、別の世界線があれば、僕達は結ばれてたかもしれないですね」
「……そうですね。慎一郎の言うとおりです……」
……だけど、今、泣いている彼女はすぐ手の届く所にいて、どうしようもない自分を救ってくれた恩人を裏切ってまで助けたい人がいて、その娘を助けるために俺は進むから。
……つまり涙を流す君は、悲劇のヒロインじゃあないんだ。
だからごめん。俺の最“推し”の人。
※
「……それじゃあ慎一郎!私もレイちゃんを救う作戦に協力します!」
「……あ、ああ」
あれから数秒後、ガバッと勢いよくアズは立ち上がり、威勢よく淡化を切った。
確かに湿った空気は嫌いだが、今のアズは空気を変えるために無理をして強がっているわけでもなく、ただただ本当に何事も無かったように佇んでおり、心が壊れた彼女を、俺は不憫に思った。
「……私、決めました。慎一郎と人生を共にすることは断られましたが、今度からは“慎一郎にとってちょっと役に立つ、とっても便利な女”を目指していこうと思います」
……なんだそのいかにも如何わしそうな関係は。『恋人が無理なら愛人でいいよー』何て言うようなビッチなら俺はお断りだが、アズの場合は無意識にそれを言っているから質が悪い。
……無知シチュ……なんて、壊れた少女にそんな事できるかッ!人でなしか!
「ただし年間使用料10万円を請求します(笑)」
「……お前、分かっててからかってるな?」
「え?ww一体何の話ですか?www」
「…………」
……すっかり叩いて砕かれたシリアスに溜め息を吐きつつも、俺は真面目にアズの方へと向き直る。
『……もう、そっちも自由にしていいから、こっちも自由にさせてくれ。金も払わない。アンタのやりたいことも邪魔しない。だからお互い気にせず好き勝手やろうぜ。せっかく許された自由なんだからさ』
……壊れた心、とは言うが、彼女の心は無垢な心なんだろう。
この世に生きる人間のひどく汚れた心に、俺は悲しさを覚える。人の優しさに漬け込んで卑怯をするもの。その卑怯者に怒声を吐いて唾を吐く事を正義と勘違いして声を荒らげる者。
……声を上げるのはいいが、冷静な群衆でいようぜ。
そうして俺らは、戦場へと向かうのだ。
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