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第五章 キングダムインベードミッション
大好き、“だったよ”
しおりを挟む空はまるで海をひっくり返したかのように真っ青で、快晴の青天井って言葉は今この時のためにつくられたんじゃないかとすら思う。
アクアマリン色の空は今日という日に実に似つかわしくない。
青い青い空の下に、明らかにミスマッチである真っ赤な血が流れる流れる、今もなお流れている。
……時は数時間前に遡る。晴れの悲劇が訪れる前のこと。ホテルのとある一部屋で夜通し作戦会議が開かれていた。
※
「……エド殺害計画?私が殺されるということか?」
「せや。確かにアンタは強い。けどこの作戦はエドがおらんくなったらタイムリープもできへんし、全部ご破算や。せやから敵はエドさえやっつけりゃええと思っとる。まあ、エドに頼りたくなるのも分かる。分かるんやけど、やっぱりウチらもエドの背中守るくらいはせなアカンねん。そのためのチームや」
ニシは立ち上がって答弁する。……最弱と言われる西の国陣営だが、それでも他の国に淘汰されず生き残っているのは彼女のリーダーシップ、戦術力の高さ故だろう。
「そうですね。私だって、エドさんほどじゃないにしても、能力を上手いこと使えば敵だって操れるし、充分戦えますッ!」
「そうだね。私たちも、能力所以の経験がある。足手まといにはならないさ」
「……だね」
それに答える能力者、七海、ナオ、ミミ。最高の司令塔に、従える最高の戦力たち。彼女たちは史上最強、エドと共に戦うのだ。
「…………」
「どうしたのよシンイチロー。ほら、シャキッとしなさい!アナタがそんなんでどうやってレイさんを助けるのよ」
「……ああ、そうだな」
白雪七海に肩を叩かれた少年。神林慎一郎も、静かに返事を返す。
……愛する人を思う心が、全てを薙ぎ倒す剣となる。それが慎一郎の力。
「……やってやるさ、レイのために」
「せや、その意気や、慎一郎!てなわけで作戦を発表する!作戦名『エドを中心に他の奴らも力を合わせてエドの背中を守りつつ総力戦で戦う作戦』や!内容はそのまんま、ほな、いくで!!」
ニシが作戦名を告げると周りは呼応するように猛る。
「素晴らしい、最高の作戦だ」
「そうだね、これがベストだ」
「よっしゃー!やってやります!」
……結局、パワーでゴリ押す。これが一番強いんです。きっと。
※
「……もう、“チロ”、どこ行ってたの?」
「ん、ああ、ちょっとね」
部屋に帰ると、頬を膨らませたカナがぷんすかとしていた。……それにしても、その名前で呼ばれるのは久しいな。
「全くだ。カナ様をほったらかしてどこかほっつき歩くなど、言語道断だ。やはり貴様にカナ様は渡せないな」
「……お前はカナの親父か、ライ」
「……乙女に対して親父などという言葉を使うな」
相変わらずカナに過保護なライである。しかし俺の軽口に対してライは顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。涙目で。
「……お前も意外と可愛いな」
「な、なな、なッ!何をいうかッ!!見境なしのヘンタイヤローめ!やはり貴様にカナ様は渡さんッ!!」
おっと、つい口に出してしまったようだ。“そういう反応が可愛いんだよ”という二言目は、何とか心に留めた。言っていたらカナの嫉妬の炎が着火してたな。きっと。
「ま、それはさておき“チロ”。今日は世界大戦の本番だよ。何だかワクワクしてきたね♪」
「……そうだね」
「…………?」
つい素っ気ない返しをしてしまった俺に、カナは首を傾げて問い詰める。
ワクワクなんてしない。何だか、ひどく悲しいんだ、俺は。
「どうしたの?“チロ”」
「……いや、何でもないよ」
…………やめてくれよ、その名前で呼ぶのは。現実味がない。空虚に感じる。
「ううん、やっぱり変だよ“チロ”」
「…………そんなことないよ」
………………言うなよ、ときめかない。二次元の女の子と話してるような虚しさしか残らない。
……あの娘は、慎一郎って、呼んでくれたのに。
「…………なにかあったの?大丈夫。私が受けとめてあげるから。ほら、言っていいよ」
「……………………そうだね、ごめん。俺は大切な人を守るために戦ってくる。だから君とはお別れだ。……大好き、だったよ」
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