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第五章 キングダムインベードミッション
詠唱:コード不可侵《レイヤー『次元移動』》
しおりを挟む……こんなに近くにいるのに、彼女に指一本触れる事が出来ない。
J-POPの歌詞にありそうだな、なんてふざけたことを考えている暇は一切ない。
干渉を操る「不可侵」の能力者、王国近衛兵兼、科学技術班班長のクアを目の前にして、俺達チームミミは窮地に追い込まれていた。
「くそっ!!」
俺はクアに殴りかかる。が、闇雲に振りかざした拳はただ空を切るのみだ。
「……君たちは僕に触れられナイ。さあ、さっき嘗めた態度取ってくれたお前、お仕置きの時間ダヨ!!」
クアはレイに向かって不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと近付いてゆく。
醜悪な眼差しを向けられたレイは、クアに対して腰を抜かしてしまっている。……ように見せかけ、寄った来たクアに蹴りを入れた。
「……うオッ!?」
「……私だって、立派な戦闘員なんですよ」
虚をつかれたクアはレイの蹴りをギリギリのところで躱すも、体勢を崩して尻餅をつく。
レイは続けざまにクアの顔を目掛け拳撃をくわえる。
……が、それは素早く反応したクアに防がれてしまう。
「イ、いヤー、危ない危ナイ。本当は僕は乗り気じゃなかったんだケド、リアから戦闘の指南を受けておいて良かった良かッタ。僕ってば科学者だカラ、戦闘訓練はいつもサボってたんだよネー」
レイのパンチを止めたことはクアにとっても予想外の出来事だったらしく、冷や汗を滴しながら饒舌に言葉を捲し立てた。
「……たまたま一発防いだくらいで、いい気にならないで下さい!」
続けざまに放たれた2撃目のレイの拳。……しかしその拳は力なく下降線を描き、やがてクアに届かず地に落ちた。
「いイヤ、一発防げばそれで充分サ。……なんたって僕の技ハ、一撃必殺なもんデネ」
ほんの一瞬、クアがレイの拳を防いだことで生まれたその隙に、クアの注射器がレイの腕を刺した。
「超強力な昏睡薬サ。滅多な事がない限り起きる事はなイヨ。……それジャ、おやすみなサイ」
「……くっ、くそ……ッ……」
レイの声は消え入るように段々と小さくなっていき、声が聞こえなくなると同時に意識を失い、前のめりに倒れる。俺は傾いたレイの体を咄嗟に手をだし受け止めた。
「……ハ?」
クアは吐き出すように声を上げた。
「……エ?何デ、今触ったヨ、ネ?僕の術は効いてるはずなノニ」
「……お前の力は、俺の力で相殺した」
何かを犠牲にし、効果を発揮する俺の能力。レイが傷付けられ、それをトリガーとして発動されたが、その効果はクアのバリアを破壊するに留まった。
「よし!よくやったぞ慎一朗!その力が操れれば、近衛兵だって倒せる!」
ただ、ミミの言うとおり、この力を初めて自分の意思で操る事が出来た。この力を自在に扱うことが出来れば近衛兵だろうと互角以上に渡り合えるはずだ。
「チッ、くソガ。これでもう戦う以外の選択肢が無いじゃなイカ」
クアはぐったりとしたレイを後ろから抱き抱えるようにし、腕を掴んでまるで人形遊びのようにレイを操る。
「秘技、マリオネットだヨォ。とは言ってもコイツを盾に戦うだけなんだけどネエ」
「……くっ、この外道が……」
クアはレイを操るな否や下品なポーズやはしたないポーズを取らせて遊んでいる。そしてクアはレイの服を破り裂いて素っ裸にさせた。
「これで更に攻撃しにくいダロ、童貞クン♪」
「……お前ッ!どこまで人の事を馬鹿にすれば気が済むんだッ!!」
レイの事をまるで玩具のように扱うクアに俺は怒声を浴びせる。しかし彼女は相変わらず飄々としている。
「……気がスム?ハハ、そんなのあり得なイヨ。楽しい事はいつ何時でも飽きないもノサ。たまに偉そうな先生は『たくさん遊んで遊びつかれたら、勉強をしなきゃって思うだろ?』なんて知ったかぶっていうケド、そんな事はあり得ナイ!てめぇは趣味もねぇつまらねぇ人間デ、お前の言う遊びはただの時間の浪費でしかねぇんダヨ!」
クアは唾を撒き散らしながら叫ぶ。
「……そうか、人をいたぶるのが遊びだって言うなら、俺と一緒に遊ぼうぜ」
俺は拳を握る。
「……ギッ!ごぁ……!」
すると突然のクアは喉を押さえてうずくまった。まるで見えない手に首を締められているかのように。
「オイ、おまぇ……ナニを、したッ……!」
「……俺はただお前をいたぶるように願っただけだ。払ったツケはお前が散々レイをいたぶった事だよ。……お前の罪の重さに苦しめ」
「くっ、クソォ……ッ!」
苦しむクアは今にも失神してしまいそうなほど顔を真っ赤にして、口からコヒューコヒューと空気が抜けるような音を鳴らし、酸素を取り込もうともがく。
「……終わりだ、クア!!」
「チッ、畜生ガッ!……ォ!詠唱ッ!コードォ、不可侵発動、レイヤァ……次元移動ッ!!」
最後の力を振り絞って、クアはそんな謎の言葉の羅列を口走る。……すると、
「……なっ!?」
まさに刹那、瞬きするほどの間に、レイとクア、二人はこの場から姿を消したのだった。
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