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第五章 キングダムインベードミッション
キャ!///、こんなところで大胆……///
しおりを挟む実際この目で見たことはないが、青函トンネルって多分こんな感じだろうなって道を、俺達チームミミの三人は延々と歩いていた。
巨大なパイプ管の様な道だ。自分のサイズが縮んだんじゃないかと錯覚する。
壁面には空気を通すための小さな穴と、心許ない小さな灯りを放つ豆電球が等間隔で並べられていて、それ以外はコンクリートの灰色で埋め尽くされているのみであった。
歩いても歩いても代わり映えのない景色の中、希に表れる十字の分岐点を、ミミは地図も見やしないで右に左に曲がったり直進したり、ノンストップで歩を進めている。が、不安だ。ホントにこの道で合ってるんだろうか?
「安心しろ、私達はこの道を過去で何度も通ってる。君のいた世界でいう通学路のようなものだ。自分達の学舎の道を、卒業するまで覚えないという事は流石に無いだろう?」
まあ、確かにミミの言う通りではあるが、こんな一面コンクリ固めの目印もクソもない道、覚えるのにかなり時間がかかりそうだけどな。仮に覚えたとしてもふと気を抜くととんでもない方向に行ってしまいそうだ。
「目印ならあるさ、あそこの空気穴、他のと比べて1cmほど直径が大きい。きっと工事業者の不手際だろう」
「いや、全然違いが分からん」
普通にそことかあそことか言われても、一体何処の事を言ってるのか全くもって検討付かない。多分あれかな、あの左から2番目くらいの、言われればそんな気もするくらいの違いだけどな。それを不手際とか言われてしまっては、工事業者も堪ったもんじゃないだろう。
「……大丈夫ですか?チロさん。私の眼鏡お貸ししましょうか?」
「……いや、いい」
レイに彼女の銀縁の眼鏡を差し出される。が、レイのアイデンティティを受けとるわけにはいかないだろう。気持ちだけ頂戴させて貰うよ。
そして、やはりレイにも違いが分かるのか……彼女らとは根本的に体の作りが違うのかもしれない。まあ、彼女達は異世界のさらに上級の戦闘民族的な人達だからな。
「……それに、レイはやっぱり眼鏡を付けていた方が可愛い。いや、決して眼鏡をしてるから可愛いという訳ではなくて、レイ自身が可愛いんだけども、その、真面目というか誠実な人柄みたいなのが出てて、に、似合ってると思うぞ?」
「キャ!///、チロさんったら、こんなところで大胆///」
「…………」
完全に語弊しかない感想を言いながら、赤らめた頬を押さえてクネクネするレイ。
こんなところでイチャイチャしてるんじゃあない!と、普段のミミならここでお灸を据えてくるのだろうが、先頭を突っ走るミミさんはスルー。
と、言うのもこれはミミの指示だからである。
『慎一郎、君の能力は払う対価が大きいほど力を発揮するというのは先程説明した通りだ。だが君曰く、レイさんは“今はまだ”友人なのだろう?ならばこの短期間の間だけでも良い、レイさんと恋人関係になるんだ。とは言っても、結局は気持ちの問題な訳だが……まあ、つまりだな、この王城侵入作戦の間、君がレイさんに抱く愛情を、少しでも大きくしてほしいということだ』
侵入作戦結構直前、ミミにそんな事を言われた。
そうは言ってもだ。今現在俺はカナと付き合ってる身な訳で……いや、でも過去の記憶を見た限りでは二股の許可が出ていたな。
……て、駄目だ駄目だ、そんな事して良い訳がない。倫理的にもだが、カナが言っていたのは別の世界線での話で、今この世界を生きるカナとは一切の関係がないだろうが!
「……不服そうだな。そんなにレイさんと付き合うのは嫌か?」
「い、いや、そういう訳じゃ……」
俺がうだうだと考えていたのを、鋭い視線でミミに突っ込まれる。
「そうなんですか!チロさん!……うぅ、酷いです。一夜を共に過ごした仲だっていうのに……」
「……そういえば私もたまたま偶然、君とレイさんの同衾現場を見てしまったな。いやはや、その時は本当に申し訳なかったが」
「…………」
彼女達の口から次々と語られる俺の余罪の数々。……さっきまで付き合うか否か等と随分悩んでいたが、もう付き合うとかどうとか、そういう次元じゃないな。
……腹を、決めるしかないか。
ええい、ままよ!もうどうとでもなれ!!ここで開き直るのは、男としてどうかと思うが、そう、これは作戦だ!
決してカナを裏切るわけではなくて、世界を救うための作戦であって、浮気なんじゃ決してないんだからね!!
……はあ、と、俺は一息吐いて、隣で歩くレイの手を強く握る。
「……レイ、お前は必ず俺が守ってみせる」
「チロさんッ……!!」
レイは光悦とした表情を浮かべた。
……そしてレイもまた俺の手を強く握り返し……そのまま握った俺の手を彼女は引き寄せ、自身の股間部分に強く押し当てた。
「あんっ……///」
……俺は素早く彼女の手を振りほどいて彼女の陰部から手を引く。
「バッカじゃねぇの!!!!」
レイの予想を越えた行動に、俺は息を荒らげて怒声を吐く。覚悟を決めた決断の握手だぞ、それを……それを不意にしやがって。
未だ手に彼女の……感触が残っている。先程まで緊張で心臓がザワザワしていたのに、今度は下半身がザワザワしてるよ。全く、この変態は……
「仲睦まじいじゃないか」
端から見ていたミミがそんな感想を口にする。どこがだよ、何を見てそう思ったのか、小一時間問い詰めたいところだね。
「……全クネ。確かに仲良しなのは良いことだケド、こんなところに勝手に入ってきちゃ駄目じゃなイカ。悪い鼠ちゃん達……」
「……!!」
突如この閉塞的な空間に響いた特徴的な語尾の声。俺のしらない声だ。
……敵か、というか貴方もこれが仲良しに見えるんですか……
「どこだ!姿を現せ!!」
ミミが臨戦態勢で叫ぶ。
「……ふフフ、後ろダヨ」
「なっ……!!」
振り返ると、銀髪のロングヘアーで目に深い隈が出来た少女がいた。その髪は膝まで伸びていて長いこと手入れがされていない様にボサボサだ。
……そして、その少女はぐったりと倒れている、レイの事を抱き抱えていた。
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