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第四章 ファーストプレイ:デットエンド
人生所見プレイ:一週目 DEAD END
しおりを挟む「……チロさん。全て知っている貴方に質問です。貴方は私の愛を受け取ってくれますか?……返事は今頂けると嬉しいのですが……」
レイさんは不安そうに、上目遣いでこちらを見る。
……レイさんの告白に対する俺の答えは……
「……ええ、僕もレイさんの事、大好きですよ」
……俺は怯えるような彼女の目を真っ直ぐ見て、そう言い放った。
「……本当ですか?」
「はい、本当です」
俺の言葉で、彼女は自身の大きな眼から大粒の涙を溢す。感極まって、思わず涙が出てしまったのだろう。彼女は両手で涙を拭う。
「……嬉しいです。貴方は私を認めてくれた、初めての人だったので。ですが私の想いを受け止めてくれることは絶対無いと、そう思っていたのに……」
彼女の歓喜の涙を俺は眺めていた。……この物語が、ハッピーエンドで終われば良かったのにと、俺はつくづく思う。心が締め付けられる様に痛む。
「……御免なさい、レイさん。僕は貴女の事が大好きです。ですが貴女の愛を受け取ることは出来ません」
「……え?」
刹那、彼女は表情を一転させ、その目から光が消え落ちる。
「……やっぱり貴方は命の恩人であるカナ様の事が好きなのですね」
「いや、確かにカナ様も同様に愛しています。ですが例えカナ様から愛の告白を受けようとも、僕は答えるつもりはありません」
「……じゃあどうして?」
彼女は今にも消え入りそうな、儚い声で言葉を吐いた。
自身の愛が受け止められないのは、想い人に別の好きな人が居るからだとそう彼女は思っていただろう。彼女の想いが恋のライバル相手に勝ることは不可能、そう考えていたに違いない。
だけど俺は全ての愛を拒絶した。誰からの想いも受け取らず、誰にも想いを吐き出さない。しかしそれにも訳があった。
「……僕はもう、長くはないからです」
「……ッ!」
俺が言うや否やのタイミングで、レイさんは急いで看病を再開する。……本当に優しい人だなぁ。ぼーっとそんな事を思う。俺は特に死への不安や恐怖は感じていなかった。もう俺の人生、後悔もやり残しも一切合切無いからだ。
「……大丈夫ですよ、レイさん。自分の死期ってやっぱり分かるみたいで、僕はもう何しても無駄だという事が何故だか分かってしまうんです。不思議な感覚ですけれど」
「…………」
レイさんは絶望し、顔を覆って涙を流す。嗚咽混じりの滝のような涙。……彼女がどれだけ俺の事を思ってくれていたのか。だが考えてしまえば、現世に未練が出来てしまう。彼女の想いは嬉しいけれど、最期はやっぱり笑ってほしい。
「……レイさん、最期くらい、ゆったり過ごしましょう。泣いていても可愛いですけど、笑っている顔の方がやっぱり僕は好きなんで」
「……ばか。……貴方は本当に大馬鹿です」
……彼女は涙を拭って、笑顔をつくって見せた。その笑顔はぎこちなく、顔には涙の痕がちらと残っていたが、俺の為に笑ってくれた。……何故だかそれがとてつもなく嬉しかった。
「…………」
「ちょ、ちょっと!最期は笑ってほしいといった側から、貴方が泣いてどうするんですか!!」
「あ、ああ。すいません」
……感極まって思わず泣いてしまった。死ぬことは怖くなかった筈なのに、段々と恐怖が襲ってくる。彼女と離れたくない。ずっとここで話していたい。他愛もないどうでも良い話を、彼女とずっとずっとしていたい。
……だけれど、甘えることは許されない。
「……レイさん、墓場まで持っていこうとしていた秘密を、今ここで言います」
「秘密?」
「はい、そうです」
ずっとひた隠しにしてきた俺の秘密。……これを言ったら、間違いなく嫌われるだろうな。だけどもそれで構わない。彼女との関係を絶つこと、それが現世での最後の仕事だ。……未練を残さない為の。
「……僕、夢があったんですよ。所謂ハーレムってヤツです。僕はカナ様が好きです。でもそれと同様にレイさん、貴女が好きです。一夫多妻を目指してたんですよ。それが夢でした。僕はとんだクズ野郎です。……だからこんな人間の為に、どうか涙を流さないで下さい」
「…………」
俺がそう語ると、彼女は押し黙ってしまった。……これでいいんだ、彼女に嫌われれば、この想いにも諦めがつく。だからこれで良かったんだ。
「……チロさん」
「……え?」
……一瞬の事で、何が起きたのか理解するのに時間を有したが、その時、彼女から不意に口づけをされた。
「……え、え?……何で、どうして?」
「……チロさん、貴方は優しい方です。そんな貴方を私はどんな事があったとしても嫌いになんてなりませんよ。一夫多妻制も、私は大いに構いません。都合の良い女で構いませんよ。……だけどその代わりに、いってきますのキスだけは欠かさないでほしいかなーなんて……」
「…………」
……言葉が出なかった。その代わりに出るのは溢れんばかりの涙。……駄目だった、俺は彼女を忘れられない。この時間をこの瞬間を永遠の中に閉じ込めてしまいたい。でもそんな事は不可能で……
「……レイさん、貴方とずっと一緒に居たかった」
「……ええ」
「……だからせめて、僕の事を絶対に忘れないでください」
「……はい、もちろんです」
……そうして俺達は最後に、再度唇を触れ合わせた。
……永遠のお別れだ。俺は今からこの世を離れる。だからこれがきっと、最期の“いってきます”のキスになるだろう。
……そうして俺、神林慎一郎は、静かに息を引き取った。
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