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第四章 ファーストプレイ:デットエンド
これって所謂オネショタってやつですか?
しおりを挟む目前に広がる漆黒。……あれ、俺はついさっきまで一体何をしていたんだっけ?
そんな事を思っていると、不意に全身に鋭い痛みが走った。
「……ッ!」
「だ、大丈夫ですか!チロさん?目が覚めましたか!?」
……暗闇が晴れ、始めに視界に写ったのは心配そうな表情のレイさんと医務室の様な部屋の内装だった。
……そうだ。俺は確か風呂場で巨大なタコのようなイカの怪物と戦っていたんだ。正しく言えばあれは戦いでは無く只の時間稼ぎに過ぎないものであったが、結果的にあの怪物は退治することが出来たのだろうか?
「あの、レイさん。結局怪物は倒すことが出来たんですか?」
「はい、お陰様で。……ですがその代償はとても大きなものとなってしまいました…」
レイさんはベッドに横たわる俺を見つめると憂い顔を浮かべる。
「……何とか一命はとりとめましたが、全身の骨が折れ、動くことも出来ない状態です」
「……」
余りにも酷い自身の惨状にショックで言葉が紡げない。……走馬灯の様に流れた怪物の一撃。あれだけの攻撃を受けたのだから只では済まないものだとは分かっていたのだが……
「……まあ生きてるだけでラッキーですよ。あ、死んだって思いましたからね、僕」
「……お強い方ですね、チロさんは」
彼女は未だに暗い表情だがその広角を少し上げた。
「何かお手伝いすることはありますか?必要であれば食事だったり用意いたしますが?」
「いや、今は大丈夫ですよ」
「了解しました」
そう言うと彼女はベッドの横に置いてあった椅子に腰を掛け、懐から一冊の本を取り出し読み始めた。
……その後は静寂が続いた。特に会話があるわけでも無く、レイさんは俺が眠るベッドの脇でずっと本を読んでいた。特に何かするべきこともなく、目も冴えてしまった俺は只々ここにいる他無く、コミュ症なのも相まってとてつもなく気まずい空気を味わっていた。
「……あ、あの、レイさん?」
居たたまれなくなった俺は何となしに隣にいる彼女へ言葉を投げ掛ける。
「どうかしましたか?」
「いや、……暇なんでちょっとお話でもしませんか?」
……自身のコミュ症っぷりを遺憾無く発揮した話の切り出し。だがそれも仕方がない。相手は年上、且つ美人のお姉さん。そして俺のメガネ属性に思いっきり突き刺さる、非の打ち所の無い銀縁メガネ。知的な雰囲気も馬鹿の俺には接しづらさがある。
「ふふっ、良いですよ。私も実は話したいことがあったんで」
しかし彼女は笑顔で俺の提案を承諾してくれた。滅茶苦茶優しい。仏も涙する慈悲深さ、しかも美人。……結婚するならレイさんの様な女性がいいなぁ。
「……チロさんの好きな女性のタイプってどんな感じですか?」
「え?」
唐突に、彼女はそんな事を告げる。……対して俺は現在自身が考えていたことを問われ、アホみたいな声を出して狼狽える。え?話したいことって何?もしかして告白か何か?でも俺はカナさまに対して物凄く恩があるし、それを裏切って敵国の女性と駆け落ちなんて出来る訳が無い。
確かにレイさんはタイプ中のタイプ。相性抜群、こうかばつぐんの四倍弱点だが、彼女に俺は釣り合わない。高嶺の花だって事も分かってる。それはカナさまも同じだが、俺は彼女に一生奉仕すると決めたのだ。恋は成就しなくても、彼女の下で働けることが俺にとっての幸せであるから。
「どうしました?私なんか変なこと聞きましたっけ?」
「いや、まあ随分と唐突ではありますけれども…、たった今レイさんに聞かれたことを考えていたところだったので…」
「……好みの女性についての事ですか?」
「はい。……結婚するならレイさんみたいな人がいいなぁ、何て失礼なことを考えてしまってました。申し訳ありません」
俺はレイさんに粗相が無いように気を付けて受け答えする。
「……奇遇ですね、私も貴方と同じ事を考えてました。……結婚するならチロさんの様な人が良いと」
「え?」
彼女は不意に立ち上がり、動けない俺の頬に口づけをする。そして目が合うと軽く微笑んだ。
「……これって所謂オネショタってやつですか?」
「……いや、そこまでの年の差は無いでしょう」
俺は動揺しながらもレイさんと言葉を交わす。何故だか分からないが、レイさんの一挙一動がやけに色っぽく感じてしまう。最早彼女の呼吸までもが、俺の心臓を揺らめかせる。
「……どちらにしろ、私がチロさんを愛しているという事実は変わりません。貴方の事が好きです、大好きです。……ただ返事は期待してません。貴方には私以上に大事な人がいるのを知っているから。……あの港町の路地裏の世界から貴方を救ってくれた人がいるのを知っているから」
「……」
「……でもこれだけは言わせて下さい」
「……私、貴方の事を心から愛しています。……あの時、あの場所で、港町の路地裏で初めて出会った時から」
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