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第四章 ファーストプレイ:デットエンド
俺は紳士となる。
しおりを挟む「…じゃあ話すね。事の顛末について…。」
そう言って彼女は真剣な眼差しで俺を見つめる。先程まで泣いていた彼女の目は軽く充血していた。
その赤い瞳を見ていると、俺は意識が段々と薄れていくのを感じた。
「(ごめんね、直接口で話すのはちょっと恥ずかしいから。)」
彼女が言う。そして彼女の精神が俺の中に入り込んでくる。俺と彼女、二人の精神が一体して彼女、白雪七海の思考が、思い出が、感情が、流れ込んでくる。
「(大丈夫?普通の人間だったら多分一生経験しない感覚だから、もしかしたら少し酔うかも。)」
彼女の言うとおり、俺は未知なる感覚に苛まれた。俺の脳内に新たな記憶がインストールされるような、脳の記憶のしまってあるタンスをまさぐられる様な、確かにこんな感覚には一生出会えないであろう経験を俺はした。
すると突如視界がぼやけて、脳の違和感も徐々に薄れていった。
脳の違和感が完全に無くなった時、俺の視界も晴れ、目の前に広がるのは教室だった。教室といえど、その場所は俺が通う見知った学校の教室では無く、回りのクラスメイトとも一切の面識が無い。
一瞬俺は理解が出来なかったが、鮮明になった感覚により全てを察する。
「(…これ、俺の体じゃない?七海の体だ…。)」
「(そうよ、気付いた?)」
自身の体に感じる違和感。俺が神林慎一郎の体からチロの体に変わった時の感覚と酷似している。
チロから七海の体に移った時の変化、女性→女性だが、明らかに変わった所が二つ。
一つ目が髪の毛。俺がチロだった時の明らかに手入れのしてなさそうなゴワゴワ感はさっぱり無くなっている。黒くて滑らかでいい臭いがする。
二つ目は胸。チロのバストサイズは大きすぎず小さすぎずと言った所だったが、白雪七海の胸はデカイ。巨乳の部類に入るだろう。控え目に言って揉みしだきたい。
「(…言っておくけど、今アンタの考えてる事全部私に筒抜けだからね?)」
「(…嘘だろ?)」
自分の思考が読み取られるという何とも厄介な能力に俺は恐れおののく。しかも読まれた思考は男の子的な物。しかも考えていたのは思考を読んだ張本人、白雪七海の事だ。母親にエロ本が見つかるのワンランク上、母親のエロ本が見つかる的な切腹自害レベルの状況に俺は令和最大、否、人生最大の羞恥に駈られていた。
「(まあ、慎一郎が変態スケベで馬鹿野郎って事はもう分かってるから、私は気にしないけど。)」
「(いや、待って!誤解だよ、ゴカイ。魚の餌。)」
「(意味わかんない。…でも知ってるよ、カナとは一度、レ○セッ○スしてる関係ですし、同意の上なら何してもいいよね?みたいな事を言ってたよね?)」
「(は?覚えてない。言ったかもしれないけど。)」
「(言ってたんだよ。言った方は忘れても、言われた方は覚えてるんだよ?)」
「(…あ!)」
その時、思い出した。確かそれは西の国を離れて北の国へ向かう途中の事だ。俺はナオから厳重なセクハラ注意報を受け、カナと関わることを躊躇していた。だが、カナが優しく接してくれて、ただ一緒に居るだけではセクハラにはならないと俺は気付いたのだった。(9話参照)それはその後長子に乗って出た台詞だ。…思いっきりセクハラやんけ。
「(思い出した?その時のカナちゃんの様子がちょっと変だって思わなかったかな?)」
確かにその時のカナはいつものおっとりとした雰囲気からは想像も出来ないような冷たい目で俺を見ていた。…あの時は何かゾクゾクした。
「(あのさぁ、本気で気持ち悪いよ?さっき考えてる事筒抜けって言ったばっかりだよね?いつもこんな事考えてるの?)」
「(いやいや!違う!魚の餌!)」
「(いや、もういいよそれ。…まあ、話を続けるとカナちゃんの様子が変だったって事だよね。)」
彼女の声が低くなるのを感じながら、俺はもう余計なことは考えないと心に誓う。至って真面目に、俺は紳士となる。
「(実を言うと、その時のカナちゃんて私だったの。私が憑依して、慎一郎に悪戯しようと思ってたの。)」
「(ああ、成る程。)」
あの時カナの様子がおかしかったのはそのせいだったのか。やっと合点がいった。カナがチロが変態だった夢を見たと言ったのは、憑依されている時の不確かな記憶を夢と勘違いしたからだろう。
「(まあ、そういう事だろうね。…じゃあそろそろ始まるよ。)」
突然彼女がそんな事を言い出す。一体なんの事だと思っていると、突如何処かから声が聞こえた。
「白雪七海さん!ずっと前から好きでした!その綺麗な長い髪、屈託の無い愛らしい笑顔。正直一目惚れでした!付き合って下さい!」
…七海の体が自然と動く。首を動かし、その声が聞こえた方へ目を向ける。その視線の先に居たのは、短い髪と鍛えられた体、そして何処か爽やかさを感じる顔立ちの男だった。運動部に入っていることが容易に想像できる。
そしてその曇りなき眼で彼女、白雪七海しっかりと見つめている。
「ご返事は、ここで頂けないでしょうか?」
運動部らしい男は、紳士的にそう続ける。
…それに対して、七海の対応は…。
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