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第二章 メモリー&レイルート
俺と彼女の物語。 中編
しおりを挟む「あ!いたいた♪…お~い、シンイチロー!」
彼女の声が聞こえた。俺を呼ぶ声。俺は振り返る、彼女の声がした方に。
そこには笑顔で手を振る彼女の姿があった。
長い黒髪を後ろでまとめポニーテールにし、派手すぎないピンクのワンピース水着を纏っている。
水着、そう、ここは市民プールである。
白雪七海との親睦を深めるための作戦、第二弾として俺たちは市民プールに遊びに来たのである。
しかしプールとは素晴らしいものだ。この太陽照りつける真夏日に浴びる水ほど気持ちいいものも無い。それに回りの人達は皆水着だ。若い女の人たちも多い。
とてもいい、眼福だ。だが目のやり場に困るという事は無い。……彼女がいるからだ。
「……?、どうしたの?私の事ジーっと見て。」
「いや、その水着似合ってるなーと思ってね。」
「ふふ、ありがとう♪」
ただもうちょっと露出の多い水着の方が…、いや、別にこれでいい。というより彼女にはなんでも似合う。何を着ているかより誰が来ているかが重要だ。彼女ならどんな水着でもいい。
「それじゃ泳ごうか。……流れるプールでいいよね?」
「そうだね。行こうか。」
そう言って彼女と共に流れるプールへ向かう。実際プールで遊ぶといっても、ビーチボールを投げ合ったり、水鉄砲で遊んだり、彼女と談笑したりと、そんな単純な事だ。でも彼女とだったら何だって楽しいし、いつまでも遊んでられる。何だって俺は彼女にぞっこんだからだ。
……それから暫く俺たちは遊んだ後、休憩時間にお互い隣り合ってプールサイドに腰かけていた。
「ねえ、シンイチロー。次はウォータースライダー行こうよ。」
「ウォータースライダー?」
「ほら、あれだよ。あのでっかい滑り台みたいな。」
彼女が指差す先には、でっかい滑り台と例えるのに相応しい物があった。……そこの頂上からは甲高い叫び叫び声や悲鳴の様な物が聞こえてくる。
「……やだよ、怖いもん。」
「いやいや、全然怖くないよ!楽しいよ!それにここのウォータースライダーはかなり大きくて有名で………」
「無理、もっと初心者にやさしいやつじゃないと。」
「え、乗ったことないの?ウォータースライダー。」
ご名答。そう、俺はウォータースライダーに乗ったことなど無い。だってあんまり泳げないし、なんか怖いし。
「……シンイチロー、それは人生損してるよ。」
「そこまで言う!?」
彼女が人生損してるとまでいうウォータースライダー。一体どんなものか気になり始めている自分がいた。
「大丈夫!怖くないよ。私が保証する。」
「……うーん、なら行こうかな。」
彼女にあれこれ言われるものだから、今では怖さよりも興味の方が勝っている。それに何事も経験と言うし、これも夏休みのいい思い出になるんじゃないか。
「よーし!じゃあ行こ~!」
意気揚々と彼女はウォータースライダーへ向かう。気付けば休憩時間も終わりぞろぞろと人が動き始めていた。
たどり着くとかなりの人数が列に並んでいる。俺たちはその後ろについて順番を待つ。
待ち時間は彼女と談笑して過ごし、暇を感じることはなかった。段々と列は進んでいき、俺はあることに気付いた。
「……ここ、めっちゃ高くない?」
見た所10メートルはありそうだ。さらに恐ろしい事にここはまだ頂上では無い。つまりは頂上の高さはこんなものではなく、もっとさらに高いと言う事だ。
「帰ってもいい?」
「駄目!せっかくここまで来たんだし、帰らせないよ!」
「いや、でも俺抜きで一人で滑れば…。」
「シンイチローが一緒じゃないとつまらないもん!だからついてきて!」
そう言われ俺は滑る以外許されない状況になってしまった。ああ神様、どうか無事に帰れますように。
……そしてついに俺たちの番が来る。
「じゃあ、シンイチロー最初行ってね。」
「え、何で!?」
突然彼女にそう言われ俺は戸惑う。彼女には基本従順な俺だが、今回ばかりは歯向かわせてもらう。
「いや、俺初めてだし、どうすればいいか全然分かんないし、まず最初にお手本を……」
「やり方なんてないよ、強いて言うなら上体を寝かせれば滑りやすくなるけど。それに私が先に行っちゃったらシンイチローひとりじゃ絶対滑れないでしょ?だから先に滑って貰うの。」
……反論出来なかった。彼女の言うことは最もだ。もし彼女が最初に行って俺が一人になったら絶対に俺は滑らないだろう。ああ、もう行くしかないのか。
監視員がホイッスルをならし、俺の番がやって来る。俺は手摺に手をおいて滑る準備をする。
……ピィッ、と再度ホイッスルがなる。俺は滑り初めた。
しかし全く進まない。のろまな亀の様に、俺はゆっくりとスライダーを滑っていく。
「シンイチロー!体寝かして!」
彼女の声が聞こえた。俺は彼女の言う通り、上体を寝かせて……
「うおっ!」
その時、急にスピードが速くなる。まるでジェットコースターのように俺の体はスライダーを下っていく。カーブを曲がる度に落ちるんじゃ無いかと錯覚する。
「は、速ぇ……」
あまりの速さに、俺の上体は反射でみるみる上がっていく。それに比例し段々と速度も落ちて、気付けば最初程ではないが、少し速い亀ほどの速さに落ち着いていた。
……そして悠々と滑っていた、その時だった。
「シ、シンイチロー!!?」
「え、七海!?…何で!」
振り返るとそこに彼女がいた。彼女は驚いた表情で、
「こっちの台詞だよっ!シンイチローが遅いから追い付いちゃったんだよ!」
……どうやら俺が遅すぎたせいで後から来た彼女が追い付いてしまったようだ。一体どうすればいいのだろう、この状況……
「とりあえず上体下げて、ほらっ、バンザイしながら!」
「バンザイ?…こうか?」
「ッッ……!!」
……俺が上げた手が彼女の胸に触れる。柔らかい感触が俺の手に当たる。まだ子供なのに…以外とあるな。
そんな感想を抱くのも一瞬、俺は手を下げる。しかし彼女は俺の手を掴んで上げさせる。
「大丈夫っ、……このままで、このまま滑って……!」
恥ずかしそうに頬を赤らめながらも彼女は俺の手を掴んでバンザイの姿勢を作らせる。
そうしてバンザイした俺の体はスピードを上げてあっという間に滑り落ちていく。彼女は上体を上げてスピードを落とし俺との距離を開かせる。
……その後、俺は着水する。遅れて彼女もやって来た。…彼女の顔は耳まで真っ赤だった。
何とも話しかけづらかった。だが、謝らない訳にはいかないので、俺は彼女に一言お詫びする。
「……わ、悪かった。…ごめんな。」
「ううん、だ、大丈夫…。」
初めてのウォータースライダー。……それはそれは刺激的だった。
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