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第二章 メモリー&レイルート

ウ ○ チ ー コ ン グって知ってる?

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 Eスポーツ。…聞いたことはある。選手同士が対戦形式のゲームで勝敗を競う競技である。

 ゲームでの対戦をスポーツと称する事に疑問を呈する人も一定数いるようだが、スポーツの定義は曖昧であり、狩猟やボードゲーム等もスポーツとして扱われていることもあるので別におかしいことではない、と思う。

 ……いや、そんなことはどうでもいい。つっこむべきはそこではない。

 ここはゲームの世界、そのゲームの世界に何故ゲームがある?………いや、普通か。別にゲームの世界にゲームがあっても不思議ではないな。

 だが、このガガガ戦記内でゲームがあることがおかしい。ガガガ戦記の競技としてEスポーツは収録されていない。だから本来ゲームで対戦ということはあるはずないのだが、……そしたら野球拳もだいぶおかしいな。

 そうして情緒不安定な思考回路で色々考察して、俺は一つの答えを導きだす。

「……やるか。」

 元々いた世界でもゲームは大好きだった。そこにゲーム機があれば何となくゲームがやりたくなるのだ。だから余計な考えは捨て去って俺はコントローラーを手に取る。

「ルールは大丈夫ですか?あと操作方法とかも…。」

「大丈夫だ。問題ない。」

 ここにあるのは俺が小さい頃よく遊んだ、リモコン型のコントローラーを使うゲーム機だ。操作方法なんかも熟知している。

「ソフトは何が入ってるんだ?」

「何か格闘ゲームだったと思います。」

 ゲームを起動する。メニュー画面も懐かしい、少年の日の思い出が頭に浮かんでくる。

 入っていたのは日本を代表するゲーム会社のキャラクターが勢揃いした、格闘ゲームの第三弾である。このゲームでは他社のキャラクターも多数参戦している。

「…いやー、懐かしいなあ。」

 画面に写る、子供の頃によく見たオープニングムービー。全キャラクターが夕日に向かって立っている。……だがそんな感慨虚しく無慈悲カット。

「申し訳ないが、早くやりたいのでね。チロさん、君はなかなか強そうじゃないか。」

「ああ、小学校三年の夏休みはこれしかやってないぜ。」

 当時このゲームが凄く強い友達がいて、そいつに勝つためにストーリーモードを最高難易度にしてプレイしていた。結局夏休みは潰れたが、俺はそいつに一回だけ勝つことができた。

「ふふ、楽しみだな。」

 ミミが笑って答える。その様子を見るにミミも中々の実力の持ち主のようだ。

 キャラ選択画面が開かれる。やっていた当時は物凄い高画質だと思っていたが、今見ると少し画面が荒い。今のゲームもこれからそうなっていくのだろうか。

「じゃあ、私はこのピンクの丸いので!」

「私はこの緑の恐竜にします。」

 皆、次々にキャラクターを決めていく。そして俺は………。

「お?」

「あれ?」

「……被ったな。」

 ミミとキャラクターが被った。そのキャラクター、鉄の騎士は恐らくこのゲームの最強キャラといって良いだろう。それを選んでくるということはやはり分かっているな、この女。

「……お互い変えるつもりはないか。」

「そうだな。」

 このキャラクターは譲れない。譲ってしまったらそこで負けだ。このキャラに太刀打ち出来るキャラはそうそう居ない。

「…では始めるとしよう。」

「よーし!がんばるぞー!」

 ステージ選択画面から、ローディング画面へ。…この待っている時間が一番ワクワクする。

 ロードが終わり、そして……。

 ……試合が始まる。


 …それと同時にミミが一気に俺を責め立ててくる。俺はカウンターとガードで、何とかそれをかわす。

「ふっ、なかなかやるな。」

「いやあ、そちらこそ。」

 …その間にハナは、カナによる画面端の剣攻撃で撃墜されていた。

「うわぁ、もう終わりですかー。」

「よし!次はそっちだ!」

 カナの剣攻撃のターゲットがこちらに変わる。剣攻撃を連打してミミに接近してくるが、それを上手く避ける。

「邪魔だッッ!!」

「うにゃ!!」

 ミミの横スマッシュ攻撃でカナを撃退する。……この勝負、早くも俺とミミの一対一になる。

「いくぞっ!!チロ!!」

「おうよ!」

 互いに全力をぶつけ合う。…ゲームでここまで熱くなったのはいつ以来だろう。それほどに手強い相手だ。

「うおりゃああああ!!!!」

「おおおおおお!!!!!」

 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!

「隙ありっ!!」

「ふっ、甘いな!!」

 …隙をついたと思った俺の攻撃。しかしそれをミミに読まれ、カウンターにより拮抗していた戦局はミミの方に傾いた。

「くそっ!!」

「オラオラオラオラオラオラァ!!!!」

「くっ、不味い。」

 圧倒的不利な状況に追い込まれた俺。…だが俺にはまだ秘策がある。夏休み修行で身につけ、ゲームの強かった友達を打ち破った必殺技がッ!!

「いくぞっ!必殺技!!」

「何ッ!?」



「ウ ○ チ ー コ ン グって知ってる?」

「ぶはっwww」

「今度こそ隙ありだッ!!!!」

「ちょ!!待っ!!ぐわあああ!!!!」


 秘技、…笑わせる。敵を笑わせた隙にスマッシュをおみまいするという反則級の大技だ。この技にはゲーマーの友達ですら敵わなかった。……悪く思うなよ。

「……今のは普通にセコくないか?」

「いや、最終的に勝てばそれでいいのだ。」

 ……ミミに大きなため息をつかれる。そして俺をジト目で睨み付けて、

「…次は無しね。」

 と、そう言った。


「ところでウ ○ チ ー コ ン グって知ってる?」

「知wらwなwいwよw」




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