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第二章 メモリー&レイルート
俺は彼女以外、愛せない。
しおりを挟む私は貴方が大好きでした。
寂しくて、泣きそうだけど、チロさんには私の想いを伝えられた。それだけが本当に良かった。じゃないと想いを抱えたまま、永遠に辛く苦しい日々が続いただろうから。
聞かぬ恥より、聞く恥。ごもっともだと、今回の出来事で私は思った。
でもやっぱりチロさんとは恋仲になりたかった。本当の顔も知らない、昨日会ったばかりの人だけど、……これが一目惚れってやつなのかなあ?
そんな事を私、レイが考えていると、ふとあることに気づいた。
「…ユキ様、顔色が優れないようですが。」
「ああ、少し考え事をな。」
ユキ様は何か思うところがあるような表情をしていた。何か考え事をしていたらしいが、私には聞く勇気はない。しかしユキ様は口を開いてこんなことを言った。
「なあ、レイ。お前の未来はどうなってると思う?」
「未来、ですか…?」
随分と突飛な質問だった。未来の事何て考えた事はない。でもとっさに頭に浮かんだイメージは、チロさんの結婚式に参加する私だった。相手は私ではなくカナ様だったが。
……まだチロさんの事は諦めて無いんだけどなあ。
「……申し訳ありませんが、全く想像出来ませんね。未来の事など…。」
「そうか、まあ、私も一緒だけどな。」
ユキ様は少し物悲しそうな顔をした。つまりは先程の考え事というのは未来の事についてだったのだろう。
「……なあ、お前は何か変に感じたことはないか?」
そう考えていた矢先に、またまた突飛な質問を投げ掛けられる。正直、変に感じたことは何もない。私は意図の分からない質問に首をかしげ、
「いいえ、特には…。」
そう答える。するとユキ様はその暗い表情を変えずに…
「…この光景を、前に一度見たことがあるんだ。」
そう答えたのだった。
……俺、神林慎一郎は惰眠を貪っていた。
昨日から色々な事が立て続けに起こっているのに、昨晩は一睡も出来ず、朝から騒がしいわで、疲労はマックスだった。
疲れで本当に何もする気が起きない。だから惰眠を貪る以外の選択肢など存在しなかった。
目を閉じる。するとすぐに意識が薄れていく。だがその時、とある2つの疑問が脳に浮かんだ。それは朝にレイに尋ねようとしていた事だった。
一つはレイが俺なんかを愛してくれたのか。一目惚れといってもあの溺愛具合の説明にならない気がした。俺が奥手というのもあるかも知れないが、初対面の相手にあれだけ愛情表現するものなのかと疑問に思う。
あれも酔いのせいなのか、いや、分からない。俺は酒が飲めないし、酔った経験も無いからだ。
二つ目は、レイの過去に何があったのか。あの言葉と涙には一体どういう意味が含まれているのか。…これは個人的な事なので、あまり踏み込むべきでは無いのだろうが。
……これは俺とレイが“本当の仲”になれば明かされる事なのだろうか。
まあ、これは考えて答えが出る問いでもない。考えるだけ無駄だ、真実は彼女のみが知る。…いつかその口から真実を聞かされることはあるのかは分からないけれど…。
俺は眠りについた。意識は暗闇の中。……愛おしい声でその名を呼ばれるまで、俺は夢の中をさまよった。
「チロ~、ついたよ。」
「ん?」
名前を呼ばれ、目を覚ます。その声の主は中央の国代表、いうならば俺の上司であり、俺の、一番大好きな人。
「ああ、ありがとう。…カナ。」
愛おしい、その人の名前を呼んだ。
その綺麗な髪、真っ直ぐな瞳、少し控えめな胸、透き通った声、そして…。
太陽のような、その笑顔を見て、俺は思った。
……やっぱり俺は彼女以外、愛せない。
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