上 下
17 / 100
第一章 ボーイ・ミーツ・ツーディーガールズ

ついに……決着!!! 前編

しおりを挟む
 
「ストライクッ!!バッターアウト!!」

 俺の説得で何とか気合を取り戻したカナだったが、流石に疲れには勝てず。しかしそれでも苦しみながらに後続の打者から三振を奪った。

「皆、本当にごめん。私のせいで試合を台無しにしちゃって……。」

「いいえ、大丈夫ですカナ様。気にしないでください。」

 カナは頭を下げて謝罪する。それに対するヒロや他の守護者達はカナを責める様子はない。……ただ一人を除いて。

「いや、俺はアンタを許さねーぜ。」

「……おい、カズ。口の聞き方に気をつけろよ?ガキが…舐めてると潰すぞ」

「……すいません兄貴、そしてカナ様。ただ俺はどうしても許せないんです。」

 ただ一人カナに突っかかっていくカズ。それをカズ達ドラゴンカルテットのボスであるタツが止める。それでもカズは何か思うところがあるようだ。

「自分が試合を台無しにしたって、まだ闘いは終わってないでしょうが!!」

 どんな勝負でも決して諦めない、逆境でもそれは変わらない、ツッパリらしいカズの勝負観。それがカナの発言を許さなかったようだ。

「……うん、ごめん。そうだよね。諦めたらそこで試合終了だもんね。」

「へへっ、いい言葉じゃねぇか。諦めたら終わりだぜ。」

「そうね。よし、最終回諦めずにいこう!!」

 ん?最終回?

「え?最終回?」

「アンタは本当に話聞いてないね?」

 ついにライが俺に対して敬語を使わなくなったが、この件に関しては俺に全く非はない自信がある。

「いやいやお前らはカナとは意志疎通で会話できるけど俺はできないからね!?そして俺は誰からもその話聞いてないんですけど!!?」

「それはお前が誰かに聞けばいいじゃん。ホウレンソウは組織の基本でしょ?」

「いや、舐めすぎだろ!!上司にお前は無いでしょ!!お前は!!それにホウレンソウってお前が俺に報告しろや!!」

「はいはい、言い争いは終わり。こんなとこで喧嘩してても何もないでしょ?」

「はい、すいませんカナ様。…………チッ。」

「お前、本当屑だな!!」

 全く腑に落ちないが言い争いはここで終結する。カナの言う通りここでの言い争いは全く意味がないからな。

「よっしゃ!!タツ様に繋ぐぜ!!!」

 最終回の攻撃は8番のサブからの攻撃。この回三者凡退で終われば俺が最後の打者になってしまう。9番がタツなので可能性はそこまで高いわけではないが最後の打者になるのは避けたい。

「サブ!タツ!俺にチャンスで回してくれ!!」

「おうよ!」

「任せてくださいチロさん!」

 本心では俺を最後の打者にしないでくれ!!と思ってるところだが、ポジティブに言いかえる。二人を奮起させる効果もあるし、自己暗示にもなって一石二鳥だね。


「うおりゃあ!!」

「よっしゃ!!ナイスバッティング!!」

 早速効果が現れたのか、サブがヒットで出塁。そして次のバッターはドラゴンカルテットのリーダーであるタツ。

「もう一丁ホームラン見せてくだせぇ!!タツの兄貴」

「タツの兄貴」

「タツ兄貴」

「おおおっしゃあ!!俺が決めたるわ!!!」

 いつもは多くを語らないタツが吠えた。いつになく全力のタツ、これは期待出来そうだ。

「タイム、お願いします。」

 タイムで出鼻を挫かれたタツ。完全に雰囲気に乗って忘れてたが敬遠も十分にありえる場面だ。ただ逃げる事を嫌うユキがレイのこの提案に乗るかどうか…。

「あ?敬遠だと。」

「…はい、先程この打者には本塁打を打たれてます。万が一本塁打が出れば同点です。安全策をとってここは歩かせた方がいいかと。」

「……万が一にでも私が同じ奴に負けると思ってんのか?」

「え?」

「さっきこいつに打たれたのはまぐれじゃなく私が大したことないからか?」

「いや、それは…。」

「お前あんまり舐めてるとぶっ飛ばすぞ!!!」

 突然、ユキがレイの胸ぐらを掴み襲いかかろうとする。

「おい!なにやってんだ止めろ!!」

 しかし、すぐさま一塁ランナーのサブがユキを押さえつける。そしてタツもレイを庇うように二人の間に立つ。

「くそっ、暴れんじゃねぇ!!」

「痛ぇな!!もういいだろ!!離しやがれ!!」

 サブがユキを離すとそのままレイに背中を向けてマウンドに戻った。そしてレイも捕手の守備位置に戻り、座った。

「……勝負か。」

 しかし一旦試合が中断し、流れは完全に止まった。この勝負がどう転ぶか全く予想が出来ない。

「しゃああ!!来いやぁあ!!」

 再びタツが吠えた。まだタツの気持ちは切れていない。

 対するユキがタツに対して一球目…。


 ドゴオオォォォォォン!!!


 唸る速球が爆発音のような音とともにミットに収まった。バックスクリーンの球速表情ではこの試合最速の166㎞/hをマークしていた。

「ここに来て球速が上がった…。」

「へっ、面白いじゃねぇか。」

 続くユキの2球目……。

「うおおおおお!!!」

 タツが打ちにかかる、振り切ったスイングでバットに当たったボールは………。





「二塁フォースアウト!!」

「一塁フォースアウト!!ツーアウト!!」


「い、よっっしゃああああ!!!!!」

 …………ショートゴロゲッツーだった。今までにない歓声と悲鳴がグランドに響き渡る。試合の流れが一気に相手チームに持っていかれ、完全に試合が終わってしまったかのようなムードになる。


 そして、そんな中で打席に向かうのは、…一番バッターである俺だ。

 正に俺が一番嫌忌してた事態になってしまった。最終回、ツーアウト、最後のバッター俺。

「チロ様!ここからチャンスを!!」

「チロさん、俺の仇をとってくだせぇ!!」


 無茶言うな、俺がこんな球打てる訳がない。

「ストライク!!」


「おい!お前!!何とかしてくれよ!!」

「タツ兄貴の仇撃ちじゃコラ!!」


 やめてくれ、心が張り裂けそうだ。

「ストライクツー!!」


 駄目だ。もう…おしまいだ。


「チロ!!諦めたら、そこで終わりだよ!!」


 ああ、何でそんなこと言っちゃったんだろうな。…………そうだな。……ここで諦めたら示しがつかねぇじゃねぇか!!!


「これで終わりだ!!」

 ちくしょおおおお!!!どうにでもなりやがれえええ!!!!!


 神様、どうか俺に力を………。
しおりを挟む

処理中です...