ガールズガーディアンガンガンダッシュ戦記

七井 望月

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第一章 ボーイ・ミーツ・ツーディーガールズ

ドキッ!美少女だらけの野球拳!!前編

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 海は広いな、大きいなという童謡は海の無い県の人が考えたらしい。何処だっただろうか。だが海への憧れがこの歌を作ったのだろう。それは間違いない。

 目の前の大海を眺めながら、そんなことを考える。
 ここは東の大陸の港、アズとその守護者に見送られてこの東の大陸を後にするところだ。

「色々とお世話になりました。」

 カナが丁寧にお辞儀をする。チロも真似してそうする。

「こちらこそどうもありがとうございました。ーそれと。」

 アズが何か思い出したようにチロの方を見る。何か話そうとしている様子だが、それを戸惑っているようだ。

「体調の方は大丈夫ですか?また発作とか起こったらー。」

「……。」

「何?!発作?チロ、大丈夫なの!?」

「すいません、ダイジョウブです。申し訳ありません。」


 ーーアズが言う発作というのはほんの数時間前に起こった出来事だ。

 ガガガ戦記のゲームの内での行動やアクションはコントローラー操作で行う。そのためプレーヤーの実力があれば超人じみた、いや、もはや変態の域に達したプレイも不可能ではない。

 しかし、ここはゲームの世界でも自分はコントローラーに操られる人形ではない。ゲーム内ではSSSランクであったチロもこの世界ではどれ程の実力か不明だ。

 先にある試合で実力の程度は分かるだろうが、事前に試して知っておいた方がいいだろう。

 それにこの世界では元のゲームであるガガガ戦記の常識が通用しない。エドの不在もそうだ。

 それについては後で語るとして、チロはカナと共に港へ行く途中、ちょっとトイレに行ってくるという言い訳で街の路地裏、目立たない奥の方で技の確認をすることにした。

 まずはジャブを数回。何となく体が軽い用な気がする。恐らく、多分。

 次に大技、バスケットボールでチロが使う必殺技、シューティングスターダンクを試してみる。

 この技は大ジャンプして空中でくるりと前転、そこからダンクシュートをするという、無駄な動きを交えた普通のダンクシュートだ。ただ見た目は派手である。それだけだ。

 この場所にゴールは無いので今からやるのはただの前宙になるが、元の世界では前宙はおろか側転すらもぎこちない程の運動神経だ。

 前宙等出来るはずがない、だがそれはあくまで元の世界ではの話だ。

 今はすこぶる体が軽い、ような気がする。やる気にも道溢れている。

 それにこういう異世界転移物ではチートボーナスが付いてくるのがお約束だ。

 美少女とキャッキャッウフフ出来る、むしろ自分自身が美少女というボーナスがすでに付いてきているが、元の世界ではゲームでは敵無しだったように実際にゲームの世界でも最強無敵で、驚異的な身体能力を持つというTHE・チートボーナスがあってもおかしくない。元々チートボーナスというのはそういった類いの物だろう。

 その力、今にご覧あれと両足で踏み切り全力の跳躍、そこからの空中前転。体が軽い、全身に浮遊感を感じる。体感ではその時間は長く感じたが、実際は一瞬で、あ、無理という呟きとほぼ同時に背中から勢いよく地面に落下した。

「イヤァオィ!!」

 痛みに奇妙な叫び声をあげて地面をのたうち回る。

 ーーそれを影で見ていたアズがこちらへ駆け寄り、本気で心配そうな目で見ながら気遣ってくれ、なんとも胸が傷んだ。





 ※





 その誤魔化しに発作という言葉を選んでアズをさらに心配させ、こちらの胸もさらに傷んだというのは言うまでもない。

 ちなみにアズはチロ達の見送りに向かう途中で路地裏に入っていくチロを見つけ、後をつけたという。
 事の一部始終を見てたわけではなく、見ていたのは最後ののたうち回るチロの姿だけだという。それだけが救い、なのかどうかはよく分からないが。

「ねぇ!チロ見て海だよ!綺麗だよ!!」

「せやな。」

 大海原を眺め、カナが子供のようにはしゃいでいる。

 東の大陸を離れ、試合を申し込みに西の大陸に向かいに行く船にチロ達はいる。

 しかし試合をするにしても、カナ率いる中央の国の戦力はワーストクラスだ。

 側近のチロが全く使い物にならず、散々雑魚だの淫ピだの馬鹿にしていたモモと同等、もしくはそれ以下という実質戦えるのはカナだけという絶望的な状況だ。

 だがそれに負けず劣らず絶望的なのがアズの東の国だ。

 アズはカナと同じAランクだが戦闘力でわずかにカナに劣る。その上側近は不在。この上無く最悪な条件で戦いに挑まなくてはならないのだ。

「ーーエド、と言うのは誰の事ですか?」

 アズがそう言った時、チロが思ったのは良かったという安堵と残念な気持ちだった。

 それはあの化け物を敵にしないで済んだことと、その圧倒的な力をこの目で見ることができないという二つの状況から来ている。

 それほどエドというのはずば抜けて強い。それを失ったアズはかなりの痛手だろう。

 いやそもそもアズはエドの存在を知らない。何故だかは知らないがエドという存在はこの世界では無かったことになっているようなのだ。

「チロー、着いたよー。」

 どうやら目的地に着いたようだ。チロは考え事を一度中断する。

 西の国、代表者はニシ、そしてその側近はナオ。それぞれランクBの実力者だ。

 ニシは他の国の代表者と比べるとややランクは低いが、それを高い知識と指示力で補う。

 守護者からの信頼も厚くチームプレーで勝利をもぎ取る。そんな感じだ。正直チロは勝てる自信が無かった、が。

「よーし!頑張っちゃうぞー!!」

 カナは意気揚々と敵地に乗り込む。そんなカナの姿にチロは自然とやる気になっていた。




 ※




「無理や、無理無理。試合何て受けられへんよ。」

「えー!?何でですか!!」

「なんでもかんでもあらへん。無理なもんは無理や。」

「そんなぁ、せっかく来たのに…。」

「そう言われてもなあ…。」

 やる気満々で来たにもかかわらず、出端を挫かれる形になったカナと、困った表情の会話のもう片方の人物。

 亜麻色の髪、その前髪を上げつつ後ろへ流す、ポンパドールという髪型でヒョウ柄のダウンをまとっている。

 関西弁で話すこの少女こそ西の国代表者、ニシだ。今にも泣き出しそうなカナを必死であやしている。

「理由を伺ってもよろしいですか?」

 チロが口を開く。なんでもかんでもないとは言っていたが、恐らく試合を断る理由か何かあるだろう。

「今ちょっとな、宴会をやっとるんよ。」

「宴会?」

 チロとカナが同時に首をかしげる。カナは既にいつもの調子だ。

「せや、昨日、南の国と試合して見事うちらが勝ったんや。」

 南の国と言うと、代表者は唯一のSランク、ミミと守護者はその妹、ハナ。妹の方はCランクだが国としての総合戦力はトップクラスだ。

「祝勝会、みたいな感じですか。」

「そやな、それや。劇的勝利やったからな、もう大盛り上がりや。」

 Sランクであるミミ率いる南の国に勝つのはまさに価千金といえる。そんな勝利の後だ。祝勝会もさぞかし大盛況な事だろう。せっかく来たのに少々残念だが、ここは邪魔にならないように…。

「祝勝会ですか!?面白そうですね!!私達も参加していいですか?」

 とそんなチロとは対称的に、すっかりいつものテンションのカナは全く引き返す気は無いようでむしろ宴会に乗り込もうとしている。

「いや、それはちょっと…。」

 正直チロはこれには反対だ。呼ばれてもいないパーティーに勝手に押し掛けるのは空気を壊すだけだと、チロはそう思う。

 ニシも少し困った用な表情を浮かべたが、

「まあ、あかん事はないけど…。」

 やった、と小さくガッツポーズするカナ、しかしニシは困惑の表情を崩さず、悩むように顎に手を当てる仕草で、

「ナオと、他の守護者達。あいつらがどう思うかやな。」

 と仲間の心配するニシ。国の代表という地位ながら、人の上に立つ独裁者といった感じでは無く、部下とも友達のように接する。

 それで、ただの仲良し政権では無く、いざというときにリーダーシップや決断力を発揮するのがその少女、ニシだ。

 そして、ただの仲良し政権でやってる中央の国の代表、カナは宴会参加を諦めてはいない。

「差し入れみたいなんが何かあればあいつらも喜ぶと思うんやけどな。」

 チラ、チラとこちらを見てくるニシ。「なるだけ高そうなやつでな。」等と笑顔で言ってくる。

 仲間を思いやっての事だと、そう思っていたのだが要するにタダでは駄目だということだろう。

 こちらもタダでというのは虫のいい話だと思っている。それはカナも同じのようで、

「もちろんです。最高級の物があります。」

 ニシが首をかしげる。一体何が来るんだと。

「ふっふっふっ。」

 カナが笑う。そしてニシは、

「ほんまか!?ほんまなんか!?」

 驚きの声を上げる。カナが取り出したそれは、

 この世界で最も高級とされる、最高峰のワイン。
 浪漫・コンティ。百万は下らない、そんな代物だ。

 ニシもさすがに驚きを隠せずに、体を震わせている。

 実はこの浪漫・コンティは、アズに別れる際に貰ったもので、船の中で、チロはお酒が飲めないので、カナが少し飲んだ物だ。

 あまりお酒の味が分からないカナが、美味しくないと捨ててしまいそうになったが、もったいないとチロが止めるという一幕があった。

 そのため、これを渡すことに抵抗はない。むしろ引き取り手が見つかって良かったと思ってる。

 ニシの表情はすっかり歓喜へと変わっている。

「ありがとさん、お客さん。ほな、行こか。」

 軽くスキップを踏むニシにチロ達はついていった。
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