さよならジーニアス

七井 望月

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金色に輝く魂は、略称してはいけない

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 瑞々しい柔肌の感触を手に感じながら、俺は芳山理子の体を撫で回した。

「……いやッ、やめて……」

 彼女の口から漏れる吐息も、艶っぽい声も、俺の手を止めるには至らない。俺はもっと、別の声を聞きたいんだ。

 彼女は拒絶の言葉を呟くも、俺の手から逃れようとはしない。……やはり、彼女は……

「おい!離せよ!このクズ男ッ!!」

 俺が彼女と触れ合っていたところ、横から割り込んできて俺の胸ぐらを掴んだのは言問だった。

「何が罪の告白だよ!そんなものにかこつけて、セクハラ行為をしようだなんて、最低以外の何物でもない!何の免罪符にもならないよ!」

 言問は俺より一回り背が小さいながらも、凄い力で俺を持ち上げ、唾がかかるくらいの怒声を浴びせた。

 ……そんな言問を、俺は鼻で笑う。

「……なんだよ言問。嫉妬してんのか?」

「ち、違う!僕は、僕はそんなんじゃない!」

 言問は図星に指されるところがあったのだろう。ひどく狼狽えながら返事を返した。

「……まあ、どっちでもいいよ。今はお前にもう興味がない。俺が好きでも嫌いでも、それはお前の好きにしたら良い。……あーあ、ぶっちゃけた話、ここ最近はわりと良かったんだけどなー。いやはやいやはや言わなくなったし、変なこと言わなければお前は美少女だから、俺的にもアリかなって思ってたのに……今日のテストの逆ギレしかり、あれがお前の本性だと思うとちょっとなー」

「お、お前……ッ!!」

 ……言問は掴んだ俺の胸ぐらを強く引っ張り上げ、俺の体を部屋の壁へと投げつけた。

 そのまま、怒りのまま、言問は俺の元へとかけより何度も何度も拳を打ち付ける。

「クソッ!この、クソ野郎がッ!!」

「ま、待て……ちょっと待って言問さん」

「今さら謝ろうとしてももう遅い!くたばれこのクズ野郎がッ!!」

 言問はもう俺が泣くまで殴るのを止めないくらいの勢いで打撃を繰り出している。そんな言問を諭すように、……この場にいる理子に聞こえないように俺は言葉をこぼす。

「……違う違う!これは作戦だって!」

「……作戦?一体何の作戦だって言うんですか?」

 俺の作戦という言葉も、ただの言い訳だとしか思っていないような目で言問は俺を見て問いかける。

「……理子は俺達に対して、絶対に何かを隠している」

「言われてみれば、確かにそんな気がしないこともないですが……」

「いや、絶対に理子は隠し事をしてる。今回いきなり家に上がってきた件もそうだが、普段の行動からも色々と謎が多い。……そして、アイツは俺とお前の仲が悪くなることをどうやら一番恐れている。今回その原因がアイツにあるわけだから、俺達は喧嘩している“体”でアイツに今回の件を追求するんだ」

「……むぅ、そういうことなら……」

 言問は全く納得のいっていない様子ながらもしぶしぶ俺の作戦に承諾した。……言問は、きっと理子に怪しまれないようにするためだろう、多分、俺の事をノンストップで殴り続けていたが、その力が僅かに弱くなった。

「……おい!女みてぇな悲鳴上げやがって、キンタマついてんのかッ?!」

「キャ、キャーーッ!」

 ……しかしそのロールプレイングは過激さを増し、痛くはないけどさっきよりも怖いです、言問さん。

「あ、文夏ちゃん。も、もうそのへんに……」

 先程まで空気になっていた理子も思わず止めに入る。今の言問は俺を殺しかねないくらいの覇気を纏っているからな。覇王色。

「…………チッ」

「…………」

 ……そんな言問が舌打ちをすれば、誰だって萎縮するだろう。理子もその例に漏れず睨み付ける言問の視線にたじろいだ。

「……おい、芳山。お前だって無関係じゃないからな?お前は私が彼に告白したのを知ってただろ。なのに彼に手をだそうとしたよな、この泥棒猫が。そんなに裸を見せたいならテメェの服ひん剥いて道端に捨ててやろうか?あぁ?!」

 ……もう893だろコイツ。全くもって演技には見えない怒号を理子に浴びせ、理子もそれを嘘だとは甚だ思っても見ない様子で言問に怯えていた。……本当に、嘘だよね?言問さん。いや、言問様。

「何とか言えよ!このアバズレがッ!」

 うん、どう見ても893です。本当にありがとうございました。

 そんな叫びで理子を威嚇するが理子も負けじと声を張り上げた。

「……わ、私は!彼をたぶらかそうとしてこの場に来た訳じゃない!!」

「じゃあ何だってんだよ!プロポーションでも自慢しに来たのかよ!『肩にちっちゃい重機乗せてんのかーい!』ってやかましいわッ!」

「…………」

 ……言問はもう怒ってるのかどうかすら、よく分からないな。

 だが相も変わらず語気を強めて追求する言問に理子は観念し、意を決したかの様に胸に拳を当て、口を開いた。

「違う私は……ッ!私は操られていただけよ!じゃなきゃこんなはしたないこと、するわけないでしょッ!!」

「……あ、操られていた……?」

「あや、操や?」

 ……遂に、理子は自らの秘密を一つ暴露した。




 ※





「……て事は二人とも演技で、本当に喧嘩していた訳ではないのね?」

 ……かくかくしかじかと、理子が今回の件のタネを明かしたところで、俺達もテッテレーと事のネタばらしをした。

「つまりそゆこと。全てはアンタの秘密と鼻を明かすための、俺達の作戦ってわけ」

 ……ま、最初の方は言問も気づいてなかったけどな。

「……本当かしら、さっき文ちゃんが箱根をボコボコにしてた時から、私をアバズレ呼ばわりした時までずっとウソ発見器は反応してなかったけど」

「…………」

 ……なんだよウソ発見器って。それより言問さん、今までの言動、全部“本当(マジ)”だったって、コト? 

「……イヤイヤキットコワレテルンデスヨソノキカイ」

 壊れたロボットみたいに言問はそう言った。

 ……壊れたロボットが壊れたと言うんだから、きっとそれは本当なんだろう。

「……それより理子、お前エージェントに追われてるなんて、なんでそんな大事なこと今まで言わなかったんだ」

 俺は拗ねてそっぽを向く理子を叱るように声をかける。騙された理子は子供みたいに口を尖らせている。

「……それを知ったとして、アナタたちはどうするのよ」

「どうするって……」

 理子は心底バカを見るような目で溜め息を吐いて言った。子供の強がりのようにも見えたが。

「……どうせアンタらがいようがいまいが、結果は変わらない。むしろ足手まといが増えてやりづらくなるだけ。だったら最初からアンタらなんて要らないわ」

「おいおい足手まといって、そりゃあないだろ。俺達だって、非力ながらも出来ることはある」

「…………アンタらって、私より頭良いの?」

「…………」

「アンタらに出来ることが、私に出来ないわけ無いじゃない。何か言い訳ある?あるなら聞いて上げるけど……その無い頭使って良く考えなさいな」




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