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うっせぇわ!
しおりを挟むまるでサスペンス劇場のクライマックスの様に、俺は父、母、妹に睨まれ、追い詰められていた。
帰り際、やけに上機嫌であったのは何故か?そう瑞希に問い詰められる俺は自白を迫られる犯人のように額に汗をかく。
だんまりは不可能。王様ゲームの命令というのを武器に、逃げることは許されない状況だ。背後は崖である。
もう、自白するしかないのか……?
「そうだな、……まず、過程から説明するよ」
結局、俺は口を割ることにした。
「……俺は、とある女の子に告白されたんだよ。その子の事は嫌いじゃなかったけど、俺は告白を断った。勉強に集中したかったからな。だけどもし俺が次回のテストで一位に返り咲いたら、俺から告白すると約束した。それが、今日の出来事だ」
俺が話をするのを父、母、妹は食い入るように聞いていたが、話を終えると程無くして騒ぎだした。
「ふーん、それでニヤニヤしてたんにゃね。で、お兄ちゃん、その女の子ってどんな人にゃん?やっぱり可愛いの?私見てみたいにゃ~」
「もしかして、前回のテストで一位取った女の子って……」
「お父さん、あまり口を滑らせないことね。箱根に勝てる高校生なんて、他に居るわけ無いじゃない」
「…………」
案の定、俺が口を割った事によって瑞希は上機嫌になり、父と母は何だかよく分からない感想を述べた。
両親の言葉に俺は一つまみの疑問を抱いたが、その時、刹那に思った。
瑞希が目的を達成した今、彼女に王様ゲームの終了を提案すれば、快く受け入れてくれるのではないだろうか。
「なあ瑞希、もういい時間だし、ここらでお開きとしないか?」
「うん、いいにゃんよ。そろそろ疲れてきたし、終わりにしようかにゃん」
予想通り、瑞希は笑顔で承諾してくれた。
いやー、長かったなー。やっぱり王様ゲームなんてやるもんじゃねぇよ。改めて、俺はそう思うのであった。
※
「ねぇお兄ちゃん、デート行こうよ」
翌朝、瑞希は朝食を囲む食卓でそんな事を口走った。
「……正気か?お前」
「何その反応、酷くない?別に気が狂っちゃいないよ」
それならそれでまた問題な気がするのだが……
「久しぶりにこっちに戻ってきたから、小説のネタ集めを兼ねた散歩でもしようと思って。お兄ちゃんは私をエスコートしてよね」
「あー、成る程な。なら最初からそう言ってくれ」
もうちょっと良い言い方は無かったのか。お前は小説家なんだから、誤解を生まないような言い方も出来るだろうが。
「ご馳走さまでした。じゃあ行こうか、お兄ちゃん」
「……ああ」
瑞希は勢い良く立ち上がり、俺の手を引く。
俺はそんなに急ぎなさんなと、手で合図を送って、味噌汁の残りを飲み込み、瑞希の後を追った。
※
「それじゃあ、お兄ちゃん。告白した女の子の家に連れていってよ」
「……は?」
家を出て何気なく歩いていた時、瑞希は突然そんな事を言い出した。
「嫌だよ。俺も嫌だし、相手にも迷惑だろ」
至極全うな返答をする。
「えー、何でよー!好きなんでしょ?好きなら何時でも会いたいものだし、お兄ちゃんも会いたいでしょ?」
「確かに会いたいが、お前には会わせたくない」
「えー、ズルい」
「ズルいって何だよ……」
感情論で瑞希は言い返す。理論よりも、感情で話すのがコイツの癖だよな。
まあ、小説っていうのはいかに読書の心に訴えかけるかっていうのが一つのバロメーターのようなものだから、コイツは小説家向きなんだろうな、多分。
「て言うか、今は小説のネタ集めだろ。道草食ってないでさっさと済ませようぜ」
「何言ってんの?小説のネタ集めにゴールなんて無いよ。徒然なるまま思うがままに歩き回って、新たな発見を追い求めるんだよ。つまり道草オールオッケー」
瑞希はうんちくを傾ける物知り博士のように人差し指を立てて語る。
俺は特段小説作家に詳しいわけでもないから、書店大賞受賞の大物作家様に突っかかることはせず、「ああ、そうかい」と、相槌を打った。
「お前がそう言うんなら、ちょっと待ってろ。今アポイント取るから」
「やったー!!お兄ちゃん大好き♪」
瑞希は俺が危うくロリコンになりかける程の天真爛漫な笑顔で言った。くそう、とんでもないヤツだぜ。
馬鹿馬鹿しいそんな事を考える俺は文夏の携帯に電話をかける。
「………………出ないな……」
しかし文夏は電話に出ない。……どうしたものかと俺が考えていると、
「……あれ、箱根くんじゃないですか。奇遇ですね、こんな所で」
「あ、文夏!?」
私服姿の言問文夏がトイプードルを抱き寄せて歩いてきた。犬の散歩なのか。そうであるなら犬を歩かせてやった方がいいだろう。過保護なのか、そうじゃないのか良く分からないな、コイツは。
隣にいた瑞希は俺の反応を見て、この人が件の女子だなと気付いたようで、「ふーん、文夏さんって言うんだ」と小声で呟いた。
「あれ、その娘は……?」
どうやら文夏の方も瑞希の存在に気付いたようで、怪訝な顔をしながら俺に尋ねる。
「……ああ、コイツは俺のいもう……」
「まさか、浮気ですか!!」
「……え?」
怪訝な顔をしていた文夏は眉をひそめて、まるで親の敵でも見るような顔で俺を睨み付けてきた。おいおい怖ぇーよ。
文夏は顔が整っているぶん、細めた目としかめた面に威圧感がある。て言うか誤解だって、そんな怖い顔すんなよ。トイプードルも怖がってるだろ。
「もういいです!やっぱり箱根くんも女の子は若い方がいいんですね!分かりましたよ、せいぜい楽しめばいいんじゃないですか?このロリコン!!」
「おい待てって!まず現役女子高生が若さとかどうとか言ってんじゃねぇよ!色々な方面に謝れ、このバカ!!それと、お前は勘違いしてるッ!!」
俺はそう叫んで逃げようとする文夏の肩を掴む。しかし、その手に力を入れすぎた。
「きゃっ!!」
急に肩を引かれた文夏はバランスを崩して倒れそうになる。手にはトイプードルを抱き締めていて、受け身が取れない状態だ。
「危ねぇ!!」
俺は文夏を支えるように、後ろから抱き締める。
「……ッ!!」
無事、俺は文夏を受け止めることに成功した。
……いや、無事ではない。文夏を抱き締めた俺の両手は、文夏の豊満な胸を撫でるように当たっていた。
端から見ていた瑞希は「朝っぱらからお熱いですねぇ」とおっさん臭いことを呟いているが、うっせぇわ。貴方が思うより健全です。これは事故だ。
「わ、悪い!!」
すぐさま俺は文夏の体から手を離す。
「だ、大丈夫です……」
文夏は耳まで真っ赤にして、まるで一夜の過ちを犯しそうになったあの告白の日のようにおどおどしていた。
……その後、瑞希は俺の妹であることを説明し誤解は解けた。が、学校でお互い話すことは少なくなった。
そんな俺達を見て理子は何かあったのかと心配をしてくれたが、俺は仲違いではないと曖昧に答えた。
……だって言えねぇよ。おっぱいを揉んだなんて。
理子は随分と不安そうにしていたが、追求してくることはなく、時が経ってほとぼりが冷めるまでは長いこと俺ら二人の関係を案じてくれていた。
理子にも、迷惑をかけたな。今度お詫びにお茶菓子でも送るか。
それも、テストが終わってからだな。
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