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テストの結果は……
しおりを挟む「……タイムマシン?」
「実はタイムマシンっていうのは理論上は可能で、未来ないし過去に行くっていうのはおとぎ話ではないの。ただその実現には何年かかるのかはまだ分からない。だけども未来に行く一方通行のタイムマシンならもうすでに完成されていて、実用例もある。色々あって表向きに発表はされていないけども」
研究者である理子は目を星のように輝かせて語る。
「……だけどタイムマシンで過去に行けるんだったら、親殺しのパラドックスとかの証明とかはどうなんだよ」
親殺しのパラドックスとは、「ある人が時間を遡って、血の繋がった祖父を祖母に出会う前に殺してしまったらどうなるか」というものである。Wikipediaより抜粋。
「そこら辺は研究題材の一つね。でも人を殺すのに実験だなんて言うのは流石に理由にならないから出来ないけれど、10年前に出会った命の恩人に出会うために少女がタイムスリップするっていう私の好きな小説があるのよ。その物語では彼女の恩人は実は重い病を患っていて、10年後、つまりは現在少女が生きる時間では、瀕死の状態だったの。それでも病気の彼は彼女のもとに立ち現れて、さよならを言って去っていくと、そんな話」
「……泣ける話だな」
「でしょ?……それで、物語は幕を閉じるのだけど、もしも彼女が未来の医学の技術を学んで再びタイムスリップしたら、彼の病気を救えるんじゃないかって思うの。けれど彼女が医術を学んだのは死んでしまう彼を救うためであって、もし救えてしまったら彼女は医術を学ぶ必要が無くなるから、医術を学んだ彼女の存在は消える。だけども医術を学んだ彼女がいなければ彼は助からない。という矛盾が起こる」
「……もし医術を学んだという彼女が矛盾によって消える前提ならば、再びタイムスリップしたことによって過去に自分が二人いる時点で、どちらか一方は消えてしまうんじゃないか。それだって矛盾だろ。どちらも世界から消滅しないのならばそれはもう別人格だから、命を救ったからといって消えやしないだろう」
仮に医術を学んだ少女が始めに過去に来た少女と干渉し、助言をした場合などには未来は変わる可能性がある。だけどもどう転ぼうがどちらか一方が消えるという結果には決してならないであろう。
……だが結局、こういったSF論はたらればや想像の域を超えることは無いのだが。
「……まあ、確かに言われればそうね。実験材料とするには親殺しのパラドックスくらい単純で不可解な謎があればいいけど、道徳的にねえ……」
「……何やら私にはついていけない様な話題が続いておりますが、これってテスト勉強ですよね?もう高校生のレベルを逸脱しているように感じるのですが……」
俺達の会話を言問は、はえーっと、放心しているような表情で聞いていたが、期を伺ってすかさずツッコミを入れてきた。
「いや、別に哲学だから学年とかは特に関係はねえよ。強いて言うなら中学二年生レベルかな」
中二の頃は皆、まだ尻の青いガキの癖して、人は何故生きているのだろうとか考えたり、自分はすっかり棚に上げて、何故人類はこんなにも愚かなのかとか世界に絶望したり、まだ14年しか生きていないのに、80年という人の寿命に刹那を感じるお年頃だからな。分かるだろう?
しかし言問には俺の例えがあまりしっくり来なかったようで、不思議そうに首をかしげている。……この真面目ちゃんめ。
知識や学びに遊び心の無いコイツこそ、真のガリレオ・ガリ勉なんじゃないのか?
……と、馬鹿げたことを俺は考えつつ、雑談も少々な勉強会は続いた。
毎日昼過ぎの勉強会は好評につき、テスト前日まで毎日続き、やがて……
……テストの日がやって来た。
※
(いつも通りベストを尽くせば、理子に負けるなんて有り得ない)
(せっかく箱根君や理子ちゃんに勉強を教わったんだ。良い点取るぞ!!)
(…………)
「……それでは、テストを始めてください」
※
……結論から言わせてもらうと、俺の点数は7教科で合計682点という、かなりいい結果であった。
いつもであれば学年一位はおろか、全国一位も視野に入る高得点だ。……そう、いつもであれば。
だが……
「……嘘、だろ……」
俺は目の前にある7枚の紙切れに言葉を失った。
その紙を手に持つ少女の名前は芳山理子。全ての紙切れに赤字で漏れなく、100、100、100、100、100、100、100と、書き連ねられていた。
つまりは700点、……満点だ。
「いやー、まさか満点とは。自分でも驚きですよー。生まれてこのかた満点なんて取ったことが無かったもので、感無量ですよホント。見てくださいこの荘厳な眺め、是非とも写真に納めたいッ!!」
絶望に打ち拉がれる俺に対して、満点を取った理子は上機嫌でハイテンション。
普段の俺なら「うるせー黙れ」とか「うぜぇなボケ」とか茶々を入れるのだが、今の俺にそんな余裕は無かった。
負けることは許されない。その教えの下、俺は血反吐はいて努力して、全国一位という地位を手に入れた。……しかし突如として現れたデカ過ぎる壁。
……絶対に越えられない。俺は悟った。
俺は全国一位をコンスタントに取るようになった頃から、自身の伸び代はもう無い事に気付いた。しかし、当時はここが最高到達点なのだと思い、俺は努力の先を見たのだと優越感に浸っていたが、あまりに浅はか過ぎた。
……理子とは全く次元が違う。いくら俺が努力しようとも届かない程の高みにいる。結局井の中の蛙だったんだ、俺は。
「……一つ聞いていいか?」
「何でしょう」
「テスト勉強の時、文系科目が苦手な様に見せてたのは演技か?」
「ハイそうですよ。これこそ、“能ある鷹は爪を隠す”ってヤツです」
「……はは、正にその通りだな」
……結果、俺はその鷹に嘗めてかかり、見事に返り討ちに合い食べられた。大海も、身の程も知らない蛙だったんだ。
……ああ、今までの俺の努力は何だったんだろう。
「……馬鹿らしいな、人生」
そう呟き、直後に俺は張りつめていた糸がプツンと切れるように意識を失った。
……目の前が、真っ暗になった。
※
……ふと頭に浮かんだ「敗北」の二文字。その刹那、俺は目を覚ました。最悪の目覚めだった。
「……頭痛ぇ、何処だここ」
「あ、目が覚めたのね」
俺の呟きに反応する声が俺の隣から聞こえた。どうやらここは保健室みたいだ。だんだんと覚醒していく脳みそが始めに感じたのは布団の温もりだった。
窓から見える空はすっかり燈色に染まっている。運動部も練習を終えて片付けを始めていた。随分と長いこと眠っていたようだ。
……で、確か俺を呼ぶ声は俺の隣で聞こえた。そして俺は今ベッドで眠っている。……て事は、だ。
バッと、俺は声が聞こえた方へ即座に振り向いた。
「……ッ!!」
……少女が俺の隣で、ニコニコとこちらを見て笑いながら横たわっていた。
……そして、驚いたのはそれだけでは無い。隣で寝ていた少女に、俺は見覚えがあった。
これは夢か?だってそう疑う他無い。何故なら彼女は“あの時”と変わらぬ姿のまま、澄ました顔で俺の前に再び現れたのだ。現実だとはとても信じがたい。
そんな俺は疑心感を持って、彼女を呼ぶ。
「……ね、姉ちゃん……?」
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