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言問文夏(こととい あやなつ)
しおりを挟むチャイムが鳴り、朝のホームルームが終わると何処から流れたか「滅茶苦茶美人な転校生が来たらしい」等という噂を聞き付けた馬鹿なオス共が教室になだれこんで来た。
しかし、当の理子は忽然と教室から姿を消したのでこの場には居らず、訪れた馬鹿共はガッカリした様子を隠しもしないで、意気消沈と五月蝿い溜め息を教室中に響かせて項垂れていた。
少しばかり、コイツらは盛り過ぎじゃないかと思う。確かに男性の性欲の最盛期は高校生頃と言われるが、程度ってものがあるだろう。理性が欠落でもしているのか、もう人間辞めてるだろコイツら。
ただまあ、俺自身も一高校生である以上、馬鹿溜まりの気持ちは百歩譲ってまあ分からない事も無きにしも在らずな訳だが。
しかしながら、コイツらは余りに五月蝿すぎる。少しは周りの迷惑を考えられないものだろうか。勉強の邪魔だ。驚天動地だの古今未曾有だのほざいているが、絶対に意味も分からずに言っているだろ。
だが低能の雑踏、有象無象、人間辞めてる猿人類には言語というコミュニケーションツールは無意味か。そんな事を思いながら勉学に励んでいると……
「おい、お前。転校生の居場所知ってるだろ?」
一人の男子生徒が話し掛けてきた。猿山の大将だろうか、雑踏共の先陣を切って現れたそいつはやはり猿顔の見た目をしていた。
「てめぇ、聞いてんのか?」
「……は?」
「は?じゃねぇよ!お前だろ、朝転校生とつるんでたのは。その転校生の居場所教えろって言ってんだよ!」
何故だか頭に血が登った様子の猿山大将は、何故だか知らないが此方に因縁をつけてきた。カルシウムが足りてないんじゃないか、サンタさんに牛乳貰えよ。
「……生憎と、俺はアイツと別にそこまで関わりがある訳じゃないし居場所何て知らねぇよ。多分トイレにでも行ってるんじゃ無いか?」
「嘘つけ、俺は聞いたぞ!てめぇがあの転校生とデキてるってのは。匿ってねぇで早く出せや!」
「……知らねぇって言ってんだろ。言葉分かる?君」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ!殴んぞ、てめぇ!」
「……はあ」
……口喧嘩が強いのはラッパーだの弁護士だのと語られるが、たった今確信した。真に口喧嘩が強いのは言葉が通じない奴だ、間違い無い。
水掛け論ですらない、馬耳東風に一方通行。文字通り話にならない。
本当に憂鬱だ。出来れば理子とは無関係を装いたかったが、理子の余計な一言のせいでガラの悪いやつに絡まれるし、理子マジ許すまじ。化けて出るぞ、死にはしないけども。
「……取り敢えず、理子なら職員室か校長室とかで先生から校内の紹介とかを色々受けてる筈だ。行けば分かる」
「おい!職員室か校長室だ!行くぞ!」
そのまま猿山大将は群れを引き連れて教室を後にした。恐らくこの後職員室に大群で向かうであろう。間違い無く怒られるであろうがそれが理解できない連中だからな。
そして怒られて停学になれ、この○×△※□(放送禁止用語)。
※
一時間目の授業が終わり、休み時間となった。
俺は再び猿軍団の襲撃があるのではないかと恐れ、身構えていたのだが、朝のホームルーム後の事件について事情聴取に来た先生曰く、猿共は早退処分を受け、帰宅させられたらしい。はっはっは、ざまぁみやがれ。
てな訳で、いつも通り勉学に励む有意義な時間を俺は取り戻したのだった。……と、そうなれば良かったのだが、人生っていうのはどうも上手くいかないように出来ているらしい。
「…………」
俺とは机を挟んで対極の位置に、物凄く熱い視線でこちらを見澄ます、黒いセミロングの髪の女子生徒が居座っていた。
「…………」
何を思ってかは全くもって理解不能だが、彼女は特に言葉を発する訳でもなく、焼けるような視線をありったけこちらへぶつけてくるのみで、まるで銅像のように動かない。
「……あ、あのー、何か用ですか?」
耐えかねて、俺が話しかけると、女子生徒はその厳しい表情を柔和な笑顔へと変えて、重たかった口をようやく開いて語り始めた。
「いやはや、あー、お気遣い無く。こちらと、貴方の勉強を邪魔する気は毛頭ありませんので。そちらの用事がお済みになったら、再度話しかけていただければ幸いでございます」
「いや、居座られるだけで邪魔なんだが……。用事があるなら今さっさと言ってくれ」
「いやはや、承知いたしました」
どうやらコイツの口癖はいやはやらしい。どんな口癖だよ、死語だろ、それ。
「私、新聞部の言問(こととい)文夏(あやなつ)と申します。以後お見知りおきを。ところで私、とある噂を耳にしまして、貴方もご存知ではあると思いますが貴方と転校生の理子さんが交際していると、そう言った噂が流れておりますが、その真意をお聞きしたくこの場に来た所存でございます、そして、そのところ実際どうなんでしょうか?いやはや」
早口で捲し立てる言問文夏と名乗った女子生徒は、テンション高めにこちらへ質問を投げ掛ける。……コイツも他のパパラッチもどき共と何ら変わり無いな。
「……もう何度も言ってきたが、答えはノーだ。俺と理子は付き合ってない。そもそもとして、何で転校初日の奴と俺が付き合ってるって噂が流れているのかも意味不明だ。普通に考えれば分かるだろうに」
「まあそうでしょうね。そんな事だろうと思ってましたよ」
「じゃあ何で聞いたし」
俺が透かさずツッコミを入れたその刹那、二時間目開始のチャイムがなる。タイミングが良すぎて何故か笑いのツボに入りそうになったが、何とか耐える。
「いやはや、それでは私はおいとまします。続きは次の休み時間、もしくは昼休みで!それではまた!」
もう来なくていい。そう言おうとしたが笑いのツボに入りかけた俺はまともに言葉が出せず、「お、おう」と肯定の意の言葉を口から溢した。
それに対して言問は、笑顔とサムズアップで応答。……何処か見覚えがあるような既視感を俺は感じて、遅刻確定の言問の後ろ姿を見送った。
※
遂に、やけに長く感じた二時間目が終わった。どういう原理かは俺ですら知らないが、今日は何故か時間の流れがいつもよりも遅い。全く不思議だなー。
正に下らないそんな事を考えながら、机に突っ伏しうたた寝をしようとしていた俺に一つの声が投げ掛けられた。
「………………妙本くん?」
「うん?」
顔をあげると、そこには先程まで隣に居た茶色掛かった黒髪の天才少女、理子が何か言いたげな表情で立っていた。
「……どうした?」
「……何で休み時間、屋上に来てくれなかったんですか?」
「……え?」
……おいおい、マジかコイツ。
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