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魔族生活の薦め
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しおりを挟むすれ違う種族は様々で、いかに魔都クラルスが他種族間との交流が盛んである事が分かった。
様々な角を持った魔族に、猫耳や翼のある種族等、ロズは忙しなく辺りを観察して、賑やかな街の様子に胸を躍らせた。
「すっっっごい!!武器屋に防具屋!!あの肉の塊は何!?異世界食材っぽい!!それに、冒険者っぽいのもいる!!」
感動から語彙力の無い感想が溢れ、少し引き気味のノワがロズに目深めの帽子を被す。
「……ロズ様、あまり興奮なさっては目立ちます。ここでは人間、特にロズ様のような転生者は珍しいので騒ぎになれば街が混乱してしまいます」
ノワは人差し指を唇に添え、大人しくしろと圧をかける。愛らしい目元は微笑んでいるが、冷ややな鋭さがあった。
ロズは慌てて帽子をしっかりと被り、ノワの側をぴたりと歩く。これで心配はないと思ったがノワもロズと同じ歳位の背格好で、周囲から見れば子供が遊び歩いている様にも見える。
「昼だけど、子供同士で出歩くなんて問題ないの?」
「クラルスは城郭に守られた街なので、子供達も比較的自由に行動しています。魔物の侵入も不可能ですし、街に出入りするにも厳しいチェックがある為、奴隷として誘拐されるリスクもありません。
それと、今日から魔王様の復活を祝ってのお祭りですから」
ロズが周りを見れば、確かに大人に混じり子供も自由に露店の商品を見ていた。
女の子達がアクセサリーを選ぶ姿はロズの元の世界と変わらない。さらりと奴隷として誘拐されるリスクがある事を知り、この世界で最初に出会ったのがスリザスとエリオで良かったと改めてロズは二人に感謝する。
「なら楽しまないとね!早く行かないと売り切れちゃう!」
「ロズ様、そんな慌てなくても無くなりませんよ」
ノワの手を引いて露店を見て周る。
そこからロズの食べ歩きツアーが始まった。
香ばしいカロー肉の串焼き。林檎に似たマルムの果実水わらび餅に似た食感の水色の甘味……はロズが葬った魔物によく似ていた。
カロー肉は討伐された魔物の肉で、魔物を食べる事に抵抗はないのかと思ったが、クラルスにおいては問題がないとの事だった。安く、安全で、美味しいのであれば気に留める事もないのだろう。
ロズはポップコーンに似たロトゥクスを口に放り込みながら、満たされたお腹を撫でて二杯目のマルム果実水を飲む。一杯目と違い、ロズが魔法で作った氷の粒が入っている。
「ロズ様、だいぶ満喫されたようで……私のお腹は破裂しそうです」
「一緒に食べた方が美味しいでしょ?」
嫌な顔をせず付き合ってくれたノワに感謝し、今度アイスクリームを作って驚かせようとロズは考えた。
「……不思議。こんなに平和なのに、人間の国では魔物、魔族、魔王が悪くて、魔王の復活は災いなんだよね」
名前を呼ぶだけで、喜んだ魔王の姿を思い出す。
その表情は満たされて、人の国に災いなど起こすようには見えなかった。
「残念ながら、人間の我々に対するイメージは邪悪な魔獣と同じかそれ以上の悪しき存在として騙られています」
冷たい風がロズとノワの間を抜けて、木の葉を舞いあげる。
「でもきっと、変わりますよ。私はロズ様と共に食事をしました。それに、魔王様の事だって気になっていますでしょう?」
微笑むノワにはお見通しで、急に抱えられたとはいえ一国の魔王に対しての態度ではなかったと反省していた。
「そうね……。少し、話してみようと思う」
残ったマルム果実水を飲み干し空を見上げると、大きな影が覆う。
迎えの竜が旋回しながら徐々に高度を落とし、待ち合わせ場所に着陸したのが遠目でも分かった。
「確かに、ちょっと食べ過ぎたかも」
「食べ歩きだけで、半日終わりましたからね。もっと見ていただきたい場所や、お店もあったのですが」
ノワはガラス越しに並ぶ豪奢なドレスをちらりと見る。可愛らしいワンピースから胸元の開いたドレスまで、惜しみ無く店頭に並べられていた。
遠くを眺める様に目を細め、ノワは溜息を吐いた。
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