上 下
25 / 40
転生者と魔王

5

しおりを挟む

転生したせいか、ロズの中で葵として過ごした時間が遠い昔のように感じていた。
アルゲンテウスから聞く勇者の話しも、塁ではなく別人の話のように感じている。


「ルカの話しも久々で懐かしいなあ。お酒も飲みたいけど、まだ正午過ぎだしー」


子供のようにゆらゆらと揺れる、アルゲンテウスの姿は先程の威厳ある竜とは思えない。
勇者の話しを嬉々として語る様子に、二人の関係が悪くない事を物語っているようだった。


「ルカって、勇者の転生前の名前?」


「そうだよー。ルーカスが本名だけど、いつのまにかルカって呼んでた。名前なんて何でもいいなんて言ってたけどね」


「そうなんだ……。アルゲンテウスありがとう。少しでも勇者の事が知れてよかった」


気にするな、とアルゲンテウスは尾をヒラヒラと振る。しかし、思い出した様子で尾をピタリと止めた。


「ロズはこれからどうするんだい?転生して、このままじゃルカに追われる日々になってしまうよ」


「そこなんだよね……。でもせっかくの転生だから、逃げながら旅でもしたいかなー」


「何を呑気に構えているんだい。そんな悠長な事してたらすぐ捕まるよ!」


アストルムが勢いよく椅子から立ち上がると、瞳に赤い魔力を滲ませながらロズに視線を向けた。


「アタシと一緒に特訓だよ!!さあ、食後の運動に外へ出るよ」


思いがけないアストルムの言葉にティータイムは終了し、メイド達が急いで片付ける。
アルゲンテウスは「程々にね」と、諦めた様子で尾を振ってロズを見送った。
状況に追いつけないロズは、アストルムに腕を引かれ屋敷を出た草原の真ん中に放り出された。


「まだ時間はある!ロズの魔法のコントロールを身につけるよ」


「魔法のコントロール?」


「スーから聞いてるよ。ロズの魔法は粗削りで危なっかしい所があるとね。アタシはスパルタだよ!」


グサリと的を射たスリザスの見解に、ロズは視線を泳がした。


「まずは、危なっかしい魔力の力の逃し方を覚えようか。アタシに全力で魔法をぶつけな!!」


まるで少年漫画に登場する試練のように、アストルムは目視できるほどの魔力をたぎらせていた。
可憐な少女の姿が熱血するという、ちぐはぐな状況にロズは一瞬たじろいでしまう。
しかし、アストルムは構わずにロズの間合いに詰め寄ると、拳を握り寸止めで鳩尾みぞおちに一撃をいれた。寸止めとはいえ、魔力を纏った拳は全身に衝撃を与えてロズを軽く吹き飛ばしてしまう。


「これが外部からの魔力の作用だよ。この一撃がまともに入れば、普通の人間なら手足が無いだろうね」


じんわりと身体を巡る温かい感覚は、大地の精霊のものだと分かる。ロズの全身に感じていた痺れが和らいでいった。


そして、アストルムの試練?は、エバーティムにいる勇者の出発の情報が入るまで連日続けられた。
アルゲンテウスの話だと、六等分に分けられた身体に宿る力を回収し、魔王討伐に挑むのだという。


「あとー。ロズに紹介したい人?がいて」


アルゲンテウスが合図をすると、竜でも開けるのに苦労する謁見の間に入る扉を、軽々と開ける人の姿が見える。

その全身が見えた時にロズは理解した。
褐色の肌に、鋭い黄金色の双眸。絹の様な髪は長く、後ろで一つに束ねられている。その背中には確かに竜の翼があり、彼もまたアルゲンテウスやアストルムと同じ竜であった。


「彼は、レフィ。同胞であり、だよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Wヒロインの乙女ゲームの元ライバルキャラに転生したけれど、ヤンデレにタゲられました。

舘野寧依
恋愛
ヤンデレさんにストーカーされていた女子高生の月穂はある日トラックにひかれてしまう。 そんな前世の記憶を思い出したのは、十七歳、女神選定試験が開始されるまさにその時だった。 そこでは月穂は大貴族のお嬢様、クリスティアナ・ド・セレスティアと呼ばれていた。 それは月穂がよくプレイしていた乙女ゲーのライバルキャラ(デフォルト)の名だった。 なぜか魔術師様との親密度と愛情度がグラフで視界に現れるし、どうやらここは『女神育成~魔術師様とご一緒に~』の世界らしい。 まあそれはいいとして、最悪なことにあのヤンデレさんが一緒に転生していて告白されました。 そしてまた、新たに別のヤンデレさんが誕生して見事にタゲられてしまい……。 そんな過剰な愛はいらないので、お願いですから普通に恋愛させてください。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】

階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、 屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話 _________________________________ 【登場人物】 ・アオイ 昨日初彼氏ができた。 初デートの後、そのまま監禁される。 面食い。 ・ヒナタ アオイの彼氏。 お金持ちでイケメン。 アオイを自身の屋敷に監禁する。 ・カイト 泥棒。 ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。 アオイに協力する。 _________________________________ 【あらすじ】 彼氏との初デートを楽しんだアオイ。 彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。 目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。 色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。 だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。 ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。 果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!? _________________________________ 7話くらいで終わらせます。 短いです。 途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。

完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います

藍原美音
恋愛
 ルリアーノ・アルランデはある日、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生していると気付いた。しかしルリアーノはヒロインではなくライバル令嬢だ。ストーリーがたとえハッピーエンドになろうがバッドエンドになろうがルリアーノは断罪エンドを迎えることになっている。 「まあ、そんなことはどうでもいいわ」  しかし普通だったら断罪エンドを回避しようと奮闘するところだが、退屈だった人生に辟易していたルリアーノはとある面白いことを思い付く。 「折角絶世の美女に転生できたことだし、思いっきり楽しんでもいいわよね? とりあえず攻略対象達でも手玉に取ってみようかしら」  そして最後は華麗に散ってみせる──と思っていたルリアーノだが、いつまで経っても断罪される気配がない。  それどころか段々攻略対象達の愛がエスカレートしていって──。 「待って、ここまでは望んでない!!」

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

処理中です...