勇者の逃亡

刄拔ゆい

文字の大きさ
上 下
20 / 26

逃亡日誌20

しおりを挟む
 獣人や魔人の気配が感じられない場所を見つけて、比較的損傷の少なかった民家に僕たちは身を潜めた。
 ベッドにシルヴィアを寝かす。筋肉が痙攣していた。
 この身体であんな技、きっと無茶したんだろう。
「……大丈夫?」
「問題ない」
 シルヴィアは気丈に答えた。でもその手は震えていた。
 僕は魔人が使っていたあの白い光を思い出していた。
 僕にもできるかもしれない。
 見様見真似で錬成して、僕はその光をシルヴィアの身体に当てた。
 甘い考えだった。傷は癒えなかった。あの魔人のようにはいかなかった。
 だけど、シルヴィアは痛みが和らいだと言ってくれた。
「すまない、ありがとう、マシになった」
「気休めだと思うけど……」
 シルヴィアはフッと笑った。
「君は、本当に色々なことができるんだな、その秘めた闘気は猛々しいし、護身術に長けていて丈夫だし、人の身体まで癒せるとはな、私は聖騎士として少し恥ずかしいよ、フフフ」
「……あの、その、シルヴィア……僕こそ、庇ってくれなくていいよ、僕は大丈夫だから、僕はシルヴィアが想像しているよりも、それよりもずっと強いと思うから、自分で言うのもなんだけど……」
「強さは関係ないよ」
「え」
「私は仲間を救うために、仲間を死なせないために、騎士になったんだ、君がやられているところを見て、君が強いからとか、弱いからとかで、変わらないよ、私は無視できない」
「……」
「まだ出会って数日しか経っていないが、私は君を仲間だと思っている、勝手な話だが、君をイータで見掛けた時、私は君と世界を救うんだという確信を得た、自分でも分からない、不思議な感情だ、迷惑か? 迷惑そうだな、ハハハ」
「そんなこと……」
 僕は否定してあげられなかった。
 シルヴィアが起き上がった。
「痛みは本当に和らいだな、これなら動けそうだ」
 傷跡は痛々しかったが、シルヴィアは肩をブンブン振り回した。
 これから僕にも回復ができるなら、僕は完全にシルヴィアの盾役でもいいと思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...