勇者の逃亡

刄拔ゆい

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逃亡日誌18

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 僕とシルヴィアは存在を虚ろにしてシアマレーに忍び込んだ。
 街の入口は門番などの見張りもおらず、獣人たちは街の中で好き勝手に過ごしていた。
 単なる烏合の衆で、軍隊のように統率が取れている訳ではなかった。少し拍子抜けするくらいだった。
「獣人は魔力が低い、例え魔術士を食らっていても、その絶対量はさほど上がってはいないはずだ、おそらく、私たちに気づく獣人はいないだろう」
 実際、真横を通り抜けても、獣人たちは違和感すら覚えなかったようだ。
 僕らは街の中を少し大胆に、残された人々を探した。
「いない……街の外れの人たちは、自力で逃げたのかもしれない」
 かなり大きな街だった。僕たちは街の外れの、さらにその一部を確認しただけで、数刻も費やしてしまった。
 街の全て、一軒一軒確認するには、あまりにも時間が掛かり過ぎる。
「中心地には残されているかもしれない、だが、この規模では、正規の救出隊が動いたほうが確実だろう、私たちが単独で掻き乱しては後々に混乱させるだけかもしれない、だが……」
 シルヴィアの焦燥が分かった。正規の部隊が動くまで、まだ日数が掛かるだろう。各国に聖騎士と賢者を要請したのなら、その手続きと、根回しの政治が必要なはずだ。
 僕の初陣も、何かの厳格な儀式のように、その準備が執り行われた。これから血生臭い魔人たちとの戦争が始まるとは思えない、晴れやかな式典に参列するかのような風体だった。
「シルヴィア!」
 背後に強い魔力を感じた。
 爆炎と共に轟音が響き渡る。
 民家のいくつかが吹き飛んだ。
 魔人だ。魔人もいたのか。
「シルヴィア!」
 シルヴィアの姿が見えなかった。
「……こっちだ!」
 シルヴィアは瓦礫の陰に膝をついていた。まだ身体は思うように動かないはずだ。
「大丈夫?」
「まずいな、魔人がいたか、だとしたら、人々は逃げたのではなく、中心地に捕われている可能性が高い」
「え」
「奴の両腕を見ろ、降魔の式が彫ってある、上級の術士だ、奴らは魔力支配で傀儡の兵を作る、素材は人間だ、思っていたよりも、シアマレーの事態は深刻だった、ここを拠点に、大規模な侵略を考えているのかもしれない」
 僕は、そんなことは初めて知った。支配、傀儡……。
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