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【後編】叔母との約束。そして、僕が本当に求めていたもの
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「まさか、本当にこんなに上手くいくなんて……」
紗季が僕のことを好きになってくれて嬉しいはずなのに、僕は複雑な心境だった。
初めて従兄妹の紗季に出逢ったのは、僕が中学三年生の時――
あまりにも可愛くて、気がつくと、僕は紗季のことばかりを考えるようになってしまっていた。
今思えば、あれ一目惚れだったのだろう……
でも、当時の紗季は両親の離婚と貧しい暮らしの中で、周りに意識を向ける余裕はなかった。
そう思ったから、僕は叔母さんに紗季のことを相談したのだが――
叔母さんからは意外な答えが返ってきた。
『――だったら、あなたのお家に紗季を迎えてあげて。暮らしに余裕ができれば、きっと紗季もあなたの想いに気づくはずだから……』
『叔母さんがいるのに、僕の家に紗季を迎えるのはおかしくないですか?』
『大丈夫、私はしばらく行方不明になったフリをするわ。でも、その時が来たら、紗季を智哉《ともや》君のお家に迎えられるように、私の代わりにご両親を説得してもらいたいけど、できる?』
その当時の僕は紗季のことで頭が一杯だったので、叔母さんの言葉をそのまま受け入れた。
今なら滅茶苦茶な提案だとわかるのだが……
叔母さんが予定通り行方不明になると、僕は紗季を家に迎えられるように必死に両親を説得した。
その甲斐あってか、紗季は無事に家に迎え入れることができた。
紗季を家に迎え入れると、叔母さんから何か入れ知恵をされていたのか、紗季は一生懸命に僕にアプローチをしてきた。
「まあ、ほとんどが失敗に終わってたけどね、ふふ……」
その様子があまりにも可愛いかったので、つい、思い出し笑いをしてしまった。
不器用ながらも叔母さんに言われたことを一生懸命頑張ろうとしている紗季。
その姿に、僕はいつの間にか心を打たれていた。
僕の両親は優しいけど、とても優秀な人達で――
気がつくと、僕は優等生でいなければならないと自らを追い込むようになっていた。
だから、紗季が家に来る前の僕は凄くストレスが溜まっていたし、正直、疲れ果てていた。
そんな中、不器用ながらも一生懸命に頑張っている紗季を見て――
優等生ぶることがそんなに大事なことなのか?
と僕は自問するようになった。
――結果、僕は無理に優等生のように振る舞うことはやめた。
すると、意外にも、僕が優等生であろうとイライラしていたことを感じ取っていた両親は、逆に肩の荷が下りたと言ってくれた。
そのきっかけを作ってくれたのは紗季だったと伝えたところ、両親は前以上に紗季のことを可愛がってくれるようになった。
後は、紗季が僕のことを好きになってくれれば、全てが上手くいく。
そう思っていたのに――
実際に紗季から告白された僕は、心に虚しさを感じてしまっていた。
紗季は僕と叔母さんが考えた計画のことを、何も知らない……
紗季から告白されて僕は気がついた。
好きになってもらうために自分を隠し続けて、その偽りの僕のことを好きになってもらえたとしても、何の喜びも感動もないのではないかと……
確かに、紗季からの好意を失うことは怖い。
だけど、僕は紗季と本物の関係を築きたいから――
叔母さんと計画したことを、全て紗季に話す覚悟を決めた。
◇
「――という経緯で、紗季はこの家に来たんだ」
お兄ちゃんは、お母さんと計画した今までの経緯を、恐る恐るあたしに話した。
「正直、気持ち悪い」
「自分でもそう思うよ……」
「そのことを打ち明けたのって、あたしのことを思ってじゃなくて、お兄ちゃん自身が隠しているのが苦しかったからだよね――」
「返す言葉もない……、憧れの兄がこんな人間で幻滅したよな。だから、あの告白はなかったことにしてくれていいから――」
「……なに言ってるの? あたしは最初からお兄ちゃんに憧れてなんかいなかったんだから、幻滅なんてしないよ」
「え? それってどういう……」
お兄ちゃんが不思議そうな表情をしている。
「だって、この家に来ることになった経緯を、あたしはお母さんから聞いてたもん」
「……だったら、どうして僕のことを好きなんて言ったの?」
「もう、いつもはスマートなのに、こういうことはどうして鈍いの? そんなお兄ちゃんも含めて好きになっちゃったからに決まってるじゃない……。何度も告白するなんて恥ずかしいんだから、何度も言わせないでよね……」
「ほ、ほんとに、こんな僕のことを好きになってくれたのか?」
「だから、何度もそう言って――」
ギュッ!
あたしがそう言い切る前に、お兄ちゃんはあたしを強く抱きしめた。
「ありがとう、紗季。話したら嫌われるじゃないかって、本当に怖かったんだ……」
「お兄ちゃんを嫌いになるわけないよ。だって、あの苦しかった日々から、あたし達を救い出してくれたのは、お兄ちゃんなんだから……。あたしの方こそ、ありがとね、お兄ちゃん」
感謝の想いを伝え、お互いの気持ちを確かめ合いながら、あたし達は強く強く抱きしめ合った。
◇
「――じゃあ、叔母さんと連絡は取り合っていたんだ?」
「うん、バレたら元も子もないと思ってたから、一ヶ月に一回だけだけどね。でも、久しぶりに会えるから、なんだかんだ嬉しいかも」
晴れて恋人同士になれたあたし達は、遠く離れた地で生活しているお母さんに会いに来ていた。
お母さんとは、お兄ちゃんと恋人になるまでは再会しないという約束をしていたのだ。
幼いあたし達は、まだまだこれからも色んな失敗を繰り返すかもしれない。
それでも、相手のために動いていれば、きっとどんな困難も乗り越えていける。
あたし達は手を繋ぎながら、そんなことを想い合っていた。
紗季が僕のことを好きになってくれて嬉しいはずなのに、僕は複雑な心境だった。
初めて従兄妹の紗季に出逢ったのは、僕が中学三年生の時――
あまりにも可愛くて、気がつくと、僕は紗季のことばかりを考えるようになってしまっていた。
今思えば、あれ一目惚れだったのだろう……
でも、当時の紗季は両親の離婚と貧しい暮らしの中で、周りに意識を向ける余裕はなかった。
そう思ったから、僕は叔母さんに紗季のことを相談したのだが――
叔母さんからは意外な答えが返ってきた。
『――だったら、あなたのお家に紗季を迎えてあげて。暮らしに余裕ができれば、きっと紗季もあなたの想いに気づくはずだから……』
『叔母さんがいるのに、僕の家に紗季を迎えるのはおかしくないですか?』
『大丈夫、私はしばらく行方不明になったフリをするわ。でも、その時が来たら、紗季を智哉《ともや》君のお家に迎えられるように、私の代わりにご両親を説得してもらいたいけど、できる?』
その当時の僕は紗季のことで頭が一杯だったので、叔母さんの言葉をそのまま受け入れた。
今なら滅茶苦茶な提案だとわかるのだが……
叔母さんが予定通り行方不明になると、僕は紗季を家に迎えられるように必死に両親を説得した。
その甲斐あってか、紗季は無事に家に迎え入れることができた。
紗季を家に迎え入れると、叔母さんから何か入れ知恵をされていたのか、紗季は一生懸命に僕にアプローチをしてきた。
「まあ、ほとんどが失敗に終わってたけどね、ふふ……」
その様子があまりにも可愛いかったので、つい、思い出し笑いをしてしまった。
不器用ながらも叔母さんに言われたことを一生懸命頑張ろうとしている紗季。
その姿に、僕はいつの間にか心を打たれていた。
僕の両親は優しいけど、とても優秀な人達で――
気がつくと、僕は優等生でいなければならないと自らを追い込むようになっていた。
だから、紗季が家に来る前の僕は凄くストレスが溜まっていたし、正直、疲れ果てていた。
そんな中、不器用ながらも一生懸命に頑張っている紗季を見て――
優等生ぶることがそんなに大事なことなのか?
と僕は自問するようになった。
――結果、僕は無理に優等生のように振る舞うことはやめた。
すると、意外にも、僕が優等生であろうとイライラしていたことを感じ取っていた両親は、逆に肩の荷が下りたと言ってくれた。
そのきっかけを作ってくれたのは紗季だったと伝えたところ、両親は前以上に紗季のことを可愛がってくれるようになった。
後は、紗季が僕のことを好きになってくれれば、全てが上手くいく。
そう思っていたのに――
実際に紗季から告白された僕は、心に虚しさを感じてしまっていた。
紗季は僕と叔母さんが考えた計画のことを、何も知らない……
紗季から告白されて僕は気がついた。
好きになってもらうために自分を隠し続けて、その偽りの僕のことを好きになってもらえたとしても、何の喜びも感動もないのではないかと……
確かに、紗季からの好意を失うことは怖い。
だけど、僕は紗季と本物の関係を築きたいから――
叔母さんと計画したことを、全て紗季に話す覚悟を決めた。
◇
「――という経緯で、紗季はこの家に来たんだ」
お兄ちゃんは、お母さんと計画した今までの経緯を、恐る恐るあたしに話した。
「正直、気持ち悪い」
「自分でもそう思うよ……」
「そのことを打ち明けたのって、あたしのことを思ってじゃなくて、お兄ちゃん自身が隠しているのが苦しかったからだよね――」
「返す言葉もない……、憧れの兄がこんな人間で幻滅したよな。だから、あの告白はなかったことにしてくれていいから――」
「……なに言ってるの? あたしは最初からお兄ちゃんに憧れてなんかいなかったんだから、幻滅なんてしないよ」
「え? それってどういう……」
お兄ちゃんが不思議そうな表情をしている。
「だって、この家に来ることになった経緯を、あたしはお母さんから聞いてたもん」
「……だったら、どうして僕のことを好きなんて言ったの?」
「もう、いつもはスマートなのに、こういうことはどうして鈍いの? そんなお兄ちゃんも含めて好きになっちゃったからに決まってるじゃない……。何度も告白するなんて恥ずかしいんだから、何度も言わせないでよね……」
「ほ、ほんとに、こんな僕のことを好きになってくれたのか?」
「だから、何度もそう言って――」
ギュッ!
あたしがそう言い切る前に、お兄ちゃんはあたしを強く抱きしめた。
「ありがとう、紗季。話したら嫌われるじゃないかって、本当に怖かったんだ……」
「お兄ちゃんを嫌いになるわけないよ。だって、あの苦しかった日々から、あたし達を救い出してくれたのは、お兄ちゃんなんだから……。あたしの方こそ、ありがとね、お兄ちゃん」
感謝の想いを伝え、お互いの気持ちを確かめ合いながら、あたし達は強く強く抱きしめ合った。
◇
「――じゃあ、叔母さんと連絡は取り合っていたんだ?」
「うん、バレたら元も子もないと思ってたから、一ヶ月に一回だけだけどね。でも、久しぶりに会えるから、なんだかんだ嬉しいかも」
晴れて恋人同士になれたあたし達は、遠く離れた地で生活しているお母さんに会いに来ていた。
お母さんとは、お兄ちゃんと恋人になるまでは再会しないという約束をしていたのだ。
幼いあたし達は、まだまだこれからも色んな失敗を繰り返すかもしれない。
それでも、相手のために動いていれば、きっとどんな困難も乗り越えていける。
あたし達は手を繋ぎながら、そんなことを想い合っていた。
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