【完結】悪役令嬢に転生した私は奴隷に身分を落とされてしまったが青年辺境伯に拾われて幸せになりました

夜炎伯空

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5話 王都軍との戦い

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「兵力は王都軍の圧倒的有利だな――」

「ですね」

 オレの呟きに、近衛騎士団長のザインが相槌あいづちを打った。

 前衛の騎馬隊が勢いよく城壁へと向かって来ている。

「あの騎馬隊の動きをいかに封じるかだが……」

暗殺者アサシン達は動くでしょうか?」

「奴らに利はある。頭のいい連中だ、判断を誤ることはしないさ」


 あの日――

『オレの下で諜報員スパイとして働かないか?』

 オレは暗殺者アサシンの頭首に、そう提案した。

『私は暗殺者アサシンですよ? 何人も人を殺してきた……、私には、あなたが倫理的にそれを許せるとは思えませんが――』

『お前に会うまでは、オレもそう思っていた。だが、お前は頭がいい。その話も罪を自覚しているからこその発言だろ?』

『……利がないと判断したら、我々は平気であなたを殺しに行きますよ』

『フ、その時は返り討ちにするさ』

『見かけによらず、食えない領主ですね――』

つかえるなら、それくらいの男の方がいいだろ?」

『……それで、我々に何をさせるつもりですか?』

『ああ、それはだな――』

   ◇

「兵力が違う!! 王都軍の力を辺境伯に見せつけてやれ!!」

 王都軍の大佐が先頭に立って騎馬隊を鼓舞こぶすると――

「「「オオオオォォォォ!!!」」」

 兵士達もそれに呼応した。

 ドドドドドドドドドド!!

 進軍する騎馬隊の地鳴りが周囲に響き渡る。

 こちらも騎馬隊を待機させているが、明らかに規模が違う……

 拮抗きっこうさせるためには、まず、その機動力を奪う必要があった。
 
 だから――

「「「ヒヒィィィィン!!!」」」

「ど、どうした?!」

 次から次へに聞こえてくる馬の悲鳴に、大佐が狼狽ろうばいしている。

 大佐が後方を見ると、あらかじめ掘られていた落とし穴に、騎馬隊の馬が次から次へと落ちて行っていた。

 落とし穴には、馬が好きな甘味系の食べ物が大量に仕込まれている。

 そこに、騎馬隊に紛れ込んでいた暗殺者アサシン達が馬を誘導した。

「くっ!!」

 大佐が舌打ちする。

 王都軍の足を奪った我々は、すぐさま城門を開いて騎馬隊を襲撃させた。

 馬を失った兵士達の中には逃げ惑う者もいたため、王都軍の隊列は乱れに乱れた。

「こんな初歩的な罠にかかるとは――、それでも王都の優秀な騎馬隊か!!」

「己の無能さを部下に押しつけるな!! 上官の風上かざかみにもおけない奴め……」

「だ、誰だ!?」

「俺か? 俺はルミナス辺境伯の近衛騎士団長ザイン、今からお前が対する相手だ」

 圧倒的差のあった武力が均衡きんこうし、戦場は更なる混戦を極めていた――

   ◇

「あれほどあった戦力差をここまでつめるとは、さすが、ルミナスだな……。しかし、暗殺者アサシンまでもが、私を裏切るとは――」

「クーラ殿下、先程、相手の陣営から封書が届きました」

「……この状況で封書だと?」

 伝書鳩によって届けられた封書をクーラ王子が開けた。

『これ以上、戦争を続けることは、互いに犠牲者を増やすだけ。一騎打ちで片をつけないか?』

「フ、同じことを考えていようとは――、ごうが深いな……。わかったよ、ルミナス。望み通り、一騎打ちで決着をつけようじゃないか」

 クーラ王子は伝播でんぱ魔法を使って戦場に伝令し、戦いを一時中断させた――


「……違う選択肢はなかったのか?」

「お前も他の選択はできただろ? でも、それをしなかった。正しいことだけを選べる世の中なら、とっくにそうしてるさ」

 オレとクーラ王子は剣を抜いた状態で対峙している。

「オレがその世界に引導を渡す」

「――なら、まずは私を倒すことだな。それすらできなければ、この先の抗争こうそうに勝てるはずがない」

「言われなくても、そうするさ」

 ザッ!

 動いたのはオレの方からだった。

 クーラ王子との距離を一気に詰めて、上段から剣を振り落ろす。

 ガキィーン!

 クーラ王子はオレの剣を剣で受け流した。

「……魔法は使わないのか?」

「学園時代、剣技ではクーラ王子に勝てなかったからな――」

 この日を迎えたのは、もしかすると宿命だったのかもしれない。

 あの日の悔しさがあったから、オレはここまで強くなれた。

「今なら勝てると?」

「そう思っている」

 クーラ王子がいまだに剣の稽古を続けていることは知っている。

 しかし、オレは辺境伯として、異敵からの侵略を防ぐための戦いを続けて来た。

 実践の場数ばかずが違う。

 クーラ王子もそれは十分にわかっているはず……

 それでも、クーラ王子はオレとの一騎打ちを受諾じゅだくした。

 つまり――

 カキーーン!

 渾身こんしんの一撃で振り抜いたオレの剣が、クーラ王子の剣を弾き飛ばした。

 クーラ王子は、オレに負けるとわかっていて、この戦いにいどんだということだ……

「やはり、私の力では、もうお前には敵わないのだな」

「――どうして、この一騎打ちを受け入れた?」

「お前の考えと同じさ、これ以上無駄な死傷者を増やしたくなかっただけだ。さあ、早くとどめを刺せ……」

 覚悟を決めたクーラ王子の思いを受け――

 オレは剣を握る手に力を込めた。

   ◇

「待ってください!!」

「キ、キリア?!」
「ど、どうして、お前が……」

 私が戦場に現れて、ルミナスとクーラ王子の二人が驚いている。

「クーラ殿下を殺さないでください――」

「……どういうことだ? 私はお前を奴隷の身分に落とした張本人だぞ?」

「わかっています。それが、あなたの愛する婚約者令嬢を想っての行動だったということも――」

「なっ……」

 転生する前の悪役令嬢キリアが、ヒロインである令嬢に対して度を超えた酷い仕打ちをしていたことを私は知っている。

 実際に、私もゲームをしていた頃は、キリアがしてきたことを考えると、奴隷にされても仕方がないと思っていた――

「殿下一人の身なら、その覚悟は高尚こうしょうなものなのでしょう……。しかし、殿下の傍には、殿下のことを心から大切に想っている女性がいらっしゃいます。殿下は、その女性に生涯の悲しみを与えるおつもりですか?」

 私が何千時間とプレイしてきたヒロインの令嬢。

 その彼女を不幸にさせるわけにはいかない――

 私は彼女にも幸せになってほしかった。

「まさか、私がキリアに諭される日が来ようとはな――。確かにお前の言う通り、私は新たな過ちを犯すところだった……」

「しかし、お前は何にそこまで追い込まれたんだ?」

 ルミナスが率直な疑問をクーラ王子にぶつける。

「それは王族という名の呪いだな――、権威を振りかざしてきた者達は怯えているのさ、自分達も歴史の中で失墜しっついさせられてきた一族と、いつか同じ運命を辿るのではないかということをね」

「なるほど……」

 クーラ王子も皇太子とはいえ、王族全体の意向には逆らえない。

 その結果が、この戦争だったのだろう――

 むしろ、被害を最小限に抑えるため、クーラ王子はその役目を買って出たのかもしれない。

「……第一王子の私でもくつがえせなかった道を、お前は行くのか?」

「ああ、それがオレの使命なんだと思う」

 そう言って、ルミナスは私を見た――


『実は、これはお前へのプレゼントだったんだ……』

『――こ、このペンダントネックレスが、私へのプレゼントだと仰るのですか?』

 私は耳を疑い、思わずルミナスに聞き返した。
 
『そうだ』

『……お気持ちは大変うれしいのですが、こんなに高価な物を皆さんにプレゼントしていたら、誤解されてしまいませんか? ルミナス様から特別な愛情を受けていると――』

 現に私は今勘違いしそうになっている……

『もちろん、誰にでもあげているわけではない。キリアが特別な存在だから渡したいと思ったんだ』

『――それはどういう意味でしょうか?』

 それを聞くべきではないことはわかっている。

 でも、私はその先の言葉をどうしても聞きたかった……

『オレと結婚を前提に婚約してほしい』

 意を決してルミナスは私にそう告白をした。

『ルミナス様――』

 ルミナスからの告白は死ぬほど嬉しかった……

 正直、ゲームでされた告白の何百倍も嬉しい。

 だけど――

『申し訳ございませんが、ルミナス様と婚約はできません……』

 奴隷の身分で、その告白を受け入れるわけにはいかなかった。

『やはり、奴隷という身分を気にしているのか?』

 ルミナス自身は、そんなことは気にしないのだろう――

 しかし、ルミナスを見ている人達は違う……

 私と婚約することで、私はルミナスの足を引っ張りたくはなかった。

『――だったら、その奴隷制度はオレが撤廃させてみせるよ』

『え?』

『そうすれば、何の問題もないだろ?』

『え、ええ……』


 あの時は信じられない気持ちの方が強かったが――

 ルミナスは真に覚悟を決めていた。

 奴隷市場に連れて行かれた時の恐怖を、私は一年経った今でも鮮明に覚えている。

 あの時は、もう幸せになれる未来はないのだと絶望していた。

 この人はそんな奴隷制度を、本気でなくしたいと思ってるんだよね……

 大志をかかげて犠牲の道を突き進もうとしているルミナスを、私は心の底から支えたいと思った――
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