【完結】悪役令嬢に転生した私は奴隷に身分を落とされてしまったが青年辺境伯に拾われて幸せになりました

夜炎伯空

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4話 城下町デート

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「最近、ルミナスから声をかけられることが増えた気がする――」

 誘拐事件を経て親密度が高まったのだろうか……

 相変わらず声をかけられる度にドギマギしてしまうが、毎日、推しから声をかけてもらえることで、私はいっそう仕事に身が入るようになっていた。

 そんなある日――

「明日、オレの買い物に付き合ってくれないか?」

 ええーーーーーー?!

 どういうこと?
 どういうこと?
 どういうこと?

 これって、確かルミナスとのデートイベントだよね!!

 もしかして、私との間にもフラグが!?

「ご、ご命令とあらば、どこにでもお供いたします」

 ドキドキし過ぎて、言葉がどもってしまった――

「命令……か――」

 ルミナスは何故か寂しそう表情をした。

「……明日はどちらまで行かれるのでしょうか?」

「城下町まで行こうと思っている」

 推しのルミナスと城下町で買い物デート――

 最高です♡

「わかりました。では、出かける準備と馬車の手配をさせていただきます」

「ああ、頼む」

 ルミナスと別れた後、私はルンルン気分で出かける支度したくを始めた。

   ◇

「キ、キリア、その服装は……」

「あ、えーと、これは――。メイド長に着替えさせられまして……」

 そのままメイド服で来るだろうと思っていたので油断していた。

 メイド長が着替えさせてくれたのか――

 キリアは外用のドレスを身にまとっていた。

「私がこんな綺麗な服を着るなんて、へ、変ですよね……」

「い、いや――」

 もちろん、メイド姿のキリアも好きだが、いつもとは違う服装のキリアに、オレは思わず見惚みとれてしまっていた。

「オレは似合ってると思う」

「そ、そうですか?! ルミナス様にそう言っていただけるのであれば……、着替えてきて良かったです」

 お陰で、今日一日幸せな気分で過ごせそうだ。 

 後で、メイド長にはお礼をせねばな――

 城下町へと向かう馬車の中で、オレはそんなことを考えていた。


「ルミナス様と二人でお出かけするなど、初めてのことですね」

「そうだな……」

 立場上、配慮された位置で近衛騎士が護衛はしているが、実質二人きりのデートだ。

 この日が来るのをオレは待ちわびていた。

「買い物の前に少し軽食を食べに行かないか?」

「はい、ルミナス様の行きたい所であれば、どこへでも付き添わせていただきます」

 キリアの好きな食べ物は、メイド長に聞いてもらって確認してある。

 その情報によると、キリアはフルーツが乗っているスイーツが好きらしい。

 というわけで――


「え? わ、私も食べてよろしいのですか?」

 この店おすすめのフルーツがたくさん乗っているケーキやタルト等を注文して並べてもらった。

「こういうものを、オレ一人で食べるのは似合わないからな――」

 オレもデザートは好きだが、辺境伯としての威厳もあるため、積極的に食べることは控えている。

「……そうでしょうか? 私はルミナス様がスイーツを食べている時の嬉しそうな表情が一番好きなのですが――」

 なっ?!

 ……食事中の顔をそんなに見られていたのか?

 しかも、オレがデザート好きなことを、キリアにはバレていたとは――

「男がスイーツを好きだなんて、カッコ悪いだろ?」

「いえ、私も大好きなので……、少なくとも私には好感しかありません」

「そ、そうなのか?」

「はい」

「では、オレも遠慮なくいただくとしよう」

 キリアに好意的に思われるのであれば、他の誰に何と思われたとしても、オレは構わないと思った。

「この店は城下町でも一番人気のあるスイーツ店だと聞いておりますので、どれを手に取ってもおいしくいただけるかと思います」

 メイド長から勧められた店だったのだが――

 そういうことだったのだな……

 どおりで予約を取るのに時間がかかったわけだ。

 本当は、もっと早くキリアをデートに誘いたかったが、この店の予約が埋まっていたため、今日まで延期させられていた。

「それは楽しみだ――」

 オレは好きなデザートを自由に食べながら、キリアとの談笑だんしょうを楽しんだ。

   ◇

「本当においしかったです。他のメイドと来られた時も、ぜひ、一緒に寄ってあげてください」

「確かに、また来たくなる水準のデザートだったな。それにしても、自分がまた来たいとは言わずに他のメイドのことを気にかけるとは――」

「い、いえ、他のメイドとも、あの店の話をしたいと思っただけですので……」

 好きな食べ物を共有すると、すごく話が盛り上がる。

「そうか、では、次回の予約はスイーツ好きなメイド達で行けるようにしておこう。次はみんなで楽しんで来てくれ」

「ルミナス様、ありがとうございます」 

 それが一番のご褒美です♡♡


「お、どうやら、あの店のようだ――、少し寄らせてもらうぞ」

「行きたかったお店というのは、アクセサリーのお店だったのですか?」

「ああ」

 ルミナスが城下町まで買い物に来たのは、誰かにアクセサリーをプレゼントするためだったのですね……

 何故か、私は少し切ない気持ちになった。

「誰かへのプレゼントですか?」

「そうだな、大切な人への贈り物だ」

 ズキッ!

 ――この胸の痛みは何なのだろうか?

「そうですか……、では、私は外で待っていますね」

「いや、一緒に見てほしいんだが――」

「わかりました」

 ルミナスからの頼みごとで、ここまで前向きになれなかったのは初めてのことだった……


「――こういうペンダントはどうだ?」

 ルミナスはそう言って、エメラルドの入ったペンダントトップを私に見せた。

「ルミナス様が選んだプレゼントであれば、誰でも喜ばれると思いますが……」

 使いの者に買いに行かせるでもなく、多忙のルミナスがわざわざ城下町まで来てプレゼントを探しに来ているのだ。

 もし、私が受け取る立場だったら、それだけでも十分に嬉しく感じる行為である。

「お前の意見も聞きたいのだ」

「そうですか……、それでしたら、お相手の方のことを、もう少し知りたいです。――普段は何をされている方なのでしょうか?」

「メイドをしている」

「……え?」

 ――ということは、屋敷にいるメイドの誰かがルミナスの想い人?

 どこの令嬢だろうかと思って確認したつもりが、あまりにも衝撃的な事実に私は言葉を失った。

「で、では……、その方は普段からアクセサリーは身につけておられますでしょうか?」

 心が動揺しているのか、口ごもりながらの質問になってしまった。

「うーん、昔はしていた気もするが、最近は身につけていないな」

 メイドの中でも長く働いている女性なのだろうか? 

 今のところ、そんな人はメイド長くらいしか思い浮かばないが――

 二人が話をしている時に、恋人同士のような雰囲気を感じたことはなかった。

「おそらくですが……、立派なアクセサリーは好まれない方なのかもしれません。その場合、このように簡素な物の方が、かえって喜ばれる可能性はあります」

 シンプルなデザインのペンダントトップとネックレスを手に取って、私はルミナスに見せた。

「なるほど、こういった物の方が良いのだな――。助かった、ありがとう」

「いえ、あくまでも、私が感じた助言ですので、後はルミナス様が選んであげてくださいませ……」

「ああ、わかった」

「それでは、一旦、お店の外でお待ちしております――」

 この場に留まることに耐えきれず、私はそう言って、お店の外へと出た。

「このままではダメだ……」

 ルミナスが好意を寄せているというだけで、誰なのかもわからない女性なのに――

 その女性のことを考えるだけで、心中が穏やかでいられなくなってしまう。

 一年前の私は推しのルミナスの近くにいられるだけでも幸せだった。

 それが、同じ空間、同じ時間を一緒に過ごしている間に、私の心は今まで以上の関係を望むようになってしまっていた。

「これって……」

 私は気づいてしまった。

 推しだから好きという想いだけではない――

 私はルミナスのことを、本気で好きになってしまっていた。

   ◇

「キリアが屋敷に来てから、まだ一年しか経っていないのだな……」

「はい」

 オレにとっては本当に長い一年だった。

 キリアへの想いには、早々はやばやと気づいたが――

 キリアはオレのことが嫌いなのではと思っていた。

 そもそも……

 辺境伯と奴隷という身分の違いから、オレはキリアに告白すらできない立場だ。

 元々、奴隷制度には違和感を感じていたが、本格的に見直した方がいいと思ったのはキリアの存在があったからだった。

 それらが引き金となって、オレは奴隷制度がいつ始まり、どのように続いてきたのかを考察した。

 その結果、オレが達した結論は――

 この制度を恒久こうきゅう的に続けるべきではないということだった。

 同じ人であるにも関わらず、身分によって扱いが違い過ぎる……

 きらびやかな生活をしている貴族がいる一方、重労働をしているにもかかわらず衣食住すらも満たしてもらえない奴隷達――

 それぞれの才に応じて、立場の違いはあってもいい。

 ただ、上に立つ者は、その分、責任を感じるべきなのだ。

 支えてくれている者達を尊重しない規定……

 その最たるものが奴隷制度なのだろう――

 そのことに気づいたオレは、何度も王都の議会に奴隷制度の見直しを求めた。

 議会の中には良識人りょうしきじんもいるため、中にはオレに賛同する者もいたが、王族からの圧力には逆らえない者が大半だった……

 これから始まるクーラ王子との戦争は、それらが発端ほったんとなって起こってしまったということもわかっている。

「遂に、始まってしまうのですね――」

「ああ……」

 争いは望まない。

 しかし――

 この戦いだけは、絶対に負けるわけにはいかなかった。
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