【完結】悪役令嬢に転生した私は奴隷に身分を落とされてしまったが青年辺境伯に拾われて幸せになりました

夜炎伯空

文字の大きさ
上 下
3 / 6

3話 キリアの想い

しおりを挟む
「お久しぶりです、クーラ王子」

「どうやら、私だとわかっていたようだな……」

 椅子に両手両足を縛りつけられた状態で、オレはクーラ王子と対峙した。

「この王国で、これだけの規模で事を動かせるのは、クーラ王子しかいませんから――」

「ハハ、それは賛辞として受け取っておくよ」

「それで、このような秘密裏ひみつりな場所で、どのような交渉をされるのですか?」

「交渉? フフ、この状況で交渉ができると考えるとは、ルミナス辺境伯は相変わらず考えが甘いようだ」

「ええ、オレは夢想家ロマンチストなんですよ」

「……その夢想家ロマンチストな言動が、私をイラつかせているんだがな?」

「つまり――、ここまでオレを連れて来た理由は、奴隷制度についての話がしたいということですか?」

「何故、奴隷制度の撤廃を王宮に進言した? そのような行動は、お前にとって損害でしかないだろ?」

「ええ、そのお陰で、この様な事態になっていますからね……。それでも、オレは間違ったことをしたとは思っていませんよ」

「はぁ、辺境伯ともあろう者が、奴隷となった元令嬢に惑わされようとは――」

 クーラ王子が大きな溜息をついた。   

「……どういう意味ですか?」

「調べてないとでも思っているのか? キリアを奴隷にしたのは、この私だ。当然、その後の動向も確認している。また、婚約者との関係を不仲にするために悪事を働かれたら困るからな――」

「過去に粗相そそうがあったことは聞き及んでおりますが……、今はメイドとしてオレの屋敷で一生懸命に働いてくれています」

「それがアイツの策略なのさ。無駄に顔はいいから皆が騙される――」

 要は、クーラ王子も一度はその美貌に心惹かれたということか……

 それにしても――

 集められた全ての情報を精査せいさすると、奴隷になる前と後とでは、あまりにもキリアの性格が違い過ぎる。

 ……奴隷に身分を落とされた時に、彼女に何があったんだ?

「クーラ王子がキリアから辛苦を浴びせられたのは事実なのでしょう――、しかし、前歴に何があったとしても、オレは今の彼女を信じています」

 それが、一年間、彼女を見続けてきたオレの答えだった。

「そうか……、お前がそこまで愚かだったとは思わなかったよ。――暗殺者アサシン!!」

「はっ!」

「後の始末はお前に任せる」

「仰せのままに……」

 クーラ王子は、そう暗殺者アイサツに告げ、その場を後にした――

   ◇

「ザイン様、ここにルミナス様が捕らわれているようです」

 ザインと私はルミナスが捕らわれている洞窟へとたどり着いた。

「メイドが探索魔法を使えるとは思わなかったが……、お陰で最短でここまで来られた。感謝する――」

「はい、元貴族ですので多少の魔法は使えます」

 貴族は基本的に魔力が高く、一般人よりは魔法が得意だ。

「元貴族だったのか、通りで……。だが、お前の役割はここまでだ。後のことは俺達に任せてくれ」

「わかりました――」

 本当は私も行きたい……

 でも、私が行ったら返って邪魔になってしまうこともわかっている。

 私は歯を食いしばって、その言葉を飲み込んだ。

「一緒に行きたいのか?」

「え?」

「あ、いや、そんな顔をしていたから――」

 どうやら顔に出てしまっていたらしい。

「……行ってもいいのですか?」

「俺の傍を離れないことが最低条件だがな」

「行きます!!」

 ルミナスの身が心配な私は即答した。

「ハハ、正直なヤツだな。では、急ぐぞ――」

「はい」

 ザインの厚情こうじょうによって、私は洞窟の中へと進んだ。

   ◇

「ハッ!!」

 オレは魔法を使って身体を縛っていた縄を切った。

「予想通り、魔法騎士でしたか……」

 ――気づいていたのか?

「オレは戦ってもいいぞ、組織の壊滅を覚悟できるならばな」

「……いいんですか? 私達は人質を確保しているのですよ?」

「フ、そのが答えなんだろ? 用心深いお前が、長時間、あの場に仲間を留めておくはずがないからな――」

「…………」

 オレの問いには答えなかったが、話をしていた頭首に部下が何かを耳打ちした。

「どうやら、ここまでのようですね……」

「どういうことだ?」

「あなたの近衛騎士達がこの洞窟までやって来たようです。こちらとしても、みすみす部下を減らすつもりはありませんので――」

「ザイン達が来てくれたのか。だが、予想よりも、だいぶ早かったな……」

「一番の誤算は、あなたの従者に優秀なメイドがいたことでしたね。我々は早々に退散させてもらいますよ」

 ん、それは、もしかしてキリアの話をしているのか?

 彼女も元は貴族。

 探知魔法くらいは使えるのかもしれない。

「待て」

 このまま逃がしてもいいが――

「……まだ何か?」

「一つ提案がある」

 オレは暗殺者アサシンの頭首にある提言をした。


「ルミナス様!!」

 キリアはオレを見つけるや否や――

 飛びついて、オレを抱きしめた。

「キ、キリア?! どうして、君が…‥」

 ついて来ている可能性も考えてはいたが、洞窟の中にまで入って来ているとは思わなかった。
 
 突然、抱きつかれたことにも、オレは驚かされた。
 
「心配しておりました。気がおかしくなるほどに――」

 ……どういうことだ?

「――君は、オレのことが嫌いだったのではないのか?」

「き、嫌い?! ルミナス様をですか!? ……滅相めっそうもございません、私は逢う前からあなた様のことを、尊敬し、お慕いしておりました」

「で、では、何故、顔合わせをすると、いつも目を逸らしていたのだ?」

「それは――、ルミナス様のことが好き過ぎて、お顔を見れなかったのでございます。失礼な態度を取ってしまい、申し訳ございませんでした」

 そうだったのか……

 どうやら、嫌われていると思っていたのはオレの誤認ごにんだったようだ。

 それはそれとして――

 『好き過ぎて』とは、どういう意味だ!?

 一呼吸置いて、改めてオレはその言葉が気にかかった。

「その……、好き過ぎてというのは?」

「あ、あ、あ、すみません!! 出しゃばったことを言ってしまいました!! わ、忘れてください!!」

 キリアが、あからさまに動揺している。

「い、いや、そうではなくて――、好きにも色々あるだろ? それを確認したかっただけなのだが……」

「それらを伝えてしまうと、ルミナス様がきょうざめしてしまうかと思いますので――」

 興ざめする?

 ……好意を持たれてるとわかって、嫌な思いをすることなどあるのか?

「構わん、言ってみてくれ――」

「わ、わかりました……」

 キリアが深呼吸をしている。

「では――」

 キリアの神妙な面持ちに感応かんのうし、オレも固唾かたずを呑み込んだ。

「まずは第一印象ですが、私のドタイプでした。金髪碧眼の騎士というだけでも悶絶もんぜつしそうなキャラ設定ですが、その姿を全身絵で見た時に完璧にハマってしまいました。それで、実際に逢ってからの感想ですが……、雰囲気からかっこいいオーラが出ていましたし、言動の全てから優しさがにじみ出ていました。その影響はメイドや他の騎士達にも影響を与えていて、皆さんは奴隷の私にも優しく接してくれました。その主人がルミナス様だと考えると、ますます好きになってしまいました。働くことが少しでもルミナス様のためになると考えるだけで不思議と力も湧いてきました。こんなにも誰かのために頑張れる自分がいたんだと思うと嬉しくなって、ルミナス様のことが更に好きになりました。元々、ルミナス様のことを生きがいに頑張っていましたが、出逢ってからは毎日が楽しくて仕方がありません。ルミナス様の近くでルミナス様と同じ空気を吸っていると想うだけで――」

「ちょっ、ちょっと待って!! そこまで褒められると、さすがに恥ずかしい……」

 元は嫌われていると思っていたので、オレの中の反動も大きかった。

「あ、やはり、聞くに堪えなかったですか?」

「そ、そういうわけではないが――、主人をたたえるためとはいえ、そこまで無理に褒めなくてもいいんだぞ?」

「無理に褒めているつもりはありません。ただ……、ルミナス様の好きなところの話になると止まらなくなってしまうため、気をつけてはいました」

 なるほど、オレの前で無口だったのには、そういう理由があったのだな――

 ん?

 これは、つまり……

 ――キリアとオレは両想いなのか?

   ◇

「この軍隊の行き先はルミナス辺境伯の領地!!」

「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!」」」

「王族の権威を脅かそうとする者には、我々が鉄槌てっついを下す!!」

 クーラ王子は剣を高らかに掲げ、そう叫んだ――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

悪役令嬢は楽しいな

kae
恋愛
 気が弱い侯爵令嬢、エディット・アーノンは、第一王子ユリウスの婚約者候補として、教養を学びに王宮に通っていた。  でも大事な時に緊張してしまうエディットは、本当は王子と結婚なんてしてくない。実はユリウス王子には、他に結婚をしたい伯爵令嬢がいて、その子の家が反対勢力に潰されないように、目くらましとして婚約者候補のふりをしているのだ。  ある日いつものいじめっ子たちが、小さな少年をイジメているのを目撃したエディットが勇気を出して注意をすると、「悪役令嬢」と呼ばれるようになってしまった。流行りの小説に出てくる、曲がったことが大嫌いで、誰に批判されようと、自分の好きな事をする悪役の令嬢エリザベス。そのエリザベスに似ていると言われたエディットは、その日から、悪役令嬢になり切って生活するようになる。 「オーッホッホ。私はこの服が着たいから着ているの。流行なんて関係ないわ。あなたにはご自分の好みという物がないのかしら?」  悪役令嬢になり切って言いたいことを言うのは、思った以上に爽快で楽しくて……。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...