情雲風縁~中華bl~

みやこ

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一章

出会い①

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風烈が首都永安えいあんの壮大な門をくぐった瞬間、彼を迎えたのは活気に満ちた都の風景だった。
色鮮やかな看板や提灯で飾られた繁華街は、人々で溢れ返り、異なる香りが空気を彩り、楽器の音色が遠くから心地よく聞こえてきた。
商人たちが自慢の商品を声高に宣伝し、食堂からは誘うような美味しそうな料理の香りが風烈の鼻をくすぐった。
豊かな歴史と文化を物語る壮麗な建築物が立ち並び、その美しさに圧倒されながらも、風烈は新たな世界への期待で胸を膨らませた。
「失礼しますが、玉霊館への道を教えていただけませんか?」
風烈が椅子に座ってゆったりと往来を眺めている老婦人に話しかけると、彼女は優しい笑顔で答えた。
「玉霊館へはこの道をまっすぐ行き、大きな銀杏の木が見えたら左に曲がったらつくわ。あなた、上京してきたのね?霊雲様はとても優しい方よ、心配しなくて大丈夫。」
風烈は礼を言った。
「ありがとうございます!一生懸命仕えます!」

言われた通りの道を進んでいると、「にゃーん」という声が聞こえてきた。
風烈は足元を見ると、一匹の子猫が彼の足にすり寄ってくるところだった。
思わず子猫を拾い上げると、「君も迷子かい?」と話しかけてしまった。
その時、「あ、うちの猫!」という声が背後から聞こえ、振り向くと上質な服を着た少女が立っていた。
「ごめんなさい、この子はいつも逃げ出しては悪さをしてしまうのです!」
少女は子猫を受け取りながら恐縮した。
風烈は「いえ、かわいい子猫ですね」と笑顔で応じた。
その瞬間、まるで小さな猛獣のように、子猫が少女の腕から一気に風烈の頭上へと華麗に飛び移った。
そのまま、風烈の髪の毛を鷲掴みにしてバランスを取ろうとする子猫の小さな爪が、風烈の頭皮を軽く掻き乱した。
風烈は突然の出来事に一瞬固まり、そして軽く頭を振った。
その瞬間、場にいる人々の笑い声に包まれた。
彼の表情は驚きから苦笑いへと変わり、周囲の人々はその滑稽な光景に、心からの笑い声をあげた。
少女は手を口に押さえながらも、くすくすと笑い、彼女の明るい笑い声が、さらに場の雰囲気を和ませた。
子猫は風烈の頭の上でまるで王様のように優雅に座り込み、周囲の人々の注目を一身に浴びているかのように見えた。
少女は苦笑いを浮かべ困っている風烈に気が付くと、慌てて笑うのをやめ、子猫を受け取った。
「凛!おりてきなさい!ごめんなさい!本当に手がかかる子なのです!」
と謝った。風烈は髪を直しながら
「大丈夫ですよ、とても元気な子ですね。凛という名の猫なのですね。素敵な名前です!」
と子猫の頭を撫でた。
「本当にすみませんでした。凜を捕まえてくれて、ありがとうございました!」
少女は感謝の言葉を残し、風烈は再び玉霊館への道を歩き始めた。
心の中で「あの猫、本当に可愛かったな」と呟きながら歩く風烈の足取りはずっと軽くなっていた。

銀杏の木を過ぎ、進んだ先には、神々しく美しい彫刻が施された建物群が広がっていた。
風烈が歩を進めるにつれて、人通りは徐々に少なくなり、その代わりに高貴な装いを纏う貴族の姿が目立つようになった。
風烈自身も貴族の家系に生まれはしたものの、今の彼の身なりは一見して平民と変わらなかった。
それが原因で、玉霊館へと続く大きな城門の前で衛兵に止められてしまった。
「おい、ここから先は霊雲様がお住まいの玉霊館だ。ただの平民が入れる場所ではない」
と衛兵は断固として言い放った。
風烈は心の中で(この身なりでは平民に見えても仕方ないな…)と苦笑しつつ、自分がどれほど遠路はるばる来たか、そして青蘭の地の没落貴族であることを改めて実感した。
彼が案内状を衛兵に差し出すと、衛兵はその紙片を見て驚き、そしてどこか気まずそうに微笑んだ。
明らかに風烈は衛兵より位が上でありながら、このような状況に陥ったことで衛兵も対応に困ってしまったのだ。
「実はこれでも貴族の端くれですので、通していただければ幸いです」と風烈が謙虚に述べると、「す、すいません!どうぞお通りください!」と衛兵は慌てて道を開けた。
風烈は何事もなかったように礼を言い、玉霊館の敷地内に足を踏み入れた。
彼は心の中で(貴族たるもの、いつも平然に。しかしこの格好で貴族と呼べるだろうか…)と自嘲しながらも、新たな生活への期待を胸に玉霊館へと歩を進めた。

風烈が玉霊館の壮大な庭園を歩み進めると、彼を迎えたのは、一心に庭の手入れに没頭する老庭師の姿だった。老庭師は風烈に近づくと一瞬、彼の素朴な衣装に目を留めたが、風烈が敬意を込めて会釈すると、老庭師の顔には温かな笑顔が広がった。
「あら、新しい顔を見るね。今日からここでお勤めかい?」
老庭師の声は、年輪を重ねた木のように穏やかで温かみがあった。
「はい、そうです!私は、黒風烈と申します。青蘭の地から参りました!これからお世話になります!」
風烈は元気溢れる声で応えました。
老庭師は彼の名前を聞いて一瞬驚きを隠せない様子だったが、「青蘭の地から…なるほど、遠路はるばるとのこと、長旅お疲れさま。」と声をかけた。
青蘭は子息が都に働きに出ないといけないほど落ちぶれてしまったのかという老庭師の眼差しには、どこか懐かしむような共感があふれていた。
「はい、ありがとうございます。玉霊館での勤めを通じて、精一杯成長したいと思います!」
風烈は意気込みを込めて答えた。

老庭師は風烈の返答に優しく微笑みながら、
「玉霊館へようこそ。霊雲様は心温かい方だから不安がらずともよい。ここでの生活が君にとって、成長と新たな可能性への道を開くことを願っておるよ。」
と言葉をかけ、はげました。
風烈はその言葉に深く感謝し、新たな勤め先への期待を胸に、本館へと足を進めた。

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