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新人魔導師、発表会に参加する

同日、夏と秋

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 夏希が「白の十一天」を蹴散らしているころ、零は研究所を目指して走っていた。瞬間移動の術を使ってもいいが、そうすると敵が残る。入口近くで戦っている夏希たちのことを思うと、放置はできなかった。

 幸いなことに、零には溢れるほどの魔力があった。一花のもとに着くまでに魔力切れを起こすことはない。ただ、

(数が多すぎる……っ!)

 このままでは一花に逃げられてしまうかもしれない。零は焦り始めていた。そんなとき、背後から金属音がして、淡いピンク色の魔力が光った。

「零!」
「秋楽!?」

 零の方へ走って来た秋楽は、広範囲への攻撃魔法を使いながら剣を振るっていた。剣術の心得があるわけではないので、ただ振り回しているだけだが、威力は十分だった。

「こっちは俺に任せろ! お前のお目当ては所長室じゃなくて最上階、この戦いを見てるらしい! 相手の心を読んだから確かだ!」
「とは言っても、この数は……」
「いいから! 行け! 妹と話すことはお前にしかできないことだろう!」
「ですが! このまま僕が行ったら、貴方は確実に死ぬ!」

 何度も敵と遭遇し、戦ってきたのだろう。秋楽は既にボロボロだった。あちこちに傷を作り、血が流れている。

「わかってる、そんなことは! その覚悟で来た!」
「どうして……」
「理由を聞くなんて野暮だな」

 全ては、夏希のため。同じ女性を愛した男同士、わかっているはずだ。

「一生アイツの隣にいることは譲ろう。だから、命を懸けてアイツを守る役目は、俺に譲ってくれ」
「……ありがとう、ございます」

 零は走り出した。決して、後ろを振り向かずに。

 秋楽は剣を構えた。決して、後ろを振り向かずに。

「……愛してる、夏希」

 名前を呼ぶのは、何年ぶりだろう。彼女が結婚したときから呼んでいないということは、もう5年ほど経ったということか。名前は呼べなかった。呼べば想いが溢れてしまうような気がしたから。

「平和になった世界で、また会えたら……そのときはまた、お前の友人としていさせてくれ」

 今世だけでなくて、来世も、その来世も。きっと夏希は零を愛するだろうから。自分はただの友人でいい。それでいいから、傍にいさせてくれ。それだけで、秋楽は命だって懸けられるのだ。

 研究所を背にして、秋楽は敵を次々に倒していく。体中が痛んだ。視界がかすみ始めた。それでも、手は、動きは止めない。敵が1人もいなくなるまで、秋楽は止まらなかった。

 そうして、敵が見えなくなったころ。秋楽はどさりと地面に倒れ込んだ。

「秋楽!」

 薄れていく視界に、夏希が映ったような気がした。











 昔から、人に馬鹿にされてきた。成績はよくなかったし、運動も得意なわけではなかった。だが、それ以上に馬鹿にされていたのは、「人の心が読める」と言ってしまったからだ。そんなのありえない、と小学校の同級生は秋楽を馬鹿にした。家族も、子どもの言うことだと信じてくれなかった。

 唯一、秋楽の話を聞いてくれたのが夏希だった。いつも教室の隅で本を読んでいる、静かな子。夏と秋、名前に季節が入っているのがお揃いだな、と秋楽が声をかけたのが始まりだった。夏希は面倒くさそうに相槌を打つだけのことが多かったが、時間が経つにつれて話すことも増えてきた。

「そういうコトもあんじゃねぇの」

 人の心が読める。秋楽が打ち明けると、夏希はおかしいと否定せずにそう言った。

「みんなおかしいって言うぞ」
「でもできるんだろ」
「うん……」
「よかったじゃねぇか。お前、その力使えば世界一気の利く男になれんぞ。相手が何して欲しいかわかんだから」

 その一言で救われた。
 おかしい、ありえないではなく。気の利く人になれると、そう夏希は言ってくれたのだ。それから、秋楽は不思議な力のことは言わず、相手のして欲しいことだけを読み取って行動した。たちまち、秋楽は皆の人気者となった。

「夏希のおかげだ!」
「お前が頑張ったからだろ」
「どうやって使ったらいいか教えてくれたのは夏希だからな」
「そ」

 夏希はいつだってクールだった。けれど、たまに見せる笑顔が可愛らしかった。秋楽を否定せずに話を聞いてくれて、同い年とは思えないほど頭がよくて。なのに、決して秋楽を馬鹿にしない。知れば知るほど、秋楽は夏希に惹かれていった。

 けれど、心を読める秋楽にはわかっていた。夏希は、秋楽に対して恋愛感情を抱いていないということを。

 そして、結婚したという相手のことを、心の底から愛しているということも。結婚相手もまた、夏希のことを深く愛していることも、全て読めてしまっていた。

(わかってた。俺とお前じゃ、釣り合わないってことなんて)

 だから、せめて。
 お前と、お前の愛する夫を守らせてくれ。

「……俺は、世界一気の利く男だからな……」
「何言ってんだよ! バカ!」
「お前に、馬鹿って言われるの、初めてだな……」

 入口にいた敵を全て倒したのか、夏希が秋楽の傍に来て座っていた。魔導衣のあちこちに血や泥がついているが、夏希自身に怪我はなさそうだ。秋楽は安心して、そのまま目を閉じた。

 その目が開かれることは、もうなかった。
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